苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode46 Ground order

 フランとクーネは開けた穴をさらに広げ、中に入ってみた。

「ホントだ......遺跡だ......」

 空洞の中には、模様のついた石レンガで組み上げられた祭壇のようなものが聳え立っている。

 そして、祭壇の中央に置いてある明るく輝く石で周辺が照らされている。フランとクーネは恐る恐る遺跡の祭壇へ近づいた。

「これは......壁画?」

 クーネは壁につけられた絵を見ながら、何が描いてあるのか理解しようとした。


「クーネ......これなんだろ?」

 フランは祭壇の中央にある光り輝く石をマジマジと見つめた。


「ん〜......こんなの見たことないな......」

 クーネは光り輝く石に手を翳した。すると、クーネは違和感を感じた。

「あれ?」

「どうしたの?」


「足が......痛くない......」

 クーネが今まで我慢していた足の痛みが嘘のようにスーッと消え去った。


「この石......てかこの遺跡......なんの為に?」

 フランは訝しげに周りを見回した。


「あれ......? なんか頭の中に......イメージが......」

 クーネは石に手を翳し続けていた。すると、彼女の頭の中に映像が流れ込んできた。


「どんな映像?」


「この遺跡の周りに沢山の人がいて......傷ついた狐を一匹祭壇に連れてきてる......その狐をこの石の光に当てて......狐の傷を治してる......そして......この遺跡の奥からもう一つこれと同じ石を持ってきて......狐の中に埋め込んだ......
そして狐がいなくなった後......めちゃくちゃ時代が変わって......皆で灰を持って......どこかに消えちゃった......」

 クーネの頭の中に流れ込んできたイメージはここで終わった。


「狐さんを皆で助けたの?」

「そうみたい。石を埋め込んだのと、灰を使って皆が消えたのが謎なんだけど......
ん? 灰で消えた......?」

 ここでクーネの記憶の中で、一つ引っかかる事があった。


「どうしたの?」

「いや......前にシナトラとホロウとアザムキと私でクエストに行った時、シナトラが灰を使って転移した事あったんだよ。
もしかしたら......あの時言ってた『古典的な方法』ってこれの事かも......」

 キーオート保護区のクエストの際に、サギの転移が使えなかった時に使った地図と灰を使った転移である。


「じゃあ助けられた狐って......?」

「多分昔のシナトラかもしれない。」

 クーネは壁画をもう一度見た。


「多分この真ん中に描かれてるのがこの石で、その周りにいるのがこの遺跡を建てた人達。
この絵を見る限り、石は2つあって、そのうち一つは矢印みたいなので繋がってる。その矢印をずーっと辿っていくと......」

「狐の絵が描いてあるね。」


 クーネは壁画を睨みながら考えた。


「......シナトラって獣人になる前は狐だったんだよね......」

「前にちょっと言ってたね。」

「それで......前にシナトラに年齢聞いた時に『齢400歳の妖狐』って言ってたんだよ。もしあれが冗談じゃなければ......」

「冗談じゃなければ?」


 クーネは壁画から石に目を移した。

「もしかしたらこの石は生命エネルギーの塊なのかも知れない。
シナトラの年齢が本当だとしたら、私の中に流れ込んできたイメージのあの狐がシナトラだとしたら、全然有り得る話だ。」


「ん〜......どういうことなの?」

 フランは話が見えずにいた。


「フランにも分かりやすく説明すると、私がさっきこの石に手を翳した時、私のケガが治ったよね?
この石は多分生命エネルギーの塊か何かで、シナトラは同じものを400年近く前に体に埋め込まれた。
手を翳すだけでケガを治す程の生命エネルギーの塊なのだから、埋め込んだ狐の寿命を400年にまで伸ばす事も出来そうじゃない?」


「なるほど! そういう事ね! でもなんでそんなに大事そうなものをシナトラにあげちゃったんだろ? この壁画を見ると2つしか無さそうだよ?」


「きっと昔のシナトラはそれに見合う事をしたんだろうさ。」

 クーネは石に近づいた。


「そして見てみてよ。この石の下、灰が敷き詰められてるよ。」

 クーネは石に触らないように、下の灰をちょこっとすくい上げた。


「なるほどね......生命エネルギーの塊かぁ…...」

 フランは石に興味を持ち始めた。


「400年前に存在していた転移の技術......そして生命エネルギーを固形化する技術......今となっては完全に失われた技術ロストテクノロジーだよねこれ。」

 クーネはもう一度壁画を見た。すると、あることに気がついた。


「......あれ? この壁画の上のほう......」

 クーネはフランにも分かるように指さした。


「月みたいなのが描いてある。」

「それがどうかしたの?」

「おかしくない? 400年前には月なんて無かったはずだよね?」

「そう言われてみれば......ん? なんで月が7個も描いてあるの?」

「......それに、7個の月の真ん中に大きな丸が一つ描いてある......これって......」









 一方キセ火山上空のホロウ


 ホロウは死にかけてるカシアの前に顔を近づけた。

「お前がさっき言ったセリフが本音なのか、はたまた邪悪な姦計からくる薄っぺらい嘘なのか......それはこれから分かる......」

 ホロウはカシアの手を踏みつけた。

「があだああああだあああいでぇ!!」

 ホロウは手際よく手錠に紐を括りつけ、その手錠でカシアの手を拘束した。

「なっ! 何をするんだ!」

「わかれよ。」

 ホロウはカシアの事を蹴飛ばして、もう一度火山の方に落としてやった。

 ホロウは手錠に括りつけた紐の逆端を、足元のツタに括りつけた。すると、落ちていってたカシアが程よい高さでブランと吊り下げられた。

 ホロウはカシアが見える所までササッと降りていくと、懐から苦無を取り出した。


「さてさて、今俺はお前の生殺与奪の権利を握ってるワケなんだが......」

「頼む! 殺さないでくれ!」

「まてまて、話は最後まで聞けよ......」

 ホロウは紐の近くで苦無をチラつかせた。


「お前ら......月に行くって言ってたが......どうやって宇宙で活動する気なんだ?
真空中じゃ呼吸出来やしないだろ。」


「それは......背徳者達がやったのと同じやり方で......あぶく魔法を使って空気の膜を自分の周りに張って凌ぐ......」


「なるほどね......じゃあもう一つ質問、今現在バンデットがのさばってるワケなんだが......武器商人のお前、情報屋のデーツ、森林の番人シュバル、鏡の世界の住人ミラ、中央庁の間者ラズリ、始末屋ジャック、そしてメイド服のボスことマヤ。
俺がざっと調べ上げた主要メンバーなんだが、この内デーツとミラが既に死亡。」


「そ、それがどうしたってんだ......」


「ん〜......この他にもまだいるんだろうけど、更に中央庁と空の監視者まで手中に納めてる......俺が聞きたいのは、なんでこんな寄せ集めの徒党で、こんなにもデカい事が出来る?」


「それは......ボスの能力だ......なんでも『既知領域を支配』するらしくて......それで人間の心理を知り尽くしたボスは、カウンセリングと称して全て支配した......」


「全て......全てねぇ?」

 ホロウは顎を撫でながら少し思案した。


「なぁ、クレル族って知ってるか?」

 ホロウは唐突に話を切り替えた。


「は? なんだそりゃ」

 カシアはクレル族なんて見た事も聞いた事も無かった。


「俺も人伝てに聞いた話と、本で読んだちょこっとの事しか知らないんだが、クレル族ってのがいたらしい。いや......今もいるかもしれないらしい。」

「それがどうしたってんだよ!」


「なんでも、そのクレル族ってのは昔栄華を極め、時代錯誤なオーパーツ並の技術を持ってたらしい。
まぁ400年も昔の話だけどな。」

「だから! それが今の俺と何の関係があるんだよ!」

 カシアはそろそろイライラが抑えられなくなってきていた。質問の意図がサッパリ理解出来なかったためである。


「いやさ、お前ら空と法を掌握したからって粋がり過ぎなんじゃねぇかなと思って。地に足つけてる無法者と、転覆した舟に乗ってた奴らの怖さ知らないんじゃねぇのか?」

 ホロウがニヤリと笑うと、いきなりホロウの後ろに人影が現れた。

 その人影はホロウの背後から、カシアを見下した。

「紹介するよ。クレル族のンェ・ニタヒだ。
昔シナトラと浅からぬ交流があったらしく、シナトラの死を感知して俺らと共にシナトラ殺した奴らにケジメを付けさせてくれるらしい。」

「お前が......あの狐娘を......」

 ニタヒと呼ばれたその人影は、眼光ギラつかせカシアの事を睨みつけた。


「まぁニタヒ、落ち着けよ。」

 ホロウはそう言いつつ、ニタヒに苦無を持たせた。


「お前......まさか......」


「シナトラが死んですぐの事だ。俺のセルギュに連絡を入れてくれてな。
事情を説明したら加勢してくれるとさ。

まぁ......俺はお前の事は殺さない。
でもニタヒが許してくれるかな?」


「おい......待て......やめ」

 ニタヒは無情にもカシアの生命線である紐を苦無でぶった切った。そしてそのままカシアは今度こそ本当に火山に落ちて行った。


「さぁて......戦争でも始めますか。」










 僕の名前はダンク。炭鉱の町に住んでいる。きっと今日の事を僕は一生忘れる事は無いだろう。


 と言うのも窓の外を眺めていたら、急に街町の人達が町の外に向かって走り出したんだ。

 何が起こったのかって気になって、皆が逃げてくる方向を凝視した。すると、広場で空の監視者とバンデットが、変な装束を身にまとった奴らと対峙してるのが見えたんだ。


 変な装束を身にまとった奴らは家の中にいる僕ですらハッキリ聞こえるほどの大きな声で叫んだ。


「大昔から抑圧され迫害され続けた我々クレル族! そんな我々を救ってくれた恩人を殺した奴らを粛清する!」


 そこから先の事は上手く表現出来ないけど、変な装束を身にまとった奴らは消えたり現れたりしてドンドン空の監視者とかバンデットの人を殺して行った。


 僕は恐ろしくなって腰を抜かすと、いきなりドアがバタンと開いた。

 僕は更にビックリして一瞬テーブルに隠れた。そして恐る恐るドアの方を見た。

 開いたドアの前には肩で息をする母さんが立ってた。すると、母さんはいつになく鬼気迫った表情で僕にこう言ってきた。



「ダンク......逃げるよ!」

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