ノスタルジアの箱

六月菜摘

風船、糸電話、綿あめ



あ、手を 離してしまった。 
ぎゅっと握っていたはずなのに。

空色の風船が 同じ色の空に向かって 消えていく。
遠くなる。小さくなる。ただの彼方の影になる。
私は所在なく過ぎていく風の音を聴いている。
もうできることは何もない。



糸電話で君の声を盗みたくて、私は目は閉じる。
そっけない ただの紙コップは 糸をつないだ途端
いつしか だいすきな君を届けてくれる 特別なものになる。
すぐそばで、耳元で響く声。 

指先で 糸をくるくる回しているうちに
自分に絡まって解けなくなった。
昔の電話のコードのようにがんじがらめ。



さっき行方が知れなくなった 風船の糸と絡まり
気がつけば 何もかもが空回りして 空中迷路を作っていく。

折角 宇宙に向かっていた風船は、連れ戻されUターン。
地上に糸電話だけを残して
自分だけ飛び立つなんてできはしないとばかりに駆けつける。

あわてたせいだね 引き連れて来てしまった綿雲。
困惑した顔の ふわっとした綿に ざらめをまぜて。



ひとつ、ふたつ、みっつ。
風船、糸電話、わたあめ。

数えながら 綿あめを掬う 君の仕草にどきっとした。
くるくるまき、こどもの頃からあこがれているんだ。
やってみたいなぁ。上手に巻くには熟練の技がいるのでしょ。

一緒に絡めてみようか、白いカラメル。
あの人が私だけのために仕掛けてくれるスイッチを入れる。
あまい あまい 雲の糸を巻き取って 弄んで。

ふかって、こどものように顔をつっこんで
じわっと甘さが 広がるまで そのまま。



せつない、 儚い、 届かない。
私が追い求めてしまう ないない三姉妹。まるで恋。 

でもね、それは決して 哀しみではなく
心の奥に 甘美な想いを連れて来てくれる 鍵の葉なの。

夢の中で、現実の狭間で、いつでも私に降りてくる想い。
たとえもう会えなくとも。

また、手探りで 抱き止められる。 
そんなわたゆめを見て、ぐるぐる体に巻きつけよう。 


本棚にふえた 空の本、色の事典。 指で確かめてみる。



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