方(箱)舟のファントムズ
第52話「終わらない暴挙へ」
「頭目様!アニメでは戦車の後方に砲弾を装填するハッチが有るはず!」
たまらず叫ぶ黒服達(セコンド)の声が聞こえる。
「そうじゃ!こう言うのを待っとたんじゃ」
再びサーベルを真っ直ぐにして、機動性を活かして、マウスの背後に回る。
「ここじゃあ!」
そこには以下にもソレっぽい窓の様なパーツがあった、だが……
「そんな見え見えの弱点、残しとく訳無いじゃないか」
パウルの言う通り、そこだけは厳重に装甲を厚くしてあった!
「駄目じゃああああ!?」
小烏丸が再びフニャッと曲がる、再びピンチになるヴァリアント・ドーマンに明日はあるのか!
「駄目そうね……」
二依子が残念そうに見ている。
ポゼ部の一同も御菓子片手に観戦していた。
「解りませんよ、まだ二枠の戦力が投入出来るはず……」
愛華はちょっと擁護しているが、内心ではヴァリアント・ドーマンの勝利を信じていない。
そこで勝利を信じる菊名が宣言する。
「ヴァリアント・ドーマンの勝利に、このチョコチップクッキーと″ビットコ院″の魂を賭けるわ!」
魂だけなら暴落しない。
戦いは当然ヴァリアント・ドーマンの攻撃が通用せず、パウルの亡霊マウスの攻撃が続く。
「どちらにせよ決定打に欠けるよ、防御力VS機動性だなんて……ヘマした方の負けじゃないか」
そう、ザジが言うヘマしたら負けるのは当然ヴァリアント・ドーマンの方だ。
「頭目様!如何なさいます!?」
このピンチに頭目の方も手段を選んでいる必要がない、遂に切り札を切らなければならなくなったのだ!。
「ぐぬぬぬ!やるしかなかろう、お前達″アレ″を使う!」
「はい!」
黒服達の手伝いはルール上ギリギリのモノで、セコンドは喋るか出撃のボタンを押すか位までが補助可能である。
彼らが戦う事はない。
つまり残された二枠は、それに見舞う式神であると言う事だ。
「オズノの一族から″借りパク″した式鬼神を使う時じゃ!」
やっぱりこれも頭目の暴挙の類いであった。
「悠長に待ってるつもりは無いよ」
亡霊マウスは砲塔を向けてヴァリアント・ドーマンに射撃を慣行!
……直撃!
「ぐおおお!」
ザジの言う通り、陰陽装甲のバリアが許容力を超えて足に着弾!
右足をもぎ取る形になる。
「おのれえええ!亡霊めえ!」
ダメージで霊力洩れが起こるはずだが何故か、影響せず飛び回るヴァリアント・ドーマン。
ここにザジとユナは注目している。
(アプリでの憑依じゃないな、霊力洩れが起きてない)
(未知の憑依方法かもしれない)
「頭目様!時間上最後のチャンスです!」
黒服達の車のボンネットから新たなプラモデルのパーツがスタンバイしていた!
「式神パワーローダー!ギガンティック″ゼンキ″発進!」
発進した飛行機状の補助パーツは、大きさ時点でヴァリアント・ドーマンの身の丈を超える大型パーツだ。
ヴァリアント・ドーマンの背部の式神鳳ブースターが切り離され。
更に腰から下のBパーツ的な部分が丸々入れ替わる為に分離排除。
「合体じゃ!ギガンティック!」
新たな補助パーツが腰から下に合体すると、更にパーツが割れて手足に変形!
タコの足が背中に覆い被さるように、肩に回ったパーツは巨大な腕を形成する!
パワーローダーと言う通り、格闘に特化した姿で腕を組んで仁王立ち!
「更に合体!式神″鳳″ブースター!」
式神の上に式神が乗る!
まだ背部に式神合体のコネクターが見えていて、多重合体が可能なのだ!!
「この姿を早々に見せるとはな……」
すぐやられそうなボスみたいな台詞を吐いて地面に着地、その姿は豪快に尽きる。
「完成!!、真ヴァリアント・ドーマン!!」
再びプラモデルなのに鳴り響く、重高金属音!
真ヴァリアント・ドーマンの合体が完了する!
「!!」
ゆっくり歩く真ヴァリアント・ドーマン、すかさず亡霊マウスから砲撃が飛ぶ!
だがダメージにならない!
そう……効かぬ!効かぬのだ!
強力なスカウト枠二つと、特殊な生き霊で構成されたソレの防御力は亡霊マウスにも匹敵するのだ!
「頭目様……何て神々しい」
黒服達の目に感動の涙が、だがモニター越しのザジ達には……。
「ちょっとアレ、完全に……″式サーの姫″じゃないですかね。」
ユナは余りに頭目が、式神におんぶにだっこな状態に呆れていた。
「あんな凄そうな式神なのに、こんなプラモデルの戦いに借り出されて……かわいそう」
ザジが哀れみの涙を流す。
「さあいくぞ亡霊!ギガンティックパンチ!」
砲撃をもろともしなかった真ヴァリアント・ドーマンが、亡霊マウスに殴りかかる!
マウスはダイキャスト製の大型ボディにも関わらず、衝撃に激しく揺さぶられ。
砲撃による悪あがきにも関わらず、衝撃でひっくり返ってしまった!
「ああ、これは無理だな」
ひっくり返ったマウスの中で亡霊パウルが呟く、勝利の形が浮かばなくなったのだ!
「今じゃああ!DX陰陽セイバー!」
真ヴァリアント・ドーマンが、ギガンティックのパーツから巨大剣を取り出すと……
両手に持ち、半身に構えて……とてもパースの付いた構図で再び重高音!
「ハイパー!陰陽スラッーシュ!」
ひっくり返って装甲の薄い腹を見せた亡霊戦車マウスに、巨大剣を叩きつける様に降り下ろす!!
マウスは衝撃の光と共に激しく爆散!
「徐霊完了(物理)!」
「ふはははは!見たか!亡霊共!このヴァリアント・ドーマンの実力を!」
「さあ戦車の亡霊よ、成仏するんじゃぞ……」
頭目がヴァリアント・ドーマンで手を合わせる……だが。
「いやあリナ、負けちゃったよ相手が悪かったね」
ドイツ代表のスキル管理プレイヤーのスマホに、亡霊の声が聞こえる。
「なんとおおお?!」
頭目が目を丸くした。
「アプリのスカウト保全機構が働いたんだよ、亡霊であろうが霊体がスマホに保存されるんだ」
そしてドイツ代表が敗北で撤収し始める。
「うぬぬ!おのれえええ!運営!なに考えとるんじゃあ!」
憤慨する頭目を尻目に、ドイツ代表が去ってしまった。
「待て!待つんじゃ……ってあ」
ヴァリアント・ドーマンが停止する。
「頭目様、時間一杯です」
黒服達がプラモデルと、破損パーツの回収に走る。
「払い損ねたああああ!」
助手席の頭目(本体)が飛び起きる!
ピチピチの背広を歪ませて、結った長い髪を降り回しながら必死の抗議。
「もういいのじゃ!だが次はあのガキ亡霊じゃ、覚えとけよおおお!!」
モニター越しにマイクパフォーマンスをかまして、中継が終了した!
(……)
菊名が困る。
「やだ……勝ってる、……チョコチップが暴落しそう」
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