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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode12 Malignant force

 管理局に入ると流れるように応接室に通された。

 そこではさっきの馬車の中よりも重たい空気が場を支配していた。

 木造の綺麗な部屋で、新調されたかのような美しい調度品ばかりが目に入ってくる。

 椅子ひとつとってもそうだった。綺麗に彫り込まれた肘掛けが両端にくっついていて、今にも動き出しそうな魔獣のレリーフが背もたれに埋め込まれていた。

「なんか、すごく緊張します…...こういうのあまり慣れてなくて......」
 俺はシナトラに自分の心を赤裸々に語った。こういった感じの空気はほとんど初めての経験であり、これからあまり体験したくないと思った。

「まぁ、少しの辛抱だ。君は特にやましい事をしていいだろう?」
 俺はシナトラの言葉を、普通の質問としてか、おちょくって言ってるのか、どっちか察しかねた。

 シナトラは掴み所が無くて本心が察しにくい。悪い人では無いと信じたいが......

 そう考えていると、いきなり扉が開く音がした。扉の方を向くと、そこには2人の女がいた。


 俺は思わず息を飲んだ。緊張していたせいもあるが、その実、何か別の感情があったことを自覚していた。

「こんにちは。中央庁から来ましたラピスです。」

「同じく、中央庁から来ましたラズリです。」

 そこにいた2人は簡潔に自己紹介をした。ラピスと名乗った女性は金髪碧眼の美女といった感じで、ラズリと名乗った女性は長い黒髪が綺麗な美女といった感じだった。

「こんにちは。実力至上主義ルドのシナトラです。」

「こ、こんにちは。同じく、実力至上主義ルドのアザムキです。」

 シナトラが自己紹介をしたので、俺は自分もしなくてはいけないという強迫観念に似た感情に至った。
 結果、コミュ障みたいなオドオドした自己紹介になってしまった。

 2人は事務的な真顔を保ったまま椅子まで歩いていくと、そのまま静かに座った。

「どうぞ。」
 とラピスに促され、俺らも座った。


「えー、今回アザムキ氏を指名してこちらに来てもらったわけですが…...」
 おもむろに説明を始めたのはラズリの方だった。と同時にラピスはさっきから持っていた鞄から何か紙のような物を出した。

「ハイ......」
 すごく堅い気持ちと面持ちで返事をした。どうにもこういう雰囲気は嫌いだ。

「まずはこちらの紙に目を通して下さい。」
 ラピスは俺とシナトラに紙を1枚ずつ手渡した。

 紙に書かれている内容は要約するとこうだった。
 最近俺が狙われているというもので、敵意ある第3勢力の仕業である可能性が高いこと。
 俺が狙われている理由としては、最初から高難度クエストをこなしてみせたり、実力至上主義ルドという限られた人間にしか入れないような所にいきなり所属しているかららしい。

 つまりは......出る杭は打たれるという事か?

「我々がこの事実をいち早く発見出来たのは、空からの報告があったためです。」
 ......あの鳥頭......俺の周辺を嗅ぎ回ってたのか? いや、俺の事を守ってくれている......? とにかく後で事実確認を行うとするか…...

「我々は貴方に保護されるか否かを問う義務があります。」
 ラズリがそう言うと、ラピスは別の紙と万年筆を俺に渡した。

 中央庁の保護を受けるか受けないかという内容だった。

 数瞬、頭の中で色んなことが駆け巡った。

 クーネから聞いた話や、さっき賊達が俺らを襲ってきたときに木陰から覗いていた人間の事など。

 色々考えていると保護を受ける方に丸をつけたくなったが、そこでまた手が止まった。
 考えたくはない事であるが、シナトラや中央庁の2人がグルでは無いか? と疑い始めた。
 今この状況で救済処置を提示してくれるのはありがたいが、出来すぎな気もする。あの時の木陰からの視線、腹の底が見えないシナトラ。疑い始めると全てが信用出来なくなってきた。
 そして俺はゆっくりと万年筆で丸を描いた。

「......分かりました。本人の意向に私達が特に口出しをする権利はありません。
では、保護を受けないという形で受理させていただきます。」
 ラピスは紙を鞄にそっとしまった。

 そこでさかさずラズリは新たな話を切り出した。
「ここ最近、この世界の情報が回るのが異常といっていいほど早いです。目をつけられるような目立った行動は控えるべきだと一応進言しておきます。」

 俺が狙われている理由......もっと根幹に別の意思が絡んでいる気がする......考えすぎか?

「最近、力のあるギルドを狩る『高ギルド狩り』なるものが一部で流行っています。」
 ラピスは数枚の写真をテーブルの上に乗せた。

「実は、私達のギルドも何回かこれの被害にあったことがあってな。
ごく最近の例を挙げるならば、フランとサギが行った『催淫キノコの納品』で襲われたって事があった。この事はホロウとクーネには話していない。」
 シナトラが例を挙げて説明してくれた。
 そもそも俺らのギルドが狙われていて、その延長線として俺も狙われた?

「それは組織的な行動ですか?それとも各地で勃発している個人的な行動ですか?」
 俺は恐らく前者であろうと踏んでいた。しかし、聞くことに越したことはない。

「恐らく前者です。それも大きな組織でしょう。」
 ラズリが答えてくれた。ふむ......なるほどなるほど。

「......私達中央庁やギルド管理局も少なからず被害を受けています。ごく最近に起きた連絡船襲撃事件なども、その組織が絡んでいるという報告もありました。」
 ラピスは苦虫を噛み潰したような表情で、とても気まずそうに話した。

 その組織の狙いが分からないな…...力のあるギルドを狩って何になる? 管理局や中央庁を襲撃して何になる? まだ不透明な事が多いな…...これも鳥頭の協力が必要か…...

「本日は以上です。ありがとうございました。」
 ラピスがそう言うと、2人して頭を下げた。

「こちらこそ。ありがとうございました。」
 シナトラがそう言うと、俺とシナトラも頭を下げた。



 管理局の外に出ると、思いっきり空気を吸い込んでから、晴れやかな気持ちと共に伸びをした。

「それじゃ、帰りましょうか!」
 さっきの鬱屈した感じとは打って変わって、俺はいくらかスッキリした気持ちだった。

「そうだな。」
 シナトラは少しだけ口角が上がった、微笑んだ顔でこちらを向いた。

「サギに連絡を入れて迎えに来てもらおう。」
 シナトラは腕から輪っかを外して、操作し始めた。

 俺はなんとなくそこら辺を眺めていると、一瞬で空気が張り詰める感じがした。


 どこかから誰かに見られているような気がする。誰だ......誰が見ている?

 周りに睨みをきかせていると突然

「そこにいる女を捕まえろ!!!」

 と怒号が乾いた空気に響いた。


 俺がその怒号で見られている感じがかき消されてしまったのと同時に、誰かにしがみつかれる感じがした。

「おっ!?」
「助けてください! もう奴隷の生活は耐えられない!」

 いきなり必死の形相で懇願されて、俺は答える言葉を失った。

 彼女の顔には、もうこれしか無いという強迫観念に近い覚悟のようなものを感じ取れた。

「分かった。とにかくアンタをこれ以上苦しい思いにはさせないから。」
俺はそう言うと、シナトラの方をチラと見た。

 シナトラは俺の考えに同調するように、何も言わずに頷いた。

 管理局の建物の陰から何人かの男達が姿を表した。

 この女があいつらに追われているのは容易に察しがついた。

「少しだけ静かにしててな。すぐに終わる。」
 そう言うと俺は認識の外の力をそいつらに行使した。

 奴らの認識を阻害させる事で女の子を見えない状態にする......それが最も平和的に解決する方法だ。

 ここは管理局の目の前。手荒な事はできない。

「おいお前。ここにボロボロの服を着た奴隷の女が来なかったか?」
男達は肩で息をしながら俺に尋ねてきた。

「あー、それっぽい女の子なら......」

 俺が言おうとすると、その子は不安がるように俺の袖を掴んできた。相当怖いんだな。

「......キーオート自然保護区の方に走って行きましたよ。」
 俺は割と平気で嘘をついた。良心は傷つかなかった。

「そうか。おいお前ら行くぞ!」
 そいつらは礼をひとつもせずに走り去って行った。

「礼ぐらいして行けよな。子供ですらありがとうって言えるぞ。」
 と俺がボヤくと
「ありがとうございました......貴方は命の恩人です......」
 その子が礼を言ってくれた。

「いや、そういうつもりで言ったんじゃ無いんだがな。
まぁいいや、俺はアザムキ。で、こっちにいるのがシナトラ。よろしくな。」
 俺は軽く俺とシナトラの紹介をした。

「私の名前は......サクリです。よろしく......お願いします......」
 すごく縮み上がってどこかよそよそしい感じがした。相当辛い目にあったに違いない。

 元の世界にいた時に聞いた、虐待を受けた子供の特徴に似てる特徴があることに気がついた。

 身体中痣とか擦り傷だらけだし、着ている服もボロボロで一目で奴隷だと分かる。

「よっと!」
 いきなり何も無い虚空からサギが現れた。するとサクリは怯えた表情で俺の後ろに隠れた。

「さっ! 迎えに来ましたよ。帰りましょう。」
 何も知らないサギはいつもの感じで帰ろうとしたが、今はちょっとだけ事情が違った。

 そこでシナトラはサギに短く簡潔に状況を説明した。

「サクリ。君はどうする? これから私達と一緒に暮らすか、ここで別れて1人で生きていくか。」
 シナトラはサクリの2つの選択肢を与えた。

「......一緒に行かせてください。お願いします......」
 弱々しい声だったが、その声は確かにサクリの意思そのものだった。

「よし分かった。じゃ、帰るか。4人で。」

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