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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Another:Episode11 Sky people

 俺は千里眼鏡で、先程の病院を探し始めた。しかし、かなりの距離を移動してしまった為に、その病院を探し当てる事が先ず困難を極めた。

 そもそも土地勘ゼロのこの世界。似たような地形が呆れるほどに広がっていて、あっちでもないこっちでもないと、文字通り探り探りで進めていかざるを得なかった。


「なぁゴク、中々に見つからん......と言うか、そもそもあの病院の位置が特定出来ないぜ?」


「すまない、もうすぐホムンクルスの修理が完了する。そうしたらホムンクルスに自動的に記録されている位置情報を使って、病院の大まかな位置は特定出来る。
......と言うか、修理が終わるまで休んだらどうだ? どの道探り探りでは終わるものも終わるまいよ。」


「そうだな、休憩しよう。」

 俺は千里眼鏡を外し、見ることに注力したために疲労した目を瞑った。そして目頭を抑え、じんわりと疲労が和らぐのを待った。


「お前が作業している間に、少しこの部屋に置いてあった書物を失敬して、目を通してみたぜ。」


「どんな本を読んだんだ?」

 俺が疲れた目をゆっくりと開けると、ゴクはウニョウニョと伸びて行って、そこら辺に積んであった何冊かの図書を引っ張ってきた。


「この世界の情勢や、気候や風土についての本だ。この世界の教育プログラムで使われている図書を読み漁ったから、この世界の住人が持っている水準の知識は得られた。」


「それで、この世界はどんな世界なんだ? あと、さっき俺らを襲ってきた連中は?」


「先ず、後者の質問から答えよう。奴らはこの世界の『空軍』みたいなものだ。
そして彼らが人型で空を舞うに至った理由と、この辺りに高い建物が建てられない理由はある一つの点にある。

それはこの星の自然現象がかなり独特で、定期的に津波級の波が地上に押し寄せるらしい。それによって地上に建てた建物は数日で流されるそうだ。そしてこの気候のせいで大きな航空機を飛ばす為の施設を作ることにも至らず、人型の最小限の形で飛ばせる技術を発達させ、一般人は地下に引きこもって暮らしているというワケだな。」


「俺が運ばれたアノ病院はどうなんだ?」


「恐らく、アソコは標高的に波が及ばない所なのだろう。山の近くでもあったしな。」


「なるほどね......病院......置いてきてしまったヨギは無事だろうか......」


「無事だろうさ。彼はあんな所で死ぬようなヤツじゃない。もし仮に死んだとしたら、彼はそこまでの男だったというだけ。」


「......しかし......」


「まさか『本当に連れてきて良かったんだろうか?』等と、彼の病気を理由に悔いているんじゃねぇだろうな?」


「なっ!」


「はっ! 図星か!」


「悔いて何が悪い!」


「おめぇが連れてきたんだ! 異世界に渡るなんざ! 多少のリスクは覚悟していたもんだと思ったがな! どうやら違ったようだ!」


「な、なに!?」


「おめぇ......何のリスクも無しに、異世界に渡れるとでも思ってたのか? なんの障害も無しに?

そりゃあ、おめぇ達が生存可能な惑星のある世界だけを候補にあげる道具を渡したが、『なんのリスクも無い』などとは一言も言ってないぜ?

おめぇは俺と融合してるから、リスクはほとんど無いようなものだが、ヨギみてぇな普通のヤツは違う。

お前はそれを勘案に入れるべきだった。だが飢えたくないという一心で、ヨギにかかるリスクを微塵も考えちゃいなかった。それはお前の甘さだ。」


「だからそれを悔いて......」


「悔いて何になる? 悔いた所で、何か変わるというのか? 悔いる行為は建設的な行為なのか? ん? どうだ?」


「うるせぇ!」


「はっはっはっ! まるでガキだな! 思いやりが足りてないと指摘され、自身の未熟さ故に起こした不始末を悔いるだけ悔いて、今度は逆ギレか?」


「うるせぇって言ってんだよ!」


「サイ......大人になれよ......」


「元はと言えば! お前がマゴクの所にいかないといけねぇってから! 融合してる俺がついていく次第になったんじゃねぇか!
そんで! 飢えちまったら俺もお前も死ぬからヨギを連れてきたんだろうが! 俺ばっか責めんじゃねぇ! ゴク! おめぇも同罪......いや! おめぇの方が罪深いだろうが!」


「まぁ確かに、ヨギがこちらの世界に来た......というかあちらの世界から旅立つキッカケを与えた原因は確かに俺だ。

しかし俺は、彼がこちらに来て弱まったと知った時点で、ちゃんと協力していただろう? ホムンクルスを出して病院までちゃんと連れて行った。俺は俺なりに責任をとったつもりだぜ?

だがお前は責任をとっちゃいない。勝手に悔いて、勝手にキレて、勝手に責任転嫁しようとしただけだ。」


「くっ......」


「どうだ? グウの音もチョキの音も出ねぇだろ? ん? どうだ? パーくらいは出るか?

まぁ、そもそもの話......もっと突き詰めて言えばこの世界の原理原則の話をするなら、なんのリスクも無しにリターンは得られないということだ。

異世界へ飛び込むという『リターン』を得るからには、糾える縄の如く、異世界へ飛び込んだ事による『リスク』も当然着いてくる。

サイ、自覚が無いようだが、お前だってリスクを背負って今生きてるんだぜ?

そもそも、付け狙われている俺と融合している事そのものが、自動的に自分も狙われるという『リスク』になっている。

そして、この世界の情勢をよく知りもしないで勝手に空を飛んだもんだから、ニャルマ達から逃げるというリターンの為に、この世界の空軍に狙われるというリスクを冒した。

よくよく考えれば、今までのお前の行動、ヨギと何ら変わりはない。その『リスク』の形が多少異なっているだけで、お前は常に『リターン』をもぎ取ってきていた。」


「......なるほど......確かに、今までの行動を振り返れば、そのリスクリターン理論で粗方説明がつく。」


「この世界の原理原則はそれだ。常に糾える縄の如く、また裏表あるコインの如く、リスクとリターン、益と害、幸と不幸はセットで付いてくる。

例えそれが......俺と同種であるマゴクとて......マゴクと融合している裁定者とて......例外では無い。」


「どういう事だ?」


「マゴクが今どんな状況に陥っているか......粗方予想がついたんだよ。お前が逃避行を続けてる間、俺は必死にマゴクと超時空念話で繋がろうと努力した。
そしてまぁ、その努力の結果......予想可能回避不可能な現実を知ってしまったんだよ。」


「なんだよ、マゴクと裁定者に何が......」


「......善が暴走しちまった......」


「は?」


「裁定者は......ゼノンはアンチサイコパスだった......」


「アンチサイコパス?」


「あぁ。アンチサイコパス......サイコパスが自身の利益の為ならなんでもやるヤツ......それのアンチ......つまり公益と信じた事のためならなんでもやるヤツだったんだ......」


「それのどこが問題なのさ?」


「善の暴走だよ......人は、大義名分とやらの為ならどこまでも残酷になれる。

これは一種の悪だ。それも最もタチの悪い悪。自身のやっている事が公益だと信じて疑っていない。大きなありがた迷惑。」


「詳しく説明してくれ。」


「マゴクはゼノンという男と融合している。ゼノンは道具を駆使して、自らを不老不死とし、様々な世界を渡り歩いて文字通り『制裁』を加えてきた。

この行為を客観的に見ると、ゼノンには何のメリットも無い。しかし、ゼノンは誰に言われたわけでもなく、ただただ純粋に自らこれを行っているんだ。

マゴクは、ゼノンの行う『制裁』は、善だと信じていた。しかしながら、マゴクは落ち着いてよくよく考え直してみたんだ。ほんとにゼノンのやっている事は正義なのか? とな。

ゼノンの行っていた『制裁』はごく一方的なものであった。ゼノンがその世界の情勢を何となく把握し、その後ゼノンの独断と偏見によって様々な形の『制裁』を加えてきた。

ゼノンは今まで1度たりとも、『制裁』を加えた世界の住人の声を聞こうとしなかった。全て自分が正しい、自分のやった事はこの世界のためになると思い込んでいた。

しかし、マゴクは段々とこういった行為を繰り返すゼノンに不信感が募ってきた。そしてとうとう、ゼノンにある事を進言したらしい。

『お前のやっていることはほんとに正しいのか?』とな。ゼノンはこの言葉を聞いた瞬間、激昴したらしい。そしてこの後、マゴクとの念話が途絶えた。

これが俺の言った『アンチサイコパスによる善の暴走』の概要だ。」


「マジかよ......ゼノンとマゴクは今どこに?」


「かなり不味い話、ヤツらはこっちの世界に近づいてきてるらしい。トンデモ無い事が起きようとしてる......」


「確か、道具はヤツらと共有だったよな? てことは、お前が危険視していた高レベルの道具も使っているという事か?」


「恐らく......いや、十中八九そうだろう。ゼノンは、自ら行う事は公益と信じている以上、自身を止めようとする存在は全て悪だと思い込んでるハズ。

マゴクと同種である俺も、自身に刃向かってくる反乱分子の種とでも思い込んでるハズだ。いよいよ不味いぞ......ヤツが戦闘の意志を持っている以上、俺らは身を守る算段を整えなくては......」


「身を守る......? そんなヤバいヤツらからどうやって身を守るってんだよ......」


「方法は......無きにしも非ず......かな。」

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