クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

21話 貴族の考え方はやっぱりわからない

 アルバトラウサムさんが連れ去られた後、正面の扉、アリサのいる方へ行く。
 とにらの向こうからなにやら話し声、というより叱られているような声が聞こえる気がするが、気にしないことにした。

「なぁ、アリサ。お前の親父さんっていつもあんななのか?」
「うぅ、普段は人前だともっとちゃんとしててかっこいいのに……。私が関わるといつもああなるの……。」

 アリサは頭を抱えながら唸っている。
 いつもと言うあたり本当に苦労しているんだろう。

 そんなことを考えていたら、アルバトラウサムさんを連れ去っていった人たちとは違うメイド達がなにやらせわしなく動いている。
 なんだろう、アルバトラウサムさんが逃げ出したとかかな?
 すると、一人のメイドが声をかけてきた。

「お嬢様、ソーマ様。お食事の準備が整いましたので御席にてお待ちください。」

 俺の予想は外れたようだ。
 なるほどね、晩飯の準備してたのか、俺の分まで。

 え?なんで俺の分まで?

「旦那様から、ソーマ様がお尋ねになられたときは丁重にもてなすよう言い遣っておりますので。」

 そうか……、後でお礼を言っておこう。
 だがいいのだろうか、俺みたいな一般市民が貴族と一緒に食事だなんて。
 ここは本人、アリサに聞いてみるべきか。

「俺、ここで晩飯食べていってもいいのか?なんか申し訳ないというか、場違いな気がするというか……。」
「別に気にしなくてもいいのに、私の師匠なんだからもっと堂々としていてほしいわ。人の家から借りてきた猫みたいにおどおどして、なんだか子供みたいよ?」
「別にいいだろ、慣れてないんだよこういう雰囲気。貴族の家になんて初めて来たんだ、大目に見てくれ。」

 いろいろ余計な事まで言われた気がするが、とりあえず許可は取れたのでよしとする。
 俺は手近な席に座ると、隣にアリサも座った。
 さっきの一連の会話のせいで、ただでさえつかれているのに余計疲れた気がする。
 俺よりアリサのほうがつかれていると思うが。

 少し待っていると料理が運ばれてきた。
 見るからに高そうなコース料理、どう手を付けていいのかわからずちょっと手間取ったが、食べた瞬間そんなこと考えている余裕がなくなるくらい美味しくて、気づけば全て食べ終わっていた。
 一度ここに来たことを後悔したが、やっぱりきてよかったな、うん。

 落ち着いたら帰ろうと少しのんびりしていたら、またメイドたちがせっせとせわしなく動いている。
 さっきよりも急いでいる感じだ。
 なんだろう、アルバトラウサムさんが暴れ始めたのかな?
 すると、さっきのメイドがまた声をかけてきた。

「お嬢様、ソーマ様。お風呂の準備ができましたので、御案内します。」

 また俺の予想は外れたようだ。
 なるほどね、風呂か、それの準備で忙しかったわけね。

 だから、何故俺も?

「旦那様から、ソーマ様がお尋ねになられたときは丁重にもてなすよう言い遣っておりますので。」
「さっき同じこと聞いた気がするな……。」

 そうか、……今度来たときは菓子折りでも持ってこよう。
 だがいいのだろうか、風呂まで入れさせてもらって。
 一般市民は三~五日に一回くらいしか風呂に入らず、それ以外は濡れタオルで体を拭くくらい。
 一人一人入れ直さないといけないので、準備するのに時間も手間もかかるせいで、そう頻繁には入れないのだ。
 それをわざわざ俺の分まで、と考えていたらアリサに言われた。

「お風呂に関していうならもっと気にしなくていいわよ。私の家は男女別々、どっちも大浴場、排水・給水機能完備で、入れ直す必要ないから。」
「おぉ、流石貴族、というより流石王族分家か。普通の貴族でもそこまでちゃんとしてないだろ。」
「私の家にはメイドがたくさんいて、みんな住み込みだからお風呂がちゃんとしていないと困ってしまうから。それにお父様のこだわりがあって、広いお風呂を一人でのんびり入っていたいんだって。」

 うーん、金持ちの考えはよくわからんな。
 でもせっかくだし入っていくとするか。

 案内されて入った風呂は、俺の想像よりはるかに広かった。
 俺の家の風呂は一辺が三メートルくらいの立方体の部屋なのだが、ここはそれの五十倍くらいは広い。
 俺の家が丸々一個入りそう、いや余裕で入るかもしれない。

 はぁ、と風呂から出てため息が出てしまった。
 入った感想は、落ち着かないだ、だって広すぎるんだもん。
 入る前より体の疲れは少し癒えたが精神的には疲れた。

 ようやく帰れる、と思いながら風呂場から出ると、またなにやらせわしなくメイドたちが動いているではないか。
 なんだろう、アルバトラウサムさんが致命的な何かしでかしたとかかな?

 いや違う、この流れはデジャブだ。
 またなにかを準備しているに違いない、メイドの人たちには申し訳ないがこっそり帰らせてもらおう。
 そう思い踵を返して歩き始めようとしたその時には、もう逃れるすべはなかったのだと気づかされたのだった。

「ソーマ様。お部屋の準備ができましたので、御案内します。」

 本日三回目のメイドさんとの対面である。
 うん、わかってた、わかっていたよ。
 ここで帰れなかったら、そうなるだろうなって。
 お部屋って、もう聞かなくてもわかるもん。
 要するにあれだろ?今日はもう遅いんだから止まってけよ、ってやつだろ。
 なんでそうなるかな……。

「旦那様から、ソーマ様がお尋ねになられたときは丁重にもてなすよう言い遣っておりますので。」
「言うと思ってたよそのセリフ。」

 もてなすって、どこまでもてなしてんだよ!!
 俺貴族でも何でもないんだぞ!
 別に丁重にもてなされたってなにも返せないぞ!

「ふぅ、いいお湯だった。」
「あ、アリサちょうどいいところに!」

 どうしようかと考えていたところで、アリサが風呂場から出てきた。

「え、なに?何か用?」
「風呂から出たら部屋まで準備されてた。俺元々晩飯も、風呂も、泊まっていくつもりもなかったんだが、こんな好待遇でいいのか?俺平々民なのに。」
「?なに言ってるの?貴族は誰が相手でも、客人はもてなすもの。まして、その家の家主が丁重にもてなすよう御触れを出していたならこれくらい普通のことよ?」
「あぁ、そう、なのか。……そうか。」

 お礼も菓子折りもアリサにして、ここにはできるだけ近づかないようにしよう。
 嫌いになったわけじゃない、ご飯はすごくおいしかったし。
 でも仕方がないことだ。
 平々凡々な一般市民の俺には精神的負担が大きい。
 初めての訪問とはいえ、これを何度もとなるとちょっと耐えられない。
 アリサやアルバトラウサムさんには悪いが、この部分だけは相いれないところだなと思った。

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