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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode39 Mad witch

 その男はただ自分の信じる正義を貫く為にその場に立っていた。

 どれだけ傷だらけになろうともただひたすらに、ただ自分の信じた正義だけを、ただ一つの折れない剣を心に持って立っていた。


「こりゃ驚いた。一体何が君をそこまでさせるんだい? ゲオルグ君。セルギュも破壊されて、助けも呼べないような状況なのにも関わらず。」


「さぁね......俺にも分かんねぇな。ただ、アンタが何故か肩入れしてるバンデットどもにその2人は引き渡す訳には行かねぇんだよ。アギルさん。」


「こりゃ面白い。君の仲間もそうやって死んで行ったと聞いたけど、君も同じ末路を辿るのかい?」


「......その仲間ってぇのは......フェルトさんの事かい?」


「そうだ。」


 建物には既に火の手が上がっていた。今目の前にいる敵の数はざっと見て30人ほど。


「まぁ......似たような状況だな。でも、フェルトさんは俺に託してくれたんだ。そして、あの人......アザムキさんとの男の約束を破る訳にはいかないんでな。」

 男は翼を雄々しく広げた。それはフェルトのような漆黒の翼では無く、勇気と強さを体現するかのような赤い翼であった。


「やれ......」

 アギルは静かに指示をした。すると一斉に目の前の30人程の敵が向かってきた。


 ゲオルグが使う武器は、フランから借りた身の丈もあるほどの大きな剣。

 それを大きく振りかぶって、飛翔と同時に目の前の敵目掛けて振り下ろした。


「おっそいよ......そんなにトロくちゃ......蠅が止まるね!」

 敵は予想を上回る速さと身のこなしで、今の一撃を避けた。


「それに数じゃこっちが勝ってるんだ。1人しかいないアンタに何が出来る!」

 敵は連携を得意としており、今の大きな一撃を避けた勢いを殺さず、そのまま針を確実にゲオルグに当ててきた。


「うぐっ......」

 大きく広げた赤い翼からは、翼より更に赤い血が流れ出た。


「ほらほら!休んでる暇は無いぞ!」

 後方で控えていた敵の第二波が来た。針を刺され、弱ったところを確実に剣で切りつける。

 ゲオルグも負けじと大剣を振るが、その努力虚しく、ただ空を切るだけだった。


「まだまだ!」

 敵は攻撃の手を緩めること無く、第三波の攻撃をしてきた。

 大剣を振ったことによってガラ空きになった体の部位を、的確に弓矢で射抜いてくる。


「う......ぐっ......」

 ゲオルグはそのまま地に落ち、膝を地面に着いた。


 30対1の数的不利に加えて、完全に統率の取れた波状攻撃。さしものゲオルグも数の暴力には適わなかった。


 ゲオルグを中心として30人のバンデットがぐるっと円を作り、ゲオルグを囲んだ。


「はぁ......はぁ......」

 ゲオルグは波状攻撃による疲れ以上に、何か気持ち悪さと吐き気を感じていた。


「針と矢に毒を仕込んでおいた。もうお前は助からん。」


 ゲオルグはキッと周りを睨みつけた。


「ゲオルグ!もう私達の事はいいから!貴方だけでも逃げて!」

 捕まっているフランが自分のことを気にかけてくれている。


「ありがとうございます......フランさん......でもね......男には引けない時ってのがあるんですよ......今ここで撤退したら......恥とか汚名とかそういうのを抜きにしても......男として負けなんですよ......捕まってる貴方達2人だけを置いて......おめおめと逃げられましょうか......」


 周りを囲んでいる30人の敵がジリジリ近づいてくる。こんな危機的状況でも、ゲオルグには勝つビジョン......もとい30人を一気に倒して2人を連れて逃げるビジョンが見えていた。


「俺にだって能力はあるんですよ......」

 ゲオルグは地面に右手を置いた。


「俺を中心として重力場を形成!」

 瞬間、周りにいた30人は一気にゲオルグに向かって引っ張られた。

 そして30人が大剣のリーチに入った瞬間。その瞬間をゲオルグは見逃さなかった。


 自分はコンパスの針、敵30人はコンパスで書くべきライン。それを大剣の刃というコンパスの鉛筆で円を描く。


 つまり周りを囲んでいた30人の首を一瞬にしてカッ捌いたのである。


 そして、カッ捌いた直後に能力を解除し、近づいてきていた死体達は力なく地面に落ちた。


「......ん......ぐ......」


 毒の周りが早いのか、ゲオルグは先ほどよりも更に苦しくなってきていた。


 しかし男ゲオルグ、その苦をグッと飲み込んで、踏ん張って立ち上がった。


「おやおや。これだけの数を一人で倒すか。敵ながら天晴れだね。」

 アギルは余裕そうにゲオルグの事を見下している。


「早く2人を解放しろ......さもないと......」

 ゲオルグはそれ以上言葉を紡ぐ事が出来なくなってしまった。何か胃の中から込み上げてくるものがあったためである。


「......おげぇ!」

 結果吐瀉物を地面にブチ撒けてしまった。



「ははははははははは! 毒をあれだけ打ち込まれたんだ。 吐き気の一つや二つ、しない方が無理があるだろうさ。」

 アギルはゲオルグの様子を見て、まるでショーを楽しむ子供のように純粋に笑った。


「はぁ......ぁぁ......」

 常人には耐えられないほどの苦痛が押し寄せてくるが、ゲオルグはまだ立ち上がり続ける。しかし、逆に言えばそれが精一杯であった。

 もっと元気とガッツがあれば、ゲオルグはアギルからクーネとフランの2人を奪取するつもりでいた。しかしながら、彼にはもうそれだけの事をする余力は無かった。


「私は他の人間と違って愚かじゃないからね。一つここで取り引きしようじゃないか。」

 アギルはそばに置いていた鞄からなにか取り出した。


「これは君の中に入っている毒の解毒剤だ。
これをやるから、この2人は諦めてくれないか?
勿論君だって命が惜しいハズだろう?」


 ゲオルグは朦朧としかける意識の中で、燃え盛る建物の火に照らされる解毒剤を睨みつけた。

「逆に聞くが......どうしてそこまで2人が欲しいんだ......アンタがバンデットに肩入れしたって......なんのメリットもねーハズだろ......」

 ゲオルグは大剣に捕まることで立っているのがやっとだった。


「じゃあ教えてやろう。私の計画を。
私の計画の終着点は『私の世界』を作ることだ。
折角話してやるんだから、毒で朦朧としてる意識を研ぎ澄まして聞け。

アザムキ君が元々存在していた世界は科学が発展した世界。そして我々が今いるこの世界は魔術が発展した世界。
私はどちらも欲しいし、尚且つその世界を導きたい。
それは私利私欲によるものでは無く、公益を目的としたものだ。
私はこの世界で生きてきて、人間の愚かさにほとほと呆れたのだ。
何かが違えばすぐ争う。その割には自分達の事を高度な知的生命体か何かだと勘違いしている。だから私があるべき方向へ導いてやるのだ。
その為には科学も魔術も必要なのだ。再現可能性としての科学。そして同一性としての魔術。その2つを駆使して科学と魔術の融合による新世界を築き上げ、私が全人類をワイズマンへと導くのだ。

その為にはまず既存の2つの世界を破壊しなければならない。
まずは上空にある2つの月に加えて、もう1つ月を作る。アザムキ君を神化させることによってね。
そして出来た3つの月を、フラン君の力を使い6つにする。
最後に私が世界の壁をこじ開けて、向こうの世界とこちらの世界を繋げる。
そうすると、あちらの世界にある月がやってくる。
これで新惑星に必要な数が揃う。
そして、既存の2つの地球を融合させ、新地球創世の素材にし、科学も魔術も発展する私の理想郷が生まれるのだよ。

そしてマヤ君を王として擁立し、我々人類はワイズマンへの新たなステージを踏み出すのだ。」


「......へぇ......ご大層な野望なこって......」


 ゲオルグは頑張って聞いていたが、とうとう力の底が見え始め、地面に倒れ伏した。


「そろそろ死ぬか......じゃあこの解毒剤はもう必要ないかな?」


 ゲオルグは地面に伏したまま、アギルを睨みつけた。そして、アギルを斃す為の一つの妙案......もとい最後の奥の手を思いついたのであった。



 それは獣人が人間性を捨て、魔獣と等しい存在になる最後の選択肢。

「......獣進化ビースト エボリューション......」

 ゲオルグはただそう呟いた。


「......ん?」

 アギルは自身の目を疑った。


「......まさかそこまでするとはね......」


 目の前にいた鳥人は、姿を変え始めていた。


「毒にここまで耐えた俺が......ここでビーストエボリューションする......はてさてどうなるかな......?」

 ゲオルグにとって獣進化する事は、ほぼギャンブルであった。


「......ビーストエボリューションしてしまったら......それくらい理解してると思ったんだが......本当にバカだな君は。」

 アギルは呆れていた。


「キシャアアアアアアアア!!!」

 ゲオルグはただ一匹の雄々しい魔鳥に姿を変えた。


「とうとう言葉まで失ったか......君達の生活圏である空は魔力が少ないというのに......ビーストエボリューションしてしまったら、もう二度と獣人には戻れないというのに......それでも男の約束とやらの為にその選択肢を選んだのか......そうかそうか......面白い。」


 ゲオルグは何の小細工も無い一点突破でアギルに向かって行ったが、そんな事をされてもアギルは非常に落ちついて、右手を前に翳した。

「リフレクト」

 自身に来る衝撃を全て反射し、跳ね返した。

 ゲオルグの嘴に亀裂が入り、そこから血が溢れ出た。それでもゲオルグは突進を辞めなかった。

「ん......自滅覚悟か......」


 アギルは右手を翳し続けたが、ゲオルグの自滅覚悟の特攻にとうとう力負けしてしまった。

 そしてアギルのリフレクトが切れた瞬間、ゲオルグはアギルの右腕を食いちぎり、フランとクーネが捕まってる檻を破壊した。


 ゲオルグはアギルに一矢報いたのである。しかし、ゲオルグが出来たのはそこまでであった。

 檻を破壊した直後、ゲオルグの全身から血が溢れ出て、そのまま力なく地に堕ちた。


「んぐ......ぐっ......右腕を食いちぎるだけで無く......倍加したフラン君の力でも破れないように結界を張っていた檻すら壊すとは......完全にやられたよ......」


 クーネとフランはすぐに檻から抜け出した。


「ゲオルグさん!」


「クーネさん......フランさん......早く......逃げてください......俺はもう......助かりませんから......」


「そんな事言わないで!」


「フランさん......借りてた剣返します......あとは......アザムキさんに......」


 最期の最後にゲオルグは人間性を取り戻したのであった。

 空の監視者としてではなく、魔鳥としてでもなく、一人の男としての使命を果たしたのであった。

 そしてその割れた嘴からは何も意志を伝える事は無くなっていた。




「「ゲオルグ!」」

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