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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode17 World history

 俺はアジト中のカーテンを締め切り、鏡という鏡に垂れ幕をつけた。

「おいおい、なんだって昼間っからこんな暗くするんだ。」

 事情を知らないホロウは文句を言ってきた。

「これから俺が知りうる限りの情報全てを話します。」

「どういう事だ?」

「俺ら、もとい俺は今ある男に狙われています。

その男は鏡や窓といった反射する物に映ったものを鏡の中の世界に引きずり込む能力を持っています。」

「それで?」

「......そいつはわざと俺の事を逃がしました。

そしてそいつは『いつでも殺せる』という旨のセリフを吐いてどこかに消え去りました。

勝てる気がしなかったのです…...」

 俺の中では未だに奴の声がこだましていた。

「なるほどな。」

「圧倒的だとも思いました…...」

 奴の笑い声が、言葉一つ一つが俺の中の何かを盲目的にさせていた。

「そいつは......三流だな。」

「え?」

 それは啓蒙だった。

「三流だと言ったんだ。獲物の前で舌なめずり。しかも慢心しきっている。

そんな奴、三流と呼ばずしてなんと呼ぶ。

本物の強者は常に慢心せず、みすみす勝機を逃すようなマネはしない。」

 ホロウから与えられた新たな視点。

「奴が......三流......」


「そうだ。俺なら少なくとも最初の交戦で確実に息の根を止める。

獲物の前で笑ったり泣いたり怒ったり喜んだり、感情を表に出すことも絶対にしない。」


「怒ることも......ですか?」


「そうだ。怒ることで力を引き出すことは可能だが、それに溺れたら本末転倒だろ?

常に内在する感情の激流を忍ぶ。これが忍者の基本だ。」


「......忍者......」


「俺だって抜け忍とは言え、元は忍びの里で鍛えていた人間だ。

忍者の端くれとして、基本を忘れるべからず......ってな。

俺はお前を忍者に鍛え上げるとか、そういう腹積もりは一切ない。

だけどな、三流相手にへこたれるようじゃ、そもそもこのギルドにいる資格もねぇよ。」


 突き放すような物言いだ。「お前はあの鏡男に相対してないだろう。」とかそういう反論をすることも出来たが、実際のところホロウの言ってることは正鵠を射ていた。

「そうですね......俺はここにいる資格も無いのかもしれない......」

 俺の力は最強を目指せるかもしれない、だが無敵ではないと悟った。

 俺は俺の能力を使いこなし切れていない......あの鏡男1人すら倒せないなんて......

 鏡の中の男......鏡......反射......いくらワードを頭の中で並べてみても、打破する方法が見つからなかった。

 何の外の力を行使すればあいつを引きずり出せるのか......


「......ホロウ......貴方は人を殺した事がありますか?」

 ふと、俺は疑問に思った。今まで魔獣や獣人しか殺して来なかった俺が、いざとなった時に人を......純粋な同族である人間を殺せるのかと。

「ちょっと! アザムキなんて事聞いてんのさ!」

 サギがホロウを庇うように俺の質問を潰そうとした。


「......ある。」


 その場にいた者は皆、言葉を失った。だが、俺は質問を続けようと思った。人を殺した事のある人の気持ちを知りたいがために。

「殺した人間の数を覚えていますか?」

「詳しくは覚えていない。だが、里1つ分の人間を皆殺しにした。」

 里1つ分......それは俺の予想していた答えよりも多い人数だった。

「......何故ですか?」

「......全員始末しなくてはならなかったからだ。」

 その瞬間、彼の表情に翳りが見えた。

「では、このギルドに入ってから人を殺した事はありますか?」

「......無い。」

 その場にはとてつもなく重い空気が流れた。サクリはともかく、サギやクーネも驚きを隠せない表情をしている辺り、あまり人前では話してこなかったのだろう。

「シナトラは知ってるのですか?」

「どうだろうな?」

 彼は誤魔化すように言った。彼の平生のあっけらかんとした態度や、飄々とした振る舞いからは考えられないような言葉の重さだった。いや、隠していたのか。

「ホロウは自分を隠すのが上手いですね。」

 俺は褒めたつもりで言った。

「あ?お前それ皮肉か?」

 彼の眼光が俺の双眸を貫いた。その目には殺気がこもっていた。

「お前が仲間じゃなきゃ、さっきの発言の2秒後にお前だったものが辺り一面に転がってたぞ。」

「すいません。皮肉のつもりで言ったわけじゃ......」

「もういい。この話はおしまいだ。」

 ホロウの事を怒らせてしまったようだ。彼は自室に入っていき、誰とも話したくないという意思をまざまざと見せつけてきた。



「クーネ、サギ。あの事知らなかったのか?」

「うん......今まで1回も言わなかった。言う機会が無かっただけかも知れないけど…...」

クーネはそう言うと、下を向いてしまった。

「......ホロウが里の人を皆殺し......抜け忍ってのは前に聞いたことあったけど…...彼にも色々あるんだね...」

 サギもこの事についてはこれ以上掘り下げたくないようである。


 そこで俺は、別の質問をする事にした。

「......なぁ、サギとクーネ。どっちがこのギルドの古株だ?」

「え......? 私......だけど?」

 答えたのはサギの方だった。

「できる限りでいいから、このギルドの事を詳しく教えてくれないか?」

「......そうだね。アザムキにはまだ話してなかったね。

 私はこのギルドの創設時にいた数少ない初期メンバー。

最初はシナトラとホロウと私と......もう辞めちゃったけどもう1人いてね。

みんなシナトラに惹かれて集まったんだ。

彼女は......天性の人たらしだよきっと。」

 サギはどこか遠い人物を見るかのような目をしていた。

「人たらし......?」


「あ、あぁ気にしないで。
私の後に入ってきた順番は、クーネ、フラン、アザムキ、サクリの順だよ。

クーネが入る頃には、あの人は......フェルトはここから抜けて行ったけどね。」


 フェルト......? ゲオルグの上司はこのギルドの元メンバーだったのか......?


「フェルトが抜けてからシナトラは変わった…...

シナトラは人たらしであるのと同時に、自分の思い通りにならないと気が済まない人だったんだ......

一時期凄く荒れてて、どこかに行っちゃう事が多かった…...あんなシナトラ見たのは後にも先にもあれが1度きり......

クーネを連れてきてから元に戻ったけどね。

そんな時......代わりに纏めてくれたのはホロウだった。

いつもおちゃらけてて、でもどこか紳士的で、抜け目が無くて、面白い人だった…...てゆうか今もそうなんだけどね。

そんな彼が里の人を皆殺しなんて......信じられない......」


「分かった。ありがとう。」

 サギは信じられないというより、信じたくないという感じの表情だった。

 彼女は話し疲れたのか、近くにある椅子に座った。

 そこでクーネは気を利かせてサギにコップ1杯の水をあげた。


「......三流......」

 俺は彼の言葉を頭の中に据え置いた。ふと、俺はリビングの本棚の方に目をやった。

 時々ホロウが本を読んでいた事を思い出したためであった。

 本棚に置いてある本の背表紙を眺める限り、歴史書や調合の本などが多いと感じた。

 俺はその中から歴史書を1冊、調合指南書を1冊抜き取った。

「......なぁクーネ、紙と万年筆を貸してくれないか?」

「ん......別にいいけど? はい、紙と万年筆。」

「ありがとう。」

 俺は紙と万年筆と本を持ち、自室に入っていった。


 机の上に紙と調合指南書を置き、まずは歴史書から目を通す事にした。











その昔まだ空に月は無く、地上に動物と人間しかいなかった頃。

ある土地に神が舞い降りました。

人間はとても傲慢で動物達を支配しており、そうすることが当然だと思い込んでいました。

そして、傲慢な人間同士での争いが耐えないような世界でありました。

人間同士は言葉が違う、種族が違うと、何かが違うという理由で争いを続けていました。

神はとても心を痛めました。

心を痛めた神は黄金の矢で自らの胸を貫き、月になりました。

その日、世界中の動物達に変革が訪れました。

月となった神は力を最大限に使い、世界中の動物達に選択を与えました。

魔獣として進化するか、獣人として進化するか。

人間への恨みを持つ動物は魔獣として進化しました。

一方、人間と仲良くしたいと思う動物は獣人として進化しました。

空に1つ目の月が現れた日、その日から世界は変わり始めました。

人間同士の争いは人間と魔獣の争いに変わり、

獣人の多くは、人間が使う言葉を上手く言えない為に奴隷にされました。



そこに2人目の神が現れました。

2人目の神は前任の神が命をなげうって変えた世界でも、人間はこんなにも愚かしいのかと絶望し、どこかに逃げてしまいました。

しかし、神はある女を連れて戻って来ました。

民衆達は逃げた神を非難し、更に連れてきた痣のある女の事も憎みました。

そして今度は人間の手で神に黄金の矢を神に放ちました。

2人目の神もまた、月となりました。

2人目の神は2つ目の月となると、力を使って世界の言語の差をなくしました。

すると、言語の差が無くなると獣人と人間は分かり合うことができ、更に異なる言葉を使う人間同士でも分かり合うことが出来るようになりました。

そして世界は発展していきました。











 歴史書のある1ページを読んでみたが......なんて言うか......昔話みたいな感じの歴史書選んじゃったかな…...でも、大体の事は分かった。

 俺は床に敷いたままの布団に目をやった。

「......こんなに発展してもなお、奴隷が必要なのか......」

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