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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Another:Episode3 Vigilante might not dead

 ゴクは俺の左手にまた新たに何かを吐き出した。それは杖のような物で、先端には変な装飾がついていた。


「アイツの視力が戻る前に、これで2回床を叩け。そして、叩いた直後にあのロボットに居る方向に向かって、床をなぞれ。」


 俺は言われるがままにその行動をすると、なぞった床に水が走り、その水がロボットの足元に来た瞬間、地面から勢いよく水が突き上げ、ロボットはショートして機能を停止した。


 自由になったヨギは、すかさずアームを解いてヨロヨロになりながら俺の方へ向かって来た。


 俺はヨギを迎える為に歩み寄り、ヨギに肩を貸した。すると、ゴクがまた話しかけてきた。


「杖で床を3回叩け。逃げるのに役立つ。」


 俺は言われるがままに杖で床を3回叩いた。するといきなり床が無くなってしまったかのように、スっと落下する感覚を味わった。


「床に広がっていた水と同化した。ここは言わば水面下のめちゃくちゃ薄い水たまりの中みたいな空間だ。これで取り敢えず、誰にもバレずにかなり遠くまでは逃げられる。」


(あぁ。取り敢えずここから逃げよう。)


 俺はヨギの肩を支えながら、杖で水を操作して、病院の外へと向かった。








「はっ! ヤツらはどこに!?」


 視力が回復した女は、周りの状況を見て驚いた。イプシロンが捕まえていたはずの人質も、ゴクと融合していた男も、居なくなっていて、更にはイプシロンが機動停止していたからだ。


「これからは防水加工が必要だな......足元から大量の水が突き上げてのショート......装甲強化も必要か......」


 するとその時『staff only』と書かれた扉をドンと開いた。


 その開いた扉から、一人の男がやって来て、女に近づいて行った。


「ニャルマ......まさか、またゴクを逃がしたのか?」


「すみませんティフォルさん......」


「くっ......俺には時間がねェってのに!」


 男は、忌々しそうに自身の首につけられたチョーカーをつまみ、ギリギリと歯軋りをした。


「ティフォルさん......そのチョーカー、前から気になってたんですけど、何なのですか?」


「飼い犬につける首輪みたいなもんだよ。時限式で爆裂するのが普通のとはちょっと違うけどな。」


「それって......『K9チョーカー』ですか? それって確か条約違反じゃ......」


「俺は死刑囚だぜ? 最早綺麗事じゃ済まない、やんごとない事情ってのが御国にもあるんだろさ。死にゆく命に対して条約守るもクソもないだろ......」








 俺とヨギは町の郊外まで逃げていた。2人で共に焚き火を囲み、少し話し合った。


「なぁサイ。お前を狙っていた連中は、一体なんなんだ?」

 ヨギは、焚き火に枝や葉っぱを突っ込みながら、俺に話しかけてきた。恐らく病院で俺が「詳しくは後で話す」と言ったからであろう。


「あぁ、先ずはこれを見てくれ。」

 俺は今までヨギに隠していた右腕を見せた。するとヨギは驚いた表情を見せた。


「あれ? お前......右腕......」


「ゴク、姿を現してくれ。」

 俺がそう言うと、ゴクはウニョウニョと変形し、蛍光色の姿を見せた。


「うわぁっ!! なんっっじゃそりゃ!」

 ヨギは驚いて腰を抜かし、座っていた大きめの石から転げ落ちた。


「初対面のくせに『なんじゃそりゃ』とは失礼なヤローだ。俺の名はゴク。ちゃんと名前で呼べ!」


「す、す、すみません! 俺はヨギです! ヨギ・コウウェンです!」


「ま、まぁ、ゴク落ち着けって。このゴクがさっきの連中から逃げてきて、それで襲撃を受けたってワケ。」

 俺は怒るゴクを宥めながら、ヨギにさっきの敵が襲ってきた事情を話した。


「なるほどな......それは、お前が右腕と記憶を失った事と何か関連はあるのか?」

 ヨギは話しながら、背負っていたカバンの中から何か取り出した。


「ん? 俺はわからん。どうなんだゴク?」


「ふぅん......まぁ関連がある事と言えば、お前に最初に取り憑いた時は、俺が閉じ込められていた地下研究所が正体不明の破壊現象によって壊され、俺が地表に出た時、お前が気絶していた。」


「てことは......サイが住んでいた山には地下研究所があって、サイが右腕と記憶を失った破壊現象は、ゴクが脱出してくる原因でもあったってことか?」

 ヨギはカバンから取り出した白い何かを枝に括りつけて、その枝を焚き火のそばに刺した。


「理には適っている。現に俺はサイと共に居るわけだし、病院には地下研究所の連中が追ってきた。」


「あの女も、地下研究所のヤツなのか?」

 俺は先程病院で襲ってきたヤツの事を思い出した。ヤケに体術が上手く、機械工学に精通してると思えた女。


「あぁ。アイツの名前はニャルマ・アルフェン。研究所の設備技術担当のやつだ。元々は軍の技術科士官をやってたらしく、その頃に残した数多くの功績を認められて、研究所に招聘されたそうな。」


「彼女のことヤケに詳しいんだな。」

 俺は、ゴクの話す様がまるで自身の友人を紹介するかのようであった為に、ゴクとニャルマの関係を知りたくなった。


「ニャルマは、俺を造った人間のウチの1人だ。お前ら人間の感覚で言うなれば、俺の母親みてーなもんだ。」


「ゴク......どうしてお前は造られたんだ?」


「俺が造られた理由......それはまぁ、記憶を失ったお前には馴染みの無い話だろうけど、ヨギ、お前なら馴染みはあるかもな。」


「俺に馴染みのある話?」


「......『天罪空あまつみそらからの裁定者』......って言えば分かるかな?」


「それって......古くから伝わるただの御伽噺じゃないのか?」

 ヨギには、何か心当たりのある話のようであった。記憶を失った俺にとっては、なんのこっちゃサッパリ分からないが。


「いいや......あの伝承の内容は、ほぼ真実だ。だからこそ俺が造られた。」

 ゴクはその体を変形させ、口のような場所から何かを吐き出した。ゴクが吐き出したのは『天罪空からの裁定者』と書かれた本であった。


「これってどういう内容なの?」

 俺は普通に『天罪空からの裁定者』の内容が気になった。そしてゴクが造られた理由も知りたかった。


「ん、じゃあ俺が話すよ。内容話してる間暇だと思うから、これ食っとけ。俺の地元の郷土料理だ。」

 ヨギは先程からずっと焚き火で炙っていた何かを俺に手渡してきた。俺は逃避行にエネルギーを使い、腹が減っていたので躊躇なくかぶりついた。



「この本の内容は、恐らく今より500年ぐらい前の時代だと推察されてる。

その頃の世界は、今よりもかなり技術が進んでいて、生命を創ったり、時間を移動したり、宇宙を旅したりと言った事が容易であった。

だけど恐竜的進化を遂げた科学や魔術の発展に、人間の心がついていけなかったんだ。ま、簡単に言えば、戦争が起きたってことだな。

その戦争によって技術的特異点までに達した世界は、一気に崩落していくこととなる。技術は戦争に利用され、戦争によって技術は破壊され、生活水準は軒並み衰退して行った。

そうした中、人類の『罪』がこの世界に満ち満ちて空にまで溢れた時、空から『裁定者』がやって来た。

その『裁定者』は魔極マゴクと呼ばれ、その名の通り、非情なまでに世界を焼き尽くした。

マゴクはその体から様々な『道具』を取り出し、ありとあらゆる方法で世界を蹂躙して行った。

欲にまみれた時の権力者達は死に絶え、戦争の火種となった技術を知っていた者達も悉く殺された。

マゴクの圧倒的な蹂躙の後に残ったのは、善良な心を持つ一部の大人と、まだ何も知らぬ幼き者達であったとされてる。

そこから世界は再始動し、今日に至る......って感じの内容だ。」



「なるほどね。そのマゴクってやつ、なんだかゴクと似てるね。」

 俺はまるでそこら辺にいるガキと変わりないレベルの感想を述べた。


「似てるというか、ほとんど同じ存在さ。俺は、この本に書かれた『裁定者マゴク』という存在を、科学的にかつ魔術的に解明した結果の産物だ。」


「まぁ造られた経緯は解った。しかし、何故造られたんだ? ゴクが造られた目的や理由は?」

 俺はヨギから渡された食べ物の2本目に手を出し始め、また飢えたように貪った。


「まぁ......簡単に言えば『軍事利用』だろうな。だけど俺はそんな事に利用されたくなかった。だからこそ、研究所が壊れた隙に逃げて、サイと融合した。

さっきヨギが言ったように、昔は生命を創ることなんざ大した事じゃなかった。だけど、その生命を創る技術は、結局クローン兵とかいう軍事関連のことにしか利用され無かった。

俺という生命を創り出したという事はつまり、昔の失われたテクノロジーをもう一度復刻させたという国の威信を知らしめる良い材料になるし、それが御伽噺と化した歴史書にあった『マゴクと同種の生き物』となればより一層だろうさ。

俺はそんな事の為に産み出されたのが悔しくて、そして俺が持つ道具をも利用しようとする軍、及び研究所の人間が吐き気を催すほど嫌いでね。」



「だから逃げてきた......か。まぁ分からなくもない話だな。」

 俺は食い終わった枝を、そのまま焚き火の中に突っ込み、火力の足しにした。


「......『裁定者』という存在は、今でこそ御伽噺になっちまったが、この世界に生きる人間なら、まぁ少なくとも1回くらいは耳にした事はあるだろうし、その『恐ろしさ』や『畏怖の念』と言うのは誰しも持っている者だ。」


「だから『裁定者』っつー存在は皆の中で行き続けてるっか?」


「あぁそうだ。『裁定者』という『畏怖の対象』は死ぬことは無いだろう。」

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