苦役甦す莇
Another:Episode19 Take a stab in the dark
先ずはヨギの一撃。固く握りこんだ拳を異形ティフォルに向けて放った。
しかし、その拳は盾によって阻まれ、ティフォルに届くことは無かった。
「1人で襲撃するのが怖くてお仲間さんでも連れてきたのかァ? アアン?」
「安い挑発だな。所詮勝ちゃ良いんだよ!」
ティフォル自身は懐手したまま、脳波コントロールで鎌を動かし、ヨギの急所を狙って攻撃した。
ヨギはうまい具合に防御するが、スルプとベデム相手するので精一杯であった。
そしてスルプとベデムがヨギの相手をしている間、捕獲を使って、サイとサリューの身柄を拘束した。
「さて......身柄は確保させてもらった事だし、てめぇはせいぜいそこの2体を相手にしてな。」
ティフォルはスルプとベデムの操作を自律に切り替えると、カヴァタネと一緒にそこから去った。
「チッ! 待てコラ!」
ヨギはティフォルを追おうとするが、スルプとベデムがそれを許さない。
「邪魔だなぁ......」
ヨギは、ベデムの右腕が肥大化して形成された巨大な盾をひっ掴むと、自分に斬りかかって来たスルプの鎌を使ってベデムの腕を切り落とし、自分の盾にした。
「ケッ! こんなもんかよ!」
ヨギは取った盾でベデムを殴り飛ばし、スルプに当ててスルプが怯んだ隙に、盾の縁でスルプの右腕の鎌を切り落とした。
そして、取った鎌でスルプとベデムの頸を切り飛ばしてやった。
「追わなくては......」
一方、呼び水であるアオバを連れてきたミカ。ミカはホテルで悠々と寛いでいた。
「ふむ......この世界の酒もなかなかに......美味なものだな......」
ミカは、ワニ柄が描かれたグラスに入ったパッソアオレンジを飲み干すと、冷蔵庫から別の酒を取り出してきた。
「ん......え、ここどこ?」
ミカがグラスに酒を注いでいると、後ろのベッドで眠っていたアオバが目を覚ました。
「おはようアオバちゃん。」
「おはよう......ございます?」
アオバはイマイチよく現在の状況を理解していなかった。なので、とりあえずベッドから起き上がろうとした。
「ん......ちょっと起きようかな......って......なんだこれ!?」
アオバは自分の手のひらを見た瞬間、違和感と衝撃が走った。
アオバの手を初め、アオバの全身が半透明になっているのであった。
「な......何......一体何が......」
「落ち着きなさい。別に死にはしないわ。今の貴方は『あるもの』によって無理やり生きながらえさせられている状況なの。
しかし、生きとし生けるものは本来生命エネルギーは薄まっていくもの......貴方はその薄まりを強制的に維持させられている。
今の貴方のその半透明な姿は、今まで誤魔化されていた『生命エネルギーの薄まり』を、私の魔法で貴方の年相応の薄まり具合として可視化しただけ。」
ミカはそう語りながら、ブラックニッカを入れたグラスに、割る用の炭酸水をドポドポと入れ始めた。
「どういうこと?」
「分かりやすく、このお酒で説明してあげよう。
生きとし生けるもの、みな生きてる間に何かしら『生命エネルギー』を消耗していく。
立つにしろ、歩くにしろ、走るにしろ、考えるにしろ、何かしら行動する度にエネルギーが損耗していく。」
そこでミカはグラス半杯分だけ中に入っていた酒を飲んだ。
「そして、エネルギーが足りなくなったら、食うなり寝るなりして、その不足分を補う。」
ミカはそう言いながら、グラスに新たな炭酸水を注ぎ込んだ。
「さて問題だ。今このグラスに入ってる酒は、さっきの酒より薄まってるでしょうか?」
「そうね......さっきのお酒は1:4くらいで炭酸割りされてて、飲んだ分足されたのは炭酸水だけ。
体積はほぼ元通りだけど、濃度は確実にさっきより薄まってる。」
「そう! 正解! 薄まるんだよ!
人間のエネルギーも同じさ。生まれた瞬間が『純度100%』の生命エネルギー......つまり『お酒』だとすると、食ったり寝たりして足してった分が『炭酸水』という割った物になるわけさ。
そしていつしか、極限まで薄まって行った酒は......」
「ほぼ無くなる......つまり死ぬ?」
「そう! 死ぬんだよ! ただアンタは特別な道具のおかげで『炭酸水の代わりに酒を詰められて幾ら時が経っても薄まらない』という状態になってる。
つまり老いや死を誤魔化しているんだ。
だから私が魔法で、貴方の歳相応の『薄まり具合』を可視化させてあげたの。
本来なら、貴方はとっくに死んでてもおかしくない。でも、生命エネルギーが注入され続けるから、老いることも死ぬことも無い。」
「私は......一体いつから......」
「さてね......でも、随分と長い間そういう状態であることは確実だよね。
......て言うか、違和感を感じはしなかったのか? 自分は老いないって......」
「そういうものだと思っていた......」
「そうか。まぁそれならいい。君には裁定者を呼び出す呼び水となってもらう。」
「なっ、何を!」
「君と裁定者の道具との繋がりを切る。そうしたら違和感を感じてすっ飛んでくるはずさ......」
一方、ティフォルを追いかけているヨギ。彼は奴の足跡を追って、橋の近くまで来ていた。
「よくここまで追ってきたな。俺も相当な速さで逃げてきたつもりなんだがな。」
ティフォルはカヴァタネと共に橋の上に仁王立ちしていた。
「足跡を残しすぎだ。知らねぇうちに泥濘でも踏んだんだろうが、注意力が足りてねぇようだな!」
ヨギは床に付けられたティフォルノ足跡をガンガンと蹴ると、そのまま地面を蹴り、ティフォルに向かって縮地した。
「ある意味では......」
と、ティフォルが話しながらヨギの拳を受け止めると、ヨギの勢いを殺すことなく、ヨギの足を払ってコケさせた。
「......君と俺は似ているのかもしれない。君も俺も同じ『混ぜ物』だ。」
「あぁ? 俺がおめぇみたいな化け物と一緒だァ!? ざけんな!」
ヨギは手で地面を押し、脚を思い切り回転させてティフォルに蹴りを入れながら、ブレイクダンスのような形で起き上がった。
「そうさ、同じさ。俺は君の中に流れている血が『混ざっている』のが見える。」
「おめぇも、見た感じなんか色々と混ぜられたみてぇだな。気色悪い。」
ヨギは軽やかな足さばきでヒョイヒョイとティフォルに近づき、拳による連打を浴びせた。
「見える......君の血流......君の筋肉の動き......そこから分かる......君の思考......」
異常に発達したティフォルの視力では、ヨギの動きは丸わかりで、ヨギの放った拳は尽く全て避けられてしまった。
「くっ......ちょこまかと!」
「では私から一撃。」
ヒョイヒョイと避けていたティフォルは、突然居直り強盗のような速さで攻撃の構えに転じ、巨大な一撃をヨギの顔面に浴びせた。
ティフォルが放った拳そのものの威力、足すことのヨギが自分から突っ込んできた速さ、即ちそれはこれ以上無い程の綺麗なカウンターが決まったことを意味する。
「同じ『混ぜ物』ではあるが......」
ティフォルは血で赤く染まった拳を引っ込めながら、既に気絶し地面に向かって倒れ行くヨギに向かって話し始めた。
「お前はまだ『大切なモノを失う辛さ』を識らない......故に俺に勝てない。」
ティフォルはカヴァタネを連れて、その場から立ち去った。
一方、アオバにかけられていた道具の効力を、魔術によって解いたミカ。
ミカはご満悦そうに眠るアオバを見つめると、これからノコノコやってくるであろう裁定者をどうやって倒そうか思案していた。
「裁定者ゼノン......君はどうしようも無く、この娘に甘い......それが命取りだ。」
ミカはアオバの顔を写し取ると、自身の顔をアオバの顔に変え、変声機付きチョーカーを首に巻いてアオバの声に調整した。
「ケケケ......これで誰から見てもアオバという訳だ......ヤツは必ず隙を見せる......そこに確実なる一撃......」
ミカは自身が成り上がっていく想像をして、ホテルの部屋で一人ほくそ笑んだ。
一方、異変を感じ取った裁定者ゼノン。彼はアオバにかけられていた不老不死が解かれたことを察知していた。
「何故だ......? ごく長い時の中で、一度も解けた事など無かったのに......
俺にかかっている不老不死だって解かれてない......まさか、誰かが意図的に......?」
ゼノンは焦りを覚え、アオバの方にばかり気を取られ、この世界については何も深く考えずに、この世界は有害だろうと適当に決めつけ、世界にいる住人たちを処理することを決めた。
マゴクから『美しくて黒い終焉』という黒い玉のような道具を取り出し、片手間にその辺に投げた。
『美しくて黒い終焉』は、地面に着いた瞬間、惑星を覆うほどまで大きくなり、巨大な一つのドームを形成した。
数瞬後、惑星内にいた『人間のみ』を焼き殺し、すぐに元の大きさまで戻り、マゴクの中へと回収された。
裁定者ゼノンにとって、惑星を滅ぼすなど、文字通り朝飯前なのである。
「ふむ......アオバの元に向かうか。」
しかし、その拳は盾によって阻まれ、ティフォルに届くことは無かった。
「1人で襲撃するのが怖くてお仲間さんでも連れてきたのかァ? アアン?」
「安い挑発だな。所詮勝ちゃ良いんだよ!」
ティフォル自身は懐手したまま、脳波コントロールで鎌を動かし、ヨギの急所を狙って攻撃した。
ヨギはうまい具合に防御するが、スルプとベデム相手するので精一杯であった。
そしてスルプとベデムがヨギの相手をしている間、捕獲を使って、サイとサリューの身柄を拘束した。
「さて......身柄は確保させてもらった事だし、てめぇはせいぜいそこの2体を相手にしてな。」
ティフォルはスルプとベデムの操作を自律に切り替えると、カヴァタネと一緒にそこから去った。
「チッ! 待てコラ!」
ヨギはティフォルを追おうとするが、スルプとベデムがそれを許さない。
「邪魔だなぁ......」
ヨギは、ベデムの右腕が肥大化して形成された巨大な盾をひっ掴むと、自分に斬りかかって来たスルプの鎌を使ってベデムの腕を切り落とし、自分の盾にした。
「ケッ! こんなもんかよ!」
ヨギは取った盾でベデムを殴り飛ばし、スルプに当ててスルプが怯んだ隙に、盾の縁でスルプの右腕の鎌を切り落とした。
そして、取った鎌でスルプとベデムの頸を切り飛ばしてやった。
「追わなくては......」
一方、呼び水であるアオバを連れてきたミカ。ミカはホテルで悠々と寛いでいた。
「ふむ......この世界の酒もなかなかに......美味なものだな......」
ミカは、ワニ柄が描かれたグラスに入ったパッソアオレンジを飲み干すと、冷蔵庫から別の酒を取り出してきた。
「ん......え、ここどこ?」
ミカがグラスに酒を注いでいると、後ろのベッドで眠っていたアオバが目を覚ました。
「おはようアオバちゃん。」
「おはよう......ございます?」
アオバはイマイチよく現在の状況を理解していなかった。なので、とりあえずベッドから起き上がろうとした。
「ん......ちょっと起きようかな......って......なんだこれ!?」
アオバは自分の手のひらを見た瞬間、違和感と衝撃が走った。
アオバの手を初め、アオバの全身が半透明になっているのであった。
「な......何......一体何が......」
「落ち着きなさい。別に死にはしないわ。今の貴方は『あるもの』によって無理やり生きながらえさせられている状況なの。
しかし、生きとし生けるものは本来生命エネルギーは薄まっていくもの......貴方はその薄まりを強制的に維持させられている。
今の貴方のその半透明な姿は、今まで誤魔化されていた『生命エネルギーの薄まり』を、私の魔法で貴方の年相応の薄まり具合として可視化しただけ。」
ミカはそう語りながら、ブラックニッカを入れたグラスに、割る用の炭酸水をドポドポと入れ始めた。
「どういうこと?」
「分かりやすく、このお酒で説明してあげよう。
生きとし生けるもの、みな生きてる間に何かしら『生命エネルギー』を消耗していく。
立つにしろ、歩くにしろ、走るにしろ、考えるにしろ、何かしら行動する度にエネルギーが損耗していく。」
そこでミカはグラス半杯分だけ中に入っていた酒を飲んだ。
「そして、エネルギーが足りなくなったら、食うなり寝るなりして、その不足分を補う。」
ミカはそう言いながら、グラスに新たな炭酸水を注ぎ込んだ。
「さて問題だ。今このグラスに入ってる酒は、さっきの酒より薄まってるでしょうか?」
「そうね......さっきのお酒は1:4くらいで炭酸割りされてて、飲んだ分足されたのは炭酸水だけ。
体積はほぼ元通りだけど、濃度は確実にさっきより薄まってる。」
「そう! 正解! 薄まるんだよ!
人間のエネルギーも同じさ。生まれた瞬間が『純度100%』の生命エネルギー......つまり『お酒』だとすると、食ったり寝たりして足してった分が『炭酸水』という割った物になるわけさ。
そしていつしか、極限まで薄まって行った酒は......」
「ほぼ無くなる......つまり死ぬ?」
「そう! 死ぬんだよ! ただアンタは特別な道具のおかげで『炭酸水の代わりに酒を詰められて幾ら時が経っても薄まらない』という状態になってる。
つまり老いや死を誤魔化しているんだ。
だから私が魔法で、貴方の歳相応の『薄まり具合』を可視化させてあげたの。
本来なら、貴方はとっくに死んでてもおかしくない。でも、生命エネルギーが注入され続けるから、老いることも死ぬことも無い。」
「私は......一体いつから......」
「さてね......でも、随分と長い間そういう状態であることは確実だよね。
......て言うか、違和感を感じはしなかったのか? 自分は老いないって......」
「そういうものだと思っていた......」
「そうか。まぁそれならいい。君には裁定者を呼び出す呼び水となってもらう。」
「なっ、何を!」
「君と裁定者の道具との繋がりを切る。そうしたら違和感を感じてすっ飛んでくるはずさ......」
一方、ティフォルを追いかけているヨギ。彼は奴の足跡を追って、橋の近くまで来ていた。
「よくここまで追ってきたな。俺も相当な速さで逃げてきたつもりなんだがな。」
ティフォルはカヴァタネと共に橋の上に仁王立ちしていた。
「足跡を残しすぎだ。知らねぇうちに泥濘でも踏んだんだろうが、注意力が足りてねぇようだな!」
ヨギは床に付けられたティフォルノ足跡をガンガンと蹴ると、そのまま地面を蹴り、ティフォルに向かって縮地した。
「ある意味では......」
と、ティフォルが話しながらヨギの拳を受け止めると、ヨギの勢いを殺すことなく、ヨギの足を払ってコケさせた。
「......君と俺は似ているのかもしれない。君も俺も同じ『混ぜ物』だ。」
「あぁ? 俺がおめぇみたいな化け物と一緒だァ!? ざけんな!」
ヨギは手で地面を押し、脚を思い切り回転させてティフォルに蹴りを入れながら、ブレイクダンスのような形で起き上がった。
「そうさ、同じさ。俺は君の中に流れている血が『混ざっている』のが見える。」
「おめぇも、見た感じなんか色々と混ぜられたみてぇだな。気色悪い。」
ヨギは軽やかな足さばきでヒョイヒョイとティフォルに近づき、拳による連打を浴びせた。
「見える......君の血流......君の筋肉の動き......そこから分かる......君の思考......」
異常に発達したティフォルの視力では、ヨギの動きは丸わかりで、ヨギの放った拳は尽く全て避けられてしまった。
「くっ......ちょこまかと!」
「では私から一撃。」
ヒョイヒョイと避けていたティフォルは、突然居直り強盗のような速さで攻撃の構えに転じ、巨大な一撃をヨギの顔面に浴びせた。
ティフォルが放った拳そのものの威力、足すことのヨギが自分から突っ込んできた速さ、即ちそれはこれ以上無い程の綺麗なカウンターが決まったことを意味する。
「同じ『混ぜ物』ではあるが......」
ティフォルは血で赤く染まった拳を引っ込めながら、既に気絶し地面に向かって倒れ行くヨギに向かって話し始めた。
「お前はまだ『大切なモノを失う辛さ』を識らない......故に俺に勝てない。」
ティフォルはカヴァタネを連れて、その場から立ち去った。
一方、アオバにかけられていた道具の効力を、魔術によって解いたミカ。
ミカはご満悦そうに眠るアオバを見つめると、これからノコノコやってくるであろう裁定者をどうやって倒そうか思案していた。
「裁定者ゼノン......君はどうしようも無く、この娘に甘い......それが命取りだ。」
ミカはアオバの顔を写し取ると、自身の顔をアオバの顔に変え、変声機付きチョーカーを首に巻いてアオバの声に調整した。
「ケケケ......これで誰から見てもアオバという訳だ......ヤツは必ず隙を見せる......そこに確実なる一撃......」
ミカは自身が成り上がっていく想像をして、ホテルの部屋で一人ほくそ笑んだ。
一方、異変を感じ取った裁定者ゼノン。彼はアオバにかけられていた不老不死が解かれたことを察知していた。
「何故だ......? ごく長い時の中で、一度も解けた事など無かったのに......
俺にかかっている不老不死だって解かれてない......まさか、誰かが意図的に......?」
ゼノンは焦りを覚え、アオバの方にばかり気を取られ、この世界については何も深く考えずに、この世界は有害だろうと適当に決めつけ、世界にいる住人たちを処理することを決めた。
マゴクから『美しくて黒い終焉』という黒い玉のような道具を取り出し、片手間にその辺に投げた。
『美しくて黒い終焉』は、地面に着いた瞬間、惑星を覆うほどまで大きくなり、巨大な一つのドームを形成した。
数瞬後、惑星内にいた『人間のみ』を焼き殺し、すぐに元の大きさまで戻り、マゴクの中へと回収された。
裁定者ゼノンにとって、惑星を滅ぼすなど、文字通り朝飯前なのである。
「ふむ......アオバの元に向かうか。」
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