不本意ながら電波ちゃんの親友枠ってのになりまして
4.イベントは校舎前で
お喋りな桃華のお話し攻撃をかわしながら、やっとの思いで宿泊オリエンテーションの話を終えると、杏だけでなく黒瀬と中学の同級生だった嶋も疲弊しきった顔をしていた。この調子では先が思いやられる。
なぜだか尾白は桃華を崇拝しているような態度が見られるし、そのせいかこの小1時間で2人の距離がグッと近づいたように見える。後半なんて席替えだとかなんとか言って、私の真正面で黒瀬の隣に座っていた嶋に席を変われとせがんで大変だった。面倒だったのでさっさと席を交換し、黒瀬と尾白に桃華を任せて、嶋と二人で話を詰めた。
「杏と司がいてくれてよかったわ。尾白はまだいいとして、栗山さんは無理。俺と司たちに対する態度違いすぎ…俺空気かよ」
放課後の掃除の際に嶋が盛大にため息をついてゴミを掃いていた。
「どんまい大輝」
「そもそも同じ土俵に立たされるのも嫌だけどな。相手にされされないほうがマシだと考えた方がいいぞ
。俺が保障する大輝はラッキーだ」
「なんでだよ…俺名前すら覚えてもらえてないんだぞ…」
杏と黒瀬が気の毒に思ってフォローするも、名前すら覚えてもらえないくらい存在の薄い嶋には届かなかった。そんな嶋の陰湿な空気に嫌気がさしたのか、黒瀬はいいつもの仏頂面のまま近くの窓を開けて換気をし始めた。キノコが生える前に湿気は取り除かないとなと言っているが、杏としては湿り気より陰の部分を取り除かないと意味がないと思う。
「おい、あれ栗山じゃないか?」
窓を開けた黒瀬が校庭の方を指さして怪訝そうな顔をしていた。黒瀬の後ろで丸くなっていた嶋が立ち上がって確認すると、確かにそこには桃華がいた。
「あれ、3年の青葉先輩だ」
「青葉先輩?」
杏も窓の方へ寄って外を確認すると、桃華と男子生徒が何やら話し込んでいるようだった。男子生徒は眉毛が太くて凛々しい顔立ちの青年で、捲ったYシャツから見える腕は逞しく、高校生には見えない大人っぽい雰囲気を纏っていた。
「誰だ…?」
隣の黒瀬が首をかしげて青葉を見ているが、生憎杏にも青葉が誰なのかわからなかった。
「え、青葉先輩のこと知らねーの?お前本当にこの高校の生徒か?なぁ、杏もなんか司に言ってやって」
「ごめん大輝、青葉先輩って結局誰なの?」
「お前ら2人そろって入学式でなに見てたんだよ!青葉先輩は今の生徒会長だよ!前期の間はあの人が生徒会長なの!入学式に挨拶してただろうが」
嶋は息を切らしながら箒を握りしめて杏と黒瀬を睨みつけた。確かに言われてみれば入学式でめっちゃ逞しい人出て来たわーと思って、今まで杏の中にあった高校の生徒会長のイメージと違うんだなーとあいさつの間中考えていたことを思い出した。高校の生徒会長って『クソ真面目ガネ』か『カリスマレジェンド』のどちらかで決まりなところがあったが、青葉はどちらにも当てはまらないような気がした。杏にはどう頑張っても好き好んで生徒会をやるような人に見えなかったからだ。
「へー、意外だな」
「何が?」
「あの人が生徒会長ということが。なんか見た目とか雰囲気的に同類的な匂いがするから、俺と」
同類っぽいのはよくわからんが、意外に黒瀬も杏と同意見のようだ。
「にしても栗山さんはなんで青葉生徒会長と話なんかしてんだ?」
窓から軽く身を乗り出して彼らを眺めていた嶋が首をかしげて杏の方へ振り返った。黒瀬も不思議そうに青葉たちを見ている。
「そんなこと聞かれてもわからない…」
杏にわかることは電波的に攻略キャラなのかもしれないということだ。だからなんだということなのだが、たぶん桃華の中で一定条件みたいなのをクリアした人なんじゃないかと杏は考えている。あとイケメンしか相手にしていないということだろうか。ということは今のあれもイベント…。もしかしたら6限のあれもイベント…。
すごいな栗山桃華。イベントを着実にクリアし、紫月や黒瀬はともかく尾白や青葉に関しては好感度上げに成功しているではないか。
青葉は何やら恥ずかしそうに右手で自分の首を撫でている。桃華の顔がほころぶたび、青葉は一喜一憂しあの空間にはたぶんフローラルな香りと黄色やピンクの花弁が舞っているはずだ。心の目で見れば見えるだろう。
「なんだよ。杏は栗山さんと親友になったんじゃないの?」
嶋の一言に黒瀬は驚いて杏をみるが、杏は何とも言えない苦虫をかみつぶしたような顔をしており、その顔を見た嶋は意味が分からないような顔をして首を竦めた。
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