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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Another:Episode5 Reach for the moon

「ごちそうさまでした!」

 俺は朝メシを食べ終えると、今日1日何しようかと考えた。


「なぁサイ。」


(ん? どうしたゴク?)


「俺は、同種であるマゴクと、時空を超えた念話が出来るんだが、あちら側に何か問題が起きたみたいだ。」


(問題?)


「あぁ。俺も詳しくは知らないんだ。『致命的な問題が発生した』としか念話で送られなくて、その後音信不通といった具合だ。」


(マゴクもレベル7までの道具が使えるんだよね? それを持っているのに『致命的な問題』だって? それって相当ヤバいんじゃ......)


「兎にも角にも、俺はマゴクの様子を見に行かないといけない。まぁ、マゴクの居場所は大体分かっているんだが、しかし俺1人ではそこに辿り着く前に飢え死にするか、追っ手に捕まっちまう。だから、そこまでの旅に付き合って欲しい。」


(それは......俺はまぁ構わないが、俺よりかはヨギが一緒に行ってくれるかどうかが問題じゃないか? 俺はメシを作れない。安全に旅する為には、ヨギの同行が必須だろ?)


 俺はゆっくりと椅子から立ち上がり、食べ終えなばかりの皿をキッチンに持っていき、そこにいたヨギに話しかけた。


「なぁヨギ。」


「なんだ?」


「俺......旅に出ようと思うんだ。実は、ゴクがマゴクから緊急事態発生の念話を受け取ったらしく、これからそこに向かわないと行けないらしい。
ゴクは俺から離れる事は出来ないから、俺はついて行くしかないんだ。だけど俺はメシを作れない。俺とゴクだけで行くとなると飢え死にしちまう。」


「つまり......俺も同行して欲しいと?」


「あぁ。ヨギ、俺らと一緒に旅してくれないか?」


「丁度良かった。お前からそう言ってくれて有難いよ。」


「え? どういうこと?」


「丁度俺も旅に出ようと思ってたところだったんだ。まぁ、お前は記憶失ったから覚えてないだろうけど、俺は一流の料理人を志してるんだ。だから、俺は一流の料理人になる為に修行の旅に出ようかと思っていたんだ。
そんな時、お前がこうして、旅に出ようと言ってくれた。それが『丁度いい』って事だよ。」


 ヨギは自分の鞄に、調理道具やら、保存のきく食べ物やらを詰め込み終えると、その鞄を背負った。


「俺はいつでも行けるぜ。」


「よし、じゃあ行くか。」


 俺らが意を決して玄関の扉を開けて外に出ると、その瞬間『ルービックホーム』はガチャガチャと形を変えて、元の大きさに小さく縮こまっていった。

 それをゴクがパクリと飲み込むと、代わりにゴクは何かを吐き出した。ゴクが吐き出した物は、茶色い大きめの扉であった。


「ゴク、これはなんだい?」


「オブジェクトレベル1の『時空の扉』だ。使用者の望む場所ならどこへでも行ける便利なドアだ。例え別時空の異世界であっても行くことが出来る。」


「なんだ、それならマゴクの所まで一発じゃないか。旅に出るなんて、大層な事じゃないじゃないか。」


「実は、これにはちょっとした弱点......まぁ弱点という弱点でも無いんだが、まぁある種の『ドアらしさ』があるんだよ。」


「どういうこと?」


「簡単な話、1度だけドアをくぐったら、隣の部屋とか外に行くよな? これも同じ理屈なんだよ。
今現在この世界と隣接してる時空にしか行けない。だから1発でマゴクの所まではたどり着けないんだ。」


「なるほどね。じゃあ何回このドアを使えばマゴクの所まで行けるの?」


「少なくとも6回だな。まぁ......あくまで『少なくとも』だがな。」


「どういうこと?」


「正しい順で世界を渡れば6回だ。だけどその『正しい順』は俺にも分からない。何となくマゴクのいる世界の方向は分かっているんだが、細かく何処の世界を通っていけば良いとかは分からないんだ。
だから長い旅になるかも知れないんだ。それに、この扉は惑星時間で1日経たないと使えない仕様になっている。だからクール時間中も旅しないといけない。」


「なるほどね。じゃあちょっとした博打みたいな感じになるのか。」


「一応これ以外にも、異世界に渡れる道具はあるっちゃあるんだが、人間であるサイやヨギには使えない仕様になっていたり、デメリットがあまりにも大き過ぎる物だったりと......まぁ簡単な話、この道具が1番安全に、かつ楽に異世界に渡れるんだ。」


「おっけーおっけー。」


「取り敢えずドアノブに触れてみろ。この世界のこの空間のこの時間に隣接している幾つかの世界の候補が、お前の脳内に表示されるハズだ。一応、無数にある候補の中から、ドアノブに触れてる種族......つまりお前ら人間が適応可能な場所だけが絞られて出てくる。
だからどれかを選んでイキナリ死ぬなんて事は無いから、安心して選べばいい。」


 俺は言われるがままに扉のドアノブに触れた。すると、幾つかの世界の候補が脳内に泡のように浮かんできた。

 その浮かんできた異世界のイメージは常に俺の脳内にある訳ではなく、新しいものが出ては消え、出ては消えを繰り返している。時間は不変ではないから、隣接している世界も流動的なのだろう。


「ここだ!」


 俺は自身の第六感に従って、あるひとつの世界に飛び込んだ。









 同時刻、ゴクの動向を腕時計型端末で確認していた。すると、いきなり『LOST』という表示に切り替わった。


「ティフォルさん。ゴクが異世界に飛んだようです。こちらも追いましょう。」


「追う? 異世界にか? バカ言ってんじゃねぇよ。一体どうやってヤツの向かった異世界に行くってんだ?」


「この程度の事態は予測済みです。どうするかはこれから説明します。取り敢えず、ある人を呼びますね。」

 ニャルマは、腕時計型端末を器用に操作し、ある人物に連絡を入れた。

 すると数分後、いきなり2人がいる部屋に、1人の人間がポンと姿を現す。


「うわぁっ! びっっっくりしたぁ!」


「あら、テーブルの上に出てきちゃったか。すみませんすみません。」

 そこに現れた女は、申し訳なさそうに、いそいそとテーブルから降りた。


「初めまして。私、ミカ サナギと申します。ニャルマとは軍にいた頃からの友人です。」


「は、はぁ。俺はティフォルだ。ティフォル・フォーティマー。よろしく。」

 ティフォルは何が何やら分からぬまま、取り敢えず自己紹介だけ済ませた。


「はい、今見てもらった通り、ミカは転移魔法のプロでございます。」


「は、はぁ。という事は......このミカの力を借りてゴクを追いかけるってか?」


「ご名答! 流石ティフォルさん。話が早くて助かります。」


「待て待て、転移魔法って、異世界へ向かうことすら出来るのか? ホントにそんな事可能なのか?」


「ハッキリ申し上げると、今のこの世界の発展レベルでは無理でしょうね。」


「どういうことだ? 無理ってんなら、なんでお前さんは出来るんだ?」


「単純な話ですよ。私はこの世界の人間じゃない。別の世界からやって来た人間ですから。」


「なるほど......この世界の軍も、いよいよ体面なぞ気にしてられなくなったか。重要な任務を、異世界人に頼るようになるとはな......」


「私はこの世界よりも、科学は発展してないけど、魔術が発展した世界からやって来ました。だから貴方がたが知りうる魔法よりも、もっと素晴らしい魔法を見せることができます。ま、その1つが異世界にすら行ける転移魔法なんですケドね。」


「なるほど。大体分かった。じゃあ、俺らもゴクが渡った世界へ向かうとするか。」









「ひぇ〜、こりゃまた凄いとこに出ちゃったねぇ〜......どうしようか......」

 俺、ヨギ、ゴクの3人がドアを抜けた先。そこは雲を眼下に挑める程の、高い山の頂であった。


「ハァ......ハァ......やば......ハァ......ここ......ハァ......酸素......ハァ......うっす......ハァ......ハァ......」

 いきなりヨギが顔色を悪くし、フラフラと倒れ始めた。俺はサッとヨギの肩を支え、足場の安定する場所へと移動した。


「なぁゴク、何か良い道具は無いか?」

 俺がゴクに道具貸しを催促すると、ゴクは急いで何かを吐き出した。


「コイツをヨギの口元に装着しろ。」

 マスクのような形をしたそれを、俺は急いでヨギの口に装着した。するとゴクは、出しっぱなしにされていた『時空の扉』を丸呑みにして体内にしまい込んだ。


「今貸したのは『アッカーマスク』だ。数分経てば、この環境に馴染むだろうさ。」


「なぁゴク、なんで俺はヨギみたいに、こういう症状が出ないんだ?」


「多分......お前と俺が融合してるからだろうな。俺はお前の身体の循環器系と特に強く結びついてる。だから多少環境が変化しても、体内環境は俺の力で常に保たれている。そうなると副次的に高山病などを発症せずに、いろんな環境に直ぐに順応出来る。」


「なるほどね......取り敢えず、ヨギを連れて下山......というか山小屋みたいな所に行こう。
山小屋が無かったら、最悪ある程度広い場所でルービックホームを使えば良いや。」

 俺はヨギの事を抱え、下山出来るような道が無いか探し始めた。


「おいサイ......今お前『ルービックホームを使えば良いや。』なんて言ったな。」


「それがどうかした?」


「あんまり俺の道具をアテにするな! いつも使えるとは限らないんだぞ!」


「はいはい。ごめんなさいね。」


「これだけはよーく覚えておけよ? 俺はお前に『貸してる』んだ。まるで自分の力になったかのような振る舞いはやめろ。」


「なんだってそんなに怒るんだ?」


「お前に、道具に心奪われて欲しくないんだよ! 道具に頼り切って、考える力を低下させるな!
あと、自分が操れるからと言って、まるで自分の力かのように思うのも人間の悪い癖だ! 有難味を忘れんじゃねぇぞ!」


「分かったよ......そんなに怒んなって。」

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