苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode12 East side

 同時刻、奏と咲里はミズアメリサーチに到着。そして浄慈と合流し、少し経ってから創もミズアメリサーチに着いた。


「ほぼ全員集まったね。博物館に行ったカエデさんだけ、まだ帰ってきてないか。」

 ジョウジは、部屋の奥からランタンを持ち出し、地震のせいで電気が通らず暗くなっていた部屋を明るく照らした。


「多分近くの避難所にでも逃げ込んだんだろうさ。聖騎士の方達による復旧作業と支援活動が終われば、取り敢えずインフラは元に戻るだろうから、そうしたらカエデに会いに行けばいい。」

 奏は、部屋に置いてあるソファにゆっくりと腰をおろした。

「ジョウジさん、何か食べ物あります? きっとこの2人お腹空いてますよ。」

 サクリは、奏と創の事を気遣い、何か食料が無いかジョウジに確認を取った。

「あ、そんなお気遣いなさらず......ボク達はお客さんですし、そんなご飯までご馳走になるなんて......」

「そうですそうです。俺たち腹減ってないし......」

 創と奏がサクリに向かって遠慮した途端、2人の腹の虫が鳴き声を上げた。2人は少し見つめ合い、恥ずかしそうに顔を下に向けた。


「遠慮しなくて良いのよ。ジョウジさん、何かあるかしら?」


「非常食用の為に取っておいた『忍者飯』と、『固形化飲料』が一応あるよ。あと色々な缶詰が少し。」


「そう。それだけあるなら、ちょっとした料理が出来るわね。じゃ、お二人共ちょっと待っててね。」


「「ありがとうございます......」」









 一方、地区民会館に避難しているカエデ。カエデはヒタニが遺した最後のメモを読んでいた。


「拝啓、これを読んでいる誰かへ。
このメモは、このヒタニ エンが常に持ち歩いているものであり、死ぬかもしれないと悟った時に、俺の遺志を残し伝えておく為のものである。
だからこのメモが誰かの目に触れたというのなら、きっと俺は死んでいるだろう。
俺の遺志は『俺が今まで生きてきた全てを、良識ある者の手に渡って欲しい』という事だ。
このメモが悪意ある者の手に渡ってしまった場合の事も考慮し、俺は1つの暗号を残す。この暗号は良識ある者ならば解けると信じている。


暗号文『CR0C0D1L3 1N M0R10H D157R1C7』


この場所に赴き、俺が築き上げた全てを目にして欲しい。その後の後始末は辿り着いた者に委ねる。以上。」


 カエデは呆然とした。ちょっと前まで話していたヒタニの死を、こんな形で知ることになるとは。


「......ヒタニさん......死んじゃったんだ......メモを......常に持ち歩いてた......まぁ、危険な仕事だもんね......持ち歩くよね......」


「大丈夫かい? お嬢さん。」


 呆然と明後日の方向を仰ぐカエデを心配し、1人の老齢の女性が話しかけてきた。


「あ、あぁ......ご心配ありがとうございます。大丈夫です。ちょっとぼーっとしてただけなんで。」


「お腹空いたのかい? はいこれ『忍者飯』と『固形化飲料』だよ。」


「あ、ありがとうございます......」


「ちゃんと人数分を聖騎士の方が届けてくださったから......でも、玄関先で殉死しちまってたみたいだけどねぇ......」


「なるほど......」


 カエデはヒタニから貰ったサーザルトルに関するレポートと、遺書に近いメモを握りしめた。


「死んでしまったのか......」








 同時刻、某所。レイとアズはとある人物の所に来ていた。


「マスター。地震による撹乱と、分散した聖騎士達をほぼ全員暗殺することに成功致しました。途中思わぬ邪魔が入りましたが、貴女の下で8年間鍛えられた俺の敵ではありませんでした。」


「よくやった。これで『結界』は聖騎士達の魔力によるものではなくなり、完全に私の手中に収まった。
計画を次のステージに進めよう。『リニィジス』の一件をネタに、現議長の免職を要求。更に、次の正式な議長が決まるまでの間の、臨時議長を私が務める。
臨時議長就任するまでの間に、早速レイは『モリオー地区の東側』に向かってくれ。やるべき事は後で詳しく指示する。
マキは、バレないように特定の評議会メンバーを殺害してくれ。殺害予定リストは後ほど渡す。」


「りょーかいで〜すシュバルどの〜。」

 アズは何処と無く巫山戯たように、のほほんとした返事をした。そしてその言い方が気に食わなかったレイは、アズの襟元を掴んだ。

「おい......あまりマスターを軽く見るなよ......お前がいくら『アザムキ ソウセキ』の欠片だからって......調子に乗っていいってワケじゃねぇからな?」

 レイが思いっきり襟元を掴むのを見て、アズは傍から見ても充分分かるほど不機嫌な顔をした。

「あぁ? 私より弱いくせに何指図してんだよ? ぶち殺すぞ?」

「まぁまぁ二人とも、落ち着きなさい。貴方達は仲間なのですよ? 仲間内の戦力を潰しあってどうするのです?」

「シュバルさん! 私はコイツが気に食いません! 貴女の所で8年ちょっと修行しただけでイキっちゃって! 私なんかこの世界が出来た瞬間から存在していると言うのに!」

「マスター! 俺だってコイツの事嫌いです! 如何に貴女の指示と言えど、こんな高慢ちきな奴と一緒に行動するなんて無理です!」

「何だと?」

「本当の事だろうが?」

「落ち着きなさいと言っている! ったく......貴方達は......」

「ふん! 私はアンタと違って、1人で生きてきたんだ! これからだって1人で生きていくさ。そもそもシュバルさんの掲げる『真の平和』とやらに私は興味が無いし、私は私の気分で動いてる!
私より弱いくせに勝手に指図すんな!」


 真木 杏は、不貞腐れてどこかへ行ってしまった。レイは不服そうな顔をしながらも、自分の責務を果たすべく、モリオー地区へ転移した。


「全く......まるで兄妹喧嘩だな......」









 カエデはしばらくの間、ぼーっとしていた。何回か親切な人に声をかけられたが、毎回上の空で返事をしていた。

 そこはかとなく寒くなってきたので、支給されたブランケットを羽織ると、1人の同年代の女の子が近づいてきた。

「すみませ〜ん......なんかブランケット足りないみたいなので、一緒に暖まらせて頂いても良いですか?」

「あ、いいですよ。どうぞどうぞ。」

「ありがとうございます......では失礼します......よいしょ。」

 1つのブランケットに2人で包まり始めた。そしてその女の子はカエデに話しかけ始めてきた。


「私、九浦 葵クウラ アオイって言います。よろしくお願いします。」


「私は、色葉 楓イロハ カエデです。よろしくお願いします。」


「カエデさんはどこの学校に通ってらっしゃるの?」


「私はミヨシヤマ学園に通ってます。今年から3年生です。」


「へぇ〜......ミヨシヤマ学園ですか。 あ、私はサンザシ高校の2年生です。」


「2年生......って事は16歳かな?」


「はい。多分地震で校舎壊れちゃってるだろうなぁ......」


「ご友人は無事?」


「分かりません......一応何人かとは安否確認が取れたんですけど、数名は......まだです。」


「そっかそっか。今回の地震でさ、8年前のことちょっと思い出しちゃったんだよね。」


「あ、やっぱり! そうですよね! 私も思い出しちゃって......」


「......8年前のこと、どれくらい覚えてる?」


「ん〜......かなり衝撃的でしたからねぇ......地震発生時から、避難所まで死に物狂いで走ったって所は鮮明に覚えてます。
あと、避難所にいた小さな子供たちが怯えてたのも......私はその避難所にいた子供の中では、割と年齢が上だったから、下の年齢の子達のことを、ずっとお世話してた気がします。」


「そっかそっか......私は覚えてないんだよね。地震発生時、震源地の『モリオー地区』にいて、そこでお母さんとはぐれちゃったの。怖くて恐くて、逃げてるうちにガレキの下敷きになっちゃった。
でも何故か奇跡的に生きてて、病院の人から後で聞いた話じゃ、議員の人が助けてくれたって。
私、ガレキの下敷きになった辺りの記憶が無くて......というかトラウマになっちゃってて。今回の地震の時も、地震発生時から恐怖で動けなくなっちゃって......」


「そういうこと......ありますよね。私だって小さな頃に刻まれたトラウマ、未だに引き摺ってるんです。
皆心に何かしら恐怖を持ってます、それでも皆前に進んでます。この避難所に居る人達だって、皆協力して生き抜こうとしてます。
治癒魔法を覚えている人は、怪我人や病人を治すように努めたり、発火系能力を持ってる人は、皆が寒くないように空気を温めてくれています。
私も微力ながら協力しようと思って、さっきまでテント設営を手伝ってました。」


「テント設営?」


「感染症にかかっちゃってる人を、隔離しておく為のテントです。ここで共倒れしちゃったら元も子も無いですからね。」


「......なるほどね。」


 この時カエデは、何か自分が不甲斐ないように感ぜられた。

 1つ年齢が下のアオイが頑張っているというのに、更には他の人だってそれぞれの得意な事で協力し合っているというのに、自分は地震のショックとヒタニの死のせいで、腑抜けてぼーっとしてただけであった。


「うん......私も何か......手伝おう。」

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