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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode1 Next world

 自分の体脂肪率が2%くらい落ちたんじゃないかと思うほど汗をかいている。

 今目の前にあるのは手の平に乗るほどの小さな砂時計。そして自分が座っているのは木製のイス。そこには自分の汗をジットリと吸い込んだタオルが敷かれている。

 室内はオレンジ色の電燈でボンヤリと明るくなっており、室内の空気はどことなく甘い感じがして、室温は極めて高い。

 そう、色葉 楓イロハ カエデは今現在サウナ中なのである。

 何故こんなにもカエデが意地を張ってサウナに籠っているのかという原因は数分前に遡る。

 数分前、カエデは母親との二人きりの旅行にて、母親にカエデが最も言われたくない事を言われたのだ。

 その言われたくない事とはズバリ「最近太ってきたんじゃないか?」という言葉だ。

 先ほど母親と一緒にこの大浴場に来て、脱衣場で服を脱いだところ、そう言われたのだ。

 言われたくない事をズバッと言われたカエデは、意固地になってサウナに籠り始めたのだ。

 サウナにはダイエット効果があるとかというウワサは前から聞いていたし、何よりこのムカつく感情を汗をかくことで老廃物と一緒に出してしまいたかったからだ。

 しかしカエデは元来、あまり汗をかくのが好きではなかった。

 数年前の夏、屋内で締め切った状態でスポーツをしていたとき、自身の汗が蒸発し天井で結露して、その汗が天井から落ちてくるという出来事を経験している。それがトラウマとなっており、汗に対して全くもって良いイメージを持っていない。

 しかし、カエデはそのトラウマを乗り越えてでも痩せたいという気持ちが勝った。

「あと......もう少し......」

「カエデ〜? 大丈夫〜? さっきからずっと籠ってるけど? 熱中症になっちゃうわよ?」

「お母さんは好きに温泉に入ってれば良いよ! 私は好きでサウナに入ってるんだから!」

「そう? ......ほどほどにね?」

 我ながらちょっと子供っぽいとは思っている。でも母親は娘である自分から見ても綺麗だ。容貌も然る事乍ら、スタイルだって姿勢だって美しい。だからちょこっとだけ嫌味に聞こえたのだ。

 母は純度100パーの心配で言ったんだろうけど、今私はちょっと難しい年頃なのだ。自覚はあるが、直せない。今はこうやって、母に対してつっけんどんな態度を取っていたいのだ。

 数分後、カエデはフラフラとした足取りで歩き出し、熱くなったドアノブをぐんと押して浴場に出た。そのまま何も考えずボーッとしたまま水風呂にちゃぷんと浸かった。

 カエデが水風呂に浸かっていると、ちょっとだけ頭が冷えてきた。そして、先程母親に対してつっけんどんな態度を取った自分が恥ずかしくなった。

 春休みももうすぐ終わる。そうしたらハイスクールライフ最後の一年が始まる。秋になれば18歳だと言うのに、まだ大人になりきれてない自分がいる。

「カエデ、サウナはどうだった?」

 いきなり、水風呂の横にある大風呂から母親が話しかけてきた。

「ん〜......イイ感じ?」

「イイ感じかぁ〜。良かったわね。」

 カエデはふと、先程思った『最後の一年』というのが頭の中に思い浮かんだ。

「もうそろそろで学校が始まって......最後の一年が始まるワケなんだけど......」

「そうね。」

「卒業したら......私何になるのかな?」

「まぁ......それはカエデ次第だけど、結局どんな道に進んだとしても、新しい世界が待ってるんじゃないかな。」

「新しい世界?」

「そう。今まで見た事も聞いた事も無い、未知の新しい世界。」

「お母さんはさ、卒業前の進路決定測定でなんて出たの?」

「確か......服飾デザイン......だったけかな?」

「でもお母さんは結局テスタメントの表示結果に従わなかったんでしょ?」

「うん。結局ゲンジさん......貴女のお父さんと結婚して専業主婦になったわ。でも、ゲンジさんが亡くなった今は、テスタメントの表示結果通り服飾デザイン関係のお仕事に就いてる。」

「まぁまぁ波乱万丈だね。」

「そうね。私の人生、色々曲がったり遠回りした事もあったけど、それでも今までの選択は間違いじゃないと信じてる......と言うよりかは、間違いと認めるか認めないかは自分次第だから、これが正しいと信じて突っ走ってるって感じかな。」

「お父さんは何の仕事してたんだっけ?」

「色んな学校でテスタメント技術者兼生徒指導員をしてたわ。あとは研究職なんかもしてたわ。」

「お父さんの病気って、科学でも魔法でも治せなかったんだよね?」

「そう。貴女のお友達の桜木 奏サクラギ ソウちゃんのお父さん、桜木 散サクラギ ハララ先生に診てもらったから間違い無いわ。」

「えっ? あの天下のサクラギ先生でさえ治せなかったの?」

「うん。世界中の誰もが認める天才ハララ サクラギにも不可能は存在した......と言うよりゲンジさんの病気があまりにも特殊過ぎたのかもね。あれはもう病気と呼んでいいのかどうかすら怪しいものだったから。」

「そう言えばずっと聞きそびれてたんだけど、お父さんの病気って何なの?」

「体が徐々に崩壊していって、魂まで腐っちゃう病気......と言うか現象? あれはもう病気とかそういうものを超えていた気がする。」

「究極の治療って言われてる『時戻し』ですら治らなかったの?」

「うん。不思議な事に、ゲンジさんの身体の時間そのものを、発病する前に戻しても、病状は変わらなかったし、寧ろ悪化していたわ。」

「おかしな話だね。発病する前に戻しても病気の進行が寧ろ進んでるって。」

「この世には魔法も科学も及ばない、トンデモ無い脅威ってのがあるって思い知らされたわ。」

 カエデは水風呂からあがり、隣の大風呂に入った。身に染みる温かさを享受しながら、ゆっくりと母親のもとに近づいて行った。

「科学とか魔法が発展したって、お母さん達の世代とかおばぁちゃんの世代の人はよく言うけど、17年しか生きてない私にはそんな感覚あまり無いよ?」

「科学が発展した今じゃ、頭にテスタメントはめて、直接情報をポンとインプット出来る時代だけど、昔は紙媒体の書物を使って勉強してたらしいわ。」

「でも紙媒体の書物は今でも残ってるよね? あれはなんで?」

「ホントに大切な情報とかはデータ化するより、紙媒体に記録した方が安全だからだと思うわ。」

「ふ〜ん......科学の発展は何となく分かったけど、魔法はどうなの?」

「今じゃあなた達は当たり前のように日常で魔法を使ってるわよね? 水玉魔法とか、発火魔法とか。」

「そうだね。」

「それって少し昔までは、大学とかの一部の偉〜い魔法研究者しか使えなかったの。でもそれを一般化して広めた結果、私たちみたいな一般人が何の気なしに使えるようになってるワケね。
未だに解明されてない古代高等魔法とか、未だに発見されてない未知の魔法とか、それらを開拓して行ってくれる人達のお陰で、今の私たちの豊かな生活か成り立ってるワケなのよ。」

「なるほどね〜。」

 カエデは何の気なしに、温泉のお湯に水玉魔法をかけてみた。すると小さなお湯の塊が一つ浮かんで、フワフワと宙を漂い始めた。

「そんなに素晴らしい科学でも魔法でも治せなかった病気か......なんか気になっちゃうな。」

「将来医者にでもなる?」

「う〜ん......それはそれで何か嫌だな。救えなかった命を目前にしたとき、多分心が折れちゃうかも知れないから。」

「じゃあお父さんと同じ研究職?」

「それも何か違うかな。研究職と言うよりかは寧ろ、探検家みたいなのになってみたい気がする。」

「探検家?」

「そう。この世界はこんなに科学も魔法も発達してるのに、未だに未開拓の地があるなんておかしくない? 私は誰も足の踏み入れた事の無い場所に行きたい。そうすればきっと、お父さんの病気の謎も解明するはずだから。」

「お母さん的にはカエデにあまり危険な事はして欲しくないかな。出来ればこの列島の中で大人しくして欲しいって願いが強い。でも、もしカエデが本当に探検家になりたいって言うなら、別に私は止めたりしないわ。」

「うん。まぁゆっくり考えていくよ。」


 しばらくゆっくりと温泉を楽しんだ後、2人は大浴場から出て、脱衣場で浴衣を来た後に、飲み物を買ってから自分たちの部屋に戻った。

 カエデは座布団の上に胡座をかいて座り、部屋に戻ってくる前に買った飲み物を飲んで、のほほんと考え事をしていた。


「ねぇ母さん?」

「なぁに?」

「どうしてテスタメントは『知識』しか与えてくれないの?」

「それは『価値観』とか『考え方』までテスタメントでインプットしてしまったら、その人のイデオロギーを歪めかねないでしょ? 頭の中に簡単にインプット出来てしまうからこそ、そういう所はちゃんとルールとして決めておかないといけないのよ。」

「ふ〜ん。でも皆で同じ価値観を持って、考え方を一元化すれば、今よりもっと平和になりそうじゃない?」

「そんな乱暴な考え方しちゃダメよ。異なる考え方を持っていたとしても、相手の考え方を無理やり自分に合わせるなんてしてはいけないわ。
異なる考え方を持っているからこそ、対話でより良く発展していけるワケだし。
そりゃまぁ皆が皆同じ価値観を持てば、今よりもっと平和かも知れないけど、それで皆は幸せなのかしら?」

「ふ〜ん......そんなもんか。」

 カエデは飲み物を飲み終え、空き缶をゴミ箱に投げ入れると、カバンの中から携帯端末を取り出した。

 携帯端末を色々弄り、クラスメートとの連絡の枠を開いた。そして、『休み明けってなになに必要だっけ?』という文面を送ってやった。

 数分後、友達のサクラギ ソウが、『確か休み明けはアウトプットテストしかないから、特に何も要らないんじゃない?』と返信してくれた。

 その数秒後、別の友達である九法 律クノリ リツが『休み明けと言えば、転校生が来るらしいよ。しかも私たちのクラスに。』と情報を発信した。

「へぇ〜、転校生か〜。」

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