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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode51 Mortal wound

「ホロウ......なぜここに......?」

 アザムキの質問を聞くと、ホロウはポケットからセルギュを取り出した。

「サギにセルギュで聞いたんだ。そうしたら昔使ってたアジトにいるってさ。だから来た。」

 ホロウはなんの遠慮も無くツカツカとアザムキの方へ歩み寄って来た。

「え? ここが?」

 アザムキは今自分が寝ているこのボロ屋が、まさか昔のアジトだとは夢にも思ってなかった。

「お前......知らずにここで寝てたのか?」

 ホロウは少し呆れたように言った。

「......まぁ気絶して運ばれたのがここでしたから......」

「ふぅん......それよりも、お前もう聞いたか?」

 ホロウは椅子を引っ張ってきて、アザムキのベッドのすぐ近くに座った。

「戦争の事ですか?」

「ああそうだ。ここを拠点にする。」

 その話を聞いた瞬間、アザムキはホロウのことをキッと睨みつけた。

「何故です? どうして戦争なんか。」

「お前......シナトラを殺されて悔しくないのか?」

「シナトラを殺したミラはもう死んだでしょう!?」

「そのミラに殺しの指示をしたバンデットはまだ滅んでないだろう!?」

アザムキとホロウはつかみ合った。

「おいおい! ケンカはよさないか!」

 すかさずシュバルが間に入って仲裁した。

「お前は確か......シュバル......どうしてバンデットのメンバーがこんな所に?」

「俺がシュバルの暴走を止めたんだ。フランの為に頑張るなら、バンデットなんかに頼らず俺に任せろって。」

 ホロウはアザムキを掴んでる手を緩め、アザムキもホロウを掴んでる手を緩めた。

「......神に選ばれた以上に、俺は調停者になるべきなんです。
俺の最強への道......それは敵を薙ぎ倒して骸の山を築き上げる事なんかじゃなくて、世界中の色んなヤツらと握手する事なんです!」

「おいおい......馬鹿言っちゃいけねぇよ。人間対話なんぞで物事を解決出来るわけねぇだろ。
人間ってのは痛みを持って初めて理解する生き物なんだ。そして人間の発展ってのは争いを伴って進んでいくもんなんだ。
人間の歴史に流血は不可欠な要素なんだよ。」

 アザムキはそれを聞いて、どこか虚しくなった。

「悲しいですね。そんなんじゃいつまで経っても人間争ってばっかりだ。
争う理由を見つけるより、譲歩しあう方法を見つけるべきなのに......」

「とにかく起きてしまった以上、戦争は止められない。
お前も戦う準備をしとけ。」

「俺はもう剣は握りません。今まで使ってた剣は火山に捨ててきました。」

「はぁ? お前......ホントに救いようのないアホだな…...戦場に行ってから説教でもする気か?
お前の話を聞くより先に、敵の刃とか魔法が飛んでくるぞ?」

「ぅぐ......」

 アザムキは指摘された事に反論出来ず、押し黙ってしまった。

「とにかくもう時間がねぇんだ。敵が1人でも月に行っちまったら、神の機雷の発動権を完全に握られて俺らお終いなんだよ。
実際、俺が倒したバンデットのメンバーが『起動させるつもり』と言っていた。
本気で起動させるかどうかは他のメンバーと同じかどうかは知らんが、とにかく生きるか死ぬかが掛かってる問題なんだ。説教垂れてる暇があったら、1人でも多くの敵を殺せ。」

 ホロウはアザムキに細長い何かを手渡した。

「これは?」

「火山最深部で手に入れたもんだ。開けてみろ。」

 アザムキは言われるがままに袋の紐を解いた。すると現れたのは、紅く鈍く光る一本の剣であった。

「......ヒヒイロカネの剣......」

「そうだ。これで錦の御旗は俺らの方にある。」

 アザムキは黙ってヒヒイロカネの剣を放り投げた。

「要りません。」

「......クレル族の奴らが必死になって上空のバンデットどもを止めてるというのに......お前はいつまでそうやって我儘を言い続けるつもりだ!」

 パチン!という乾いた音が部屋に響き渡った。

 アザムキは叩かれた頬をさすりながら、ホロウの事をしっかりと見つめた。

「......殴り返しませんよ......俺は。」

 アザムキは自分の手は握手する為だと固く誓った。そのため、その手は拳を作ることは無かった。

「......ならお前の力は借りん。2階に行ってサギとサクリに話してくる。」

 ホロウはツカツカと歩きだし、奥にある階段で2階に上がって行った。

「......どうしてこんなことに......」

 アザムキは放り投げたヒヒイロカネの剣を見ながら頭を抱えた。

『お困りのようですねマスター』

「カエデ......俺はもう誰も殺したくないんだ......そして誰かが他の誰かを殺すのも止めたい......俺はどうしたらいい?」

『最適な解決策が一つございますよ』

「最適な解決策?」

『私の隠された機能......ピースベルを使えばよろしいのです』

「ピースベル?」










 朝、いきなり避難所の扉が開かれた。扉を開けたのは数名の監視者達と数名のバンデット。

「これより中央庁から出された新たな法令を発布する。『大戦勃発時には、10歳以上60歳未満の男性は速やかに中央庁に協力し、反乱分子を速やかに駆逐すること。また、戦場で大きな戦果を挙げたものは相応の報酬を与える。』以上。
これよりこの場にいる10歳以上60歳未満の男性には兵役についてもらう。」

 説明をした監視者を除くその他数名は、早速リスト片手に対象となる男性を1ヶ所に集め始めた。


「......母さん、10歳以上60歳未満の男性って事は俺も......」

 ダンクは少し怯えた表情で母親の手を握った。

「......やっぱりこうなってしまうのね......」

 母親はそっとダンクのことを撫でた。すると、バンデットのメンバーがダンクの所にやって来た。

「ダンク ジョーさんですね? こちらへ。」

「......行ってくるよ母さん......生きて帰ってくるために......」

 ダンクは戦場に向かっていく男達の群れの中に静かに混ざって行った。









 一方、炭鉱町コークスでは激戦が続いていた。主にゴーレムを操るジャックが猛威を振るっていた。

 一応交代で戦いを継続してはいるものの、能力者揃いの元ギルドメンバーや、全員ショートワープや転移が使えるクレル族の相手は決して楽では無い。

 更にもっと言えば、バンデットのメンバー達は一応能力を持っているものの、それはラズリにごく最近与えられたもので、全く使い慣れてない付け焼き刃状態なのだ。

 大まかな戦の流れは空の監視者&バンデット側が劣勢に立たされている。

「......ふぅ......ちと疲れてきたかな......姐さん! 全体的な勢力としてはどうなの?」

 ジャックが臨時拠点の空き家に戻ってきた。今のところジャックは6時間ぶっ通しで戦闘を続けている。

「うん......今のところこっちが押されてるみたい......取り敢えず一般兵の増援さえあれば数では勝てるから、それまで粘ってちょうだい。」

「......もう粘れないかもよ。俺はまぁまぁ行けるけど、他の連中を見てみろよ。」

 ラズリはチラリと周りを見やった。部屋の中には重症の仲間たち。ある者は痛みに苦悶の表情を浮かべ、ある者は勝ちの見えない戦いに憂いの表情を浮かべている。ジャックを除く他のバンデットのメンバーや、空の監視者達は、心が折れかけていた。

「情けない......」

 ラズリがぼそっとボヤいた瞬間、勢いよく扉が開いた。

「衛生兵! 衛生兵! こいつを治してくれ!」

 そこには深手を負いながらも何とかここに駆けつけた重症の仲間、そしてそいつを必死にここに連れてきた仲間がいた。

「飛び出た自分の内蔵をもう一度腹に収めてここまで来たか......なかなかやるな......」

 ラズリは重症を負った仲間の為に新たに寝台を引っ張ってきた。

 そして、部屋の奥から声を聞きつけた衛生兵がやって来た。

「......こいつぁひでぇ......頭も腹もぐちゃぐちゃ......生きてる方が不思議なくらいだ......」

 寝台に横になった重症の患者を見ながら、衛生兵はボヤいた。

「なぁ! こいつのこと助けてくれよ!」

 連れてきた奴は何とか仲間を生き永らえさせたかった。

「最早ここまで傷が酷いと、いっそ殺した方がこいつの為だぜ? てか、こんなでかい傷どうやって負わされた?」

「......魔獣だ。クレル族の奴ら魔獣を連れてきやがった。
いきなり目の前に現れたもんだから防御もクソも無かった......こいつは魔獣の牙に噛み砕かれて......それで......」

「こりゃ、鉢金なんかしてたのが逆に仇になったな。鉢金してなけりゃ頭砕けて即あの世行きで幾らか楽だったろうに......」

「そんな言い方無いだろ!」

「俺は! もう何人も救えない命を見てきたんだ! ここにいる奴らだってそうだ! 治る見込みのない奴だっている。治る見込みのある奴らもいるが、どうせそいつらはまた戦場に駆り出される! 俺らの仲間の内誰かが月に行くまでな。」

「だったら!」

 そいつは助からない見込みを突きつけられて感情的になり、衛兵の襟を掴んだ。


「命は消耗品じゃねぇんだよ! 俺だって助けたいさ! でもこんなロクな薬も包帯もねぇクソみたいな環境でどうしろと?
こいつにやれる事は精々消毒と縫合だけだ! それも麻酔無しのな!

それに! こいつの鉢金の上から噛み付かれた傷を見ろ! こいつから無理やり鉢金を取ろうとすれば、中に食い込んだ鉢金のせいで頭パッカーンだぞ! それでも良いのかよ? えぇ? そんな苦しい殺し方したかねぇ! だから俺は一撃で頭砕けた方が楽だったって言ったんだよボケ!」


 衛生兵も自分の主張をそいつにぶつけた。

「まぁ内輪もめなんて止めなよ。」

 熱くなった2人の間に入って仲裁したのはラズリだ。

「ラズリ姐さん......どうかお願いします......あいつを助けてやって下さい......」

「私だって神様じゃないんだ。アイツに自然治癒系の能力を与えてやる事は出来るけど、生きるかどうかはアイツ次第さね。
それにアイツはもう既に私から能力を1つ貰ってる。1人が複数の能力を持つのは危険なんだ。」

「1人が複数の能力を持つことが危険?」

「そうだ。1人で複数の能力を持つと人格が分離する危険があるし、肉体が耐えきれなくなる可能性だってある。」


「なら......こいつを救うなら殺すしかないってのか?」

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