苦役甦す莇
Another:Episode21 Abduction
街中を埋め尽くすコンクリートジャングル。そのビル一つ一つから漏れ出ている、国民の残業の結晶を、頭一つ飛び抜けて高いビルの最上階から見下ろす男がいた。
その男はワイングラス片手に、優雅に窓ガラス越しの夜景を楽しんでいた。そこに、コンコンとノックの音が響いた。
「失礼します、マドワシ様。警視総監の明石様がお見えです。」
「通せ。」
マドワシと呼ばれた男が扉の先にいる使いの者に指示すると、扉が開いて荘厳な服装の男が一人部屋に入ってきた。
「こんばんはアカシくん。」
「こんばんはマドワシ様。」
「まぁ、座りたまえ。」
「失礼します。」
マドワシはドカっと偉そうにソファにふんぞり返り、アカシは大きな体を縮こませる様に萎縮して椅子に座った。
「で、今回はどう言ったご要件ですか?」
「まぁ......そうだな......簡単に言うと、お前の部下が、何やら私の周辺を嗅ぎ回っているようなのだよ。」
マドワシはテーブルの上に何枚の写真をバラ撒いた。そして、苦い顔をしながら写真のうちの一枚を取ってアカシの眼前に突き出した。
「特にこのヒズミとかいうデカがしつこくてな。私が警視総監OBであるにも関わらず、コイツは私の事を疑っているのだ。」
「そんなことを!」
「いいか? コイツを潰せ。あとついでにコイツの部下や周りの同僚たちも皆潰せ。私のやることに疑いを持つなど、本来ならば万死に値する愚行だ。」
「申し訳ございませんマドワシ様! 至急彼らを潰しておきます! マドワシ様を疑うなど! これ以上無い愚かな行為!」
「可及的速やかに排除しろ。私の機嫌が、悪くならないうちにな。」
サイが目を覚ますと、そこには見知らぬ天井が広がっていた。
「......ここは?」
「おはようサイくん......いや『共生体ゴクと融合せし者レーア』と言った方が正しいかな?」
「はァ? だから俺はレーアじゃないって......てか、アンタ何者?」
「これは自己紹介が遅れてしまったな。私の名はミカだ。宜しくな。」
「よろしく......って、サリューはどうした? あとここはどこだ!」
「サリュー......? あ、あぁあの小娘か。彼女なら今ごろ別の部屋でぐっすり眠っていることだろうさ。
そしてここはホテルの一室だよ。」
「ミカ......ミカ......そうかお前がミカか!」
「なんだい急に?」
「夢の中でアンタを止めろって言われたんだ。アザムキ......とか何とかってやつにな!」
サイは寝っ転がってる状態から飛び起き、立ち上がってミカに向き直った。
「アザムキ......全く......消えゆく流れの者の分際で、それでも尚私に刃向かうのか......神の血を持つ私に......」
ミカは歯軋りをすると、眉間にグッと皺を寄せたが、数瞬後、落ち着きを取り戻しサイの顔を見つめた。
「よくよく考えてみれば、君は私には勝てない。何故なら、今私は君の大切なサリューとやらの小娘の命を預かってるからだ。」
「何!?」
「彼女の体に私の脳波コントロールで割れるカプセルを仕込んだ。カプセルの中身は一般人なら劇毒になってしまうようなシロモノだ。」
ミカはわかりやすいように、ある一つのカプセルをサイに見せ、それをテーブルに置いたまま、触れることなく割って見せた。
「こんな風にな。」
「人質のつもりか?」
「そうさ。これから君には、私の言うことをよくよく聞いてもらわねばならない。」
「おめェの言うこと?」
「君にはゼノンと戦ってもらう......」
一方、病室にてヨギはカタギリから様々な事情聴取が行われていた。そこに、一組の男女が入室してくる。
「おつかれっすカタギリさん。もうそろ犯人の尻尾捕まえられそうってことで俺ら呼ばれた次第なんスけど、どうですか?」
「お、よく来たなカケル、カヤ。今ちょうどこのヨギ少年の話を聞いてたとこだ。」
「どうです? 私たちが追ってるホシの尻尾捕まえられそうですか?」
「ぃんや、これはまた一連の事件とは違う別の犯人説が出てきたぜ。ヨギくん、取り敢えずさっき話してくれたことを、もう一度要点だけ掻い摘んで説明してくれるか?」
「あ、はい。俺は世界を友達と旅してる感じなんですけど、それで追って来たヤツらが居て、そいつらめちゃくちゃしつこくて、俺ら隠れながら暮らしてたんですけど、ついに見つかって捕らえられちゃったんです。
そこで取り返す為のケンカふっかけたんですけど負けちゃって、それでカタギリさんに見つけてもらって今こうして情けなく寝てる次第です。」
「なるほどっス......こりゃあ一連の失踪事件とは関わり無さそうですね......」
「だがしかし、これは関係ないからと言って看過できるような問題でもないですよね? 少なくとも私なら動きます。」
「取り敢えず、ヒズミさんに一報を入れよう。どう動くかはヒズミさんからの指示で決めることにする。」
「了解です。」
スルギはイライラしながら街中を歩いていた。契約相手である『元警視総監マドワシ』から言われた『約束の数』にあと一人。
「あと一人......あと一人......そのあと一人が簡単に見つかったら苦労しねェんだよ......」
スルギはイライラしながら手に持っていたメモに目を通した。スルギにとっては何度も何度も読んだメモ。
そのメモには『約束の数は14歳の少年少女7人と2歳の赤子1人である』と書かれていた。
「2歳の赤子......これが1番ムズいんだよ......どうやって攫えってんだ......」
スルギはイライラしながら近くの公園に入り、手頃なベンチ腰掛けて爪をガジガジと噛みまくった。
赤子には大抵保護者がついている。しかも保護者は人一倍安全に気を使っているため、そもそもスルギのような見知らぬ成人男性には近づこうともしてこない。
更にいえば、スルギには何か『よく分からないけど近づきたくなくなるような怪しさ』があった。
故に好機は訪れず、スルギは約束の数を揃えあぐねていた。
「だがこれも、全て犯罪歴を帳消しにしてもらうためだ......ここで踏ん張らなきゃ俺が死ぬ......」
スルギはマドワシと『自身の犯罪歴から解放してもらう代わりに約束の数を揃える』という契約をしていた。いや、最早契約と言うよりかは一方的な命令であったのかも知れない。
兎に角、そもそも素行の良くないスルギが、他の人間から見てみれば『何となく怪しい人』と写ってしまうのは、ある意味仕方の無い事なのかもしれない。
同じ時間、ちょっと離れた場所にて、カタギリ巡査は上司のヒズミに電話をかけていた。
しかし、何度かけてもヒズミは電話に出なかった。平生のヒズミならば5コール以内に出るはずなのだが。
「なんで出ないんだ?」
カタギリはヒズミに何かあったのではあるまいかと勘繰りながら、病院の横にある公園の巡りを歩いていた。
カタギリが歩いていると、向こう側から一組の親子が歩いてきた。
「こんにちは〜。」
カタギリを目視した母親が、カタギリに挨拶をしてきた。
「こんにちは〜、今日はこの公園には何しにいらっしゃったのですか?」
「今ちょうど主人が入院していまして、それで見舞いついでにこの子と公園に遊びに来たって感じです。」
「なるほど〜。」
カタギリはゆっくりと膝を曲げ、目線を子供の方に合わせた。
「こんにちは、お嬢さん。」
「こんにちは。」
「パパ病院に居るのか。」
「うん! でもね、パパね、たたかってるの!」
「おー戦ってるのか!」
「うん! パパね、つよいからね、びょうきに、まけないんだって!」
「そっか!」
「あたしもね、たたかうの!」
そう言って少女は、公園にある大きなジャングルジムに向かって走って行った。
「あぁ、コラコラ危ないよ。」
母親は走る少女を窘めたが、そこにはどこか嬉しそうな感情が含まれているようにカタギリは感じた。
「少し嬉しそうですね。」
「はい......まぁ、あの子が元気でいれば、いつか主人も良くなるんだろうなって思いまして。」
「なるほど。あ、申し遅れました、私カタギリと言います。」
「これはどうもご丁寧に。私はイロハと言います。」
「実は私、今はスーツ姿ですけど、本来は警察官でして。最近連続失踪事件なんてものが起きてるもんですから、少し見回り強化しているんです。」
「なるほど......お勤めご苦労様です。」
「ありがとうございます。ああいう未来の希望が詰まった小さい子を見ると、どうにも守ってあげたくなりまして。」
「いつの時代も、小さな子というのは宝ですからね。あの子の未来が楽しみなんですよ。」
「今あの子は何歳ですか?」
「この前2歳になったところです。」
「もう自分で話してるし、自分で歩いてますね。成長の早いお子さんだ。」
「主人に似て賢いようで......」
「ご主人は何のお仕事を?」
「研究職です。あのまま研究が進めば、いずれは何かしらの形で賞を頂くハズだったんですけど......」
「賞なんかより......」
「はい?」
「きっとあの子の方が大切なハズですよ。ご主人だってそう思っていることでしょう。」
「そうですね......きっと主人もあの子のことを......って、あれ? あの子は?」
「は!」
カタギリと女性は駆け出し、先程まで女の子がいたジャングルジムに近づいた。
「捜しましょう!」
その男はワイングラス片手に、優雅に窓ガラス越しの夜景を楽しんでいた。そこに、コンコンとノックの音が響いた。
「失礼します、マドワシ様。警視総監の明石様がお見えです。」
「通せ。」
マドワシと呼ばれた男が扉の先にいる使いの者に指示すると、扉が開いて荘厳な服装の男が一人部屋に入ってきた。
「こんばんはアカシくん。」
「こんばんはマドワシ様。」
「まぁ、座りたまえ。」
「失礼します。」
マドワシはドカっと偉そうにソファにふんぞり返り、アカシは大きな体を縮こませる様に萎縮して椅子に座った。
「で、今回はどう言ったご要件ですか?」
「まぁ......そうだな......簡単に言うと、お前の部下が、何やら私の周辺を嗅ぎ回っているようなのだよ。」
マドワシはテーブルの上に何枚の写真をバラ撒いた。そして、苦い顔をしながら写真のうちの一枚を取ってアカシの眼前に突き出した。
「特にこのヒズミとかいうデカがしつこくてな。私が警視総監OBであるにも関わらず、コイツは私の事を疑っているのだ。」
「そんなことを!」
「いいか? コイツを潰せ。あとついでにコイツの部下や周りの同僚たちも皆潰せ。私のやることに疑いを持つなど、本来ならば万死に値する愚行だ。」
「申し訳ございませんマドワシ様! 至急彼らを潰しておきます! マドワシ様を疑うなど! これ以上無い愚かな行為!」
「可及的速やかに排除しろ。私の機嫌が、悪くならないうちにな。」
サイが目を覚ますと、そこには見知らぬ天井が広がっていた。
「......ここは?」
「おはようサイくん......いや『共生体ゴクと融合せし者レーア』と言った方が正しいかな?」
「はァ? だから俺はレーアじゃないって......てか、アンタ何者?」
「これは自己紹介が遅れてしまったな。私の名はミカだ。宜しくな。」
「よろしく......って、サリューはどうした? あとここはどこだ!」
「サリュー......? あ、あぁあの小娘か。彼女なら今ごろ別の部屋でぐっすり眠っていることだろうさ。
そしてここはホテルの一室だよ。」
「ミカ......ミカ......そうかお前がミカか!」
「なんだい急に?」
「夢の中でアンタを止めろって言われたんだ。アザムキ......とか何とかってやつにな!」
サイは寝っ転がってる状態から飛び起き、立ち上がってミカに向き直った。
「アザムキ......全く......消えゆく流れの者の分際で、それでも尚私に刃向かうのか......神の血を持つ私に......」
ミカは歯軋りをすると、眉間にグッと皺を寄せたが、数瞬後、落ち着きを取り戻しサイの顔を見つめた。
「よくよく考えてみれば、君は私には勝てない。何故なら、今私は君の大切なサリューとやらの小娘の命を預かってるからだ。」
「何!?」
「彼女の体に私の脳波コントロールで割れるカプセルを仕込んだ。カプセルの中身は一般人なら劇毒になってしまうようなシロモノだ。」
ミカはわかりやすいように、ある一つのカプセルをサイに見せ、それをテーブルに置いたまま、触れることなく割って見せた。
「こんな風にな。」
「人質のつもりか?」
「そうさ。これから君には、私の言うことをよくよく聞いてもらわねばならない。」
「おめェの言うこと?」
「君にはゼノンと戦ってもらう......」
一方、病室にてヨギはカタギリから様々な事情聴取が行われていた。そこに、一組の男女が入室してくる。
「おつかれっすカタギリさん。もうそろ犯人の尻尾捕まえられそうってことで俺ら呼ばれた次第なんスけど、どうですか?」
「お、よく来たなカケル、カヤ。今ちょうどこのヨギ少年の話を聞いてたとこだ。」
「どうです? 私たちが追ってるホシの尻尾捕まえられそうですか?」
「ぃんや、これはまた一連の事件とは違う別の犯人説が出てきたぜ。ヨギくん、取り敢えずさっき話してくれたことを、もう一度要点だけ掻い摘んで説明してくれるか?」
「あ、はい。俺は世界を友達と旅してる感じなんですけど、それで追って来たヤツらが居て、そいつらめちゃくちゃしつこくて、俺ら隠れながら暮らしてたんですけど、ついに見つかって捕らえられちゃったんです。
そこで取り返す為のケンカふっかけたんですけど負けちゃって、それでカタギリさんに見つけてもらって今こうして情けなく寝てる次第です。」
「なるほどっス......こりゃあ一連の失踪事件とは関わり無さそうですね......」
「だがしかし、これは関係ないからと言って看過できるような問題でもないですよね? 少なくとも私なら動きます。」
「取り敢えず、ヒズミさんに一報を入れよう。どう動くかはヒズミさんからの指示で決めることにする。」
「了解です。」
スルギはイライラしながら街中を歩いていた。契約相手である『元警視総監マドワシ』から言われた『約束の数』にあと一人。
「あと一人......あと一人......そのあと一人が簡単に見つかったら苦労しねェんだよ......」
スルギはイライラしながら手に持っていたメモに目を通した。スルギにとっては何度も何度も読んだメモ。
そのメモには『約束の数は14歳の少年少女7人と2歳の赤子1人である』と書かれていた。
「2歳の赤子......これが1番ムズいんだよ......どうやって攫えってんだ......」
スルギはイライラしながら近くの公園に入り、手頃なベンチ腰掛けて爪をガジガジと噛みまくった。
赤子には大抵保護者がついている。しかも保護者は人一倍安全に気を使っているため、そもそもスルギのような見知らぬ成人男性には近づこうともしてこない。
更にいえば、スルギには何か『よく分からないけど近づきたくなくなるような怪しさ』があった。
故に好機は訪れず、スルギは約束の数を揃えあぐねていた。
「だがこれも、全て犯罪歴を帳消しにしてもらうためだ......ここで踏ん張らなきゃ俺が死ぬ......」
スルギはマドワシと『自身の犯罪歴から解放してもらう代わりに約束の数を揃える』という契約をしていた。いや、最早契約と言うよりかは一方的な命令であったのかも知れない。
兎に角、そもそも素行の良くないスルギが、他の人間から見てみれば『何となく怪しい人』と写ってしまうのは、ある意味仕方の無い事なのかもしれない。
同じ時間、ちょっと離れた場所にて、カタギリ巡査は上司のヒズミに電話をかけていた。
しかし、何度かけてもヒズミは電話に出なかった。平生のヒズミならば5コール以内に出るはずなのだが。
「なんで出ないんだ?」
カタギリはヒズミに何かあったのではあるまいかと勘繰りながら、病院の横にある公園の巡りを歩いていた。
カタギリが歩いていると、向こう側から一組の親子が歩いてきた。
「こんにちは〜。」
カタギリを目視した母親が、カタギリに挨拶をしてきた。
「こんにちは〜、今日はこの公園には何しにいらっしゃったのですか?」
「今ちょうど主人が入院していまして、それで見舞いついでにこの子と公園に遊びに来たって感じです。」
「なるほど〜。」
カタギリはゆっくりと膝を曲げ、目線を子供の方に合わせた。
「こんにちは、お嬢さん。」
「こんにちは。」
「パパ病院に居るのか。」
「うん! でもね、パパね、たたかってるの!」
「おー戦ってるのか!」
「うん! パパね、つよいからね、びょうきに、まけないんだって!」
「そっか!」
「あたしもね、たたかうの!」
そう言って少女は、公園にある大きなジャングルジムに向かって走って行った。
「あぁ、コラコラ危ないよ。」
母親は走る少女を窘めたが、そこにはどこか嬉しそうな感情が含まれているようにカタギリは感じた。
「少し嬉しそうですね。」
「はい......まぁ、あの子が元気でいれば、いつか主人も良くなるんだろうなって思いまして。」
「なるほど。あ、申し遅れました、私カタギリと言います。」
「これはどうもご丁寧に。私はイロハと言います。」
「実は私、今はスーツ姿ですけど、本来は警察官でして。最近連続失踪事件なんてものが起きてるもんですから、少し見回り強化しているんです。」
「なるほど......お勤めご苦労様です。」
「ありがとうございます。ああいう未来の希望が詰まった小さい子を見ると、どうにも守ってあげたくなりまして。」
「いつの時代も、小さな子というのは宝ですからね。あの子の未来が楽しみなんですよ。」
「今あの子は何歳ですか?」
「この前2歳になったところです。」
「もう自分で話してるし、自分で歩いてますね。成長の早いお子さんだ。」
「主人に似て賢いようで......」
「ご主人は何のお仕事を?」
「研究職です。あのまま研究が進めば、いずれは何かしらの形で賞を頂くハズだったんですけど......」
「賞なんかより......」
「はい?」
「きっとあの子の方が大切なハズですよ。ご主人だってそう思っていることでしょう。」
「そうですね......きっと主人もあの子のことを......って、あれ? あの子は?」
「は!」
カタギリと女性は駆け出し、先程まで女の子がいたジャングルジムに近づいた。
「捜しましょう!」
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