苦役甦す莇
Episode1 Good-bye ordinary world
この地球の二酸化炭素濃度が2%程上がるんじゃないかと思うほどの大きな溜息を吐いた。今、目の前にあるのは今学期の自分の成績表。
美術や技術・情報と言った技能科目の成績は5。しかしこれから受験に必要そうな科目の数字は3や、良くて4と言ったパッとしない数字ばかり。
美術や技術などが5を取れてるのは自分でも納得が行く。自分自身ちゃんと頑張れてると感じているし、いわゆる得意意識があるからだ。
しかし他の科目がイマイチなのは何となく納得が行かない。課題は毎回ちゃんと提出してるし、毎回のテストも平均を超えてる。授業態度だってさほど悪くは無いと自覚してる。
「ねぇ、ソウ。どうしたの? 逆流してきたゲロを無理やり飲み戻したみたいな顔して。」
隣の席の幼馴染がかなり独特な表現で俺の表情を察してきた。今の俺ってそんな顔してたのか? だとすると凄く恥ずかしいな。
「なんでもねぇよ。まぁ、今回の成績は見込み点だし。これからの定期テストでどうにか出来るよ。」
今まで少なくとも評定平均は意識して学習してきたつもりだし、まだ挽回出来るだろうと踏んでいた。
「あんた......なんか変わったね。」
いきなりマジトーンになりやがった。何言ってんだこいつ。
「そうか? 俺は平常運転だぞ?」
自分自身、別段今日は特別な事をしてるつもりは無い。俺のどこが変わったって言うんだ?
「なんか、上手く言葉にできないけど......」
「それ以上言うな。」
俺はピシッと彼女の言葉を遮った。上手く言えないとか、そういう言い訳をしながら話す手合いは昔から好まなかった。
「ごめん......ただ1つ確かに感じる事があるんだよね。」
俺は黙って聞き流す事にしておいた。そろそろ担任が全員分の成績表を渡し終える頃だ。
「はい!成績の見せ合いはいいから席に座ってー!進路の紙に書いたらすぐ回収するからー!」
担任が大きめの声で生徒に指示を出すが、皆あまり聞こうとしていない。例の如くクラスメイト達はそれぞれのコミュニティの中で成績表を見せあっている。まぁこれと言って特筆するようなことではないが。
「あんたは確かに変わった。あんたはいつの間にか自分に嘘をつくことに慣れてる。」
イマイチ言葉の意味が判断しかねた。こいつは昔から時々よく分からん事を言う奴だった。俺はこいつの言葉をあまりちゃんと受け止めなかった。
俺は手際よく成績表を折って教卓の上に置き、自分の机に戻った。進路の紙とは別に自分用に評定平均をメモした紙をポケットにしまいながら、ケータイをバレないように開いた。
「今日は掃除サボって帰るか…...」
誰にも聞こえないような小さい声で自分自身に言うように言った。
ホームルームが終わり、俺は足早に昇降口に向かっていった。廊下を走ってるとこを生徒指導課のババアなんかに見つかったら大変だ。
だがその心配は杞憂に終わり、無事、下足箱までたどり着いた。内履きを突っ込み外履きに履き替えた。
変に重たい昇降口の扉を、やや乱暴にグンッと押して開き、外に出る。
空はオレンジ色から段々と紫色に変わる頃だった。
階段を下ろうとした瞬間、背中に背負ってるバッグの紐が俺の肩を前から押した。
後ろを振り返ると生徒会の女子生徒が俺のバッグを引っ掴んでた。引っ掴んでる腕に腕章を付けてるから一瞬で判った。
「何すか?」
自分自身も少々ぶっきらぼうかなと感じるくらいに無愛想に尋ねた。
「あなた、いま掃除の時間でしょ? なんで帰ろうとしてるの?」
あーあーあーあー。めんどくさいパターンのやつだ。帰らせろや。俺の勝手だろうが。
頭の中で数秒考え、色んな言い訳を思いついてみたが、どの言い訳もこの『the生徒の模範女子』に適う気がしなかった。それに加えて、ここで言い争う事に無駄なエネルギーを消費したくなかった。
「あーすみません。分かりました戻ります。」
とりあえず表面上は大人しくしておくことが得策だと感じた。本音は心底ムカついてるが。とりあえず校内に戻るフリして別の出入口から帰るか。
「私もついて行きます。掃除場所まで案内しなさい。」
は?何言ってんだこいつ。ストーカーかよ。
「アンタにはカンケー無いだろ。自分一人で行くから結構です。」
あーめんどくさい。死ぬほどめんどくさい。いっそのこと死にてぇ。
「そうはいきません!」
おい!また掴むのかよ!やめろ!離せ! と思った時にはもう既に遅かった。
俺は足を滑らせて、俺を掴んでた女と一緒に植え込みに転げ落ちそうになった。枯れたばかりの尖った植え込みの枝が体に刺さりそうになる直前、俺は気を失った。
しばらくして......というかどれほど経ったのか分からないが俺は目を覚ました。そして立ち上がろうと地面に手をついた。
「......ん? ......ん!?」
体を起こして周辺を見まわそうとした。しかしそこで2つほど違和感に気がついた。
まず1つ目の違和感。それは自分自身の手が半透明になってる事だ。起きようと手で地面を押そうとし、そこに目をやった瞬間、手が透けて下の地面が見えたことが驚きだった。
次に2つ目の違和感。それは自分が倒れてた場所が学校の昇降口脇の植え込みの中では無かったこと。そして病院でも無かったこと。自分は本当に見知らぬ場所に倒れていた。
俺は焦って学生服の袖を捲ってみた。すると手だけでなく、腕も同じく半透明になっている。
段々嫌な予感がしてきて、とりあえず上だけ全部脱いでみた。
果たして嫌な予感は的中した。どうやら全身も手や腕と同じ状態になっているらしい。
急いで学生服のズボンからケータイを取り出して、内カメラにして、フラッシュをたいて自分の顔の写真を撮ってみる。するとやはり顔も半透明になっている。さらにケータイには『圏外』の2文字が表示されている。
「待て待て待て、落ち着け。落ち着け俺。」
無理やり自分に言い聞かせるように言いながら、使い物にならないケータイをそっとしまい、上を着た。
どこも落ち着いていられるような状態では無かったが、とりあえず今の状況は夢なんかでは無く現実なんだと少しずつ受け入れようとした。
自分の様子は受け入れたくないが把握した。そして、段々と自分の手のひらから周りの様子へと視線を移していった。
周りは茂みと木だらけで、どうやらここは森の中らしい。時間は恐らく夜で、周りはかなり暗めだが、俺のいる場所は月明かりが差し込んで、比較的明るい方である。
「まさかあの植え込みに突っ込んで死んだなんて事は無いよな…...そうだとしたら割と情けないぞ…...」
その瞬間、変に合点のいく可能性が頭に浮かんでしまった。
もしかしたらあの植え込みで死んで、自分は今霊の状態でこの場所はあの世なんじゃないか?
そう考えると今の状況に全て説明がついてしまった。「植え込みに刺さって死んだ」なんて、とても恥ずかしくて閻魔様に言えるような事じゃないが。
少し気落ちして顔を下に向けると、何かが落ちてることに気がついた。
拾ってみると、それは生徒会の腕章で、その瞬間俺はあるひとつの事を思い出した。
「そうだ......あの女のせいで俺は......」
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。こうなったのは全部あの女のせいだと信じて疑わなかった。
そして、ここに腕章が落ちてるという事は近くにあの女がいるという事だと確信した。
辺りを注意深く見回しながら、ゆっくり茂みを掻き分けてあの女を探した。
茂みの中を数分掻き分けて進んでいくと少し開けた場所に出た。
そこは空がとてもよく見えて、満天の星も綺麗に見えるほどの場所だった。
その場所はとても美しい場所だったハズなんだが、何故かあまり感動しなかった。怒りと不安が心を支配していたからなのかも知れない。
その場所に足を踏み入れようとした瞬間、俺は進むのをやめた。視界に人影が映りこんだからだ。
しかしその人影はとても儚げで、今にも消えてしまいそうだった。俺は注意深く見つめた。
よくよく見てみるとその人影はあの女だと分かった。
俺は茂みの中から出て、そいつに話しかけようとした。すると、向こうはこちらに気づいて、俺の方を向いた。
あの女も半透明だった。俺は瞬間的に今まで膨張していた怒りが萎んでしまった。
女は泣いていた。半透明な顔の上からでも分かるような透き通った涙を流していた。月明かりで涙が光ってた。
「なんだよ......なんで泣いてんのさ。」
俺はつくづく不器用だと思う。こういう状況に慣れてないというのもあるが、とても複雑な気持ちでもあったからだ。全部割り切って女を慰めることも、殴ることも出来なかった。
「......泣いてない......」
強がりな女だ。生徒会に入ったのもそういう気概のお陰か。
「少なくとも俺には、泣いてるように見えた......ほら、腕章落としてたぞ。」
俺は女に腕章を渡す事しか出来なかった。
女は黙って受け取り、こっちを見ようとしなかった。泣いているのを見られたのがそんなに嫌だったのか。
「なぁ......ここどこだよ。俺らどうなっちまったんだよ。」
この女に聞いたって仕方ないのに、俺は何も話さないでいることが出来なかった。黙っていたらこの静寂に押し潰されてしまいそうだったから。
「知るわけないじゃん......」
そりゃそうだ。俺は何を聞いてるんだ。どうすりゃいいんだ。こんな森の中でいつまでもこうしていても何も進まない。
そんな事は分かりきってる。それでも突拍子も無さすぎる事態に俺らは動けなくなっていた。
「あー、いたいた。」
俺ら2人以外の人間の声がした。瞬間的に俺らはその声がした方向を向いた。
「あーそんなに身構えないでよ。私は依頼であんたらを捜してただけなんだからさ。」
茂みの中から1人の女が出てきた。
一言で彼女を表現するならば、変人だった。着ている格好も雰囲気も違和感があり、一目でこいつは俺らとは違う人間だと察した。
「......あんた誰だよ。」
俺は疑いの目で彼女を睨みつけた。とても人間らしい賢い判断だったと思う。
「あー済まないね。驚かせちゃったかな? 私はシュバルだ。よろしく。」
シュバルと名乗る女は敵意は無いとでも言いたげに両手を広げてその場に立ち止まってる。
そう簡単に信用はしたくはないが、今の状況ではそんな贅沢言ってられなかった。
ちらと生徒会女の方に目をやると、女は腕章を握りしめて、シュバルを睨みつけていた。まぁそりゃそうだわな。誰だって疑うよな。
......どうしたものか......俺あんまり沈黙は得意じゃないんだよな。何か話すべきか…...
「わ......私の名前は......マヤ......です。」
俺より先に生徒会の女が、沈黙に耐えきれなくなってしまって名乗ってしまった。これは流れ的にどう考えても俺も名乗らなくては行けなくなった。かなりめんどくさいが仕方ない。
「......ゥセキだ。」
「ん?なんて言った?すまないがよく聞こえなかった。」
チッ......ぜってぇ聞こえてるだろ難聴かよ。
......ハァ......
「俺の名前はソウセキだ。」
美術や技術・情報と言った技能科目の成績は5。しかしこれから受験に必要そうな科目の数字は3や、良くて4と言ったパッとしない数字ばかり。
美術や技術などが5を取れてるのは自分でも納得が行く。自分自身ちゃんと頑張れてると感じているし、いわゆる得意意識があるからだ。
しかし他の科目がイマイチなのは何となく納得が行かない。課題は毎回ちゃんと提出してるし、毎回のテストも平均を超えてる。授業態度だってさほど悪くは無いと自覚してる。
「ねぇ、ソウ。どうしたの? 逆流してきたゲロを無理やり飲み戻したみたいな顔して。」
隣の席の幼馴染がかなり独特な表現で俺の表情を察してきた。今の俺ってそんな顔してたのか? だとすると凄く恥ずかしいな。
「なんでもねぇよ。まぁ、今回の成績は見込み点だし。これからの定期テストでどうにか出来るよ。」
今まで少なくとも評定平均は意識して学習してきたつもりだし、まだ挽回出来るだろうと踏んでいた。
「あんた......なんか変わったね。」
いきなりマジトーンになりやがった。何言ってんだこいつ。
「そうか? 俺は平常運転だぞ?」
自分自身、別段今日は特別な事をしてるつもりは無い。俺のどこが変わったって言うんだ?
「なんか、上手く言葉にできないけど......」
「それ以上言うな。」
俺はピシッと彼女の言葉を遮った。上手く言えないとか、そういう言い訳をしながら話す手合いは昔から好まなかった。
「ごめん......ただ1つ確かに感じる事があるんだよね。」
俺は黙って聞き流す事にしておいた。そろそろ担任が全員分の成績表を渡し終える頃だ。
「はい!成績の見せ合いはいいから席に座ってー!進路の紙に書いたらすぐ回収するからー!」
担任が大きめの声で生徒に指示を出すが、皆あまり聞こうとしていない。例の如くクラスメイト達はそれぞれのコミュニティの中で成績表を見せあっている。まぁこれと言って特筆するようなことではないが。
「あんたは確かに変わった。あんたはいつの間にか自分に嘘をつくことに慣れてる。」
イマイチ言葉の意味が判断しかねた。こいつは昔から時々よく分からん事を言う奴だった。俺はこいつの言葉をあまりちゃんと受け止めなかった。
俺は手際よく成績表を折って教卓の上に置き、自分の机に戻った。進路の紙とは別に自分用に評定平均をメモした紙をポケットにしまいながら、ケータイをバレないように開いた。
「今日は掃除サボって帰るか…...」
誰にも聞こえないような小さい声で自分自身に言うように言った。
ホームルームが終わり、俺は足早に昇降口に向かっていった。廊下を走ってるとこを生徒指導課のババアなんかに見つかったら大変だ。
だがその心配は杞憂に終わり、無事、下足箱までたどり着いた。内履きを突っ込み外履きに履き替えた。
変に重たい昇降口の扉を、やや乱暴にグンッと押して開き、外に出る。
空はオレンジ色から段々と紫色に変わる頃だった。
階段を下ろうとした瞬間、背中に背負ってるバッグの紐が俺の肩を前から押した。
後ろを振り返ると生徒会の女子生徒が俺のバッグを引っ掴んでた。引っ掴んでる腕に腕章を付けてるから一瞬で判った。
「何すか?」
自分自身も少々ぶっきらぼうかなと感じるくらいに無愛想に尋ねた。
「あなた、いま掃除の時間でしょ? なんで帰ろうとしてるの?」
あーあーあーあー。めんどくさいパターンのやつだ。帰らせろや。俺の勝手だろうが。
頭の中で数秒考え、色んな言い訳を思いついてみたが、どの言い訳もこの『the生徒の模範女子』に適う気がしなかった。それに加えて、ここで言い争う事に無駄なエネルギーを消費したくなかった。
「あーすみません。分かりました戻ります。」
とりあえず表面上は大人しくしておくことが得策だと感じた。本音は心底ムカついてるが。とりあえず校内に戻るフリして別の出入口から帰るか。
「私もついて行きます。掃除場所まで案内しなさい。」
は?何言ってんだこいつ。ストーカーかよ。
「アンタにはカンケー無いだろ。自分一人で行くから結構です。」
あーめんどくさい。死ぬほどめんどくさい。いっそのこと死にてぇ。
「そうはいきません!」
おい!また掴むのかよ!やめろ!離せ! と思った時にはもう既に遅かった。
俺は足を滑らせて、俺を掴んでた女と一緒に植え込みに転げ落ちそうになった。枯れたばかりの尖った植え込みの枝が体に刺さりそうになる直前、俺は気を失った。
しばらくして......というかどれほど経ったのか分からないが俺は目を覚ました。そして立ち上がろうと地面に手をついた。
「......ん? ......ん!?」
体を起こして周辺を見まわそうとした。しかしそこで2つほど違和感に気がついた。
まず1つ目の違和感。それは自分自身の手が半透明になってる事だ。起きようと手で地面を押そうとし、そこに目をやった瞬間、手が透けて下の地面が見えたことが驚きだった。
次に2つ目の違和感。それは自分が倒れてた場所が学校の昇降口脇の植え込みの中では無かったこと。そして病院でも無かったこと。自分は本当に見知らぬ場所に倒れていた。
俺は焦って学生服の袖を捲ってみた。すると手だけでなく、腕も同じく半透明になっている。
段々嫌な予感がしてきて、とりあえず上だけ全部脱いでみた。
果たして嫌な予感は的中した。どうやら全身も手や腕と同じ状態になっているらしい。
急いで学生服のズボンからケータイを取り出して、内カメラにして、フラッシュをたいて自分の顔の写真を撮ってみる。するとやはり顔も半透明になっている。さらにケータイには『圏外』の2文字が表示されている。
「待て待て待て、落ち着け。落ち着け俺。」
無理やり自分に言い聞かせるように言いながら、使い物にならないケータイをそっとしまい、上を着た。
どこも落ち着いていられるような状態では無かったが、とりあえず今の状況は夢なんかでは無く現実なんだと少しずつ受け入れようとした。
自分の様子は受け入れたくないが把握した。そして、段々と自分の手のひらから周りの様子へと視線を移していった。
周りは茂みと木だらけで、どうやらここは森の中らしい。時間は恐らく夜で、周りはかなり暗めだが、俺のいる場所は月明かりが差し込んで、比較的明るい方である。
「まさかあの植え込みに突っ込んで死んだなんて事は無いよな…...そうだとしたら割と情けないぞ…...」
その瞬間、変に合点のいく可能性が頭に浮かんでしまった。
もしかしたらあの植え込みで死んで、自分は今霊の状態でこの場所はあの世なんじゃないか?
そう考えると今の状況に全て説明がついてしまった。「植え込みに刺さって死んだ」なんて、とても恥ずかしくて閻魔様に言えるような事じゃないが。
少し気落ちして顔を下に向けると、何かが落ちてることに気がついた。
拾ってみると、それは生徒会の腕章で、その瞬間俺はあるひとつの事を思い出した。
「そうだ......あの女のせいで俺は......」
ふつふつと怒りがこみ上げてきた。こうなったのは全部あの女のせいだと信じて疑わなかった。
そして、ここに腕章が落ちてるという事は近くにあの女がいるという事だと確信した。
辺りを注意深く見回しながら、ゆっくり茂みを掻き分けてあの女を探した。
茂みの中を数分掻き分けて進んでいくと少し開けた場所に出た。
そこは空がとてもよく見えて、満天の星も綺麗に見えるほどの場所だった。
その場所はとても美しい場所だったハズなんだが、何故かあまり感動しなかった。怒りと不安が心を支配していたからなのかも知れない。
その場所に足を踏み入れようとした瞬間、俺は進むのをやめた。視界に人影が映りこんだからだ。
しかしその人影はとても儚げで、今にも消えてしまいそうだった。俺は注意深く見つめた。
よくよく見てみるとその人影はあの女だと分かった。
俺は茂みの中から出て、そいつに話しかけようとした。すると、向こうはこちらに気づいて、俺の方を向いた。
あの女も半透明だった。俺は瞬間的に今まで膨張していた怒りが萎んでしまった。
女は泣いていた。半透明な顔の上からでも分かるような透き通った涙を流していた。月明かりで涙が光ってた。
「なんだよ......なんで泣いてんのさ。」
俺はつくづく不器用だと思う。こういう状況に慣れてないというのもあるが、とても複雑な気持ちでもあったからだ。全部割り切って女を慰めることも、殴ることも出来なかった。
「......泣いてない......」
強がりな女だ。生徒会に入ったのもそういう気概のお陰か。
「少なくとも俺には、泣いてるように見えた......ほら、腕章落としてたぞ。」
俺は女に腕章を渡す事しか出来なかった。
女は黙って受け取り、こっちを見ようとしなかった。泣いているのを見られたのがそんなに嫌だったのか。
「なぁ......ここどこだよ。俺らどうなっちまったんだよ。」
この女に聞いたって仕方ないのに、俺は何も話さないでいることが出来なかった。黙っていたらこの静寂に押し潰されてしまいそうだったから。
「知るわけないじゃん......」
そりゃそうだ。俺は何を聞いてるんだ。どうすりゃいいんだ。こんな森の中でいつまでもこうしていても何も進まない。
そんな事は分かりきってる。それでも突拍子も無さすぎる事態に俺らは動けなくなっていた。
「あー、いたいた。」
俺ら2人以外の人間の声がした。瞬間的に俺らはその声がした方向を向いた。
「あーそんなに身構えないでよ。私は依頼であんたらを捜してただけなんだからさ。」
茂みの中から1人の女が出てきた。
一言で彼女を表現するならば、変人だった。着ている格好も雰囲気も違和感があり、一目でこいつは俺らとは違う人間だと察した。
「......あんた誰だよ。」
俺は疑いの目で彼女を睨みつけた。とても人間らしい賢い判断だったと思う。
「あー済まないね。驚かせちゃったかな? 私はシュバルだ。よろしく。」
シュバルと名乗る女は敵意は無いとでも言いたげに両手を広げてその場に立ち止まってる。
そう簡単に信用はしたくはないが、今の状況ではそんな贅沢言ってられなかった。
ちらと生徒会女の方に目をやると、女は腕章を握りしめて、シュバルを睨みつけていた。まぁそりゃそうだわな。誰だって疑うよな。
......どうしたものか......俺あんまり沈黙は得意じゃないんだよな。何か話すべきか…...
「わ......私の名前は......マヤ......です。」
俺より先に生徒会の女が、沈黙に耐えきれなくなってしまって名乗ってしまった。これは流れ的にどう考えても俺も名乗らなくては行けなくなった。かなりめんどくさいが仕方ない。
「......ゥセキだ。」
「ん?なんて言った?すまないがよく聞こえなかった。」
チッ......ぜってぇ聞こえてるだろ難聴かよ。
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コメント
エル
成績で5があるだけ羨ましいww
羽兼
自由な文章構成がすきです。
物語の展開もリズムよく読めて、今後の展開が楽しみです。
ダン
ヒロイン可愛い! ツンツンしてていいね! 意地はってる感じが何とも…!
男主人公は男らしい感じがするー
読み進めないとわからないけど笑
まあ読んでみますー
黒山羊
内容はとても良いと思います!生徒会の女の子がツンデレっぽくて可愛いですねw
物語冒頭の「変わったね」って辺りが後々関係してきたりするのかな?
とにかく、時間をかけて残りの話も見てみようと思います!
ノベルバユーザー168547
全て『だった』とかの過去形にしてるので、ものすごく読みにくい。
それに、『…』は二つセットで使うものです。
『!』や『?』を使った後は一文字分のスペースを空けるのも常識。
小学生で習うはずの段落が存在しない。
他にもかなりおかしい部分はある。
とりあえず、小学生の国語からもう一度、勉強し直すべき。