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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode33 More by accident than by design


「......メンバーアザムキ を助ける......リーダーシナトラの身の安全を確保する......両方やらなくちゃいけないってのが、行動隊長の辛いところだな。」

 ホロウはワイヤーを握る手を全く緩める事無く、1人で呟くように言った。


「何をブツブツ言ってんだ......選べよ! このアザムキを殺すのか! 生かすのか!」

 呪詛の練られた鋼鉄のワイヤーで拘束されているにも関わらず、ミラは俺の身体などお構い無しと言わんばかりに無理矢理動こうとしている。

 その為俺がカエデを着ているとは言え、身体のあちこちからヤバい感じの悲鳴が聞こえつつある。


「それは俺にするべき質問じゃないだろ? 

アザムキ! 俺の声が聞こえてるんだろ? お前はどうしたい? 今のお前は何をしたい?」


(痛みでギンギンに目が覚めてるよ......でも今の俺に何をしろと......)


「お前が神として選ばれたのは意図されていたと言うより偶然かも知れない。

でもお前がその力を使ってこれから何をするかは偶然じゃないだろ?

お前には今でも十分な力があるはずだ。

俺とシナトラを救ってくれた程の力がな。

その力をどう使おうとお前の勝手だ。

でもこれだけは言っておく。


大いなる力にはそれ相応の責任が伴う。

人には分相応ってのがある事を忘れるな。」



「いい加減にしろよ......説教ばっか言ってんじゃねぇ......

あんまり舐めてると......ホントにこの身体ぶち壊すからな......」


(おいミラ......)


「あ?」


(いい加減にするのはオメーの方だよ......)




俺は世界中の誰にも届かない声で




(......意識の支配の『外の力』を......)




発動させた。




「あ......あ......おれ......オレ......オレは......ミ......ミ......ミ......」


(俺はミラじゃない......痣剥爪跡だ。)


(違う......俺はミラだ!)


「違う......俺の名はアザムキソウセキだ。二度と俺の口でその汚らわしい名を名乗るな。」


 俺は自分の意識を支配していたミラを抑え込んだ。


「アザムキ......戻ったか。」

ホロウは安堵の声を漏らし、ワイヤーを握る手を緩めた。


「ホロウ......ありがとうございます。貴方のお陰です。」


「いや、そんな事は無いさ。それよりシナトラの体内に入った毒をどうにかしないといけない。」

 ホロウは後ろに倒れているシナトラの方に向き直った。
 そこで、俺はある案を思いついた。


「カエデ。」

『はいマスター。ご要件はなんでしょう?』

「スーツをシナトラに着せたとして、そこから毒抜きする事は可能か?」

『シナトラ様の容態によりけりですが、時間をかければ不可能ではありません。』

「分かった。それを実行する。」

『了解しました。装甲部を収納後、マスター御自身の手でアンダースーツをシナトラ様にお着せになって下さい。』


 装甲部が異次元に転移され、アンダースーツだけになると、俺はアンダースーツを脱いで包帯だらけの情けない姿に戻った。


「あぁ......そっか......そうだった......俺が動けたのはカエデのお陰だった......すみませんホロウ......このスーツをシナトラに着せてやってください......」

 カエデの補助筋肉を無くした今、俺は立つことすらままならない状態になり、無様にも地面を這いつくばった。

 俺は全身にある力を右腕に込めて、アンダースーツをなんとかホロウに手渡した。


「分かった。」

 ホロウは二つ返事で快諾してくれ、手際良くシナトラにスーツを着せ始めた。


「そう言えば......ホロウは何故さっき、俺が神に選ばれたと知った途端に少し躊躇したんですか?」


「まぁ......なんて言うんだろうな......俺の目的の一つだったからかな。」


「何がです?」


「自分、若しくは自分の友が神として選ばれたなら......贖罪の意味を込めて神の手で俺のことを裁いてほしいんだ。」


「......贖罪?」


「前に話しただろ? 俺の過去を少し。俺はあの十字架を未だに引き摺って生きてる。死ぬまでこの十字架を降ろすことなんてない。

だからせめて、死ぬ前に一度神の手で裁いてほしいんだ。

烏滸がましい話だが、俺が神になったとしたら俺は自らの手で自分を裁く。」


「何故神に拘るのです?」


「俺の罪はもう......人間の手じゃ裁けないだろ......」

 そう言ったホロウは、シナトラにカエデを着せ終わっていた。


「......そうですか......」


 そして俺はただひたすらシナトラの無事を祈るばかりだった。



(フッ......情けねぇなぁ......)

 俺の中のミラが俺をバカにしてきた。


(五月蝿い)


(そう言えば......シナトラに毒を入れたのは俺様だ。)

 ミラは自慢げに真相を語った。


(......お前がシナトラに仕込んだ毒はなんだ?)


(......聞いて驚け。蛙型魔獣から仕込んだとっておきの奴だ。)


(......蛙?)


(毒矢にも使われるような大層な毒だ。一瞬のうちに全身に回る。)


(何故シナトラは俺たちに隠してた......?)


(さぁな? 長の意地とやらじゃないか?)


 俺は全身に走る痛みを我慢しながら不格好な匍匐前進でシナトラに近寄った。

「シナトラ......何故俺たちに黙ってたんですか?」


「私は......狐として生まれてから......一度も人に頼った事が無くてな......頼み方も分からなければ......自分の弱みを他人に見せるような事もしてこなかった......そんな性分が裏目に出たからかもな......

それに......私は他人を騙す事には長けていても......結局は群れなきゃ何も出来ないただの......狐だ......

名前だって......『虎の名を使う』......でシナトラだ......

虎の名を使う狐......自戒と......自律の念を込めた......名前だ......

『私は何があっても結局は狐』......という事を......忘れない為にな......」

 シナトラは途絶え途絶えになりながら、何とか一つの文章を紡ぐので精一杯な様子だった。


「生きていくうちに......仲間が出来て......自分の縄張り......ギルドを持つようになって......知らず知らずのうちに導く立場になってた......」


 俺はそれを聞いて前から気になってた疑問をぶつけてみた。

「凄く気になってたんですけど、何故シナトラはギルドを立ち上げたのですか?」


 するとシナトラはゆっくりと口を開いて、肩で息をしながらこう答えた。

「獣人の社会的価値と......存在理由をもぎ取るためだ......

今ではそうでも無いが......昔は獣人というだけで......誰よりも虐げられた......

私は獣人になってすぐに......ホロウと共に行動してたからそうでも無かったが......昔......私に向けられた......あの冷ややかな眼差しは今でも忘れない......

それに......私のようにいかなかった......つまり人間と共に行動できなかった仲間は......みんな奴隷にされてしまった......

だから......ギルドを立ち上げて......人間の誰よりも上になろうとした......

その為の......『実力至上主義』だ......」


 そう言い終えたシナトラの瞼は段々と落ちてきていた。


「カエデ......毒抜きの方はどうだ?」

『かなり深刻です......手は尽くしましたが......ハッキリと申し上げますと......手遅れと言っても過言ではありません......

シナトラ様の筋肉が弱まっていくのを......感知出来ます......』


 ふとホロウの方に視線を移すと、ホロウの顔には珍しく焦りの色が見えていた。


「ホロウ......何か毒抜きに有効な物は無いですか?」


「まぁ......ないことは無いが......その術はシナトラ自身の回復力に訴えかけるような芸当をする事になる。

それに回復力と治癒力を上げる代償として、シナトラの寿命を縮める事にもなる。」


「寿命を縮める......」

 無理してやれと言うだけの資格が今の俺には無かったので、俺はホロウと同じように押し黙ってしまった。


「そもそもの話......私はもう老い先長くないからね......今この場所で果てるのもまた一興じゃないか?」

 瞼を閉じて静かにしていたシナトラがいきなり目を開いて静寂を破った。


「縁起でもないことを。」

 ホロウは、スーツを着て横たわっているシナトラを労わるように、自身の羽織をシナトラに被せた。


「見た目はまぁまぁ若く見えても......私は齢400歳の妖狐だ......
もう......いつ死んでもおかしくは無い......」

 シナトラは自嘲するようにボヤいた。


「シナトラにとっての400年はどういう物でした?」


「そうだな......形容するなら......」

 シナトラはゆっくりと考え、答えを導き出した。

「大いなる寄り道......かな......」


「大いなる寄り道?」




「生き物ってのは......遅かれ早かれいつか死ぬもんだろ?

死という結果は......この世の誰にでも平等に......与えられてる......

だから寄り道の......つまり死ぬまでの間に何したかが......大切なんじゃないかな......

獣人として生きた期間は......狐として生きてた期間に比べて凄く......凄く短かったけど......とても楽しかったよ......



あぁ......本当に楽しかった......そして疲れた......



......アザムキ......ホロウ......



あいつらに会ったら......私はまだ寝てると言ってくれ......



どうせもう......覚めない夢なのだから......」




 俺はシナトラの右手を、ホロウはシナトラの左手を握り、2人でこう言った。




「おやすみなさい......シナトラ。」

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