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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode8 Wing observer

 俺は失った純粋な怒りを取り戻し、ついでに魔獣の死骸から魔力を吸い取った。


「シナトラ達を探さなくてはな。」

 クーネとは無事合流出来たが、まだシナトラとホロウと合流出来ていない現状だった。

「うん。どこにいるんだろ?」

 クーネは周りを見回しながら話した。んー、見えるわけは無いとは思うが突っ込まないでおこう。きっと彼女なりの茶目っ気とやらなんだろう。

『サーチ完了しました。半径2㌔圏内に複数の呼吸を探知。魔獣7体と人間3人が確認出来ます。』

 カエデはクーネに負けじと自分の仕事を淡々とこなしてる。
 なるほど、恐らく交戦中だな。あの二人だから援護は必要無いとは思うが、一応そこに行くか。

 ん? 俺ら以外に3人?


「貴様か。空の境界を超えた違反者トレイターは。」

 いきなり後ろから声をかけられ、俺らは振り向いた。

 そこには翼が生えた人間が1人立っていた。周りには誰にもいなかったので、話しかけたのはこいつで、話しかけた相手はきっと俺だろう。

「ん?何のことですか?」

 何のことやら分からなかったのでとりあえず聞き返してみた。

「質問を質問で返すな!!
俺は貴様が空の境界を超えたかどうかを問うている! 先程地上の人間が空の境界を超えたのを観測した!」

 かなりの気迫だったもので、俺は少しばかり縮み上がってしまった。

「あー、すみません。その空の境界とやらが分からないんですけど…...」

 何のことを聞かれているのか本当にサッパリだったので、会話が成立するように説明を求めた。

「貴様! 空の境界も知らんのか! さては蛮族だな!」

 そいつはいきり立って腰に携えてあった剣を抜いた。
 蛮族はどっちだよ。俺の話聞けや。

「あー! すみません! 少しだけ時間下さい!」

 俺と鳥頭の間に割って入ってきたのはクーネだった。
 俺に補足説明してくれる時間でもくれるのだろうか。

「貴様もこいつの味方か!!!」

 そいつはもう頭に血がのぼりまくって、鳥なのに猿と化してた。
 ゲーセンにいる台パンチンパンと大差ねぇな。

「少しだけ! 少しだけ時間下さい!」

 クーネは必死に頼み込んだ。なんで俺なんかのために。

「ぐあぁああああああ!! こいつを庇う貴様も同罪だ! 斬り捨ててくれる!!!」

 そんなクーネの態度を無視してそいつは剣を振り下ろそうとした。
 チッ…...めんどくさ。


認識の外の力を


行使する。


 するとそいつは身動き1つ取れなくなった。


「ん!? これはどういうつもりだ!!! 離せ! 離せ! 離せええええええええええええ!」

 ほんっっっとうるさ。


「うるせぇよ! ちったぁだまってられねぇのか! このクソ鳥頭! 今夜の晩飯唐揚げにすんぞ!」

 俺はついにブチ切れた。欠片のうちの怒りの部分を取り戻したためか、心の底から怒りの感情を吐き出せた気がした。

 俺がブチ切れると、そいつはいきなり大人しくなった。そしてブチ切れた後特有の気まずい静けさがその場を支配した。


 そんな気配を察したのか、クーネは音を立てないように俺にゆっくり近づいてきた。

「アザムキ。この人が言ってた空の境界って言うのはね、私たち地上に住む人達が超えてはいけない高さのラインのことなんだ。
私たちがその高度以上に行ってしまうと捕まっちゃうんだ。この空の監視者達に。」

 クーネがヒソヒソと俺に耳打ちしてくれた。

「なるほど。そういう事だったのか。」

 更にクーネはこう続けた。

「私たちの住むこの星には2つの衛星があって、それが常に私たちを管理してるの。
いろいろあってこの星の生殺与奪の権利は全てその2つの月に握られてる。
それで私たちが月に反逆しないように空に監視する役目がいるってわけ。」

 そうか。あの夜見上げた2つの月の番人か。

 俺はゆっくりとそいつの拘束を解いた。恐らくこいつが言ってるのは、俺がさっき思いっきりジャンプした時のことだろう。
あのときは少々跳びすぎてしまったから。

「あー。すみません。色々酷いこと言ってしまって。でも自分ホントにこの世界のことよく分かって無くて。空の境界とか初耳だったんですよ。」

 とりあえず俺は謝った。一時の感情とは言えかなり酷いことを言ってしまったから。

「ぃぇ…...」

 そいつは聞こえるか聞こえないか分からないレベルの声で返事をした。
 さっきの俺のマジギレがこたえたのだろうか。先程までの威勢はどこへやら。

 いかにも正義感だけが突っ走ってしまったって感じの顔ですごく反省しているようだ。

「すみません、時々あるんです。自分が正しいんだって思い込んで独断専行してしまうことが。」

 そいつは申し訳なさそうに握っていた剣を腰にある鞘に納めた。

 どうしてこう警察ってのはイライラさせるかね。
 どこの世界行っても同じじゃねぇか。クソッタレが。

 俺はゆっくりと深呼吸すると、そいつを睨みつけた。
「とりあえず俺はその空の境界とやらを超えたかもしれない。ただハッキリとは分からない。それにほとんど事故みたいな感じだったし、ここはお互いこれ以上波風立てずに穏便に終わらせようじゃないか。」
 俺は上手いこと言いくるめようとしてみた。実際相手もこれ以上踏み込んだことは出来ないだろうし、割と俺の方が優勢な気がした。

「そうですね…...では私はこれで…...」

 そいつは俺らに背を向けて、飛ぶ体勢に入ろうとした。

「おい、俺はまだあんたに帰っていいって許可してないぜ?」

「「え?」」

 クーネと鳥野郎はほぼ同じタイミングで疑問の声をあげた。

「俺から少しばかり条件を出すよ。
この事はお前さんの上には内緒にしておくこと。それと、今後人格を持つ特異種の魔獣が現れたら俺に報告すること。
この2つの条件を飲んでもらおうかな。
ま、飲み込めなかったときは…...」

 俺は静かにそいつの肩に手を置いた。

「 分 か る よ な ? 」

 条件を出した理由は単純だ。空の監視者共を敵に回すのは面倒だと思ったことと、空から監視してるなら逆に利用して魔獣探しに役立ってもらおうと思ったからだ。

「は、はぃ…...それはもう、もちろん…...」

 そいつは異様なくらいにビクビクしてた。そんなに俺のブチ切れが効いたのか?

 俺は有無を言わさず、そいつの腕につけてあった輪っかを俺の輪っかでカチンと鳴らした。

「よし。じゃ、戻っていいぞ。」

 俺はそいつの肩をポンと叩くと、そいつはビクビクしたまま飛んでいった。



「アザムキ。さっきの凄かったね。」

 俺はクーネが何を指して言ってるのか推測しかねた。

「ん?さっきのブチ切れたやつのこと?」

 俺が思い当たるのはそれくらいだった。

「そうそう!アザムキがブチ切れた時に守護霊みたいな像が出てたじゃん。」

 何を言ってるのか微妙に分からなかった。

「ぉん? 何のことだ? 俺は普通にブチ切れただけだぞ?」

 俺はあの時、鳥野郎を拘束する目的以外に能力は使ってなかった。
 クーネは俺の怒りを可視化したとでも言うのか?

「んー…...確かに見えたんだけどなぁ…...魔獣の形をした守護霊みたいな像が。」

 魔獣、守護霊…...まさかな。と思いつつ、検証してみたくなった。

「クーネ、少しだけ時間くれ。」

「ん? 別に構わないよ?」

 俺は今まであったイライラする出来事をより沢山思い出した。さっきの鳥頭のことや、摩耶のことなんかも思い出した。

そして

「ぶち殺すぞこの野郎!!」

 積もった怒りを魂の咆哮に変えて一気に解き放った。

 すると俺の目の前にさっき殺した筈の魔獣の姿が見えた。

 その姿はハッキリとしていなく、まるで煙のような感じだった。しかし確かにそこにいると認識出来た。


 そこで俺は、欠片を取り込んだ魔獣の力を一部使えるのでは? と推察した。

 俺の欠片は一時期とは言え、その魔獣と繋がっていた。

 つまりは欠片に残留した魔獣の思念とでも言うべきものが、俺が取り戻した後でも残っていると思った。

 怒りの感情で先程の獅子のような魔獣を発現することが出来た。

 可能性の話ではあるが、俺の欠片を取り込んだ他の魔獣から取り返した場合、欠片に応じてその魔獣の力を発現することが可能かもしれない。

 さっきのは俺は認識出来なかった。恐らく無意識のうちに発現していたからだろう。

 筋道立ててそう考えると、あの鳥頭がビクビクしてた理由が分かった。

 奴はきっと俺が無意識のうちに発現した魔獣を見て腰を抜かしたんだろう。と。

「なるほどなるほど。」

 俺は自分の中で納得のいく仮説を立てた。

「どうしたの?」

 傍から見れば俺は1人でブチギレて1人で納得してるキチガイだった。わざわざ時間をとってこんな事をしてるのに疑問に思わない者はいないだろう。クーネの疑問はもっともだ。

「いや、大丈夫。だいたい分かった。」

 割とアバウトな返事をしてしまったが、別にクーネに詳しく話す必要も無いだろう。

「そっか。ならシナトラ達探しに行こ!」

「そうだな。モタモタしてる暇は無いな。」

『人間2人が近づく反応があります。』

「おっと、あっちから来てくれたか。」

 俺は辺りを見回した。すると、別の意味で懐かしい2人を見つけた。



 俺の視界に入った2人の人間。それは摩耶とシュバルだった。

「なんであんたが…...」

 開口一番摩耶が口にしたセリフはそれだった。

「そりゃこっちのセリフだよ。なんでお前がここにいるわけ? しかもシュバルと一緒なんて。」

 ふと、摩耶が学生服じゃないのに気がついた。そして、何故か段々面白くなってきた。

「ブッ…...ブハッ…...ハッハッハッハ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! なんだよそれwwwコスプレかよwww来年の文化祭それで出ろよwww」

 摩耶は腐っても俺の学校の生徒会メンバーだ。同じ学校の人間がこの世界の格好をしてるのが面白おかしくて仕方なかった。

「なによ! 文句あるの? それにあんただって似たようなもんじゃない!」

 まぁそりゃそうだけどな。それでも面白いんだよ。

 お前のメイド服姿みてぇな格好。


「軍人みたいな格好してるくせに!」

 あいつは俺のことを罵ることで自分の恥ずかしさを押し隠そうとした。赤面してるのが見てわかった。


「メイドみたいな格好してるくせに〜www」

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