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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Another:Episode26 Tlaloc rain

 降り注ぐ光の驟雨は、シュンの世界にも届いていた。シュンは何やら外の様子がおかしいと感じ、カエデと共に外に出た途端、シュンだけが光に貫かれた。


「あが......姉......さん......」


「シュン!」


 シュンの他にも、次々と村中、ひいては世界中の生き物を光は貫いて行った。


「これは......一体何が起きてるの?」


 カエデは何が何だか分からなかった。天からいきなり降り注いで来た光が、村中のみんなを貫いて行き、ロボットの自分だけ何も起きてないという現状に混乱するのは当然だろう。


「シュン......お願い......目を開けて......」









 サイはヨギの肩を借りながら光ある方へと歩いた。すると、光を背にしてコチラに向かってくる1つの人影が見えた。


「あれぇ? 消えなかったんだ?」


 アオバ......いや、アオバの姿をコピーしたミカがそこに立っていた。サイはミカをジッの睨みつけ、右腕の無い体でも相手が実力行使してくるなら徹底抗戦する構えでいた。


「ゴクは......マゴクは......どこだ?」


「何言ってるんだい? 今まさに、君の目の前に居るじゃないか?」


 ミカが両手を広げてそう言うと、ミカの体の表面に蛍光色で光る黒い痣のような線が浮かび上がった。そしてそこからは、ゴクとマゴクの悲痛な叫びが聞こえてきた。


「お前......ゴク、待ってろ今助ける。」


「助ける〜? そんなボロボロの状態でか? そんなんじゃゴクもマゴクもサリューも助けられないね。」


「サリューは解放しろ......サリューを拘束していた理由は俺をゼノンと戦わせるためだろ!」


「あっあ〜? あっあっあっ〜? 『サリューは解放しろ』だって〜?

はっはっはっ、お前は何を言ってるんだ? サリューならとっくに解放したさ!」


「はぁ?」


「肉体という器からね。」


「どういうことだ!」


「君は彼女を見ている......そう......私の背後に見えるあの神々しくも禍々しい光こそ、彼女の真骨頂。恒河 沙流サリュー ゴウガなどというクソの役にも立たぬような束縛から解脱した姿。

この有限世界の外に居る愚息アザムキにさえ匹敵する存在。新たな世界そのもの。」


「サリューに何をした!?」


「君にも説明したハズだ。彼女の体内にカプセルを埋め込んでいると。そしてその中には、一般人なら劇毒になってしまうようなシロモノが入っていると。ただソレを割っただけさ......そう、ただソレを割っただけ。」


「サリューは一般人じゃないとでも?」


「そうさ。彼女は一般人なんかじゃない。彼女は彼女の世界に置ける次代の神候補だったのだよ。だから、私の『獣神因子』を受け入れるだけの素質は持っていた。

更に、彼女はちょうど良かったんだ。君との関係値が高く、人質にして君を懐手で操る良いエサだった。」


「巫山戯んな!」


「巫山戯んな? 私は1ミリたりとも巫山戯ちゃいない。至って、ごくごく真面目で、かつ、愚息に勝つためなら何でもする。」


 サイの目には、ミカがちょっとだけ手を翳したように見えた。すると、隣で肩を貸してくれていたヨギが後方にぶっ飛んだ。


「ヨギぃぃぃぃ!!!!」


「友人でも何でもなかろう? お前はレーア・アソートなのだから。」


「五月蝿い......だまれえぇぇ!」


 サイは左腕につけた腕章の力を発揮し、ミカの周囲の重力を操作し、重力を何倍にもしてミカを地に伏せさせた。


 しかし、ミカはまるで何事も無かったかのようにノロリと起き上がった。


「私は今、ゴクのみならずマゴクとも融合しているのだぞ? その意味が君には理解できるかな?」


 ミカはサイを指さすと、その指から光線を発射し、サイの体を貫いた。


「うぐっ! ......これは......」


 サイが違和感を感じ、その光線の当たった箇所を見ると、そこは何故か凍結し、厚い氷が張っていた。


「魔法によるゴクとマゴク内部にある道具のショートカットだ。私はいちいち取り出さなくても、中にある道具を全て使える。今お前に当てたのは『彗勢』という道具の力だ。」


「知ってるさ......そんなこと......」


 サイは、周囲の物質の原子や分子を操って、そこら辺にあった石をプラズマ化させ、石を発火させて凍った場所を焼き石であっためた。


「まさかとは思うが、これから私と一戦交えようとは思ってる訳無いだろうね?」


 ミカがサイの瞳を睨みつけると、その瞬間、サイは自分の心の中に誰かが土足で踏み入ってくる不快感を覚えた。


「......おげぇ!」

 結果、サイは吐瀉物を地面にブチ撒けてしまった。


「ははははははははは! 本来なら不可侵領域である精神世界に、あれだけ土足で踏み込まれたんだ。 吐き気の一つや二つ、しない方が無理があるだろうさ。」

 ミカはサイの様子を見て、まるでショーを楽しむ子供のように純粋に笑った。


「はぁ......ぁぁ......」


「まぁ、君は結局、私に敵意を向けてるようだが......君はバカなのか?」


「何言ってんだ......」


「君は私に敵意を向けた時点で既に敗北している......」


 ミカがそう言った瞬間、サイの体はグズグズのボロボロにささくれだって腐り始めた。


「......レベル2『火星人の珈琲』だ......敵意を向けてきた者を自動的に排除する。初めのうちは体表面がささくれて腐り、そして時間が経つにつれて体内の鉄分は全て錆び、軈て死を迎える。」


 ミカはゆっくりと歩き出し、死にゆくサイには目もくれず、後ろの壁に埋まって気絶しているヨギの方へと向かっていった。


「死ぬ......俺が......死ぬ......?」


 サイは薄れゆく意識の中、最後まで自分自身が崩れゆく様子をその目で見るしか出来なかった。


「じゃあな模造品。」


 そう言って去っていくミカ。サイの五感が最後に感じ取ったのはその言葉であった。








 ヨギは目を覚ました。すると、自分の目の前には、アオバの姿をしたミカが立ちはだかっていた。


「君は希少なサンプルだ。異世界の他種族の血液を輸血して、なお生き延び、その上なんの拒否反応を起こさず、混血種として進化し続けた。君のような存在を私は欲していた。

どうだい? 私につく気は無いか?」



「お前につく......? 何を......言ってんだ? サリューをあんな光に変えやがったお前に......?」


 その瞬間、ヨギの目には地に倒れ付したサイの姿が映った。


「サイ......?」


「君にも教えてやらねばなるまい。あれはサイなんかじゃない。レーアの死体だ。君が今までサイだと思って接してきていた男は、瓜二つの別人だったのだよ。

それにアレもう死体だ。今更声をかけてやって返事をするようなもんじゃない。」


 それを聞いた瞬間、ヨギは全身のバネを最大限に使ってミカに向かって縮地し、全体重を乗っけた飛び蹴りを放った。


「おっと......こりゃまた大分血気盛んな料理人なこって......」


 ヨギの飛び蹴りはミカに到達していなかった。ミカの肌の数ミリ離れた位置で、足及び全身が空間に固定され、ヨギは身動き1つ取れない状況になった。


「殺す......殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す......」


「適材適所という言葉はご存知かな? 王には王の、料理人には料理人の、神には神の、裁定者には裁定者の、全ての枠において『成るべき存在』が定められている。

料理人くんだりが、裁定者に楯突こうなど、ましてや『殺す』等と......よく言えたものだな。」


 ミカはまたスラリとヨギの眼前に手を翳した。すると、ヨギの空間固定は解かれ、そのままヨギは気を失って倒れてしまった。


 ミカは、サイの死体の横まで歩いていくと、近くに落ちていた手鏡を回収して、サイが付けていた腕章を回収した。


 すると、ふとミカの視界には、サイの懐に入ってる何かが目に入った。


「なんだこれ......葉っぱ?」


 ミカは念の為それを水晶を通して覗いて見たが、何の変哲もないただの葉っぱである事が分かった。


「なんだってこんなもの......まぁいいか。」


 ミカはその葉っぱをスルーし、満足気にツカツカと歩き出した。


「これで全て揃った......全ての道具、全ての役者......これで愚息に勝てる......ハハハ......ハハハハハ......アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 ミカはゴクとマゴクの内部にある道具の力を最大限に発動させた。


「遍く存在は全て私の為に在らなくてはならない! 全て! 例外なく!」













 サイの意識は、大きな生命の流れの中にあった。その空間はまるで都会のど真ん中のようで、街中を人が行き交っている。


「ここは......」


「こんにちはサイくん。」


 街の真ん中で1人困惑するサイに、とある男が話しかけた。


「こんにちは......? どなた......?」


「俺の名前はどうだっていい。そんなことより、君に今の状況を説明しなくちゃだよ。」


「は、はぁ。まぁ確かにここが何処かっていう方が気になりますけど......」


「ここは大いなる生命の流れの中。死んだ者も、生きている者も、起きている者も、眠っている者も、等しく存在する空間。」


「生きている者も死んだ者も? 俺今生きてるんですか? って言うか、今までこんな所に来た覚えは......」


「そりゃあそうさ。生きている間にこの空間をちゃんと認識する者は極少ない。だってここは、生きている間は『無意識』と呼ばれる精神層に値する空間なのだから。」


「無意識......ですか。」


「そして君は......死んだ者だ。」

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