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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Another:Episode4 Evolution of technology

 同時刻、ニャルマとティフォルは、作戦失敗の旨を上層部に伝えた後、埋め合わせの為に今後何をすべきか、宿泊施設にて作戦を練っていた。


「あの......参考までに聞かせていただきたいんですけど、ティフォルさんが残された猶予って、あとどのくらいなんですか?」


「ん......確かこれが爆裂するのが来月の15日だから......ま、あと1ヶ月程度と言ったところかな。この限られた時間でゴクを捕まえねぇといけねぇ。」

 ティフォルはグラスに酒を注ぎ、テーブルの上に置いてあった飴玉を口に放り込んでから、酒をグッと飲み干した。


「私......納得出来ません。例え貴方が、今後実行される『犯罪者を飼い慣らして軍事利用する』という法律のテストケースであっても、こんな仕打ちされるべきじゃない。しかも条約違反の『K9チョーカー』まで使うなんて......あまりに非人道的過ぎます。」


「あんた......珍しいタイプの人間だな。普通なら、こんな死刑囚斃るならさっさと斃っちまえ、って罵られる所なんだがな。」

 ティフォルは飴玉を下の上で転がしながら、あと少しでこの楽しみも奪われる淋しさを心のどこかで感じていた。


「ティフォルさんだって人間でしょう? 人格のある人間。それを無視されるようなことはあってはならないと思うんです。」


「ばーか。俺ァ、人を殺して豚箱にぶち込まれたんだぞ? 人格のある人間を無視しまくってたのは俺のほうさ。」

 ティフォルは自身の両手首につけられた腕輪に視線を移した。これは首輪とワンセットになっており、いざとなればスイッチ1つでこの3つが繋がり、ティフォルの自由は奪われる事になる。


 そしてそのスイッチは、ティフォルと同行することになったニャルマが持たされている。


「噂で聞いたんですけど、それって冤罪なんじゃないんですか? もしホントなら......」

 ニャルマがそう言った途端、ティフォルは思い切りテーブルを叩いた。

「冤罪なんかじゃねぇ......アイツを......アイツを殺したのは俺なんだ......! 俺は......罪を犯したから裁かれるべきなんだっ!」

 いきり立ったティフォルは、ニャルマの服の襟元を引っつかみ、顔をグイと寄せた。


「す、すみません......でも何故そんなにムキになるんです?」

 ニャルマは両手を上げ、攻撃の意思は無いことをアピールした。


「あ、あぁ、すまない。つい熱くなっちまった。だけどなニャルマ、人には聞いていい事と悪い事があるんだぜ。」

 落ち着きを取り戻したティフォルは、掴んでいた襟を離し、ゆっくりと椅子に腰掛けた。


「話を戻しましょう。取り敢えず残された猶予は残り1ヶ月。その間で、出来る限り効率的に捜索するとなれば、恐らくは小隊レベルの編成、または改良型イプシロンの量産が必要になるかと......」


「小隊レベルの編成? 人はどっから引っ張ってくるんだ? まさか俺みたいな死刑囚をもっと引っ張ってくるっつうつもりじゃねぇよなぁ?」


「そ、それは......」


「やっぱりアンタも元軍人なだけあるな。口じゃ良い技術者を装っていても、その言葉の端々からは軍人思考が染み付いてるのがよく分かる。」


「ち、ちが......」


「違わないな。アンタも所詮、俺を飼い慣らす側の人間だ。それに、もう1つの方法として挙げてた、イプシロンとかいうロボットの量産? これについては時間がかかるだろ? いくら軍の生産ラインをフル稼働させたって、残り1ヶ月、しかも生産を終えて捜索に向かわせるとなると、作れる数はたかが知れてるだろ。」


 ティフォルは舌の上で転がしていた飴玉を奥歯で挟み、バリボリと噛み砕き始めた。


「改良型イプシロンなら7体あれば充分です! それに! 良い技術者であろうと努力することの何がいけないんです? 確かに私は、元々軍に所属していました! でも私は! テクノロジーの進化についていけなくなるほど、テクノロジーに酔心していいません! 寧ろ私は、科学者や魔術者ほど、道徳的な心を持つように努めるべきだと思ってます! もう昔の繰り返しはさせません!」


「繰り返し? 『天罪空からの裁定者』のことか? だったら何故ゴクを創った?」


「それは......確かに私はあの培養機を造りはしましたが、それは使用目的を伝えられなかっただけのこと! 私は半分騙されていた! 
でもそんな事で嘆いても事態は変わらない。だからせめて私が創り出したゴクは、私が自身の手で葬り去る! それが私なりの責任の取り方! ゴクはまだ今の人類には早すぎる!」


「なるほどな......それがお前がヤツを追いかける理由か......だが、ゴクを葬り去るのが目的なら、別にイプシロンを生け捕り特化カスタムにする必要は無かろう?」


「ゴクと融合した男がいます。そいつまで殺す気はありません。あいつはあくまで一般人。流石に一般人を巻き込むのは忍びない。だから生け捕りにして、分離させてから葬り去る。」


「甘いな。けど線引きはしっかり出来てる。まぁ、アンタみたいな『いい人』ほど早死にするもんだがな。」


「それは褒め言葉として受け取っておきます。無論、私は早死にするつもりなんて1ミリもありませんから!」

 腹を立てたニャルマは部屋から出ていき、外の倉庫に入れてあるイプシロンの整備に向かった。


「アイツも......『いい人』だったからな......クソッ!」

 ティフォルは手にしていたグラスを床に向かって叩きつけた。グラスは一瞬にして砕け散り、彼は昔自身の前で散っていった儚い命の事を思い出した。








 ゴクの道具のうちの一つである『ルービックホーム』という道具で、俺とヨギは一晩を越した。

 6面揃えれば家になるという道具だったのだが、昨晩ヨギが挑戦してもまるでダメであった。

 試しに俺がやろうとなって、結果難なく6面揃えてしまった。そこで俺らは一晩過ごすこととなった。

 そして朝、ヨギは何か思い出したかのように、やおら俺に話を振ってきた。


「確か......記憶ってのには種類があるって話を誰かから聞いた。記憶には3種類あるんだそうだ。『手続き記憶』と『意味記憶』と『エピソード記憶』の3種類だ。
『手続き記憶』ってのは、泳ぎ方だとか、階段の登り方だとか、言葉じゃ説明出来ないような記憶。
『意味記憶』ってのは、言葉の意味とかの、学習で身につけた知識の記憶。
『エピソード記憶』ってのは、自分の昔にあった出来事だとか、実際に体験したことの記憶。

多分サイ、お前が『ルービックホーム』を解く事が出来たのは、ルービックキューブの解き方が『手続き記憶』として残ってたからだ。
そして当たり前のように感じることだが、こうして俺の喋っている事が理解出来て、尚且つ会話することすら出来る。それはお前の使用言語が『意味記憶』に保存されてるからだ。
この事から、恐らくお前が記憶喪失で失った部分は『エピソード記憶』だと思う。」


「なるほど。俺は昔あった出来事を忘れてるだけってことか。まぁでも、努力して思い出す程の事でも無いんだろうなとは思うよ。」


「なんでだ?」


「そりゃ、ちょっとやそっとの衝撃くらいで無くなっちまったような記憶だぜ? そんなの、覚えてなくたって別に平気だろ。」

 俺は幾らか楽観的であった。別に過去を思い出したところで、ヨギ曰く俺には家族が居ないらしいし、別に楽しい記憶も無いだろうと思っていた。だからこそ、この失った現状を幾らか前向きに捉えることが出来た。


「まぁ......お前がそう言うなら、俺も過去に関する言及は控えるようにするよ。」


「まぁそんなに意識しなくていいよ。だって俺なんか大した過去持ってないだろ?」


「ま、まぁそりゃそうだがな。」


「あっとそうだった......朝メシ食わなきゃいけねぇじゃん。ヨギ、なんか作ってくれるか?」


「あいよ。」

 快諾したヨギはキッチンの方へと消えていった。するとゴクが目を覚ました。


「おはようサイ。」


「おはようゴク。」


「ん、ヨギは今俺らにメシを作ってくれてるのか?」


「あぁ。食わなきゃ死ぬからな。」


「じゃ、ヨギがメシを作ってくれてる間に、道具の説明でもするか。」


「道具の説明?」


「あぁ。今まで言ってなかったが、俺の持つ道具には『レベル』っつーもんがある。まぁ、今までお前に使わせてたのは低レベルで安全なものばかりだったんだがな。」


「レベル?」


「あぁ。レベルは大きく分けて7つ。レベル分けの基準は『その道具が世界に及ぼす影響の度合い』だ。

レベル1は、それ自体はほぼ無害か、一般的な生物に対する殺傷力が低い物のカテゴリ。

レベル2は、一般的な生物であれば、一撃で殺傷できる、ないしは一瞬で殺すことの出来る物のカテゴリ。

レベル3は、街や都市を丸ごと消し飛ばせる程度の物のカテゴリ。

レベル4は、文明ひとつ簡単に滅ぼせる程度の物のカテゴリ。

レベル5は、惑星や恒星そのものを丸ごと無くせるくらいの物のカテゴリ。

レベル6は、宇宙ひとつをポンと消すくらいの物のカテゴリ。

レベル7は、文字通り世界を塗り替え、遍く全てを支配する程度の物のカテゴリ。

お前が使った『敵意磁針』や『ルービックホーム』はレベル1、水を操った杖である『蛟』はレベル2だ。」


「そのレベルって言うのは、誰が決めたんだ?」


「俺のオリジナルであり、俺と保管するスペースを共有しているマゴク、そしてマゴクと融合した英雄がカテゴリ分けしたとされてる。」


「保管するスペースを共有って、気になってたんだけど、お前は一体体の何処から道具を吐き出してんだ?」


「俺やマゴクのような種には、体内に『クライン器官』と呼ばれる特殊な臓器がある。そこはまぁ、簡単に言えば無限に収納出来る空間になっていて、25正6923澗5775溝個もある道具を収納してるってワケさ。

まぁ、数ある道具の中には『収納する道具』なんてのもあってな、レベル1のそいつらを使って、高レベルの道具をそこに収納してるってのもある。ま、誤って高レベルの道具を吐き出しちまわないようにする、予防策の一環だな。」


「結構しっかりしてんだな。」

 ゴクが一通り説明を終えたタイミングで、キッチンの方からいい匂いと共にヨギがやってきた。


「はーい朝メシ出来たよ〜。」

 ヨギの両手には、美味しそうな料理が乗せられた皿があった。


「お、キタキタ!」


「よし、じゃあ頂くか。」


「いただきます!」

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