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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Another:Episode23 Have eyes only for justice

 一方、スルギのアジト。そこには役者が揃っていた。儀式に必要とされる『約束数』そして、契約したスルギとマドワシ。


「マドワシさん......用意出来ましたよ。」


「あぁ......確かに『約束の数』揃っているな。よくやった。」


「えぇ! これで約束を!」


「あぁ。そうだな。」


 そう言うとマドワシは銃を懐から取り出し、スルギに銃口を向けた。


「は? マドワシ様......お戯れを......」


「戯れ? これが巫山戯ている男の目か?」


 瞬間、スルギのアジトに乾いた銃声が響き渡り、檻の中の子供たちの悲鳴があがった。そしてマドワシはその銃をスルギに握らせた。


「お前と俺の約束は『解放してやる』だった。それをお前は勝手に『過去の罪を消してもらう』と解釈した。バカだなお前は。『この世から解放してやる』って意味なんだよ。」


 そこにもう1つの銃声が響き渡った。マドワシはゆっくりと振り返ると、そこには1人の男が立っていた。


「動くなマドワシ! 殺人の現行犯で逮捕する! もう逃げられると思うなよ!」


「はァ......アカシ......あれだけ潰せと言っておいたのに......お前火炭 公ヒズミ ヒロ巡査部長だろ?」


「あぁ! それがどうした!」


「やはり......コソコソと俺の周りを嗅ぎ回っていた命知らず......」


「喋りたいことがあるなら、連れてって署で幾らでも聞いてやるよ!」


 ヒズミがマドワシに近づこうとした瞬間、マドワシは高々と何かを掲げた。


「おっと、これが見えるかな?」


「あぁ?」


 ヒズミはそれを視認した瞬間、近づこうとしていた歩みを止めた。


「スイッチ......?」


「そうさ。この可哀想な生贄となる少年少女達の命の行方を握るスイッチだ。」


「爆弾......?」


「正解! そう! 爆弾だよ!」


 そう言った瞬間、檻の中に閉じ込められていた少年少女たちは、恐怖のあまり阿鼻叫喚の声を挙げた。


「五月蝿い! 黙っていろ!」


「お前......一体何を......」



「コソコソ嗅ぎ回っていた割には何も知らないんだな。良いだろう、教えてやる。

14歳の者を7人、2歳の者を1人用意し、同時にその命を絶やした時、計100となった失われた時の数が、100の世界を繋ぐ。

そしてこの世界に裁定者を呼び寄せる......という、昔々から伝わる儀式だよ。」



「裁定者......? そんな今どきガキでも信じねえような言い伝えを信じてるってのか!」



「信じてる......? 違うな。事実、再現可能なのだよ。こんな風にね。」


 マドワシはスイッチを押した。すると檻は爆発し、そのままアジト全体も爆発した。


 マドワシは自分が逃げられるようにと用意していた抜け道を使って逃走。ヒズミはそのままアジトの爆発に巻き込まれてしまった。








 一方、裁定者ゼノン。彼は彼でアオバのいる世界に向かっていたが、世界と世界の繋がりは非常に複雑で、道具の力を借りてもアオバのいる世界になかなかたどり着けないでいた。


「クソっ......時間がかかりやがる!」


 しかし、いきなり自分の向かっている先に道が現れた。他の世界を貫いて現れた、アオバの世界へ通じる道が。


「渡りに船とはこの事かな!」


 ゼノンはその道を使って、アオバのいる世界を目指し始めた。








 一方、雌雄を決し、鎬を削り合っているヨギとティフォル。ヨギが殴ればティフォルも殴り、ヨギが蹴ればティフォルも蹴るといった具合になっている。


 しかし、防御攻撃両面から見て、ティフォルの方が圧倒的に有利であった。


「クククククククククク......クククククククククククククククククククク......楽しい......実に楽しいよヨギ!」


「そりゃそうだろうな......てめぇばっかり一方的に武装して殴れるんだからな......」


「勝てぬよ......お前は!」


 ティフォルはトゲトゲした拳でヨギを殴り飛ばした。ヨギの腹からは血が滲み、見るからに痛々しそうであった。


「ヨギくん、大丈夫か?」


「カタギリさん......銃貸してもらっていいですか?」


「いや、それは出来ない。それに、ヤツに銃弾が通じないことくらい......」


「違いますよ、ヤツにだって弱点くらいはあるんですよ。」


「ヤツの体じゅうから飛び出てるトゲトゲ......そこには僅かな隙間がある......」


「隙間......首のことか?」


「えぇ......ヤツがしてる首輪の所だけはトゲトゲが出ていない。あそこを撃てばチャンスはあるかも......」


「分かった。じゃあ俺があそこを撃つ。すまないが、君は俺が狙うだけの時間稼ぎを頼む。」


「了解です。」


 ヨギはカタギリと耳打ちを済ませると、その場から走り出し、ティフォルに向かって行った。


「まだやる気か......それでこそヨギ!」


 ティフォルは向かってきたヨギにストレートパンチを放った。しかし、ヨギはそれを真正面から受けることなく、くるっと体を軽やかに動かし、難なくそのストレートパンチを避けた。


 そしてそのまま勢いを殺すことなく、ティフォルの背後に周り、トゲトゲのうちの1本を掴んで、自由を奪った。


「カタギリさん!」


「了解!」


 カタギリは銃爪を引いた。そして放たれた弾丸はティフォルの首輪に命中した。数瞬後、首輪から中心にティフォルは爆発した。


 無事ヨギが勝利したかに思えたが、ティフォルの吸収していた鉄の棒が、爆発した勢いで飛び散り、近くにいたヨギとカタギリに命中。2人は無事では済まなかった。








 一方、無事に現場から逃げ果せたマドワシ。彼は自身に降りかかった塵を払いながら、道を歩いていた。


 するとそこに、一人の婦警が立ちはだかった。マドワシはその女に見覚えがあった。


「貴様は......ヒズミの部下のヒラハラとかいうデカだな......」


「覚えてくださって光栄です。マドワシ元警視総監殿......いや、マドワシ容疑者。」


 カヤは病院にてヨギとティフォルが戦闘を始めた頃、ヒズミから連絡が来ていた。故にヨギの戦闘には混ざらず、単身ヒズミの指定した現場に赴いていた。


「貴方はヒズミ巡査部長より殺人の現行犯との連絡が入っています。故にこれから貴方を逮捕します。」


「別に幾らでも手錠をかけろよ。もう俺の悲願は果たされた。」


「悲願?」



「ヒラハラ巡査......君はこの仕事に就いていておかしいと思ったことは無いかね? 人間はあまりに愚かで、幾度も幾度も犯罪は繰り返される。

中には『犯罪を犯さざるを得なかった』などという立場の者もいるが、犯罪は犯罪だ、犯した人間はゴミクズ以下だ。」



「それがどうしたんですか!」



「俺は......最早犯罪が二度と起きないような世の中にしたいと思った。だが、所詮人間の力ではそんな雲をつかむような話実現できっこない。だから私は呼んだんだ。」


「呼んだ?」


「裁定者を......だよ。」









 天を割り、雲を割き、空にその足を見せた。モーセの十戒のように割られた世界の海を飛び越えて、彼はその世界に入り込んだ。


 どの世界でも、彼は「裁定者」という意味の言葉で呼ばれた。


 彼に感謝する世界もあれば、彼を世界を破壊した悪魔だと非難する世界もある。ヨギの世界では技術が衰退してしまう程度の被害になり、とある世界では全人類が一瞬にして滅亡することもあった。


 いずれにせよ、それらは全てゼノンの独り善がりな正義感によるものばかりであった。


 しかしながら、今回ばかりは少し訳が違う。ゼノンは今はじめて他人アオバの為に動いているのだ。


 ゼノンは蒼穹に1の字を画くと、大地にフワリと着地し、深く息を吸い込んだ。


「アオバ......」


 ゼノンは早速いくつかの道具を取り出すと、アオバの位置特定を始めた。しかし、そこに自身と同じ貌の者が現れる。


「あんたが......裁定者だろ?」


「俺と同じ姿......貴様さてはこの世界に置いてったクローンだな? 丁度いい......アオバを探してこい。」


「アオバとかいう女の子の居場所なら知ってる。だけどそこには案内できない。」


「どういうことだ。」


「俺の友達の命がかかってるから。」


「俺の命令に逆らうのか? クローンの分際で? 烏滸がましいにも程があるぞ!」


 ゼノンはサイの事をクッと睨みつけた。しかし、特に何も起こらなかった。


「なぜだ? クローンは皆俺の脳波コントロールでひれ伏すはず......なぜだ?」


 ゼノンは困惑した。しかし、そんな困惑しているゼノンはサイにとって、格好の獲物であった。

 ゴクからメリケンサック型の道具を借りると、それを左手に填めてゼノンをぶん殴った。


「殴られた......? クローンに?」


 ゼノンは痛みの走る右頬をゆっくりと触れながら、困惑しまくった。


「ゼノンとか言ったっけ? あんたが俺のオリジナルであるとか、そういう問題はこの際どーだっていいんだよ。
俺はアンタと戦わなきゃ友人が殺される。だからブン殴った。ごくごくシンプルで、これ以上無いほど分かりやすい事だろ?」


「俺が......この俺が......殴られた? 絶対に歯向かうはずの無い......俺を殴るはずの無い......このたった一匹のクローンに?」



「一匹......? 一匹だと? アンタは......本っ当にナーンも分かっちゃいない。」


 サイは自分の右手を前に突き出した。


「俺はコイツと一心同体! 2人で1人なんだよ! 一匹なんて数え方するな!」


「......親にも殴られた事など無かったのに......たかだか俺の一部を複製した模造品なぞに......模造品なぞに......」


「俺は模造品なんかじゃねぇ!」



「仕方ない......分からせてやろう。模造品は決してオリジナルには勝てないと。」

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