方(箱)舟のファントムズ
第45話「ルールと天の船」
「スキルについてはまだ続きがあるんだ」
二依子がアプリを立ち上げて説明をする、画面には登録者のスキル構成が並ぶ。
「単純に憑依側はボディを操り、スキル側は自身の霊力でスキルを使うの」
「霊体がスキルを使用出来る部分は限られていて、精々霊糸でボディの補強や補助程度が限界」
二依子の説明にユナが問いかける。
「パッシブスキルや霊糸回路みたいなのは出来るんですか?」
「高等技術は上位ランカーが機密にしている場合が多いから、今回の14位の兄弟のバズーカ砲の様な単体でも戦える装備がその様な高等スキルになる」
二依子の返答にザジが語る。
「戻れなくなるギリギリまでで構成されてるのかよ……」
二依子がザジに言う。
「一説にしかないけど、中毒事件のアプリはあえて中毒にしやすく作った可能性があるのよ」
「マジかよ」
ザジがその説に愕然とした。
「下手すると皆、亡霊になる可能性もあったと?」
ザジが思い出す、近年の亡霊の増加傾向。
自分達はおおよそ自力での亡霊化、つまりは奇跡の様な存在だった。
その希少性が無くなる程に増えると言うことは、意図的に亡霊の増加が行われている事に代わりない。
「そうね、今はそうならない様にしてるから今の運営は以前の制作者との関係が薄いと思われるの……」
「何のために復活させたのか、メールで何度も関連性を問い合わせたけど……″知らぬ存じぬ″しか返ってこない」
ザジが答える。
「畜生、そいつらの意図は何なんだよ……俺達亡霊は静かに余生を楽しんでたいだけなのに」
二依子が語る。
「その″静かに……″が甘美に思えるんだけど?、ザジ君からして死後の世界ってどうなの?」
「最終的に魂の行き着く場所なんて知らないよ、俺達みたいな亡霊になれず霧散して空気亡霊になったり」
「自分の血筋の末裔に取り憑いてる奴とかが、世代で転生順番待ちみたいに並んでたり……変な霊体の国が巨大化してたり」
「それぞれが違うからどうも言えねえよ」
二依子はその回答に答える。
「前にボディが壊れた理由聞いた時に言ってた巨大な霊体の事なんだけど、似たような話を最近ネットでチラホラ見かけるね」
「どんな話だよ」
ザジの返答に二依子が返す。
「出回っているスクリーンショットがあるよ、ホラ……」
そこで見せられた二依子のスマホの画面には、憑依アプリの霊体探知画面に写った巨大な霊体。
そう、その巨大な霊体は……
″船″の様にも″クジラ″の様にも見えていた……
「やっぱ他にも居たのかよ、コイツも自称天国の主なのか?」
「さあ?救いの船だとか宝船だとか……死者の魂が吸い込まれるのを見たとか……」
ユナがここではっと思い付く……
「まるで憑依中毒で亡霊になることを促して、その船の霊体に取り込ませてる様な気がするんですが……」
ザジがユナの解答に答える。
「原点のアプリの制作者が亡霊になった中毒者だからな……嫌な予感がする。」
ザジが考察を始める。
(……)
ユナはその様子を見守るしかないようだ。
二依子の作業とザジの議論考察が進む中、夜も更けていった。
時計は夜12時半を超えている。
「流石に眠い……シャワー浴びてもう寝る、明日は普通に授業もあるし部活もあるの」
二依子は新ボディの製作改修作業を済ませて脱衣場に行く。
「新しいボディの調整していいか?」
ザジがワクワクしてる様だ。
「いいよ、間接の不都合あったら教えて……」
二依子はシャワーを浴び始める。
「よし始めるぞ!」
ザジが新ボディを担ぎ上げる。
「おお!ザジ、新ボディが出来たのか!……………二依子ちゃんは?」
ザジ達が来るとパルドが飛行船ドローンから身を乗り出す。
「シャワーだけど」
「「緊急発進!!……ってしまったー!充電中だったー!(ガクッ)」」
パルドが項垂れた。
「頼むから馬鹿なことしてないで入口開けて……」
「あい……」
ザジの突っ込みにパルドが嘆きつつ入口を開ける。
新ボディは飛行船ドローンの下部にあるレストルームの一部屋に運び込まれる。
「よいせよいせ」
ボディを担ぎ上げてレストルームに入ると、すぐに霊力洩れのないように密閉。
最憑依作業に移る。
「これでスキル無しで今のボディを抜けられるな」
継ぎ接ぎの騎士ロボのプラモデルを抜け出すと、新ボディへの確認をする。
新しいプラモデルのボディは、クリアパーツであしらった装甲と翼を逆さまにしたの様な武器マウントパーツ。
ブースターとライフルを併用出来そうな補助装備と逆反りの剣、ファルカタのイメージの二刀が装備された。
「以前の″作品″のボディの上位互換だな」
そしてザジが気になるのは、以前にもあった″退魔″の力……。
(やはり、今回も付いてる……またお世話になるかも知れない)
ザジが憑依を開始、即座に新ボディで立ち上がる。
「腕よし……足よし……首よし……腰よし……」
「手パーツは交換だな、指部分の可動は市販のモノよりドクの作った物の方が、霊糸が通しやすくなっていて使いやすいな……」
「だけど流石は二依子だ、前にボディを作って貰ってた時よりも俺達に合うボディを仕上げてる」
新ボディで二依子の部屋に戻るザジ、ユナも付いていく。
「凄いです、私も何か見繕って欲しい!」
シャワーを浴び終えた二依子が出てきた。
「どう?何処か動きにくい場所はない?こう見えても間接の軟化と耐久性を両立させて作ったの……」
ザジが新ボディでフワフワ飛びながら動く様を見せると、ドライヤーを霊体の手で掴んでスイッチを入れて二依子の髪を乾かしている。
「ああ凄い完璧だ、手は流石に俺達のに代えたけど他全てに至ってはパーフェクトだ二依子」
「手は仕方ないかー、ぐぬぬ……作業的に細かすぎてドクさんには敵わないな」
ザジはハンガーラックに掛けてある寝間着を飛びながら取って持ってくる。
(ザジいいいいい!!そこ代われええええ!!)
本日そればっかりのパルドの思念など気にもせず、黙々とタオルを洗濯籠に飛んで持っていくザジ。
着替えをナチュラルに手伝うと、ベッドに入る二依子を確認して消灯する。
「おやすみ二依子。」
「おやすみザジ君、って亡霊って寝ないんだった……また明日」
寝静まった二依子を確認して、助走をつけて改めて……
「「オカンか!!」」
二依子に聴こえないようにユナのサイレントな突っ込みが入った。
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