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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode21 Every dog has its day

 バインドの魔法の式が壊れた一部に、リフレクトの式の一部を混ぜていたために、バインドが壊れた瞬間、リフレクトが発動した。

 バインドが『不可逆の力』によって壊された為に、リフレクトで『不可逆の力』が跳ね返ってくる。アオイが思いついた『因果応報』戦法である。


「ぐっ......小細工なんぞしやがって......」


「普通のリフレクトじゃ『不可逆の力』で破壊されるし、普通の兵器じゃ貴女は斃せない。だから、貴女の力を利用させてもらった。」


「ケッ......回りくどいことを......お前だって欠片だろう! 普通に殴りに来れば良いじゃねぇか!」


「私のこの手は誰かを殴る為にあるんじゃない! 誰かと手を繋ぐためにある!
私はもう一人じゃないから、もう誰も傷つけたくないから! だから傷つけてばかりいる貴女に、痛みというものを識って欲しいの!」


「ケッ! 綺麗事ばっか抜かすな! お前だって命の一つや二つ、奪った事があるだろうが!」


「あるさ! だが私はそれを決して良しとしない!
そして綺麗事で何が悪い! 綺麗事だから、やる価値があるんだ!」

 アオイはポケットに手を突っ込み、ポケットの中から刺叉を取り出した。


「刺叉ァ? そんなカッスみたいな鉄クズで何が出来んだ? 馬鹿も休み休み言えよな......」


「私は別に『貴女を倒そう』だとか『貴女に勝つ』だとか1ミリも思っちゃいない。」


「じゃあなんで私の前に立ちはだかる? 矛盾してんだよお前ら。闘争や破壊を是としないクセに、実際こうして私と戦っている。
どれだけ『止める為』だの『痛みを分からせる為』だの薄っぺらいお題目を並べたところで、結局対話せずに戦っている。
穏健派の『ログ』だなんて抜かすが、結局『ログ』の賢者共はリニィジスとかいう兵器を隠し持っていた。
戦闘という手段を選んだ時点で、お前は『ログ』の人間として相応しくない。」


「いつ私が『ログの民』だなんて名乗った? 私は、あくまで『アザムキソウセキの欠片』に過ぎない。
そして『対話』は大切と思っているが、『戦闘』を否定した覚えも無い。カスみたいな揚げ足取りごっこをするつもりも無い。
私は『時間稼ぎ』の為にここにいる。そうすることが正しいことだと信じているから。」


「はぁん? 時間稼ぎィ? なんともまぁ、お暇なことで......正しさの衝突こそが争いの種だってぇのにな。」

 アズはほぼゼロモーションでアオイの首根っこを引っ掴んだ。そして一切の躊躇無く喉を握りつぶし始めた。


「対話するつもりねぇなら、こんな喉要らねぇよなぁ? 要らねぇモンいつまでもぶら下げてんじゃねぇよ。」


「幼稚だな。まるで成長していない。」

 アオイは左手で、自分の首を掴んでるアズの右手の掌を、挟むようにして掴み、そのまま反時計回りになるようにクルンと回した。
 すると殆ど力を入れてないのにも関わらず、アズの右手はクルンと捻られ、そのままアズの肘が胸に近づくと、アズは立っていることが出来なくなっていた。


「人の形をしているのが仇になったね。これは超能力でも魔法でも無い。単なる護身術。人の形をしている以上、人の構造上無理のある方向には動かない。」


「くっ......」


「貴女が欠片であるのと同時に、私だって欠片。力自体は五分五分。なら何が勝敗を決するか?
答えは至ってシンプル。単純な『技』の数が物を言う。」


「は......はなせや......」


「貴女が今言ったのは『放せ』? それとも『話せ』? どっちかしら?」


「解放しろって事だよ!」

 アズは無理に曲げられてる方向に、わざと側転し、回転したままアオイの手をがっちり掴み、回転した勢いのままアオイを投げ飛ばした。


「ケッ......小馬鹿にしやがって......他の欠片は皆小心者のクソ平和主義者と思ってたが......どうやらそうでもねぇみてぇだ。
ま、そっちの方が幾分か殺りごたえがあって良いんだがよ!」

 アズは投げ飛ばしたアオイの方に走り出した。そして地面に突っ伏しているアオイに向かって思いっ切りパンチをかました。


「また引っかかった......学習しないねホントに。バカは死んでもなおらない......」

 アズがパンチをかましたアオイは木偶人形ニセモノであった。そして本物のアオイは刺叉でアズの膝を思いっ切り突き、アズの体勢を崩した。

 そこですかさずアオイは、右手でアズの右手を引っ張り、左手でアズの背中上部あたりを押して、ガッツリ組み伏せた。


「どう? そろそろ観念した?」


「する訳ねぇだろボケ!」

 アズは左肩を地面につけて、体を回転させて仰向き状態になった。そしてそこから自由になっている左手でパンチをかまそうとしたが、アオイにマウントポジションをとられ、両腕及び両腕の自由を封じられてしまった。


「まだ観念しない? 今の私なら、貴女にキスをすることだって出来るよ?」


「はっ! 最ッッッッッ高だなお前! お前は最高に良い音で潰れそうだ!」

 アズは、足で思いっ切り地面を蹴り砕いて地形を変化させ、その勢いでグルンと回転し、アオイとの上下関係を逆転させた。


「お前を潰すのは私だ!」

 アズは上をとった瞬間、手刀でアオイの首を狙ったが、バレバレな急所狙いが仇となり、アオイは頭を横に傾けるという最小の動作で難なく躱した。


「残念。」

 アオイはまだ、足でアズの胴を囲んでいたので、膝を一瞬で曲げ、アズの腹部を蹴る要領でもう一度投げ飛ばした。


「どうかな? 九浦流護身術を食らった感想は? 手も足も出ないだろ?」


「はぁ......仕方ない。どうやらアレを使う時が来たっぽいな。」

 アズはゆっくりと起き上がり、ポリポリと頭を掻いた。そしてアオイの方に視線を移した。


「知ってるか? 私たち『アザムキソウセキの欠片』は、それぞれ『アザムキソウセキの一側面』を受け継いでいる。
見た所、どうやらお前は体術の才能を受け継いだらしいな。」


「貴女も何か受け継いだとでも言いたげね。何を受け継いだのかしら?」


「アザムキソウセキは、言わば人間と獣人の混血児。だから獣進化ビーストエボリューションだって使えたんだよ......私はそれを受け継いだ......」

 アズの躯体はみるみるうちに変貌していき、およそ人間とは思えないような体つきに変化した。


「お前の護身術は対人のみと分かった。ならば、いつまでも人間の形をしているのはアホらしいからな。」

 アズがビーストエボリューションした姿は、様々な動物の特徴が混ざり合ったキメラとでも言うべき姿であった。

 キメラアズは驚いているアオイに向かって、容赦の無い一撃を叩き込んだ。


「ガッ......カッハ!」

 あまりの一撃に、思わずアオイは肺に溜めていた空気を全て外に放出した。そしてもう一度空気を取り込もうと、必死に息を吸おうと口をパクパクさせた。


 キメラアズは、必死にもがくアオイに対して、1ミリたりとも慈悲の情など持たなかった。湧き出る殺意と破壊衝動に身を委ね、目の前に転がるアオイという目標を、如何に壊すかという事のみを純粋に考えていた。


「あ......あがっ......」

 アオイは天に向かって手を伸ばすが、キメラアズの無慈悲な拳が全てを打ち砕く。やがて意識らしきものは消えかけ、瞼の裏の瞳は大きく開いたままになってしまいそうであった。


 キメラアズは攻撃の手を一切緩めることは無かった。殴って、蹴って、叩いて、嬲って、突いて、ぶって、ごく原初的な攻撃を加え続けた。

 夢中になって攻撃してるうち、今の今まで目の前に横たわっていたアオイが消え去った事に気がついた。


「もう良いだろう。やり過ぎだお前。」

 声をした方に顔を向けると、パワードスーツに巫女服姿という、なんとも珍妙な格好をした人影が一つ。ダランと力無く四肢を重力に任せるアオイをお姫様抱っこしていた。


「......ダレダ......ォマェ......」

 そもそも理性がブッ飛んでいるアズは、ビーストエボリューションした後でも前でもさほど変わらない為、言葉を発することが出来た。


「私はカエデでもソウでも無い。遍く闘争を止める者だ!」

 カナデはキメラアズに向かって掌を見せつけ、この言葉を発した。


「発動『ピースベル』」

 カナデが平和の鐘を鳴らすと、アズは姿を人間の状態へと戻し、その場にストンと座り込んでしまった。


「アオイ......時間稼ぎありがとう。皆のお陰でこっちの世界に戻ってくることが出来た。」

 アオイは虚ろな目のまま、最後の力を振り絞ってカナデの頬に手を触れた。


「......すまない。お前を救ってやれる方法は無い......『時戻し』を使ってもアズから食らった傷は治せない......だからせめて、お前の魂だけは救ってやる。」

 カナデはアオイの顔に手を翳し、せめてもの救いを与えた。


「......『躯魄分離ロスト ソウル』......お前は他の世界で生まれ変わるんだ......もう一度同じ名で......これが私のしてやれる最大の救済だ......」

 アオイに向けて発動した能力により、アオイの魂は別の世界へ飛んで行った。そして残った肉体は、みるみるうちに光る玉へ形を変えた。


「こんな結果になってしまってすまない......そしてありがとう......本当に『ありがとう』......これで『彼』が復活出来る......そして平和な世界が......漸くやって来る......アオイ、お前の事は一生忘れない。」

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