苦役甦す莇
Episode7 Goa beast
キーオート自然保護区。とても空気が澄んでいる場所だ。
自然保護区というだけあって、周りには柵で囲われた木ばかり。
足元には踏み固められた土の道。そして道に刻まれた轍の線がどこまでも続いていた。
『周辺のサーチ完了。マッピング終了致しました。』
何も言っていないのにカエデは既にマッピングを終えてくれていた。
『半径1㌔圏内に複数の呼吸を探知。魔獣17体と人間3名と思われます。』
やはり転移にバラツキが出てしまったようだ。
「そうか。ありがとう。」
周りへの注意を怠らず、そのままゆっくりと歩き出した。
今はまだ魔獣が出てくる気配はしない。今のうちにこのスーツ、少し肩慣らししておくか…
「カエデ、スーツに慣れるために試運転する。」
両拳に力をこめて、その場で仁王立ちした。
『了解しました。トライアルモードに移行します。』
アンダースーツが少し盛り上がり、装甲に隙間が出来た。
『アンダースーツには人工補助筋肉が内蔵されています。マスターのパワーは理論上114514倍近くまで上がっています。』
なるほどなるほど。難しい話はよく分からんが、取り敢えず跳んでみりゃどんなもんか分かるだろ!
両脚に思いっきり力を込めてバンッと
跳んだ。
いや、最早飛んだと言った方が表現的には近かった。
物凄い勢いで空に投げ出され、天地が逆転した。
「おおおおおおおおおおおおおおお!っっっっっっっっ!ーーーーーーーーーーーー!」
途中までは叫ぶことは出来たが、そこから先はそれすら叶わなかった。
物凄い重圧に口を開くことすら出来なくなり、上の奥歯と下の奥歯が悲鳴をあげ始めた。
空中でなんとか姿勢制御を試みようと思ったが、手足は虚しく空を掻くだけだった。
パワーはべらぼうに上がってはいるが、体重は変わらない。
このままだとバズーカで撃ち出されたテニスボールみたいにどこまでも飛んでいってしまう気がした。
こいつは
ヤバい!!
雲を突き抜けた辺りから、気絶しかけていた。
パワーが凄すぎて、このままの勢いだと大気圏も突破してしまうのではないかと思うほどだった。
『マスター。これ以上高度を上げるのは危険です。減速の為フラップを開放します。』
スーツの装甲が開放し空気抵抗を増やすことで少しだけ減速したが、まだ止まらなかった。
流石にまだ宇宙旅行を体験したくはない。どうにかして地上に戻らなくてはと思った。
途切れ途切れの意識の中、減速したためになんとか動かせるようになった腕を使って、気力を振り絞って腰にある剣を取った。
伸びろ!
心の中で強く念じると剣の刃は分割線に沿って分裂し、ワイヤーで繋がれた状態になった。ワイヤーで繋がれた刃は俺が飛んでいく速度よりも早く地上に伸びて行った。
剣の先端がどこかに引っかかったと信じて、トリガーを引いた。
すると物凄い勢いで剣のワイヤーは俺を引っ張った。
今まで星の外に向かっていってたのに、一気に地上に向かおうとしたものだから、腕から体にかけて脳を揺さぶられるような衝撃が来た。
「ーーーーーーーーーーーー!っっっっっっっっ!うおおおおおおおおおおおお!」
今度は先程よりもさらに凄い勢いで隕石活動を始めた。しかし、またここでまずいと感じた。
このまま着地したら俺の体がぶち壊れる。
固さの優先度の外の力を俺に行使して!
地面に!
足を!
つける!
鼓膜が破れそうな程の物凄い轟音が辺りに響いた。
衝撃波は辺りの木を薙ぎ倒して行き、ついでに辺りにいる魔獣も何匹か倒したようだ。
「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
心臓バクバクだった。そして耳がとても痛かった。恐らくいきなり高い場所にいったり低い場所にいったりしたせいで、気圧の変化に耳がついていけなくなったのであろう。
安易に飛んだり跳ねたりするもんじゃなかった。
俺が着地した地面は、俺が着地する前に比べて数十メートルほど沈下してしまった。
地面に物凄く大きなスプーンの跡を残した俺は、ゆっくりと歩き出した。
やっべぇ。自然保護区なのにダイナミック自然破壊しちまった。
辺りの惨状を見ながら少し歩いた。まだ耳の奥でキーンと長い波長の音が聞こえる。
世界一固い再突入体が地面に落ちるとこうなるのかー。なんて呑気に思っていると
ようやく元に戻った耳が、遠くで獣が吠える声を捉えた。
「カエデ、戦闘に入るかもしれない。」
ふと、頭の中を何かがよぎった。転移前にシナトラが話してたことの何かが頭に引っかかった。しかし何かは思い出せなかった。
『了解しました。トライアルモードからバトルモードに移行します。』
アンダースーツが微細な動きで補助筋肉量を調整しながら、装甲も微妙に動いて防御重視のカッチリした配置になった。
恐らく80メートル程前方にのっそりと白い塊が動くのが目視出来た。
目を凝らして見てみると、そいつは獅子によく似た姿をしていた。
そしてそいつは血を流していた。恐らく俺がさっきジャンプしたときの衝撃波で出来た傷であろう。
俺はそいつに向かってゆっくりと歩き出した。
そいつもゆっくりと俺に向かって近づいてきた。
お互いに35メートルほど歩み寄ったところで、俺はそいつに向かって話しかけてみた。
「よぉ。元気かぁ?」
魔獣なんかが人語を理解できるわけないと思いながら、少しバカにするように言語が使えることをひけらかした。
そいつは憎しみをこめたような目付きで俺を睨んできた。
そりゃそうだ。俺のせいでこいつは傷ついた。怒って当たり前だ。
牙を剥き出しにして、毛を逆立てて、低く唸って。そいつは俺を威嚇した。
「おーおーおーおー。お前勝てるとか思っちゃってんの?」
更に俺は挑発を続けた。魔獣の力がどんなものか見てみたかった好奇心のせいだと思う。
俺は魔獣の細かい動き1つ見逃さなかった。そいつは剥き出しの牙をゆっくりと開いた。噛み付いてくるかと思い、俺は身構えた。
「それ以上言うな。貴様のせいで…...俺は!」
まさかの行動に俺は一瞬硬直した。
そいつは確かに俺に向かって話しかけたのである。
俺は獣が話すという事そのものに驚いた。
そしてそのとき、ふと思い出した。シナトラが「人格を持つ特異種の魔獣がいる」と話していたことを。
そしてそいつの言葉はどこか懐かしさを感じた。魔獣の下卑た声の筈なのに、どこか他人の言葉に感じなった。
俺は無意識のうちに防御の構えを解いていた。
その言葉は......確か
ベンッ
と俺の思考は突然強制中止させられた魔獣の爪が俺を捉え、薙ぎ払ったのだ。
今まで見えてた景色はいきなり横に流れ、俺の体は木を破壊しながら数十メートル吹き飛んでいった。
と同時に思い出しかけてたものも俺の頭の中から吹き飛んでしまった。
生身で今の一撃を食らっていたら、俺だったものが辺り一面に転がっていただろう。
「え!? あ! アザムキ!!」
気絶しかけた俺の耳に入ってきた最初の音はクーネの声だった。
吹き飛ばされた方向に丁度クーネがいたのだろう。
木にめり込んだ俺を起こす手伝いをしてくれた。
「ゲホッゲホッ…...ゲホッゲホッゲホッ!!」
肺の中にある空気の塊をすべて吐き出した。そして一生懸命に空気を吸おうとしたが、なかなか空気が吸えず一種の呼吸困難に陥ってしまった。
『魔獣のパワーを計算中......予測より+70の誤差修正。』
カエデはどうやら闘う気まんまんらしい。
と同時に魔獣のけたたましい咆哮が聞こえた。あっちもその気らしい。
『マスター。なぜガードを解いたのですか? マスターがガードを解かなければ、これほどまでダメージを負うことは無かったと推測します。』
そうだ。俺はあのとき無意識のうちに防御の構えを解いていた。そしてそのことを頭の中心に置いて考えたとき、さっき思い出しかけていた事がハッキリと浮かんできた。
そうだ。さっきの魔獣の怒りは俺の怒りに似ていたんだ。「それ以上言うな」というセリフはこの世界に来る前に、幼馴染に放ったセリフと同じだ。
そう考えるとパズルのピースが埋まったような気がした。
あぁそうか。あの魔獣は散らばった俺の欠片を取り込んだんだな。俺の純粋な怒りの部分を。
「クーネ、あの魔獣を引きつけてくれないか?」
やっと空気を吸うことが出来た俺が最初に発した言葉は、クーネへの頼みだった。
「ゲホッゲホッ…...俺があいつを倒さなくちゃいけないんだ。
カエデ、スーツを攻撃特化にしてくれ。」
それは覚悟だった。必ずあの魔獣から俺の欠片を取り戻すという。
「分かった。」『了解しました。』
2人は俺の覚悟に呼応するように了承してくれた。
そんなこんなしてるうちに、魔獣はゆっくりと俺達の方に既に向かってきていた。
クーネは弓矢を構えると、魔獣に対して円を描くように走り出した。
俺は腰につけた剣を手に取り構えると、その場に仁王立ちした。
魔獣はまずクーネの方に注意を向けた。クーネは付かず離れずの中距離の間隔を保ち、魔獣のリーチの外からチクチク矢を当てていた。
俺は魔獣の後方へ回るように走り、今度は跳びすぎないように少しだけ力を緩め、タンっと跳んだ。
魔獣の背中に伸ばした刃を突き刺し、ワイヤーで一気に距離を詰め背中に乗った。
魔獣は俺が背中に乗ったと気づくと、振り 落とそうと暴れ始めた。
俺は必死にしがみつきながら背中から引き抜いた刃をもう1度ワイヤーで飛ばし、今度は魔獣の体に巻き付けた。
「返してもらうぞ。」
俺は無慈悲にトリガー引くと同時に、生命の外の力を行使した。
それは必ず殺すという俺の意志の表れだった。
ワイヤーで繋がれた刃は魔獣の体を引き裂きながら戻ってきた。
魔獣の体に刻まれた傷はものの数瞬で腐食した。
「がああぁあああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」
その瞬間、今まで生きていた獣は断末魔を上げ、切ない重たさを持つただの塊と化した。
俺は魔獣の顔だったものの目の前に立った。もう息をしなくなったその口から、光り輝く玉が転がり落ち、俺は静かにそれを拾い上げた。
「やっぱり俺が勝ったな。」
自然保護区というだけあって、周りには柵で囲われた木ばかり。
足元には踏み固められた土の道。そして道に刻まれた轍の線がどこまでも続いていた。
『周辺のサーチ完了。マッピング終了致しました。』
何も言っていないのにカエデは既にマッピングを終えてくれていた。
『半径1㌔圏内に複数の呼吸を探知。魔獣17体と人間3名と思われます。』
やはり転移にバラツキが出てしまったようだ。
「そうか。ありがとう。」
周りへの注意を怠らず、そのままゆっくりと歩き出した。
今はまだ魔獣が出てくる気配はしない。今のうちにこのスーツ、少し肩慣らししておくか…
「カエデ、スーツに慣れるために試運転する。」
両拳に力をこめて、その場で仁王立ちした。
『了解しました。トライアルモードに移行します。』
アンダースーツが少し盛り上がり、装甲に隙間が出来た。
『アンダースーツには人工補助筋肉が内蔵されています。マスターのパワーは理論上114514倍近くまで上がっています。』
なるほどなるほど。難しい話はよく分からんが、取り敢えず跳んでみりゃどんなもんか分かるだろ!
両脚に思いっきり力を込めてバンッと
跳んだ。
いや、最早飛んだと言った方が表現的には近かった。
物凄い勢いで空に投げ出され、天地が逆転した。
「おおおおおおおおおおおおおおお!っっっっっっっっ!ーーーーーーーーーーーー!」
途中までは叫ぶことは出来たが、そこから先はそれすら叶わなかった。
物凄い重圧に口を開くことすら出来なくなり、上の奥歯と下の奥歯が悲鳴をあげ始めた。
空中でなんとか姿勢制御を試みようと思ったが、手足は虚しく空を掻くだけだった。
パワーはべらぼうに上がってはいるが、体重は変わらない。
このままだとバズーカで撃ち出されたテニスボールみたいにどこまでも飛んでいってしまう気がした。
こいつは
ヤバい!!
雲を突き抜けた辺りから、気絶しかけていた。
パワーが凄すぎて、このままの勢いだと大気圏も突破してしまうのではないかと思うほどだった。
『マスター。これ以上高度を上げるのは危険です。減速の為フラップを開放します。』
スーツの装甲が開放し空気抵抗を増やすことで少しだけ減速したが、まだ止まらなかった。
流石にまだ宇宙旅行を体験したくはない。どうにかして地上に戻らなくてはと思った。
途切れ途切れの意識の中、減速したためになんとか動かせるようになった腕を使って、気力を振り絞って腰にある剣を取った。
伸びろ!
心の中で強く念じると剣の刃は分割線に沿って分裂し、ワイヤーで繋がれた状態になった。ワイヤーで繋がれた刃は俺が飛んでいく速度よりも早く地上に伸びて行った。
剣の先端がどこかに引っかかったと信じて、トリガーを引いた。
すると物凄い勢いで剣のワイヤーは俺を引っ張った。
今まで星の外に向かっていってたのに、一気に地上に向かおうとしたものだから、腕から体にかけて脳を揺さぶられるような衝撃が来た。
「ーーーーーーーーーーーー!っっっっっっっっ!うおおおおおおおおおおおお!」
今度は先程よりもさらに凄い勢いで隕石活動を始めた。しかし、またここでまずいと感じた。
このまま着地したら俺の体がぶち壊れる。
固さの優先度の外の力を俺に行使して!
地面に!
足を!
つける!
鼓膜が破れそうな程の物凄い轟音が辺りに響いた。
衝撃波は辺りの木を薙ぎ倒して行き、ついでに辺りにいる魔獣も何匹か倒したようだ。
「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
心臓バクバクだった。そして耳がとても痛かった。恐らくいきなり高い場所にいったり低い場所にいったりしたせいで、気圧の変化に耳がついていけなくなったのであろう。
安易に飛んだり跳ねたりするもんじゃなかった。
俺が着地した地面は、俺が着地する前に比べて数十メートルほど沈下してしまった。
地面に物凄く大きなスプーンの跡を残した俺は、ゆっくりと歩き出した。
やっべぇ。自然保護区なのにダイナミック自然破壊しちまった。
辺りの惨状を見ながら少し歩いた。まだ耳の奥でキーンと長い波長の音が聞こえる。
世界一固い再突入体が地面に落ちるとこうなるのかー。なんて呑気に思っていると
ようやく元に戻った耳が、遠くで獣が吠える声を捉えた。
「カエデ、戦闘に入るかもしれない。」
ふと、頭の中を何かがよぎった。転移前にシナトラが話してたことの何かが頭に引っかかった。しかし何かは思い出せなかった。
『了解しました。トライアルモードからバトルモードに移行します。』
アンダースーツが微細な動きで補助筋肉量を調整しながら、装甲も微妙に動いて防御重視のカッチリした配置になった。
恐らく80メートル程前方にのっそりと白い塊が動くのが目視出来た。
目を凝らして見てみると、そいつは獅子によく似た姿をしていた。
そしてそいつは血を流していた。恐らく俺がさっきジャンプしたときの衝撃波で出来た傷であろう。
俺はそいつに向かってゆっくりと歩き出した。
そいつもゆっくりと俺に向かって近づいてきた。
お互いに35メートルほど歩み寄ったところで、俺はそいつに向かって話しかけてみた。
「よぉ。元気かぁ?」
魔獣なんかが人語を理解できるわけないと思いながら、少しバカにするように言語が使えることをひけらかした。
そいつは憎しみをこめたような目付きで俺を睨んできた。
そりゃそうだ。俺のせいでこいつは傷ついた。怒って当たり前だ。
牙を剥き出しにして、毛を逆立てて、低く唸って。そいつは俺を威嚇した。
「おーおーおーおー。お前勝てるとか思っちゃってんの?」
更に俺は挑発を続けた。魔獣の力がどんなものか見てみたかった好奇心のせいだと思う。
俺は魔獣の細かい動き1つ見逃さなかった。そいつは剥き出しの牙をゆっくりと開いた。噛み付いてくるかと思い、俺は身構えた。
「それ以上言うな。貴様のせいで…...俺は!」
まさかの行動に俺は一瞬硬直した。
そいつは確かに俺に向かって話しかけたのである。
俺は獣が話すという事そのものに驚いた。
そしてそのとき、ふと思い出した。シナトラが「人格を持つ特異種の魔獣がいる」と話していたことを。
そしてそいつの言葉はどこか懐かしさを感じた。魔獣の下卑た声の筈なのに、どこか他人の言葉に感じなった。
俺は無意識のうちに防御の構えを解いていた。
その言葉は......確か
ベンッ
と俺の思考は突然強制中止させられた魔獣の爪が俺を捉え、薙ぎ払ったのだ。
今まで見えてた景色はいきなり横に流れ、俺の体は木を破壊しながら数十メートル吹き飛んでいった。
と同時に思い出しかけてたものも俺の頭の中から吹き飛んでしまった。
生身で今の一撃を食らっていたら、俺だったものが辺り一面に転がっていただろう。
「え!? あ! アザムキ!!」
気絶しかけた俺の耳に入ってきた最初の音はクーネの声だった。
吹き飛ばされた方向に丁度クーネがいたのだろう。
木にめり込んだ俺を起こす手伝いをしてくれた。
「ゲホッゲホッ…...ゲホッゲホッゲホッ!!」
肺の中にある空気の塊をすべて吐き出した。そして一生懸命に空気を吸おうとしたが、なかなか空気が吸えず一種の呼吸困難に陥ってしまった。
『魔獣のパワーを計算中......予測より+70の誤差修正。』
カエデはどうやら闘う気まんまんらしい。
と同時に魔獣のけたたましい咆哮が聞こえた。あっちもその気らしい。
『マスター。なぜガードを解いたのですか? マスターがガードを解かなければ、これほどまでダメージを負うことは無かったと推測します。』
そうだ。俺はあのとき無意識のうちに防御の構えを解いていた。そしてそのことを頭の中心に置いて考えたとき、さっき思い出しかけていた事がハッキリと浮かんできた。
そうだ。さっきの魔獣の怒りは俺の怒りに似ていたんだ。「それ以上言うな」というセリフはこの世界に来る前に、幼馴染に放ったセリフと同じだ。
そう考えるとパズルのピースが埋まったような気がした。
あぁそうか。あの魔獣は散らばった俺の欠片を取り込んだんだな。俺の純粋な怒りの部分を。
「クーネ、あの魔獣を引きつけてくれないか?」
やっと空気を吸うことが出来た俺が最初に発した言葉は、クーネへの頼みだった。
「ゲホッゲホッ…...俺があいつを倒さなくちゃいけないんだ。
カエデ、スーツを攻撃特化にしてくれ。」
それは覚悟だった。必ずあの魔獣から俺の欠片を取り戻すという。
「分かった。」『了解しました。』
2人は俺の覚悟に呼応するように了承してくれた。
そんなこんなしてるうちに、魔獣はゆっくりと俺達の方に既に向かってきていた。
クーネは弓矢を構えると、魔獣に対して円を描くように走り出した。
俺は腰につけた剣を手に取り構えると、その場に仁王立ちした。
魔獣はまずクーネの方に注意を向けた。クーネは付かず離れずの中距離の間隔を保ち、魔獣のリーチの外からチクチク矢を当てていた。
俺は魔獣の後方へ回るように走り、今度は跳びすぎないように少しだけ力を緩め、タンっと跳んだ。
魔獣の背中に伸ばした刃を突き刺し、ワイヤーで一気に距離を詰め背中に乗った。
魔獣は俺が背中に乗ったと気づくと、振り 落とそうと暴れ始めた。
俺は必死にしがみつきながら背中から引き抜いた刃をもう1度ワイヤーで飛ばし、今度は魔獣の体に巻き付けた。
「返してもらうぞ。」
俺は無慈悲にトリガー引くと同時に、生命の外の力を行使した。
それは必ず殺すという俺の意志の表れだった。
ワイヤーで繋がれた刃は魔獣の体を引き裂きながら戻ってきた。
魔獣の体に刻まれた傷はものの数瞬で腐食した。
「がああぁあああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」
その瞬間、今まで生きていた獣は断末魔を上げ、切ない重たさを持つただの塊と化した。
俺は魔獣の顔だったものの目の前に立った。もう息をしなくなったその口から、光り輝く玉が転がり落ち、俺は静かにそれを拾い上げた。
「やっぱり俺が勝ったな。」
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