苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode20 Dicey situation

 ソウの『不知火』とレイの『絶望ノ要』は、刃と刃を重ね合わせ、互いに睨み合った。

「ログの人間のクセに闘争とは......如何なものかな?」

「死人のクセによく喋る......ボクは君をあるべき状態に戻すだけだ! 『白霧乱舞・凛』!」

 ソウの周りに霧が立ち込め、一瞬レイの視界を奪った。


「その技は効かない事って......前の戦いで分かっているだろう!」

 レイは霧を払うように、剣を振り回し切り払ったが、刃がソウに当たる事は無かった。

「な......どこに!?」


「ここだよ。」

 レイは声のする方に視線を移すと、ソウはリニィジスの隣に立っていた。


「これの使い方は大体分かった......アンタを『あるべき姿』に戻すのに『不知火』は必要無い。これで充分......」

 ソウは、霧が立ち込めた一瞬のうちにシュバルからヒタニレポートを掠め取り、大まかな使い方を理解した。


「死んでなお動き続ける君を『書き換える』......あばよ。」

 ソウがリニィジスを作動させると、レイに向かって書き換えが行われ、今まで歪めていた『生命の理』が本来あるべき状態に戻ってしまった。


「あ......何故だ......何故......」


「命は誰にだって一つ。この宇宙で生きられる時間を使い切ったなら、いつまでもこの世界にしがみついているのは不道理。
死んだ者はこの世から去る。それがルールよ。」


 レイの魂は闇に飲まれ、朽ち果てた肉体だけがその場に崩れ落ちた。


「さておばあちゃん......いや、ルーカ=殊春シュバル・トルシェ。これでいよいよ、貴女とちゃんと向き合う時間が出来たね。」

 ソウは握っていた不知火を放り投げ、リニィジスの上に座った。


「これ以上貴女を野放しにしておく訳にはいかない。『アックス』の人間の命の尊厳を無視した行為、見過ごせない。」


「何か問題があるのか? 『アックス』の人間なんぞ、所詮争いを止められなかった下等種族。平和に生きようとする我ら『ログ』に終わることの無い恐怖を与えてきた。
故に今まで『結界』が必要だったのは火を見るより明らかであり、『真の平和』完遂の為には、どうしても『アックス』の連中は邪魔になる。」


「そうだとしても! 『アックス』の人間から自由を奪って良い事にはならない!」


「なら今すぐに『アックス』の愚民共に智慧を授けて見せろ! 争いを止めてみろ! 出来ないだろうが!」


「出来るさ......ボクとカエデなら!」


「ほぅ......なら見せてもらおうか。お前とカエデが創る『平和な世界』とやらを。」


 ソウはリニィジスから飛び降り、カエデが向かった方に走り出した。








 一方、窮地に陥ってしまったカエデ。姿は学生服からパワードスーツ姿に変わっていたが、如何せん窮地であるのに変わりはなかった。


「おらぁ! 落ちろぉ! そしてこの世界から出ていけぇ!」

 グリグリと踏みつける足は、力を緩めるという事を知らない。装甲で護られているとは言え、破壊耐性以外は普通の人間であるカエデはいよいよ疲れてきて、腕に力が入らなくなってきていた。


「う......ぐ......落ちる......もんか!」


「あははは......嘆かわしいなぁ......一部とは言え、主人に一方的にボコボコにされる鎧......なぁんで他の奴らはこの力を楽しまないかなあ!」

 アズは踏みつけていた足をあげ、蹴りに転じた。少しずつカエデの腕はズラされていき、確実に世界の穴に近づいて行った。


「カエデ!」

 カエデが諦めかけたその瞬間、どこからともなく奏の声が聞こえてきた。


「......ソウ!」

「チッ......レイのやつ、ちょっとは足止めになるかと思ったのにもう負けたのかよ......はーホントにつっかえん奴だな!」

 アズはレイに対する愚痴を吐き、カエデを虐げていた足を止めた。


「君じゃボク達を殺せない。だからボク達が負ける事は無い。」


「チッ......分かってんだよそんなこたぁよォ! いちいち指摘して楽しいのか!? えぇ? 分かってっから! こうやって! 異世界に突き落とそうと! 躍起になってんだろうがっ! この際めんどくせぇから! てめぇも一緒に落ちやがれ!」

 アズは思い切り地面に向かってパンチした。すると地面に大穴が開き、自分を含めカエデとソウを異世界へ道連れにしてやった。








 3人は世界と世界を繋ぐ通路のような所を、川に流されるように進んでいた。

 アズが開けた大穴は徐々に閉まっていき、少しすると完全に閉じてしまった。

 世界と世界を繋ぐ激流は、3人をとある世界に突き落とした。








「うっ......いたた......」

「カエデ......大丈夫?」

「うん......なんとかね......」

 お互いを労る2人の前に、ここに連れてきた張本人アズが立ちはだかった。


「欠片が集まるまでの間、暇な私はよくこうやって世界をまたいで、異世界で暇を潰してた。まぁ......最も潰されたのは暇じゃなくて虫けらの命だったんだけどね。」

 アズは地面を這っていた、見たことも無い生物をグジャっと踏み潰した。


「ある時は言葉を使う虫けらに会った事もあるし、文明をもつ虫けらにも会った事がある。
それなりに築いてきた物が大きい虫けらほどよく足掻いて、踏み潰した時の音が最ッッッッッ高にキモチがイイんだっ!」

 アズは踏み潰したお陰で汚くなった靴を、そこら辺の土にグリグリと擦り付け、まるで何事も無かったかのように綺麗に拭いていた。

「だから......壊す事を嫌う欠片達あいつらの事が嫌いだし......壊せないお前らはもっと嫌いだ......」


「そんな理由で......」


「うるせぇよ! どんな動物だって食えないモンは遠ざけるだろうが! そんな事も分からんのかこのクソッタレがぁ!」

 アズの怒りは破壊現象に形を変え、近くにあった山ひとつを軽く消し飛ばしてしまった。


「けっ......まぁいいや。お前らをアッチの世界から連れ出せただけマシだ。お前らは死ぬまでこの訳の分からん世界で暮らすんだな。あばよ。」

 アズは地面に小さな穴を一つ開け、そこから異世界への通路に飛び込んだ。

 その小さな穴はものの数秒で消え去り、カエデとソウは訳の分からない世界に置いてけぼりにされてしまった。


「はぁ......ねぇカエデ......」


「ん? なぁに?」


「ボクさ、ちょっとさっき、シュバルに向かってこう言ったんだ『出来るさ......ボクとカエデなら!』って。」


「何が出来るって?」


「なんでもだよ。あの世界を『アックス』の人の自由を奪うこと無く平和にする事も......この訳の分からない世界から出ることだってね。」


「何か考えがあるの?」


「融合しよう。最初の試練の時みたいに。」


「あらま......ソウちゃんったらイヤらしい......私と融合したいだなんて」


「余裕あるじゃん。その微妙に似てない近所のおばさんのモノマネをするくらいには。」


「たりめーよ。私は諦めが悪いんだ。」

 その言葉を聞いた瞬間、ソウはカエデの手をギューっと握った。

「ボクも。」


「同じだね。」

「うん。同じ。」


 手を繋ぎあった2人は徐々に存在が混ざり合い、やがて一つの存在カナデとなった。








 一方アズは元の世界に戻ってきていた。気の赴くままに議事堂の外に出て、そのまま混乱に陥る街中を闊歩した。


「アッハッハッハッハッ! 『ログ』のヤツらは怯え竦み、『アックス』の連中はガードロボットの電池に!
これほど狂ってる事ってあるかぃ? えぇ?」


 アズは『不可逆の力』を右手に集中させ、力場で大きな大きな剣を形成した。『不可逆の剣』とでも言うべきそれで、アズは『ログ』の人間『アックス』の人間見境なく、横一文字で纏めて斬り伏せた。


「アッハッハッハッハッ! 楽しいねぇ! 最ッッッッッ高に良い音がするねぇ! やっぱりこの世界の『虫けら』が一番良い音がする!」


 アズは尽きることのない破壊衝動に身を委ね、剣で斬って斬って斬りまくった。


「......そこまでだ!」


「あぁ? 誰だぁ? 私の楽すぃーヒトトキを邪魔する第一級戦犯は?」

 アズは声がした方向を見てみると、一人の少女が立っていた。


九浦 葵クウラ アオイ『アザムキソウセキの欠片』の一人。」


「アッハッハッハッハッ! そっちからわざわざお出迎えしてくれんのかぁ! VIP扱いだなぁ!」


 アズは有無を言わさずアオイの顔面を鷲掴みにし、アオイを体ごと力いっぱいぶん投げた。


「ケケケケ......って、あれ?」

 アズはぶん投げた方向を見据えたが、宙を転がってるハズのアオイの姿は無かった。


「ここよ。おバカさん。」

 アズの背後から何か聞こえた瞬間、アズは自由を奪われた。


木偶人形ニセモノも見抜けないなんて、ド三流もいいとこね。おバカさん。」


「ケッ! 魔法束縛バインドなんぞ......どうって事ねぇんだよ! ふんっ!」

 アズは自身を縛り付けていた魔法を、無理やり破壊し自由を取り戻した。


「魔法なんかじゃ私のことを縛っておくなんて出来ないんだよ!」


「そんなこと識ってるよ。そう......カンタンにぶち壊せるからこそ、私はバインドを使った。」


「は? 何言ってんの?」


「壊した魔法の式をよーく見ろよ。」


「これは......反射リフレクト!?」


「残念でした。おバカさん。」

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