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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode28 Graveyard of the old ones


 ドスン!という大きな音と激しい揺れによって俺は目を覚ました。


 かなり長い間海を潜っていた。その間いつの間にか俺は寝入ってしまっていた。


 シナトラも寝てしまったらしく、ホロウはずっと起きていたらしい。


「出るか......」


 のっそりとホロウは思い腰を上げ、ギチギチにしめた蓋を力いっぱいに開いた。


 ホロウが先に外に出て、続いて俺も外に出た。



 そこは不思議な空間だった。頭上には海があり、足元には砂浜。


 頭上から光が差さない代わりに、足元にある砂一粒一粒が光を放っていた。まさに幽玄の世界『奈落』


「綺麗ですね......」
 俺は目の前の光景に見とれていた。


「そういう感想はもっと奥まで歩を進めてから言うもんだぞ。特にこの場所はな......」
 ホロウは、まだ寝ているシナトラを潜水艦からお姫様抱っこで引っ張り出しながら言った。


 俺は言われるがままに奥に進んでいった。



 進んでいくうちに分かったが、奈落は通路のような形をしている。


 床は光る砂、天井は海というのは先ほども言ったが、両脇にはずーっと先まで続く壁のようなものがある。


 暗くて最初は分からなかったが、立ち止まってよくよく見つめてみると壁は脈動していた。


 見れば見るほど生物的な動きをしていた。


 耳を澄ませば、ドクンドクン......という鼓動音まで聞こえてきた。


「それは魔脈レイラインと呼ばれる物だ。」

 壁を見つめる俺に話しかけてきたのはホロウだ。


「レイライン?」


「ある地点を中心に、この魔脈が各方向に伸びていってる。

ここはその一通路に過ぎない。中心部はもう少し先にある。」


 ホロウが指差すと、俺はそのままその方向に向かって進んで行った。





 しばらく道なりに進むと、すごく開けた場所に出た。


「ここが中心部グレイブヤードだ。」


 そこはほんのり暖かく、広間のど真ん中には黒い石みたいな物があった。


「これ......どこかで見たような気が......」


 俺は自身の気の赴くままに石に近づいて行った。


 何かが俺を呼んでるような気がする。


 その黒さに吸い込まれるように俺は石に手を触れた。









 俺はゆっくりと瞼を開いた。いつの間に寝てしまったんだろうか。


 俺はゆっくりと起き上がろうとすると、ある違和感に気がついた。


 床は先ほどと同じ砂であるが。


「......ここどこだよ......」


 天井は紺碧の海ではなく満天の星空であり、魔脈の壁は存在せず地平線が見えるほどのだだっ広い白い砂原が広がってるだけだった。


「こりゃ一体何が起きたんだ......俺は奈落にあった石を触っただけなのに......」


 俺は辺りを見回し、今自分に何が起きてるのか把握しようとした。最早突飛な出来事には慣れっこだが。


「君は石に触れたのと同時に、意思にも触れたんだよ。隣人。」
 聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「......ワイズマン? あ、そうか。さっきのは俺の夢の中に出て来たモノリスだ。」
 ワイズマンの姿は見えないが、頭の中でこだまするように声が聞こえてくる。そして、さっきグレイブヤードで見た石はワイズマンモノリスに似てることに気がついた。


「厳密には違う。あれには墓碑銘エピタフが刻まれていた。

あれはモノリスではなく墓石だ。」


「墓石? 誰の為の?」


「地球になった7柱の神の墓だよ。」


「7柱の神?」


「神が黄金の矢に突き刺されたら月になるのは知ってるだろう?」


「はい。知ってます。」


「月が7つ集まれば、1つの惑星ちきゅうを作れる。」


「7つの月が1つの惑星?」


「これを見れば分かる。」


 瞬間、俺の足は砂の地上から離された。段々と地面から離れていき、終いには俺がどこに立ってたか分かるようになってきた。


「これは......月?」


「そう。君が今立ってたのは月だ。そして......」


 俺が今立ってた月を含め7つの月がある一点に向かって集まり始めた。


 そして音も無く衝突。当たった面から砂が飛び散り、ぐしゃぐしゃに砕け散り破壊されてしまった。



「壊れてしまったじゃないですか。」
 ここまでは正直に言って予想通りだった。そして俺はこのまま何も起きないと思っていた。


「よく見てみろ。君に見せたいのはこれからだ。」


 俺はジッと目を凝らし、何が起こるか集中して見入った。


 すると粉々になった月の破片は次第に混ざり合い、段々と形を成してきた。


 それはごく球体に近く、またとても大きかかった。


 そして球形を成すのと共に、段々少しずつ膨張して行った。


「これが地球誕生の瞬間だ。」


「衛星ごときが7つ集まって地球? おいおいワイズマン。流石に俺のことバカにしすぎですよ。文系の俺ですら分かります。そんな訳無いでしょ?」
 俺は正直こんな事ありえないと思った。


「科学が発展した世界で生きてきた君にとってはそう感じるだろうな。しかしこの世界は魔術が発展した世界。ともすれば、この世界の星の誕生は魔術で解明されるべき事実なんだ。

この世界での月が7つとは、神が7柱集まる事を意味する。

1柱の神が創世の為に1日分を担当すると考えれば、7柱の神で7日分。

この世界の地球は7日で完成する。

完成するまでの7日間分の時間を早めて見てみようか。」


 ワイズマンがベラベラ喋った後、目の前でゆっくりと混ざり合っていた塊達は、いきなり速度を上げて完全に混ざった。


 そして、あっという間に陸と海を作り、何か見慣れた物が出来てしまった。


「これで君の見慣れた青い惑星の完成だ。」
 それは確かに俺が知ってる地球だった。本物を外から見た事はないが。


「なぁ。今更ながらの質問なんだが、今ワイズマンが俺に見せてるのはなんなんだよ。」
 流石に宇宙で息が出来るわけが無いし、そもそも世界の誕生の瞬間を見せられるなんて非現実的だ......まぁ非現実的な事ならこれまで幾つも体験して来たが。


「これはこの星の記憶の映像だ。」


「地球の記憶?」
 まるで地球そのものが生きてるみたいな言い方だった。


「地上に行って見れば分かる。」


 ワイズマンと俺は一瞬で場所移動した。いや、厳密にはワイズマンが見せてる映像を移動させただけに過ぎないと言った方が正しい。


 地上では図鑑に載ってるような原始的な生命が闊歩していた。


「なぁワイズマン、俺の世界では未だにちゃんと解明されて無い事なんだが、原子生物の前はなんなんだ?

生命の原初はアメーバみたいな物だろ? その前は鉱物か何か?

アメーバに明確な意思があるかは知らんが、少なくとも俺らは持っている。

そういうものは一体どこからやってくるんだ?」


「君達の世界と一緒とは一概に言いきれないが、こちらの世界では生命の源は月と化した神の存在による。

結合した7つの月......つまり7柱の神は地表に海を創り出す。

何故月の場所の名前に『海』という文字が使われてるかの理由もここから来ている。

結果的に水で満たされるべき場所、それが月の海なのさ。

海が出来たら、月の中に入っていた7つ柱の神は沢山の欠片に分散し、その欠片によって海に原始的な生命が創り出される。

そして生命達は進化を繰り返して、神に近づく。」


「その結果、人間という神に一番近い存在が産まれた......と?」


「そういう事だ。そして地球からまた新たな神が生まれ、月となり歴史は繰り返す。」


「それが今空に存在する2つの月の正体......」


「そうだ。しかし、それが人間の驕りに繋がった。『我々は神に一番に近い存在だから、貴様ら下等種族は家畜になって当たり前』だとな。」


 人間の驕りが戦渦を創り出し......その結果神が月になる事が促進され......滞りなく神の月が増産される。人間の愚かさは......全ては自然の摂理......


「なぁワイズマン。もう1つ質問していいか?」


「なんだ?」


「貴方はこの世界でどんな役割を担っているのですか?」


「私は主に神の代理人であり、創造主に仕える者だ。」


「創造主?」


「この世界そのものを創った者の事だ。」


「ではもう1つ質問。何故貴方は俺の前に現れるのですか? 何故俺は貴方の事を呼んだのですか?」


「それはきっと君が運命の歯車と合致してしまっからだろう。」


「運命?」


「君が次の神になる運命だ。」


「え? 俺が?」


「そうだ。実際、今まで神になった者達は必ずグレイブヤードを訪れ、この星の記憶と意思を引き継いだ。

第一の神の場合、地球が出来た際に塞がってしまい、この場所がちゃんと開いてなかった為に到達するまでにかなり苦労したようだが、第二の神と君の場合は前任者のお陰で労せずして辿り着いた。

第一の神は後世の神の為に黄金の矢で無理矢理塞がったグレイブヤードをこじ開けた。

それが本来閉じてるハズのレイラインも開けてしまったものだから、世界中に高濃度の魔力が解き放たれ、結果的に世界中に大量の魔力が循環するようになってしまった。

人々は高濃度の魔力を解き放つ場所を『奈落』と呼んで酷く恐れた。

魔力が魔獣を強くし自分達の脅威になるから、彼らは怖いものには蓋をして見ないようにした。」


「やめてくれよ! 俺はこの世界の神になんてなる気は無い! 星を創る気なんて微塵もない!」


「別に君の意思は関係無い。君はもう既に運命の歯車の中にいるのだから。」


「黄金の矢に貫かれてしまうのか......?」


「いつかは。」


「月になって次世代の生命の礎になる?」


「それが君の運命だ。」


「なら......矢の破片を埋め込まれた2人......フランとサギの過去を俺に見せてくれ。

俺がいつ射抜かれても満足出来るように......」


「良いだろう。」

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