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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode9 Maid & hunter

 俺が何気なく発した「文化祭」というワード。それに反応した人間は意外な人物だった。

「ねぇ? 今なんて言ったの?」

 摩耶を馬鹿にするのに夢中になっていた俺を現実に引き戻したのはクーネだった。

「ハッハッハッハ…...フゥ…...フゥ…...え?何が?」

 笑いを抑えて、何とか会話が成立するレベルにまで気持ちを落ち着けたが、笑いすぎて大脳新皮質がちゃんと働いてなく、何を答えていいのか分からなかった。

「だから。さっきあの子に言ったセリフ。なんて言った?」

 なんで俺が摩耶に対して発言した内容をクーネが言及するのかイマイチよく分からなかったが、とりあえずさっきのことを思い出した。

「えーと、メイドみたいな格好してるくせに?」

 今さっきの発言と言ったらこれかな?

「違う。それの前。」

 違ったか、その前…...?

「あ、あーと、来年の文化祭それで出ろよ?」

 こんな感じのことを言ったんだっけかな?

「そうそれ。なんで貴方が文化祭なんて言葉知ってるの?」

 ん? 文化祭? どこか変か?


「ん?つまりどういうことだ?」

 俺はクーネの言ってることの本質を察しかねた。


「なんで貴方が私のいた世界の単語を知ってるのかって事。」


「え?」

 短い問答をしただけなのに何か不味い予感がした。

 そうだ。文化祭という概念は本来こっちの世界には無い。
 感覚がマヒしてる俺は、うっかりこっちの世界には無いワードを言ってしまっていたんだ。
 そして、クーネが言った『私のいた世界の単語』という言葉。

「私はこの世界の住人じゃなかった。外の世界から来たの。
アザムキも同じなんじゃないの?文化祭なんて言葉をこっちの世界の人が知ってるとは思えないわ。」

 クーネの鋭い言葉に俺は口を噤んだ。俺が話さなくてもいずれはバレるかもとは思ってたが、まさか今バレてしまうとは......

そしてまさか俺ら以外にも外から来た人間がいたとは......桃の木すら生えそうな勢いだ。

「すまない。ただ隠すつもりはなかった。
俺は言う必要が無いと思ってただけなんだ。」

 それは本心だった。無闇矢鱈に「俺は異世界から来ました〜」なんて言い広めるのはアホのする事だ。

「そっかそっか。分かったよ。」

 クーネは俺の言い分を聞き入れてくれた。そもそもクーネは怒るというより、俺に猜疑心を抱いているという感じだった。
 しかし、まぁなんとかなったようだ。言ってなかった俺も俺で悪い。

「おい! 痣剥爪跡! こっちの質問にまだ答えてもらってないんだけど!」

 不意に、摩耶が俺の事を呼んだ。後で気がついた事だが、摩耶に名前で呼ばれたのはこれが初めてだった。

「あー。なんでここにいるんだ?って質問だったな。」

 そう言えば質問を有耶無耶にしてしまった事を思い出した。

「そうそう。私はシュバルと一緒に自然保護区の観察に来たわけだけど、あんたもしかして欠片探ししてるわけ?あんたの事よく知らないけどさ、当てずっぽうで欠片探ししてんのかなーなんて少しバカにしてたよw」

 このクソ女が......俺は俺なりにギルドに入るなり、ふわふわ飛んでる奴に協力させて色々と努力してんのに......

「へぇ......俺は俺なりのやり方でやらせてもらってるよ。」

 フツフツと沸き起こる怒りをなんとか抑えて、平常心を装って話した。

「私はすごーく効率的なやり方で欠片探してるよ。アンタには絶対真似出来ないような方法でね!」

 俺の神経を逆撫でするようにわざわざ最後の方を強調して挑発してきた。
 こいつ......ほんまクソ。

「へー、そうなの?」

 どうでもいいですよオーラ全開で聞き返した。別に聞かなくていいけど。


「折角だから教えてあげるよ。
私の能力は『既知領域を支配する』能力。
この力を使ってこの世界の植物一つ一つから少しずつ魔力を分けてもらってる。

知ってる? この世界の魔力は水みたいに色んなところを循環してる。だから普通の植物でも多少は魔力を持ってるってわけ。
これで私は魔力切れなんて気にしなくていいし、後は支配した植物を使って私の欠片を探すだけ。
どう? とっても効率的だとは思わない?」

 なるほどな。クソ女の割には頭使ってるじゃないか。シュバルと一緒に行動してるのは、恐らくシュバルがこの世界で1番身近にいる植物に詳しそうな人物だったからだろう。

「ふーん。そんなにベラベラ喋っていいのかよ?」

 俺ならこんなに話さない。特別な理由がある時以外は。

「別にいいよ。あんたと利害が衝突するのだけは避けたいから、こっちの思惑を教えただけ。
どうせあんたの能力なんて大したこと無いだろうから、そもそも私に歯向かうことなんて出来るわけないだろうけどね〜www」

 なるほどね。どうやらこいつは自分の能力で慢心してるようだ。ゴミですね。

「そーかいそーかい。オッケーオッケー。分かったよ。」

 俺はアメリカ人みたいに両肘を曲げて、両手の平を空に向けてリアクションした。既知領域を支配する能力ね......俺は未知の領域、つまり外の力を行使するけどね。

 そこでふと思う所があった。つまりあいつは認識出来る限界が弱点であり、逆に俺は認識の限界が強みである。
 既知領域という、簡単に言えば『中』を支配するあいつに対して、『外』の力を行使する俺。
 あいつの支配がどのくらいのレベルかは知らないが、常時ありとあらゆる植物を操ってるらしいから相当な力である事は推察出来る。

 色んな意味で反対の能力を持った俺ら。もし能力の発現が性格に左右されるというのならば、あいつとそりが合わないのも納得出来る。

 あいつが生徒会のメンバーである事は少なからずあいつの支配欲が起因しているものと思われる。それにあいつは多分目に見えるものを信じる傾向にある。
 対して俺は常日頃から目に見えない、つまり形而上の存在や枠や壁の外といったものを考えたりする傾向にあった。

 さらに深く考えると、俺は文系である。学校で摩耶と面識が無かったのは、多分あいつが理系だからだ。
 筋道立てて考えると、つまりはそういう事である。目に見える数式などを得意とする摩耶。目に見えない心情の読み取りなどを得意とする俺。
 価値観の違いがあって当然である。

「クーネ、もう行こうか。シナトラとホロウを探さなきゃ。」

 俺はこの場を離れようとした。あんまりこいつと顔を合わせたくない。

「うん。行こっか。」

 クーネも賛成してくれた。摩耶がホントにクソ過ぎてクーネが天使に見えてきた。
 あれ? クーネめっちゃ可愛くね? ヤバい。惚れそう。

「じゃあなソウセキ!」

 今まで口を出さなかったシュバルが別れの挨拶を言ってくれた。

「元気でなシュバル! そのクソ女の事頼んだぞ!」

 シュバルの性格も俺は好んでいる。快活でサッパリとした性格で、なんであんなクソ女と一緒に行動してるのか疑問に思うくらいだった。
 クソ女には一瞥もくれてやらなかった。それは向こうも同じだった。



 俺とクーネはカエデのセンサーを頼りにシナトラ達を探すことにした。

 自然保護区というだけあって、そもそもここの面積自体が広く、なおかつあまり景色が変わり映えしない。

 正直に言うとつまらなかった。俺は植物とかあまり詳しくないし、自分から興味を持ったことがなかった。

 だからとりあえずクーネと会話する事しながら歩くことにした。

「クーネも外の世界から来たって言ってたけど、クーネは元の世界からどうやってここに来たの?」

 さっきからずっと思ってた疑問だった。普通の人間が簡単に世界を超えるなんて出来るわけないだろうと思ったからだ。

「私は......」

 クーネは何か言おうとして、そこでキュッと口を噤んだ。

「ん?」

 言いたくないことでもあるのだろうか?

「私は......見初められたの。こっちの世界の神様に。
おとぎ話みたいだけどホントの話。
元の世界にいた頃、いじめられてた子を助けた事があって、その子が実はこっちの世界の神様でした。って。
いきなり言ってきてさ......もうわけがわからないよね。
そして私をこっちの世界に連れて行きたいって。
最初は拒んだ。あなたの世界になんて行きたくないって。
でもふと思ったんだ。この世界にいても幸せになんてなれないや。って。
昔は色々あった......ホントに色々と。家族ですら私の本心に気づいてくれなかったし、意味無いや。って思えたんだよね。
こっちの世界来てからも色々あった。私がこっちの世界に来たばかりの時は空に見える月は一つしかなかったのに......」

 そこでクーネはまた黙ってしまった。何か思い出したくないことでもあるのだろうか。

「そっか。クーネが話してくれたから、俺も俺のこと話すよ。
俺はさっきいたあの女と一緒に事故ってこっちの世界に来てしまったんだ。
転移の時に事故っちゃったもんだから俺とあいつの精神はバラバラになってこの世界の至る所に散っていった。
俺はそのバラバラになった自分の欠片を取り戻す事を目的にしてる。
このギルドに入ったのもそれが理由だ。ギルドに入ったり色んな人と一緒にいれば散っていった俺の欠片も集められるだろうってね。」

 俺は今まであったことをありのままに述べた。

「そうなんだ......なるほどね。」

 クーネは先程に比べていくらか元気が無いように見えた。

「大丈夫か?」

 もしかしたらクーネは俺よりずっと辛い境遇にいるのかもしれない。

「アザムキになら見せられるかも......」

 クーネは独り言のようにそう呟くと、右腕の袖を捲った。

 俺の目に飛び込んできた可憐で儚げな腕は、巻き付くようにとぐろを巻くように太く黒い線がついていた。

「この痣は神様に見初められた証。私が死ぬまで消えない。それに、実を言うとこの痣は右腕どころか私の体中に走ってる。
神様の加護を受けると同時に、私は周囲からの好奇の目という籠に捕らわれた。
だから誰にも見られないようにずっと隠してた。」

 クーネは俺に見せると、サッと袖を元に戻した。誰にも見られたくないようなものを俺には見せてくれた。俺は彼女の理解者になってあげるべきだと確信した。

「そうか。俺とは違う意味で辛い境遇にあったんだな。そりゃ辛いよな。」

 俺はクーネの頭をそっと撫でた。短めに切りそろえられた黒い髪の毛はとても艶やかだった。

 クーネは何も言わずに俺に抱きついてきた。俺も何も言わなかった。言うだけ野暮だと思った。

「......辛かった......元の世界の人は誰もいないし、人間だか分からないようなやつにまで蔑まれるし、心が折れそうだった…...シナトラが私を拾ってくれるまで、誰も信じられなかった......私を連れて来た神様は醜い人間共に月にされるし、右も左も分からないし......
アザムキと最初会った時内心凄くびっくりしたよ......学生服だったし......
でも確信が持てるまではこの話は出来なかった…...。」

 クーネは自らの辛い過去について吐露した。クーネは探していたのである。自らと同じ外の世界からやって来た人間を。
 そこから更に少しずつ、クーネは過去について吐露して言った。

 聞くところによると、彼女は元の世界でも幸せじゃ無かったようだし、こっちの世界に来ても辛いだけだったようである。

 俺は静かにそれを聞いて、ずっと慰めていた。そして2つある月の話も聞いた。


「空にある月は神様の遺体を保護するための物。月の力は絶大で2つある月を支配してしまえば地上を支配したも同然。あの月には醜い人間が住んでいる。」

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