ノスタルジアの箱

六月菜摘

雨 と 月


いつも 雨は、月に 想いをよせました。

月は 女性にたとえられるもの。 でも、私にとって 月は男。
月の 気まぐれ。 月の 不遜ふそん。 月の 端正な横顔。

ジュリエットは  言いました。

  ロミオさま、月などにかけて 誓わないで。
  月は移り気なもの。 夜ごとに形が変わるもの。
  あなたの心が 月のように 変わらないように。

真昼の太陽には  誰かの誓いを 受け取る資格はない。
想いは 夜に飛ばすもの。
ならば、星になら、 幾多のどの星にすれば?

形が変わろうとも、裏切られようとも、私の心は
やはり 月を待つしかない。
私が すきになる人は みな、お月さまなのです。

             *

私の誕生月の真珠は、女王さまでした。 
上品に構える 光沢ある輝き。 冷たい 凍った瞳。
私は 震える女の子だったので、真珠は 似合いませんでした。

ある日、ムーンストーンに 出逢った時
淡い月の光を そのままうつしとった涙の形と
檸檬の果汁をかためた 透き通った色に 心奪われてしまいました。
ああ、これが私の石。 やっと逢えたという こころに呼応して
私のゆびに お守りのように そっとより添ってくれました。

デートの時にはいつも、月の石の指輪をはめて 願う。
あなたが ワイシャツの袖のボタンをかける姿を
その指先を、その視線を、儚い色気を うっとりと見つめながら。

              *

六月生まれの 私の誕生日の 記憶の半分は 雨。

私は  雨。 雨 そのもの。
私が 降ると、月に 逢えない。
どんなに焦がれても、姿を見せてはくれない。

私が 心のかけらを 幾ら込めて 詠おうとも
あなたの耳には到達しない。 遠いんだね、月。 

いつも 逢えなかったわけではないの。
お天気雨があるように、月明かり雨も あるのです。

同時に 存在しえないはずの 雨と月が
一瞬のすれ違いを延期して、互いのそばにいられた時があったの。
いつまでも 忘れない あたたかい夜でした。

ただ、存在を感じてほしい。 ここにいることを。
迷いがあるなら、ここに。 愁うお月さまよ、私の許に。


* 片思いの君に 愁う月の君 遠い惑星の君に *




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