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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode6 Maple armor

 翌朝、俺は早めに起きて街に出かけた。
出かけた目的は主に2つ。クーネに頼まれた物の買い出しとこの世界で着る服装を見て回ることだった。

 この世界に来てからずっと俺は学生服のままだった。
 流石に同じに服をいつまでも着ているわけにはいかないので、アジトで着る服とクエスト時に着ていく服を見繕うことにしたのだ。

 今こちらの世界のお金が無いので、とりあえずクエスト時に着ていく服用に2万ギル程クーネから貸してもらった。
 アジトで着る服は生活必需品だからというクーネの温情により、その分のお金は別にもらい、それは返さなくていいそうだ。

 買い出しとアジトで着る服を買うことは割とさっさと終わったのだが、俺にとって最大の目的であるクエスト時に着ていく服を買うのに時間がかかった。

「う〜ん......どれもイマイチって感じだな......」

 後で知った事実だが、市場に売り出されてる装備なんかは、掘り出し物以外あまり大した事は無いそうだ。
 見た感じグッとくる物が無いなぁと思いつつ、いつの間にか市場の一番端にある店まで来ていた。

 ここで最後かな。なんて思いながら、いい物があったらいいなくらいの気持ちで品定めしていた。

「いらっしゃいませ! 何かお探しでしょうか?」

 俺に気づいた店員はひょこひょこと奥から歩いてきた。

「あー、何かいい装備を探してるんですけど、今まで見てきた物はあんまりグッとくる物が無くて。どれも決め手に欠ける物ばかりだったんですよ。何かオススメはありませんか?」

 とりあえず何も知識が無い俺があーだこーだ言っても仕方ないので、イチオシを見繕ってもらうことにした。

「そうですねぇ......これなんてどうでしょう?」

 店員は奥から何か引っ張り出してきた。
よく見るとそれはマネキンに被せられた鎧一式だと分かった。

「なるほど......これはいくらくらいですかね?」

 見た目は黒く刺々しく、金のラインがあしらわれていてとても俺好みだった。

「これは......一式全部で4万ギルと言ったところでしょうかね。」

「あー残念。予算オーバーだ。仕方ない、他のやつを見てみるか。」

 ふと、ちらりと奥の方に目をやると、何かが俺を引っ張るような気がした。
 それは気のせいかも知れないが、俺はそれに従い店の奥に入っていった。

 店の奥に来ると、フィーリングで数ある商品の中から1つ選んだ。
「すみません。これはいくらぐらいですか?」
 俺の目に留まった物。それはアンダースーツ部と装甲部とで分かれているコンバットスーツのような装備だった。
 それはガラスケースの中にひっそりと佇んでいた。胸のあたりに楓が連なった輪っかのレリーフが彫られているのが特徴的だった。

「あーこれですか......そうですね......」

 そう言ってから店員はしばらく悩んだ。「んー」とか「でもなぁ」とか曖昧な独り言を繰り返していた。

「あのー、どうでしょうか?」

 俺は痺れを切らして、念押しするように質問した。

「実を言うとですね…...これは売っていいかどうかとても悩んだ商品なんですよ。なぜかと言うとですね、この装備の出処が分からないからなんです。入荷する時に紛れこんだ謎の商品でして......お客様がどうしてもと言うのなら......」

 何やらブツブツ言っているが、俺にはそんな理由関係無かった。

「構いません。いくらで売ってくれますか?」

 俺は押し通ろうとした。若しかしたら2万以下で売ってくれるかもしれない。

「わかりました。そこまで言うのなら、2万で売りましょう。」

 値段はピッタリ。これは買うしかない。
そう思うと即決だった。俺はその装備を買ってアジトに戻った。








「ただいま戻りました。」

 俺にとってはほぼついでの用件であった買い出しした物をキッチンに置いて、そのまま自室に行き着ている服をほとんど脱いだ。

 四苦八苦しながらアンダースーツを着て、装甲部を取り付けた。

「これでいいのかな?」

 部屋にある姿見を近くまで移動させてきて、全身くまなく見回した。
 アンダースーツはしっかり俺の体に馴染み、装甲はちゃんとしっかり俺の動きに追従して可動した。

 ちゃんと着れた事に安堵して、今度はアジトで着る服を着ようと、服が入っている袋に手を伸ばした瞬間。

『I recognize a person of wearing.  Please choose language.』

「え? え?」

 いきなりコンバットスーツから音声が鳴ったので驚いた。
 どうやら言語選択を迫られているらしい。

「えーと、日本語。あ、Japanese」

 英語で聞かれてるのについ日本語で答えた自分が少し恥ずかしくなった。

『言語選択を日本語に設定しました。
こんにちはコンバットスーツ内蔵型AIのPAOSAEピーズィーです。よろしくお願いします。』

 機械音にしては可愛らしい女の子の声がした。

「ピーズィーって言うのは何かの略称かい?」

 こういう物は大抵、初期設定として略称が使われてるものだというのが過去からの教訓である。


『はいマスター。

The perfect battle assistance specialization model support OS that continues always evolving by oneself常に自己進化し続ける最も完璧な戦闘補助特化型OS

の略称です。』


 可愛らしい感じの名前から一気に可愛らしさが吹き飛んだ気がした。

「愛称で呼んでも構わないか?」

 流石にこんな無味乾燥な名前で呼ぶのはこちらが辛かった。

『構いません。何という名前にしましょうか?』

 割と会話が成立する辺り、かなり高性能なんだな。と思いつつ何がいいか悩んでいた。

 ......元の名前の面影を残すか…...それとも思いっきり変えるか…...

 ふと、頭の中にある言葉が思い浮かんだ。

 そうだこれがいい。これにしよう。

「そうだな。カエデと呼ぶ事にするよ。」

その名は単純にスーツのレリーフから取った名だった。

『カエデ......よい名前をありがとうございます。』

 人口知能なのに、とても人間らしい喜び方だった。

 AIの愛称が決まると、俺はコンバットスーツを脱ごうとした。しかし、そこでカエデに呼び止められた。

『マスター。貴方様の手で脱ぐ必要はありません。』

「どういう事だ?」

 イマイチよく意味が分からなかった。自動的に脱いでくれるとでも言うのか?

『こういうことでございます。』

 数瞬にして、今まで俺の体を防護していた鋼鉄達はどこかに消え失せてしまった。

『このスーツには自動的に多次元空間に転移する機能が備わっています。向こうから呼び出す事も、向こうに送る事もマスターの意思次第でございます。』

「なるほどこりゃ便利だ。」

 俺はそのままアジトで着る用の服を着ると、学生服片手に部屋の外に出た。

 アジトで着る服はコーカサスの国の民族衣装のような感じ。
 クエストに行く時はこれを脱いでコンバットスーツを呼び出すだけだから相当楽だ。非常時にはこの上から着れないことも無さそうだが。

 学生服をお風呂場にある洗濯カゴに突っ込むとリビングに戻った。

 キッチンにはクーネがいて、リビングには俺、ホロウ、シナトラがいた。

「あれ?フランとサギはまだ寝てるの?」

見かけない二人の事に少し触れてみた。

「あぁ。昨日2人は特に難しいクエストに行ってきたからな。疲れない方が無理だろうよ。だから今日はここにいるメンツでクエストに行く。」

シナトラが答えてくれたが、何か違和感があった。
その理由は何気にシナトラが帽子を外してるのを見るのが初めてだったからである。
ふわふわした狐耳が立派に2つ、頭の上に乗っかっていた。

「私は着替えてくるよ。みんなもそろそろ着替えたら?」

 クーネがそう言いながらキッチンから2人分のご飯を持ってくると、自分の部屋に行こうとした。
 恐らくサギとフランが起きてきた時の為に用意したご飯だろう。

「2人は昨日どんなクエストに行ってきたの?」

 素朴な疑問だった。この実力者だらけのメンバーにすら難しいと言わしめるクエストの内容が単純に知りたかった。

「あー、確か『催淫キノコの納品』だったっけかな?」

 ホロウは読んでいた本をパタンと閉じながら会話に混ざってきた。

「確かあいつら何かヘマしたとかで、運搬中のキノコの胞子吸っちゃったらしいな。まぁ昨日の様子がおかしかったのはそれが原因かな。」

 ホロウはソファから起き上がり、読んでいた本を本棚に戻した。

 なるほど、そういう事だったのか。女って怖ぇ。

 ホロウは本を戻すとそのまま自分の部屋に入っていった。

「アザムキも早目にな。」

 短くそれだけ伝えると、シナトラも自分の部屋に入っていった。

 モタモタしてられないので、俺も自室に入り服を脱いだ。

「カエデ。呼び出してくれ。」

『はい。マスター。』

 俺の背後に鋼鉄達が現れると、俺を包み込むように移動し、カッチリと俺を保護した。

 BOXの中にある俺専用の剣を取り出し、腰に携えた。

 初陣か…...なんかそう考えると緊張するな。

 部屋の外に誰よりも早く出て、皆を待った。

「あれ?アザムキ早いね。その装備似合ってるよ。」

 俺の次に出てきたのはクーネだった。

「初めてにしてはなかなかじゃない?」

 装備のチョイスをもっと褒めて欲しかった。

『マスター。私以外の装備をお考えで?』

 カエデに鋭い質問をされた。『初めて』という部分が気に食わなかったらしい。

「え!その装備から今声しなかった?」

 クーネは驚きの声を上げた。まぁそりゃそうか。

「そうそう。これはね......」

『初めまして。コンバットスーツ内蔵型AIのPAOSAEピーズィーです。よろしくお願いします。』

 カエデが俺の言葉を遮った。どうやらカエデは俺以外には愛称で呼ばれたくないらしい......可愛い奴め。

「よ、よろしくね。ぴーちゃん」

 クーネは距離を縮めようとわざと砕けた言い方をしたが

『なんですか! その呼び方は!』

 俺以外には愛称で呼ばれたくないカエデは当然怒った。

「ま、まぁまぁ落ち着いて。ピーズィーって少し言いづらいからさ、呼びたいように呼んでもいいかな?」

 クーネは人口知能相手に低めに出ている。俺が言うのもなんだが、なんか結構シュールだな。

『お好きなように!』

 プンスカプンスカしてやがる。ホントに可愛い奴め。

 そんなこんなしてると、ホロウとシナトラがそれぞれの部屋から出てきた。

「今回の目的地はキーオート自然保護区だ。」

 シナトラは自室から持ってきた地図をテーブルに広げた。

「まずはアザムキの連絡先を登録しなくてはな。」

 シナトラがそう言うと、皆輪っかを取り出して俺の腕につけてある輪っかと触れさせた。

「これでここにいる人の分は完了だな。後でフランとサギの分も追加してやってくれ。」

 なるほどこういう感じで連絡先を増やすのか。なかなか便利だな。

「クエストの内容は保護区で暴れ回っている魔獣の討伐及び撃退。なお備考として魔獣の中に人格を持つ特異種がいるらしい。」

 シナトラは地図のある部分に赤く丸をつけ、そこに灰を乗せた。


「今回はサギの転移が使えないから、古典的な方法で行く。
みんな転移先でばらつきが出るかもしれないから、後で落ち合おう。」

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