苦役甦す莇
Episode52 Go me to the moon
ホロウは2階からサギと一緒に1階へ降りてきた。すると、アザムキが部屋のど真ん中にある大きなテーブルに向かって座っていた。
「ホロウ、話があります。」
「どうした? 俺に協力する気になったか?」
「いえ、そうではありません。しかし、争わなくてもこの戦争を止める手立てがあります。」
「ほー。なら試しに聞かせてもらおうか。その争わなくても戦争を止める手立てとやらを。」
「俺が来ているこの装備......通称カエデにはとある機能があります。その名もピースベル。」
「ピースベル?」
「この機能は、ある一定の周波数の音波を流し、人の脳の興奮を抑えて競争心を鎮める事が出来ます。しかし、この機能は指向性が良くないと充分な効果は期待出来ません。」
「それじゃダメじゃないか。」
「いえ、俺の能力を使って『方向の外の力』を行使すれば、擬似的に全方向ありとあらゆる方面に放射可能になります。
また『距離の外の力』も併せて行使した場合、どんなに離れた戦場にいたとしてもピースベルを届かせることが出来ます。」
「なるほど......凄いじゃん! この方法なら戦争止められるかもよホロウ!」
話を聞いた中で最も食いつきが良かったのはサギであった。しかし、ホロウはあまりいい表情はしなかった。
「何故そんなにも剣を握る事を忌避する?」
ホロウは拳を握ってアザムキに訊ねた。ホロウは戦争がしたくてしたくてたまらない様子である。
「人間は対話で物事を解決する力があるのに、それを放棄しちゃ物言わない動物と同レベルですよ。
逆にホロウに訊ねます。何故そんなにも剣を握る事を選ぼうとするのですか? 剣を握らなくても良い選択肢があるのに。」
「五月蝿い! お前に俺の何が分かる!」
ホロウはアザムキに掴みかかった。
「ホロウ......恐らく貴方は奈落の影響が出てます。今きっと貴方は戦いたくて戦いたくて仕方ない筈だ。でもそれは貴方の忍道に反する筈。言いましたよね? 『常に内在する感情の激流を忍ぶ』って。
貴方は今、争いたいという気持ちの激流に呑まれている。」
「五月蝿い! 五月蝿い! うるさぁい!」
ホロウはアザムキを掴んでる手とは逆の手を思い切り振りかぶった。
「カエデ......ピースベル発動。」
『了解しましたマスター』
刹那、周りにいた者ですら心穏やかになる程の美しい音色が部屋に響き渡った。
無論、アザムキの目の前にいるホロウは音波直撃である。
「あ......あ......」
ホロウは握っていた拳を崩し、掴んでいた手を緩めた。
「ホロウ......落ち着きましたか?」
ホロウはゆっくりと頷いた。
「どうやら......盲目的に争う事しか考えてなかったようだ......お陰でちゃんと思考する余裕が出来た。」
「これでピースベルの効果は証明されましたね。この剣はもう要らないですよね?」
アザムキは床に落ちてるヒヒイロカネの剣を拾った。すると、ヒヒイロカネの剣は持ったとき以前よりも赤い光を放ち始めた。
「なんだこれ......ただの剣じゃないぞ?」
するとヒヒイロカネの剣は途轍も無いほどの熱を発し、アザムキは持っていられなくなった。
「あっつ! あっちぃ!」
アザムキは反射で手を離そうとした。しかし、何故か剣は手を離れない。最早剣を握っているというより、右手と剣が溶け合って融合し始めているような感じだ。
「ああああああああああ! 右手がああああああああああ!」
「おい! アザムキ!」
ぐじゅぐじゅと肉を焦がすような耐えられない熱さ、そして自分以外の異なるものが肉体に混ざっていくような気持ち悪さ。その二つがアザムキを襲った。
「水を! 早く水を!」
「分かった! 水ね!」
サギは懐から杖を取り出し、呪文を詠唱する構えをとった。しかし、その瞬間今まで悶えていたアザムキから、苦痛の叫びと苦悶の表情が消える。
「あ......アザムキ? 大丈夫か?」
いきなり馬鹿みたいに静かになったんで、サギは恐る恐るアザムキの様子を伺った。
「あれ? 剣が......無い?」
アザムキは自身の右手を見た。しかしそこには、あれほどの苦痛を与えたヒヒイロカネの剣の姿は無かった。
「右手は痛くないのか?」
「......何ともない......」
アザムキは右手を握ったり開いたりして、正常な動きが損なわれていないか確かめた。
びっくりするほど何とも無かった。しかし、あの燃え盛るような痛みと消えたヒヒイロカネの剣は何だったのか? それだけは皆目見当もつかなかったし、説明のしようがなかった。
「おやおや......今大きな叫び声が聞こえたけど大丈夫かい?」
部屋の奥からアザムキの叫びを聞きつけたシュバルがやって来た。
「あぁ......大丈夫です。あ、そうだ。ホロウ2階に行きましょう。サクリの様子も見てこないと。」
「ん? あぁそうだな。サクリの様子見てくるか。」
アザムキはある考えが頭の中にあった。そして、アザムキは2階に上がる直前にシュバルに耳打ちした。
「あの事もう話したらどうです? 俺たち上に行くので親子水入らずですよ。」
そう言い残すとアザムキとホロウはそそくさと2階に上がって行った。
2人が2階に行くと、その場は何となく変な空気になった。
「あぁ......サギ......さん。何か飲むかい?」
「やめてよ。」
「え?」
「私分かってるよ。シュバルさん。」
「分かってる?」
「ううん......シュバルさんじゃない。でしょ? お母さん。」
「え......どうして?」
「見つけちゃったからね。手紙を。」
「手紙?」
「お母さんが師匠に送った手紙。」
「私がアギルに......もしかして貴女の成長した姿が見たいって送った手紙のこと?」
「そう。師匠の家を飛び出す時に持ってきた本に挟まってた。」
「そうか......取り敢えず謝らせてくれ。今まで母親の私が、娘の貴女より貴女の異母姉妹のフラン様を優先してた事を......本当に申し訳無かった......」
「あぁ......私の姉ってフランの事だったんだ。フランは性格的に姉というより妹っぽいけどね。」
「......君たち姉妹には黄金の矢が埋め込まれている。神を月に変える矢の事だ。
フラン様には鏃が、貴女には矢筈が埋め込まれている。」
「知ってるよ。師匠の所に居た時自分で見つけたもん。」
「そうか......じゃあもう一つ言うと、今ソウセキ......あぁいや、アザムキ君が神になりかけている。
貴女達のどちらかが彼に近づけば、彼の生命エネルギーを矢の欠片が吸収する事になるし、彼が完全に神になれば君たち2人の身体から矢の欠片が飛び出して彼を射抜くだろう。」
「え? アザムキが神様に?」
その話の内容を、ホロウだけ2階に行かせて、自分は2階に行くフリをして隠れて盗み聞きしていたアザムキ。
「......生命エネルギーを吸収する?」
アザムキは聞こえないくらい小さな声でボソボソっと独り言を喋った。
アザムキにはいくらか思い当たる節があった。一つは催淫キノコにやられたサギが自分とキスした時。もう一つはミラに負けてフランに看病してもらった時。
あの時、サギもフランも無意識のうちに俺から生命エネルギーを吸っていたという訳だ。キスして半透明になったことも、看病してもらって死にかけの心音になった事も、それで説明がつく。
アザムキは足音を立てないようにその場から離れ、2階に上がった。
2階のとある部屋に入ると、ゆっくり寝息を立てているサクリと、それを静かに見守るホロウとラピスがいた。
「サクリの様子はどうですか?」
「見たところ悪い所は無さそうだが、ここの腕の所を見てみろ。」
「うっ血して何か浮き出てますね......古傷か何かでしょうか?」
「うん......こういうタイプの古傷は、ミヒズ草から作られる軟膏で消すことが出来る。アザムキ採って来てくれないか?」
「分かりました。採って来ますね。」
アザムキは1階に降りて、話してるサギとシュバルの邪魔をしないように、そそくさと家屋の外に出た。
アザムキは数十分かけて、火山の中腹まで登った。
「なかなか疲れたな......カエデ、ミヒズ草がどの辺にあるかサーチ出来るか?」
『南東の方角にミヒズ草が群生しているポイントがございます。』
「ありがとう。」
アザムキはカエデに言われた通り、南東の方角に向かって進み始めた。すると、何か人影のようなものが見えた。
アザムキは警戒して近くの岩場に身を隠し、人影の正体を探った。
「遠すぎてイマイチ判別出来ないな......」
アザムキは向こうにいる人にバレないように、岩場から別の岩場へと身を隠しながらコソコソと近づいて行った。
「......メイド服? まさかマヤか?」
人影の正体はマヤであった。しかし、マヤが何故このような所に来たのかアザムキには分からなかった。
マヤはアザムキに気が付かないまま火山洞窟に入っていったので、アザムキはミヒズ草をササッと回収した。
「何故こんな所に......気になるな......」
アザムキはセルギュを使って、ホロウにミヒズ草採取完了の旨を伝え、常識の外の力を行使してミヒズ草だけを麓のアジトへ送った。
そして、そのままセルギュでマヤを発見した事も伝え、尾行するという事を伝えた。
「......アイツとも絶対和解してやる。」
アザムキは決意を独り言に変えて、マヤが入っていった火山洞窟に入った。
アザムキはカエデのマッピングと呼吸サーチを頼りに、視界不良な火山洞窟の中をマヤを追いながら進んで行った。
「何が目的でこんなに奥深く......まさかヒヒイロカネの剣が目的か?」
なんの目的も無しにこんな所に来るはずが無いと思った。ヒヒイロカネの剣は少なくともこのキセ火山最深部にはもう無い。先程アザムキが握った時にどこかへ消えてしまったのだから。
マヤを追っていくこと数十分。遂にキセ火山の最深部に到着した。
アザムキは岩陰に身を潜めながらマヤの様子を伺った。すると、マヤはしきりに何かを探すようにキョロキョロしている。
数分後アザムキは岩陰に身を潜めるのを止め、マヤの前に姿を現した。
「やっぱり狙いはヒヒイロカネの剣か。」
「......アザムキ......」
「ここに剣は無いぜ。俺の仲間がもう回収したからな。かと言って何処にあるかと聞かれても分からんぞ。俺が握った瞬間消えちまったからな。」
「そうか......なるほど。なら逆に都合が良い。」
マヤが手を翳すと、一瞬にして周りに結界が張られた。そして、マヤは一言だけ言った。
「行こうか、月へ。」
「ホロウ、話があります。」
「どうした? 俺に協力する気になったか?」
「いえ、そうではありません。しかし、争わなくてもこの戦争を止める手立てがあります。」
「ほー。なら試しに聞かせてもらおうか。その争わなくても戦争を止める手立てとやらを。」
「俺が来ているこの装備......通称カエデにはとある機能があります。その名もピースベル。」
「ピースベル?」
「この機能は、ある一定の周波数の音波を流し、人の脳の興奮を抑えて競争心を鎮める事が出来ます。しかし、この機能は指向性が良くないと充分な効果は期待出来ません。」
「それじゃダメじゃないか。」
「いえ、俺の能力を使って『方向の外の力』を行使すれば、擬似的に全方向ありとあらゆる方面に放射可能になります。
また『距離の外の力』も併せて行使した場合、どんなに離れた戦場にいたとしてもピースベルを届かせることが出来ます。」
「なるほど......凄いじゃん! この方法なら戦争止められるかもよホロウ!」
話を聞いた中で最も食いつきが良かったのはサギであった。しかし、ホロウはあまりいい表情はしなかった。
「何故そんなにも剣を握る事を忌避する?」
ホロウは拳を握ってアザムキに訊ねた。ホロウは戦争がしたくてしたくてたまらない様子である。
「人間は対話で物事を解決する力があるのに、それを放棄しちゃ物言わない動物と同レベルですよ。
逆にホロウに訊ねます。何故そんなにも剣を握る事を選ぼうとするのですか? 剣を握らなくても良い選択肢があるのに。」
「五月蝿い! お前に俺の何が分かる!」
ホロウはアザムキに掴みかかった。
「ホロウ......恐らく貴方は奈落の影響が出てます。今きっと貴方は戦いたくて戦いたくて仕方ない筈だ。でもそれは貴方の忍道に反する筈。言いましたよね? 『常に内在する感情の激流を忍ぶ』って。
貴方は今、争いたいという気持ちの激流に呑まれている。」
「五月蝿い! 五月蝿い! うるさぁい!」
ホロウはアザムキを掴んでる手とは逆の手を思い切り振りかぶった。
「カエデ......ピースベル発動。」
『了解しましたマスター』
刹那、周りにいた者ですら心穏やかになる程の美しい音色が部屋に響き渡った。
無論、アザムキの目の前にいるホロウは音波直撃である。
「あ......あ......」
ホロウは握っていた拳を崩し、掴んでいた手を緩めた。
「ホロウ......落ち着きましたか?」
ホロウはゆっくりと頷いた。
「どうやら......盲目的に争う事しか考えてなかったようだ......お陰でちゃんと思考する余裕が出来た。」
「これでピースベルの効果は証明されましたね。この剣はもう要らないですよね?」
アザムキは床に落ちてるヒヒイロカネの剣を拾った。すると、ヒヒイロカネの剣は持ったとき以前よりも赤い光を放ち始めた。
「なんだこれ......ただの剣じゃないぞ?」
するとヒヒイロカネの剣は途轍も無いほどの熱を発し、アザムキは持っていられなくなった。
「あっつ! あっちぃ!」
アザムキは反射で手を離そうとした。しかし、何故か剣は手を離れない。最早剣を握っているというより、右手と剣が溶け合って融合し始めているような感じだ。
「ああああああああああ! 右手がああああああああああ!」
「おい! アザムキ!」
ぐじゅぐじゅと肉を焦がすような耐えられない熱さ、そして自分以外の異なるものが肉体に混ざっていくような気持ち悪さ。その二つがアザムキを襲った。
「水を! 早く水を!」
「分かった! 水ね!」
サギは懐から杖を取り出し、呪文を詠唱する構えをとった。しかし、その瞬間今まで悶えていたアザムキから、苦痛の叫びと苦悶の表情が消える。
「あ......アザムキ? 大丈夫か?」
いきなり馬鹿みたいに静かになったんで、サギは恐る恐るアザムキの様子を伺った。
「あれ? 剣が......無い?」
アザムキは自身の右手を見た。しかしそこには、あれほどの苦痛を与えたヒヒイロカネの剣の姿は無かった。
「右手は痛くないのか?」
「......何ともない......」
アザムキは右手を握ったり開いたりして、正常な動きが損なわれていないか確かめた。
びっくりするほど何とも無かった。しかし、あの燃え盛るような痛みと消えたヒヒイロカネの剣は何だったのか? それだけは皆目見当もつかなかったし、説明のしようがなかった。
「おやおや......今大きな叫び声が聞こえたけど大丈夫かい?」
部屋の奥からアザムキの叫びを聞きつけたシュバルがやって来た。
「あぁ......大丈夫です。あ、そうだ。ホロウ2階に行きましょう。サクリの様子も見てこないと。」
「ん? あぁそうだな。サクリの様子見てくるか。」
アザムキはある考えが頭の中にあった。そして、アザムキは2階に上がる直前にシュバルに耳打ちした。
「あの事もう話したらどうです? 俺たち上に行くので親子水入らずですよ。」
そう言い残すとアザムキとホロウはそそくさと2階に上がって行った。
2人が2階に行くと、その場は何となく変な空気になった。
「あぁ......サギ......さん。何か飲むかい?」
「やめてよ。」
「え?」
「私分かってるよ。シュバルさん。」
「分かってる?」
「ううん......シュバルさんじゃない。でしょ? お母さん。」
「え......どうして?」
「見つけちゃったからね。手紙を。」
「手紙?」
「お母さんが師匠に送った手紙。」
「私がアギルに......もしかして貴女の成長した姿が見たいって送った手紙のこと?」
「そう。師匠の家を飛び出す時に持ってきた本に挟まってた。」
「そうか......取り敢えず謝らせてくれ。今まで母親の私が、娘の貴女より貴女の異母姉妹のフラン様を優先してた事を......本当に申し訳無かった......」
「あぁ......私の姉ってフランの事だったんだ。フランは性格的に姉というより妹っぽいけどね。」
「......君たち姉妹には黄金の矢が埋め込まれている。神を月に変える矢の事だ。
フラン様には鏃が、貴女には矢筈が埋め込まれている。」
「知ってるよ。師匠の所に居た時自分で見つけたもん。」
「そうか......じゃあもう一つ言うと、今ソウセキ......あぁいや、アザムキ君が神になりかけている。
貴女達のどちらかが彼に近づけば、彼の生命エネルギーを矢の欠片が吸収する事になるし、彼が完全に神になれば君たち2人の身体から矢の欠片が飛び出して彼を射抜くだろう。」
「え? アザムキが神様に?」
その話の内容を、ホロウだけ2階に行かせて、自分は2階に行くフリをして隠れて盗み聞きしていたアザムキ。
「......生命エネルギーを吸収する?」
アザムキは聞こえないくらい小さな声でボソボソっと独り言を喋った。
アザムキにはいくらか思い当たる節があった。一つは催淫キノコにやられたサギが自分とキスした時。もう一つはミラに負けてフランに看病してもらった時。
あの時、サギもフランも無意識のうちに俺から生命エネルギーを吸っていたという訳だ。キスして半透明になったことも、看病してもらって死にかけの心音になった事も、それで説明がつく。
アザムキは足音を立てないようにその場から離れ、2階に上がった。
2階のとある部屋に入ると、ゆっくり寝息を立てているサクリと、それを静かに見守るホロウとラピスがいた。
「サクリの様子はどうですか?」
「見たところ悪い所は無さそうだが、ここの腕の所を見てみろ。」
「うっ血して何か浮き出てますね......古傷か何かでしょうか?」
「うん......こういうタイプの古傷は、ミヒズ草から作られる軟膏で消すことが出来る。アザムキ採って来てくれないか?」
「分かりました。採って来ますね。」
アザムキは1階に降りて、話してるサギとシュバルの邪魔をしないように、そそくさと家屋の外に出た。
アザムキは数十分かけて、火山の中腹まで登った。
「なかなか疲れたな......カエデ、ミヒズ草がどの辺にあるかサーチ出来るか?」
『南東の方角にミヒズ草が群生しているポイントがございます。』
「ありがとう。」
アザムキはカエデに言われた通り、南東の方角に向かって進み始めた。すると、何か人影のようなものが見えた。
アザムキは警戒して近くの岩場に身を隠し、人影の正体を探った。
「遠すぎてイマイチ判別出来ないな......」
アザムキは向こうにいる人にバレないように、岩場から別の岩場へと身を隠しながらコソコソと近づいて行った。
「......メイド服? まさかマヤか?」
人影の正体はマヤであった。しかし、マヤが何故このような所に来たのかアザムキには分からなかった。
マヤはアザムキに気が付かないまま火山洞窟に入っていったので、アザムキはミヒズ草をササッと回収した。
「何故こんな所に......気になるな......」
アザムキはセルギュを使って、ホロウにミヒズ草採取完了の旨を伝え、常識の外の力を行使してミヒズ草だけを麓のアジトへ送った。
そして、そのままセルギュでマヤを発見した事も伝え、尾行するという事を伝えた。
「......アイツとも絶対和解してやる。」
アザムキは決意を独り言に変えて、マヤが入っていった火山洞窟に入った。
アザムキはカエデのマッピングと呼吸サーチを頼りに、視界不良な火山洞窟の中をマヤを追いながら進んで行った。
「何が目的でこんなに奥深く......まさかヒヒイロカネの剣が目的か?」
なんの目的も無しにこんな所に来るはずが無いと思った。ヒヒイロカネの剣は少なくともこのキセ火山最深部にはもう無い。先程アザムキが握った時にどこかへ消えてしまったのだから。
マヤを追っていくこと数十分。遂にキセ火山の最深部に到着した。
アザムキは岩陰に身を潜めながらマヤの様子を伺った。すると、マヤはしきりに何かを探すようにキョロキョロしている。
数分後アザムキは岩陰に身を潜めるのを止め、マヤの前に姿を現した。
「やっぱり狙いはヒヒイロカネの剣か。」
「......アザムキ......」
「ここに剣は無いぜ。俺の仲間がもう回収したからな。かと言って何処にあるかと聞かれても分からんぞ。俺が握った瞬間消えちまったからな。」
「そうか......なるほど。なら逆に都合が良い。」
マヤが手を翳すと、一瞬にして周りに結界が張られた。そして、マヤは一言だけ言った。
「行こうか、月へ。」
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