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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode34 Greed venom

 俺は未だにシナトラが死んだ事実を受け止めきれずにいた。

 シナトラはただ寝てるだけ......ちょっとしたらすぐ起きる......そう思ってた。

 しかし、最期に握ったシナトラの掌の中にあった俺達への贈り物が、シナトラの死を俺の心に刻みつけた。


 最期に握った手。そこにあったのはただ一枚の葉っぱだった。



『一番古い人間の友人と一番新しい人間の友人に見送られるなんて私は幸せだ。』



 そう一文書かれていただけの言の葉。俺とホロウはしんみりと心に留めておくように、心臓に一番近い場所に閉まった。



 俺はホロウにシナトラからカエデを脱がせて貰って、そこから悲しむ気持ちを押し殺して淡々と袖を通した。

 そしてホロウはシナトラをお姫様抱っこで抱きかかえ、墓石の前に連れていってシナトラをそっと寝かせた。



「......なんでだろうな......昔の俺ならこんなに悲しみを面に出さなかったのに......」

 ホロウはいつもなら見せないような悲しい表情をしていた。


「今は無いですけど......今度何か花を手向けに来ましょう。」

 俺は幸せそうな顔で眠るシナトラを前にして、ゆっくりとホロウに向き直った。


 ホロウは俺に顔を見せないようにしながら、俺との距離を少しずつ開けて行った。

 他人に弱みを滅多に見せない彼なりのプライドだろう。


(ははは......やっと死んだか......俺の里を滅ぼした悪魔め......次はお前の番だ......ホロウ!)

 一瞬喉元にヒヤリとした感触が走った。


(なぁ......お前はなんの為に復讐してるんだったっけ?)


(何を言うかと思えば......失われた里のために決まってんだろ!)


(その失われた里の人間達が何やってたかお前分かるの?)


(は......何言ってんだよ......そんなの......)


(あの時......墓石に触れて地球の記憶を辿ったとき......ついでにホロウとシナトラの過去も見たし、今は無き忍の里も見た。勿論、お前の過去もな。)


(それなら!)


(お前の復讐の原動力になってる忍の里は! 無益な狐狩を行っていたし! 近隣国に戦争に使う為の玉鋼を売り捌いていた!)


(......は?)


(俺が言いたいのはな、お前が盲目的に信じているそれは本当に正しいのかどうかだ。)


(何いってんのか......分かんねぇよ......)


(シナトラとホロウとフェルトがお前の里を滅ぼした理由はそこだ。

お前の里は決して正しかった訳じゃないんだよ。

儲けの為に近隣国の戦争幇助して、出世の為とかよく分からない噂に踊らされ、生態系ぶち壊そうとしてた害悪といっても差し支えない。)


(......は? ......は?)


(お前は知らないだろうな。里が滅びた日はお前、昨日の記憶も引き継げないような赤ん坊だったんだから。)


(......え? ......え?)


(水晶の女とバンデットに利用されてたんだよ。お前は。

狐狩と玉鋼の事とかは伏せられて、ホロウとフェルトとシナトラが平和そうな里を滅ぼした所しか知らせられなかったんだろ?)


(......)


(真にお前が戦うべきなのは、お前の事を利用していた奴らなんじゃないのか?)


(しかし......しかし......俺は復讐して......そして......俺らの里を全滅させたような輩を一人残らず消して......)


(争いを止める......か? なればこそ俺らのやる事に邪魔するな。

俺はこの世界にいるうちはシナトラ達について行くと決めた。

俺は忍の里が残った場合の増え続けるであったろう犠牲の数よりも、忍の里が滅んだ時の犠牲の数の方が圧倒的に少なかったと思うし、何より意義のある犠牲だったと思う。

どこかの王国の傲慢な国王は忍の里から仕入れた玉鋼で争いを続け、更には土地を私有化し続けて魔獣達の住処を奪っていった。

そんな事されて獣達が人間に牙を剥かないわけが無いだろう?

お前が加担していた事は全然有意義なことでは無いし、建設的な事じゃない。

今まで何人殺したのか知らんが、その殺した人達から奪い上げた金品が争いを加速させているとなぜ気付かない?)


(......)


(あともう一つ聞こう。あの水晶の女は誰だ?)


(......)


(お前の過去を覗いた時、あの女の正体だけが分からなかった。何故か酷く靄がかかったようになっていた。)


(......)


(あの女は誰だ? もうあの女を庇う必要は無いだろう? 隠し通す義理も無いはずだ。)


(......待て......俺が今まで信じてきた物が......この短時間で......一気に音を立てて崩れ去ろうとしている......

最後の判断材料として......地上で今何が起きてるかをこの目で見たい......それを見て俺はお前に真実を話すかどうか......決めようと思う......)


(わかった。)


 俺はグレイブヤードの端っこで俯いているホロウの方を見た。



「ホロウ! 地上に行きましょう! このレイラインは地球のほとんどの場所に通じてるんですよね? だったらどこか安全な場所くらいありそうじゃないですか?」

 俺はホロウに向かって大きめの声で呼びかけた。


「......地上か......」

 ホロウは俺に聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で答えた。


 俺はふと、海上での出来事を思い出した。
 全世界に知れ渡っている俺達の顔。バレないように地上に出る為にはホントにド田舎もド田舎、辺境の地に出ないといけない。

 この世界の事は俺なんかよりホロウの方が圧倒的に知っている。だからきっといい答えが来ると信じていた。


「......無い......」

 ホロウは呟くように返した。


「え?」

 その返答は意外なものだった。


「俺らが今出れる地なんて無い......」

 彼はまた、同じように呟く感じで返した。


「何故ですか?」


「俺らは今世界中に狙われてる存在だから、必然的に人間の居ない場所に出ないといけない。

だが、人間の居ない場所なんてのは魔獣の住処くらいなもんだ。」

 それは俺の希望的観測が打ち砕かれた瞬間だった。


「じゃあ......どうすれば......」

 上に行かなきゃクーネ達と合流出来なくなってしまう。


「まぁ焦るな…...『今』は、出れる場所が無いと言ったんだ。

幸い......俺らに協力してくれる奴が地上に居る......今はまだ出るタイミングじゃないが、いずれ出れるタイミングが来る。

それまでの辛抱だ。」


「協力してくれる奴......って誰ですか?」


「中央庁のラピスだ。お前会ったこと無かったか?」


「あ、あの金髪の。」


「そうだ。まぁ彼女から出る合図が来るまでの間にする事なんていくらでもある。」

 そう言うとホロウは地べたに座り、地面の砂を触り始めた。


「何してるんです?」


「ここの砂はレゴリスって言ってな、馬鹿みたいに魔力を含んでるんだ。

まぁここの空気自体、魔力濃度がアホほど高いからな。

で、このレゴリスは意外と色んなものに使える......玉鋼の錬金とかな。」


「玉鋼の錬金?」


「まぁ実を言うと、忍の里だけが玉鋼を錬金出来た裏話に繋がるんだが、忍の里周辺の竹林には奈落に通じる穴があった。

奈落からは大量にレゴリスが手に入り、玉鋼が錬金出来る。

それに味を占めた忍の里の連中は、レゴリスの採れる場所をいつしか『奈落』と呼び始めて里の子供や、里の外の人間を入れないようにした。

実は奈落の由来はそこから来てるんだ。

レゴリスを独占したいが故に里の大人達が広めた嘘......まぁ今となっちゃ本当なのかな?」


「どういう事です?」


「結局、ここは『奈落』と呼ぶに相応しい場所だったって訳だ。

昔俺と俺の友が巫山戯て奈落への洞窟に入ったとき、俺の友はここの魔力の濃さに耐えられなくなってトチ狂ってしまった。

それにあまり何回も奈落に来て強い魔力の瘴気にあてられると、闘争本能とかが刺激されるらしくてな。

だからこそ俺の里の大人達は何度もレゴリス採取をしてるうちに、玉鋼を使った戦争幇助も無益な狐狩も始めたって訳だ。」


「まるで毒ですね......」


「そうさ。ここの魔力は欲を刺激する毒だ。そして溢れ出た欲そのものもまた毒。

身を焦がすほどの欲求があまりに醜く止めるべきだと感じたから......俺は里を滅ぼさないといけなかった......」


「でも、ホロウはそんなに悪人じゃなさそうですよ?」


「十分悪人だよ。なんてったって里一つ滅ぼしたんだ。

そして......悲しいかな......俺もあの時ちょっとだけ蹂躙する快楽を知ってしまった......」


「快楽......」


「何かを壊す快楽だよ......でも壊した後は必ず嫌な気持ちになるだろ?

壊した瞬間はスッキリする......でもそれは一時の激情。

だから俺は、俺の里の大人達が忘れた『感情を忍ぶ』事を心に刻みつけて生きてるんだ......もう二度と......大事なものを壊さないように......」


「ホロウは......郷愁の心に押し潰される事とか無いのですか?」


「あるさ......でもあの日の里はもう俺の知ってる里ではなかったから。

有り体に言えば、変わり果てた大人達が俺の知ってる里を壊しちまったんだな。」


「ですよね......誰にでも......故郷を思う気持ちは......」

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