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苦役甦す莇

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Episode49 General Maya

 部屋の中にコンコンと木製の扉をノックする乾いた音が響いた。

「どうぞ。」

「失礼しますマヤ様。包帯を取りに来ました。」

 腹心にそう言われると、マヤはメイド服を脱いだ。

「失礼致します。」

 腹心はテキパキとした手つきでマヤから包帯を取っていき、一糸纏わぬ姿を晒していく。

「はぁ......あいつ......嫁入り前なのにキズ物にしてくれちゃって......」

 マヤの体は綺麗な肌色一色では無く、ところどころ白く変色していた。

 実は、海域戦でモロに喰らった冷気のせいで、マヤは凍傷を起こしていた。

 傷だらけのアザムキに比べてダメージこそ少ないが、見た目ではマヤの傷の方が目立つ。

「はぁ......今からキセ火山に行く。」

 マヤはメイド服に袖を通した。

「い......今からですか?」

「そうだ。今からだ。何か問題でもあるのか?」

「それが......ラズリさんの報告で、『戦争を始める』とか何とか......」

「ん〜? それはどれくらい前の連絡だ?」

「数時間前です。」

 マヤは顎に手を当てて、少し考えた。

「ふぅん......数時間前ねぇ......」

「護衛に出れる人員が......全員駆り出されてますけど......」

「いや、護衛は要らない。それに今のこと聞いてますます行きたくなった。」

「と言うと?」

「あの炭鉱町......確かコークスとか言ったか? アソコにはヒヒイロカネは無かったんだろう?」

「ラズリさんからの通信にそう書かれてありましたけど、何故それを?」

「アイツはメインの仕事そっちのけにするような奴じゃない。戦争始めたって事は、ヒヒイロカネは無かったからやり始めた事ってのが分かる。」

「なるほど......しかし何故キセ火山なのです?」

「ある筋からの情報によると、キセ火山の最深部にはヒヒイロカネ製の剣が納めてあるらしい。私はそれを手にする為にキセ火山に赴く。」

「ヒヒイロカネ製の剣......ですか? 普通の剣とは何が違うのでしょう?」

「耐久性や切れ味は勿論段違いだが、何より私が欲しいのは『ヒヒイロカネ製の剣という錦の御旗』だ。」

「錦の御旗?」

「そうだ。あれを手にするだけで伝説の再現と畏怖され、皆が私に従うようになるだろう。」

「なるほど......了解しました。ではお気をつけて。」









 翌朝、アザムキは目覚めるとベッドから起き上がろうとしたが、未だに傷癒えないため、迸る激痛に耐えかねてもう一度ベッドに横たわった。


「なんで......なんで起き上がれないんだよ......そうだ......痛みの外の力を行使すれば......」

「やめときな。」

 アザムキの考えを遮ったのは、部屋の奥からやって来たシュバルだ。

「どうして?」

「痛みってのはさ、生きてる証拠だし何より危険を知らせてくれるシグナルだよ。
それを感じなくさせるってことは、引き際も分からないまま死んでいくことになる。」

 シュバルはキッチンで古びた鍋を洗い始めた。

「それでも......戦争を止めなきゃ......」

「どうしてそんなに責任を負おうとするんだい? ソウセキ君が起こした訳じゃないだろう?」

「目の前で血が流れる凄惨な事が起きてるのに、見過ごすワケにはいなないでしょう? それに俺は神に選ばれたんだ。止めるだけの力も持ってる!」

 アザムキはもう一度起き上がろうとしたが、また痛みがしてしまったために断念した。

「ふぅん......ソウセキ君は偉いな。」

「何がです?」

「いやさ、私はソウセキ君に比べて『責任』ってものが足りてないなと思ってね。」

 シュバルは洗い終わった鍋に食材を色々突っ込み始めた。

「なんの責任ですか?」

「実は私、上で眠ってるサギの産みの親なんだよ。」

「そうだったんですか?」


「でもきっと彼女はこの事を知らない。私はフラン様との日々を大切にしたいために、王国での仕事に集中するために、まだ小さかった娘をアギルの元に預けて、王国の仕事に従事してた。

でも仕事を奪われた私は娘をアギルに預けたまま森に籠ることになった。
いつかあの暴君キーオート国王を倒すために、森に籠って大好きな自然と調和して、遂に自然を操る術まで獲得した。

しかし、私が籠ってる間にフラン様は国王を殺して逃亡。
行方が知れなくなって茫然自失してた。
そんな折、君たちと接触したのさ。」


 シュバルは鍋を準備し終えると、鍋を小さい竈に乗っけて、懐から小さい種のようなものを取り出し、それを鍋の下の竈の中に置いた。


「......そうだったんですか。」


「君たちと接触したおかげで、フラン様の居場所を突き止めることが出来た。
でもギルド転覆計画を聞いて、尚且つ『私に協力すればフランだけ助けてやる』っていう誘いを断りきれずに......バンデットに......」

 シュバルは竈の中に置いた種に火をつけた。するとまるでガスコンロに火をつけた火のようにその種は燃え盛った。

「そういう事情があったんですか。そう言えば、あの月まで伸びるツタはなんですか?」


「あれはグレイブヤードに置かれていた君たちのリーダーの遺体に種を植えた結果だよ。
君たちのリーダーシナトラの身体の中には生命エネルギーの塊が入ってて、そこに種を植えると通常では考えられないほど大きく太く成長するのさ。」


「それもマヤの命令?」

「そうだ。さぁ、朝ご飯が出来たぞ。腹が減っては戦は出来ないだろ?」

 シュバルは鍋を竈ごと持ってきて、それをアザムキが寝てるベッドの横のナイトテーブルに置いた。

「......これは?」

「サンザという薬膳料理だ。」

 シュバルは鍋にあるサンザを、アザムキが食べやすいように取り皿によそった。

「サンザ......ですか。」

 アザムキはよそわれたサンザをマジマジと見た。

 何気にこの世界の食べ物を口にするのは初めてなのである。今までずっと魔獣から得た欠片やら魔力やらで身体の維持をし続けていた。ミラに敗北した後の船の中ではサギに魔力を分けてもらっていた。

 しかし、今は皮肉な事にミラの怨霊が自分の空白を埋めてくれているお陰で、魔力を常に補給しなくてもなんとかなっている。なので、口から物を入れてお腹を満たすのはかなり久しぶりな事なのである。

「......美味しいですね。」

 美味しいですねと言ってみたものの、実際のところアザムキはこの料理の味を10割も理解して無いだろうと思った。

 というのも前からアザムキの五感は死につつあるのである。恐らく味覚も大分狂ってることだろう。

 アザムキは薬膳料理は元々味が薄いからイマイチ味がしないのか、自身の舌が狂ってるせいでイマイチ味がしないのか分からなかった。

「使った食材は、スイハ麺、ナズキ油、ミヒズ草、ハロイ酒、干したカリユ、ヒハララ茸、ギタカリのモモ肉、サマキ糖、リアマの切り身とかかな。」

 どれもアザムキにとっては馴染みのない名前ばかりだったが、何となく使ってるモノは理解出来た。

「色々使ってるんですね。」

「そうだ。例えばヒハララ茸なんかは生で食べると催淫効果しか無いが、ちゃんと処理して食べると活力源になる。」

「あ......催淫キノコってこれの事か。」

「どうかしたのか?」

「あ、いえ......なんでもないです。」

 催淫キノコ......かつてアザムキがギルドに入ったばかりの時、サギとフランに言い寄られた原因になったモノ。

 アザムキは何となくサンザの中に入ってる切られたヒハララ茸を見てその事を思い出していた。

「それにしてもこれだけの食材......どうやって手に入れたたんです?」

「大半は持ち歩いてるものだよ。いつどんな所で寝泊まりしてもいいように、保存食も兼ねて色んな食材を持ち歩いてる。
リアマとミヒズ草だけは、この辺で採って来たものだ。
リアマは広く分布している小型魚魔獣の一種で、この家から少し歩いたところに海岸があったから、朝早くにそこで釣ってきた。
ミヒズ草はキセ火山などの高熱極限環境にのみ群生する特殊な植物で、これも朝早くに採ってきた。」

「なるほど......」

 黙々とサンザを口に運びながら、何故ホロウが戦争を起こしたのかぼんやり考えていた。

 やはりシナトラが殺されたからだろうか。それとも別の何か?

 アザムキが悶々と考えていると、シュバルはキッチンから何かを持ってきた。

「あ、リンゴですか。」

「リンゴ?」

「あれ? リンゴじゃないんですか?」

 シュバルの手にあったのはどう見てもリンゴであったが、シュバルは何のことを言ってるのかサッパリ分からない様子だ。

「これの事か?」

 シュバルは手にしてる果実を指さして言った。

「そうです。」

「これはスルマという果実だ。これをリンゴと言うふうに呼ぶのは君が初めてだよ。」

 シュバルがスルマをパキッと半分に割って断面を見せてきた。すると断面はリンゴというよりミカンのようで、種は見当たらず中身はオレンジ色をしていた。

「スルマ......ですか。昨晩剥いていたのもそれですか?」

「そうだよ。どれくらい食べる?」

 シュバルは割ったスルマの皮をちまちま剥いていきながら訊いた。

「じゃあ......3個くらいで。」

「3個か。ほら手広げて。」

 アザムキは大人しく手を広げると、手の上に冷たいスルマの果実が3つ乗った。

 とりあえず匂いを嗅いでみた。アザムキが知ってる限り、匂いはブドウにとてもよく似ていた。

 そして口に入れて、舌の上で転がしてみた。味はブドウに似ているものの、桃のようなまろやかさや滑らかさもあった。

「不思議な果物ですね。」

 見た目はリンゴ、中身はミカン、匂いはブドウで、味は桃。そして何より、死んでいるかもしれない味覚や嗅覚にこれだけ訴えかけてくる力を持った果物。

 アザムキにとってスルマは不思議なモノとしか表現出来なかった。

「美味しいだろ?」

「はい。」

「もうちょっと食べるか?」

「貰います。」

 アザムキはシュバルからスルマをもう3個貰った。味わって食べてるうちに、さっきの薬膳料理と違ってちゃんと美味しいということが分かることに少し感動していた。

 人間、余計なことを考えたり、何か心に不安なことを抱えたまま物を食べると、それを食べていてもちゃんとした味が分からないのである。
 つまり物の味が分かるということは、心に余裕があるということである。

 薬膳料理を食べている時はホロウが戦争を起こした理由とかを考えていが、今は100%スルマの事を考えて食べている。

 サンザとスルマ、この2つはアザムキにとって対照的なものに感じられた。

「じゃあ、食べ終わったの片付けるね。」

 シュバルは食べ終えた食器やらを片付け始めてくれた。

 アザムキは何となくナイトテーブルに置かれたスルマの皮を手に取った。

「......美味しかったな......」

 アザムキがスルマの味を思い出しながらぼんやりしていると、いきなり部屋にある玄関側の扉が開いた。そして扉を開けたのはアザムキがよく知る男だった。

「え......ホロウ?」

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コメント

  • 兎鼡槻

    まだ序盤ですが強い拘りを感じます!
    この作品で何を伝えたいのかは今後読み進めて行けばわかるのでしょう!

    異世界でも言語が日本語なのは言葉遊びができていいですよね。
    無理矢理なパロディネタを入れずに小ネタで他作品への愛を表現するというのも小憎らしい演出です。

    是非これからも頑張って下さい!

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