ノスタルジアの箱

六月菜摘

遍く夜のままに

月を確かめ、星を横目に、夜がひとまず落ち着いた頃
一日中ずっと固執してきた 一つのことを 
私はやっと、目の前の机に広げてみる。 
散らかった中に、言葉を想起させる欠片が 混ざっている。

言葉が絡まり出す。 
そういう時間をいつも待っている。あまねく夜
今夜も その鎖のループの中を 散々泳がされるのだろう。
泳ぎ疲れて、ねむたくなるまで。

読み返すと、何を語りたいかわからない。
解り合えない断片みたいなものが綴られている。それでいい。

錯覚でも でっち上げでも どうであろうとも
半ば やけな気持ちで書いては破り、捨て去り、茫然とする。
なのに、また立ち上がって、書きはじめる。



個のイメージとして登場させることで
全体の中で 再び枝に分かれ、触手が傷をつけ合う。 
浮かび上がったものを さっと掬い上げるように 言葉を探っていく。

そのうち、自らが紡いだ世界が 
自分の本当であるかのように錯覚され、引き込まれたら
あとは、目を閉じると広がっていく、遥かに。 
これが続く限り、私は書いていくのだろう。



書くことは代償行為。 借り物の言葉たち。 
月の彼が そう言っていた。
そうかもね。 何で 私たちは書かないといけないのだろう。
私は、相手に伝えられる技術を持ちたいと願いながら
わかる人にだけわかればいいという 傲慢な考えで
今日も 自らをぶちまけていくのだろう。
誰に許されなくても、咎められても。



言葉たちに、あの人に、いいように翻弄されていく。
脳裏に 甘くて震える残像を、烙印のように押される。 
君たちは 本当に 私の許に ? 
まやかしなのに、光ると掴まえたくなるよ。 

囚われて、私の中に。 
次は 恋の話をしましょう。






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