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苦役甦す莇

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Episode56 Wish in the sky

 天より来たる背徳者、闘争を止められぬ穢れた大地の人類を、須臾にして止める。

 背徳者達が「神など要らぬ」と公言しているだけあって、人間でありながら戦争を止めてみせた。

 しかし、その光景を生中継で見ていた月のアザムキは、快く思わなかった。

 それは何故かと言うと、結果として戦争を止めたものの、やり方があまりにも一方的過ぎる上に、アザムキの目指す「平和」とは違い、「暴動鎮圧」の為にピーズィーを使用したのである。

 その証拠として、彼らは『ピースベル』を使わずに『ライオットベル』を使用した。これは一見些細な違いに見えるが、用途が違う為、アザムキと背徳者達は似て非なるものを目指していることが分かる。

「恐怖や一方的な力で抑圧......こんなの俺の世界の核兵器と変わらないじゃないか......」

 アザムキは檻の中で一人床を叩き、自分の無力さを呪った。









 一方、遺跡に居るフランとクーネ。そこにいきなりクレル族が転移して来た。

「何者!?」

 フランはクーネを庇うように立ち、いきなり現れたクレル族を睨みつけた。

「それはこっちのセリフだ! ここは我らの住処ザイオンである!」

「我らの住処......? てことは貴方達がシナトラの?」

「シナトラ?」

「えっと......狐の知り合い?」

「そうだ。お前達もか?」

「そうです。私は実力至上主義ルドのクーネ。そしてこの子はフラン。」

「君たちもギルドの者達か。なら味方だな。それに実力至上主義ルドって事は......君たちはホロウの仲間かい?」

「ホロウを知っているのですか?」

「勿論。今起きてる戦争はシナトラの弔い合戦の意味もあるからね。」

「え? 戦争? 弔い合戦? 何のことです?」

「もしかして君たち何も知らないのか? シナトラは少し前に亡くなったし、そのせいで今外じゃ大きな戦争が起きてる。
だけど月から背徳者達が降りてきて、『これ以上反逆するようだったら神の機雷を発動させる』なんて脅すもんだから、一時撤退して来たという次第だ。」

「え? 背徳者達が降りてきた?」

 それを聞いた瞬間、クーネは怒りと恐怖で震えだした。

「く、クーネどうしたの?」

「な......ナギサを殺した......アイツらが......降りてきた?」

 クーネはいきなり走り出し、遺跡ザイオンから飛び出した。

「あ、クーネ! 外は危険だよ!」

 続いてフランもクーネの後を追うように、ザイオンから飛び出した。

「フワドよ。彼女たち2人に着いてゆくのだ。彼女たちに何かあってはシナトラに申し訳が立たない。」

「分かりましたニタヒさん。」

「そしてこれを持っていくのだ。」

「これって......」

「我々の事はいい。ただどうしてもあの二人とお前が心配なのだ。だから持っていけ。」

 ニタヒがフワドの手に握らせたのは、生命エネルギーの塊、擬似太陽であった。









 一方、ホロウ達は既に、キセ火山麓にあるアジトから移動していた。マヤが起こした噴火のせいで避難を余儀なくされたホロウ達は、スイハ半島から内陸側に向かって進んでいた。

 現在ちょっとした洞穴に身を隠し、ホロウもシュバルとラピスの3人は地図を開いてルートを確認している所で、サギはサクリのある。

「ホロウさん。私たちは今どこに向かっているんですか?」

「目的地はナズキの森だ。そこまで辿り着けば、シュバルの小屋に身を隠す事が出来る。ただ、そこに行くまでのルートをどうするべきか......」

「最短ルートは、さっきまで戦争していたど真ん中を通るから、バンデット達が居ると考えていいでしょう。
かと言って迂回ルートを取るのも危険。あまりウロウロしてると背徳者達と空の監視者達に捕まります。」

「地下水脈を通ると言うのはどうだ? この洞穴は地下水脈に繋がってるぞ?」

「止めておいた方が良いです。地下水脈にはバンデットのアジトが点在してます。見つかる危険性が高いです。」

「......万事休すか......」

「全世界にWANTEDの紙がバラまかれてます。もしかしたら背徳者達も紙を持っていて顔バレしてる可能性もあります......」


 ホロウとシュバルとラピスが頭を悩ませていると、そこに複数人のバンデットが通りかかる。


「おい! そこにいるお前ら! そこを動くんじゃない!」

「マズい......見つかっちまったか......」

「落ち着いてください。私がこの場を何とか丸く収めて、移動の足も手に入れます。」

 シュバルはホロウとラピスにヒソヒソと耳打ちすると、洞穴から出ていった。

「あれ? シュバルさんじゃないですか?」


「スイハ半島でこのトレイター達を捕縛した。これからアジトに連れてく予定だったが、背徳者のネフィ様の通達で月に連れていかないと行けなくなった。
だからお前らの荷馬車を貸してほしいんだ。もう一度スイハ半島に戻れば、キセ火山から伸びるツタを使って月まで行ける。」

「あ、そうでしか。でもわざわざスイハ半島まで連れていかなくても大丈夫ですよ。」

「どういうこと?」

「だって今ここに背徳者様の一人がいるのですから。」

「え?」

 すると複数人いたバンデットのメンバー達は、まるでモーセが割った海のように2つに別れ、真ん中に道をつくった。そして、その真ん中の道を使って奥から仰々しそうな男がゆっくりと歩いてきた。

「どうも。背徳者のスルギです。トレイター捕縛ありがとう。ここからは私が連れていくから、後は任せなさい。」

 完全にシュバルの計算外であった。荷馬車を奪ってナズキの森まで逃げるつもりが、こんな所で背徳者に捕まるとは。

「そ、そうですか。じゃあ私も同行させて貰ってよろしいでしょうか? 月にいる我らのリーダーマヤにも会いたいですし。」

「良いだろう。よしお前ら、奥にいるトレイター共を連れていくぞ。」









 一方、月にいるアザムキ。冷たく暗い檻の中で一人寂しく地面を見つめていた。そして、一人虚しく空に向かって願っていた。どうか真の平和を取り戻せますようにと。

 すると、アザムキの中にいるミラの怨念がケタケタ笑い始めた。

(何が可笑しいんだ!)

(可笑しいさ。真の平和ってなんだよw)

(誰も争わず、皆が自由な意思でのびのびと暮らせる......そういう状態のことだ!)

(甘ったれた事言うな! 何が誰も争わずだ! 何が自由な意思だ! 人間は争うのが自然なんだ! 争って血を流して痛みを知って前進していくんだ! 人間に平等なんて与えたら、進むことを辞めてそこで進化や成長は止まる。それじゃダメだろ!)

(じゃあお前は......いつまで経っても人間は苦しいままでいろと言うのか!
例え背徳者達が無理やり抑えつけて、戦争を止めたとしても、人間は争う事を辞めないだろ!
例え生きるか死ぬかの時代が終わったとしても、結局甲の状態で生きるか乙の状態で生きるかの闘争に変わるだけだ。
それでも良いというのか? 世界が発展してもなお苦しさの程度は変わらないままで、人間は苦しみ続けろというのか!)

(そもそも生きることなんて罰みたいなもんだろうが! 生きることは本当に醜く苦しい事だ。何かの為に生きて生きて、そして醜く老いさらばえる。
これを罰と言わずしてなんと言う? そんな罰を少しでも楽しくゲーム化して、競争を作れば人間進歩していくってもんだ。
今ある力に心が追いついてなくても、いつかは正しい心の元、正しく力が使われる日が来るだろ!)

(正しい心だろうが、大きな力で抑圧する事で成り立つ平和なんて、真の平和じゃない! 武器を持って掲げる平和なんてものは仮初の平和だ!
武器を捨てて握手し、争う事じゃなく対話によって進めば人間は本当の意味で高度な知的生命体になれるんだ!)

(綺麗事を言うんだったら、今すぐに地球上にいる生命全てに智慧を与えてみろ! 争う事は無意味だと教えてみろ! そんなこと出来ないだろうが! 仮にピースベルとやらを使ったとしても、人間の発展を阻害するだけだ! やめろ! 人間を争わせろ! もっと血を流れさせろ! 平和なんて抜かすな!)

(そんなの悲しみの渦が広がるだけだ! お前みたいな戦争の犠牲者が増えるだけだ!)

(犠牲者が出るのは仕方ねぇんだ! 俺らはそんな狂気の世界で生きてるんだ! お前はそんな事にも気が付かないのか! 狂気の世界で生きてる事を知った上で俺らは戦ってる! そんなヤツらの邪魔をするな!)

(じゃあお前は復讐のために戦って何か得たのかよ!)

(......何も得てないな。)

(そうだろう。長い目で見りゃ人間進歩してるかも知れないさ。でも、ごく短いスパンの個人に目を向けてみれば、自分が属する組織の歯車として機能しているだけだ。そこに個人の成長は無い。
お前の場合、小さい頃から復讐というエサで、アギルの計画の歯車として育てられ、結果使い捨てられただろ。
そこにお前自身成長したと言えるのか? 言えないだろ。お前の言い分は確かに合理的だ。でも合理的だけじゃ人間の......もとい個人の精神の自由は雁字搦めに束縛される。合理的に合理的にと切り詰めていけば人間生きていけるだろうが、それは最早生活じゃない、生存だ。灰色で乾き切った生存なんてもう辞めにしよう。)

(無理だ......そんなんじゃ人間満足して......成長は止まる......)

(ミラ......お前はさっきからずっと成長とか進歩とか言ってるが、その成長や進歩の果てに何があるって言うんだ?
争いによって進んで行った成長の果て......そんなのはもう灰に変わった大地と、人間の住めなくなった星しか残らないだろ?
お前はそんなものが欲しいのか?)

(違う......俺ら人類はワイズマンになる為に......全てはアギルの計画の為に......)

(己の正しさをぶつけ合うしか能の無い下等種族の俺ら人類がワイズマン? 無理だよ。対話で物事を解決出来るようじゃ無きゃそんなの実現出来やしない。)

(ならどうしろと!)

(だからこそ俺が調停者になれば良いんだ。これからマヤや背徳者達による抑圧の時代が始まろうとしている。それを止めて、真の平和を実現して、対話による世界を創り出すんだ。)

(そんなクソみたいな夢物語......実現出来るか! 人間は自分の意思さえ最後まで貫き通せない生き物だ! 例えばお前が死んで、お前の意思を継ぐ者が現れたとしても、それが本当にお前がやりたい事なのか疑わしいだろう!)

(......そんなの、信じるしか無いさ。)


 アザムキとミラが自身の思いをぶつけ合っていると、突然檻の前にマヤが現れた。

「お仲間の到着だ。」

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