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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode30 Eternal ordinary world

 リツは貰ったしおり通りに次の模擬店に向かった。リツが目指すのは『スルマ飴屋さん』である。

「あらリツ、今日は2人一緒なのね。」

「うん、スルマ飴2つ頂戴。」

「オッケー! カップル割で300ゴルね!」

 明瞭快活な少女が発した『カップル』というワードに、リョウとリツは少しビクッとしたが、2人はポーカーフェイスを装った。

「あ、あぁ。300ゴルな。はいよ。」

 リョウは100ゴル硬貨3枚を少女に渡すと、少女からスルマ飴2つを受け取った。

「はい......リツ。」

 リョウは不器用ながらもリツにスルマ飴を渡し、2人仲良くぺろぺろと舐め始めた。







 一方古本市を取り仕切るカエデ。そこにまた新たな客人がやって来ていた。


「カエデちゃん、こんにちは〜。」

「あ! モモさん! トラオさん!」

 やって来たのは足利百と椎名虎雄。そしてもう1人、カエデにとって見知らぬ人がやって来ていた。

「こんにちは。リツの母親です。」

 その1人とは、リツの母親である九法 環菜クノリ カンナであった。

「あっ! こんにちは!」

「実はね、カンナは私の友達なの。」

「え? モモさんの?」

「そうよ。意外だったかしら?」

 カエデは少し呆気に取られた。人というのは案外知らない所で繋がっているんだなと何となく思った。


「貴女がカエデちゃんか。いや、時々娘が貴女の話をするものだから......」

「え? あ! リツってば! すみません......なんか変な話ばっかりですよね......」

「ううん! 全然全然! 寧ろ良い話ばかりよ? いつも仲良くしてくれて有難うね。」

「え? あ、こちらこそ、ありがとうございます! ありがとうございます?」

 なんだかカエデは自分で言ってることが何やら分からなくなって来ていた。


 トラオとモモが並べられている本をゆっくりと眺めている間、カンナはカエデの事を何となく眺めた。

「えーっと、私の顔に何かついてます?」

「なんだか、上手く言葉にできないけど......ただ一つ確かに感じる事があるのよね。」

「感じる事?」

「貴女の眼は、どこか懐かしい感じがするのよね......貴女の素直な感じも......」

 カンナはゆっくりとカエデの頬を撫でた。するとカンナの目から一粒の涙が零れ落ちた。

「あらヤダ! 歳をとると涙脆くなるって本当なのね。何でも無いのに涙が出てきちゃった。」

「あっ! 大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫! これからもリツをよろしくね。」

 カンナが立ち上がろうとすると、そこに丁度やって来たモモとぶつかってしまった。

「あっ! ごめんモモ......今、ちゃんとよく見てなかったわ。」

「私は大丈夫だよ。それよりカンナ、怪我は無い?」

「大丈夫。モモ何か買うの?」

「私は買わないわ、ただトラオが買うみたい。」


 奥からトラオが一冊の本を手に持って歩いて来た。

「何の本買うの?」

「えーと『虎の名を借る狐』って本。面白そうじゃない?」

「へぇ! 良さそうじゃない。」







 リツとリョウはスルマ飴を舐めながら、驟雨祭イチの大企画である、水泳部による演技を眺めていた。

「そう言えば、リョウは演技に出たくなかったらしいけど、なんでなの?」

「そりゃ、驟雨祭を楽しみたいからに決まってんだろ......」

「どう? 楽しめてる?」

「ま、まぁな......」

 飛び跳ねる水飛沫、沸き立つ歓声、女子と男子の息の合った連携による綺麗なシンクロ、イルカのように舞う演技は見るものを魅了した。

「......飯田イイダのやつ、今日は不調だな。桜花オウカとの連携がちょっとズレてる。」

 リョウは素人目には分からない、同じ部活の仲間同士ならではのコメントを吐いた。

「リョウって、仲間思いなんだね。」

「ん? 仲間思い?」

「私みたいな素人じゃ分からない事、仲間だからこそ分かる事、ちゃんと指摘できてるじゃん? それって仲間の事ちゃんと見てないと出来ない事だと思うんだよね。」

「そっ、そうだな。」


「私、リョウのそういう所......」

 リツはリョウの顔の前にわざわざ顔を覗かせ、続きを言った。

「私は好きだな。」


「そっ、そうかよ!」

 リョウは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。しかし、その右手はリツの左手をしっかりと握っていた。








 一方カエデ、そろそろ古本市の開催時間が終わりに近づいていた。その時、最後の客人がそこに立ち寄る。

「こんにちは。これ下さい。」

 若い男性で、カエデは服装を見た瞬間に、何か引っかかることを感じた。

 引っかかった理由は、男が着ていた服装は、自身の母親の店に置いてあるマネキンと同じ服装であったという事だ。

「はい、一点で120ゴルです。」

 男が持ってきた『美味しい忍者飯の作り方』は、カエデが目をつけていた本で、古本市が終わった後売れ残っていたら貰おうと思っていたものだった。故に売れてしまったやるせなさも、この男性をより印象づけることとなった。

「はい。120ゴルですね。」

 男は財布から100ゴル硬貨1枚と、10ゴル硬貨2枚を出し、カエデに手渡した。

「はい、丁度お預かりします。今、袋にお詰め致しますね。」

 ホントは袋に詰めたくはないが、仕事上仕方なく、心の中で「サヨナラ私の美味しい忍者飯」と呟きながら袋に入れた。








 リョウとリツは舐め終えたスルマ飴の串を捨て、手を繋いだまま終わりを迎えつつある驟雨祭を見て回った。

 リツはしおりの最後に書いてあった美術展へと足を運んだ。するとそこには、トオルが静かに佇んでいた。

「やぁお二人さん。今日はお二人さんに見せたい物があって、ちょっと見てもらおうかね。」

 トオルはそう言うと、美術展の一番奥にある大きな絵画の前に立った。2人は促されるままその絵画の前に立った。

「これは一体?」

「これはイコン画みたいなもんだね。
概説をすると、原始に7つの月があり、それらが衝突し、7日かけて世界は創られた。創られた世界で動物たちは進化していき、軈て神に最も近い人間まで辿り着いた。ここに楽園となる世界が完成する。
軈て世界に人間が満ち溢れ、そしてこう考えるようになった。『自分たちこそ至高の存在である』と。
そして人間の中から神が生まれ、『正義』をぶつけ合い血を流し合い、他の動物を虐げる人間の愚かさに絶望した神は、自分で自分の事を貫く。
神の血は海を染め、神は月となった。世界中の獣は魔獣や獣人に姿を変え、争いの図も人間対人間から、人間対獣へと変わっていく。
そんな中2番目の神が生まれる。2番目の神は変わらぬ人間の愚かさに嫌気がさし、逃げ出してしまう。しかし背徳者達の手によって月へと変えられてしまい、世界は言語の壁が無くなる事となる。
しかし人間は傲慢さを一切変えることなく、獣人を奴隷にしたりしていた。そんな中3番目の神が現れる。
3番目の神は2つの世界を繋ぎ、世の中をホントの意味で平和にしようとした。しかし完遂する事は叶わず、未来に全てを託す。
4番目の神は生まれず、3番目の神の手によって創られた存在が世界平和を成し遂げる事となる。そして3番目の神は、全てを終えた後、自身に関する全ての記憶を『外』したとされる。
ここに本当の楽園が誕生する。」


 トオルの絵画は上段、中段、下段と別れており、それぞれ過去、原罪、未来を指し示していた。

「凄い絵だね......まるで本当の歴史をそのまま書き写したみたい......」

「下段に描かれた未来......続いていく平和な日常......それはきっと、俺らで継続していく物だと思うんだ。お二人さんには、その第一歩を踏みしめてもらいたいんだ。」


 トオルは近くにあった机から、1つの袋を持ってきた。そしてその袋を2人に渡した。

「これは品種改良されたミヒズの種だ。ミヒズは過酷な環境に生え、そしていずれ花をつける。2人にも過酷な環境になってしまうこともあるだろう、だけどそんな時は花をつけたミヒズを見て頑張って欲しい。」


「ありがとうトオル。俺ら頑張る。頑張って一生懸命歩んでみせるよ。」









 驟雨祭が終わり、日が暮れ始めた。驟雨祭の最後は学校が用意した花火を見て終わりとなる。

 カエデは先に場所取りをしていたソウと合流し、一緒に座った。

「はいカエデプレゼント。」

 ソウはいきなり、カエデの頭に何かを乗せた。そしてカエデに微笑みを投げかけた。

「これは何?」

「ニッコウキスゲで編んだ花の冠。凄く似合ってるよ。」

「ソウ......ありがとう。」


 瞬間、大きな音を上げて花火が空に上がった。驟雨祭の終わりを告げる花火。それは美しくもあり、同時に儚くもあった。

「楽しかったなぁ......」

 カエデはポツリと呟いた。するとソウはこう尋ねた。

「驟雨祭が?」

「いやそれもそうなんだけど、もっと言えば学校生活全てが。」

「なるほどねぇ。」

 ソウがそう答えると、カエデはスっと立ち上がった。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね。」

「お、気をつけてね。」



 カエデは校舎の外をぐるりと周り、植え込みを飛び越えてショートカットし、校舎の中に入った。

 校舎の中に入ると、一人の老齢の女性が何やら困っている様子でいた。

「どうかなさいました?」

「あぁ......トイレの場所はどこか、お嬢さん知っているかい?」

「はい知ってますよ。私もこれから行くところだったので、ご案内しましょうか?」

「おぉ......ありがとうねぇ。」



 カエデは女性をゆっくりと案内してあげ、一番近くのトイレに着いた。

「ありがとうねぇ......お嬢さん、お名前はなんて言うんだい?」


「私の名前はカエデです。」

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