クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

18話 いきなり決行、弟子の家へ行ってみよう!

「もう今日は終わりだ。夕暮れ時だから早めに帰らないと暗くなってくるぞ。」
「わかった、それじゃあ、ッ!!」

 アリサが歩き始めようとしたとき、足をもつらせてこけそうになった。

「よっ、と。大丈夫か?立てるか、一人で?」

 少し距離が離れていたせいで、腕で受け止めるのは無理だと判断した俺はアリサの進行方向、つまりこけそうになっている方向に割り込んで、体で受け止めた。
 勢いとか体の角度とか考えると、これが最適だったはずだ。
 ナイス判断、俺。
 と思った矢先に、

「ッッ!?!!?」
「え、ぐほぉぁぁっ!?」

 突き飛ばされました。
 な、なぜだ……。

「あ、ご、ごめんなさい!その、急に抱き留められたから、びっくりして…。」

 あぁ、なるほど。
 確かに、不可抗力とはいえ異性にいきなり触れられるのは、かなり驚くことだろう。
 思春期真っ只中なら尚更だ。
 ただ……。

「……それでも、せめて手加減して欲しかった、かな。まさか、押されただけでここまで飛ぶとは、思わなかった……。」

 約五メートルほど後ろに吹っ飛んだ。
 空中で三メートル、着地してから二メートル、俺の頭が擦れてきれいな道ができている。
 どんだけ腕力強いんだよ…。
 後頭部が痛い、地面と擦れて禿げてそう。
 俺まだ十六歳なんだが、この年で禿げとか気にしたくないぞ。

「しかし、本当に大丈夫か?足元フラフラじゃないか。その状態で帰れるのか?」
「大丈夫、今のはちょっと躓いただけだから。」
「ちょっと躓いただけ、ねぇ…。」

 そんなことがありえるのだろうか?
 アリサの身体能力は世界でもトップクラスだと俺は見ている。
 そんなアリサが躓くってことは危険な状態ではなくとも、大丈夫ではないのだろう。
 このまま帰らせてもよいのだろうか、病院とかはもう閉まってしまっているし……。
 仕方ないな。

「……家まで送っていこうか。」
「え、いや、そんなことしてくれなくても、本当に大丈夫だから。」
「本当に大丈夫だったとしても、俺が心配だからいく。もし帰ってる途中で倒れられたら困る。これも師匠としての務めだ。ダメだって言っても勝手についていくからな。」

 正直なところ、一般市民の俺が貴族で身内が王族に怪我をさせた事自体、かなり危険ではある。
 当たり前ではあるが、身分さがある俺では普通は許されないことだし、問答無用で極刑に処されても誰も何も言えない。
 ただそこは当事者であるアリサが許してくれたという事実がある以上、悪いようにはならないと思う。
 それでも全面的に放免される可能性が大きいわけではないだろうな。

「それもはやストーカー宣言してるようなものなんだけど……。はぁ、もう、後ろからこそこそついてくるくらいなら、送ってもらったほうが良さそうね。わかった、お言葉に甘えて送ってもらうことにするわ。」
「よし、それじゃあ行くぞ。もう日が沈み始めてる、遅くなると色々とまずい。主に俺の睡眠時間が。」
「途中までいい話だったのに一気におかしな方向にいった気がするのだけれど…。」
「細かいことは気にしなーい。ほら早くしないと先行っちゃうぞー、どこ行けばいいか知らんがな。」
「もうそれ送っていく人の態度じゃ、って本当に先に行くの!?道わからないんでしょ、いや
、待って早歩きやめて!私けが人!もっと労わって!」

 余計な事を色々言いながらも、大樹の公園から大通りに向けて歩き始めた。

 --------------------

 日が沈んだころ、通りは明かりに包まれていた。
 季節を考えれば日が短いわけではないので、もうすぐ夕飯時といったところだが町の賑わいは日中と変わらず、それを示すかのように街灯や家からこぼれる明かりのおかげで、ここだけ真昼のように明るかった。
 わいわいがやがやと人の話し声が絶えないこの大通りを、黒い長髪をたなびかせながら歩く美しい女性と、後ろからひょこひょことついてくるフードを被った怪しい人がいた。
 お察しの通り、アリサと俺だ。

「…本当にストーカーみたいなのだけど。わざわざフードを被る必要あったの?」
「仕方ないだ。ただでさえ『荒らし』で顔割れしてるのに、今年の武術祭優勝者と一緒に、しかも異性と歩いてるところを見つかったとなれば、心無い奴らの手によって明日の朝刊の一面を飾ってるかもしれないからな。そうなったらお互いに困るだろ?」
「それ逆効果だと思うけど…、すごい怪しいし第一周りからの視線すごいよ?」
「なにっ!?」

 ばばっと周りを見回す。
 明らかに眼を逸らしたのが十数名。
 こちらをちらちら見ているもの多数。
 口を押えて笑いをこらえながらもガン見しているものが一名。
 って串焼きのおっちゃんじゃねぇか!こっち見るな!
 ジェスチャーを送ってみたが、いい笑顔でサムズアップしてやがる。
 おい、笑いこらえるのに必死でぷるぷるしてんじゃねぇ!

「ぶほぁっ!」
「吹き出してんじゃねぇぇぇ!」
「やっべ、逃げよ。」
「待てこら、逃げ足速っ!」

 ぴゅうぅぅぅとでも効果音がつきそうな速さだった。
 次あったとき覚えとけよ、と後ろ姿に念を飛ばしておいた。

「お知り合い?」
「ああ。あの人はさっき言ったようなことはしないと思うが、どっちにしろばれてるみたいだしな……。」

 後ろをチラッ。
 サッと眼を逸らす人たち。
 もう手遅れだもんなぁ……。
 これはあることないことたくさん書かれるな。

「なんかすまんな、送るとか言ってなかったらこんなことには…。」
「大丈夫、どうせ朝刊にはなにものらないわ。」
「なんで言い切れるんだよ?」
「もしこのことを記事にするような組合、噂を流そうとする人がいたなら、未然に私自ら潰すわ。」

 この人怖っ。
 すっごい綺麗な笑顔で拳握りしめてるのめちゃくちゃ怖い。
 鬼とか悪魔がまとってそうなオーラだしてるんだけど!?
 おおおお落ち着けアリサ、どうどう。
 お前自分がけが人だってこと忘れてない?とりあえずその拳は降ろせ、な?
 息を吐きながらゆっくりと拳を解くアリサ。
 ふぅ、一難去ってまた一難とはまさにこのことか。
 周りの人からも、よくやったって感じの眼差しが送られている。
 いやー、どうもどうも。
 ってあれ?アリサはどこへ?

「それじゃあ、行きましょうか。」
「切り替え早…。俺ついていけてないよ。」
「なにか?」
「イエ、ナンデモアリマセンオジョウサマ。」

 その笑顔、非常に怖美しいですすみませんなんでもありません。
 くっ、誰か助けて!
 あぁ、なぜそこでみんな眼を逸らすんだ!

「どうしたの、早く行きますよ?」
「はい!ただいま!」

 どうしよう。
 俺、一生アリサには逆らえなくなりそうだ。
 将来の俺のことを悲観しながら、周りから憐みの目を一身に受けとめながらアリサについていくのだった。

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「ここが私の家よ。」
「おぉ、想像通り、いやそれ以上にでかいな。やっぱり貴族の家ってでかいんだな。」
「他の貴族の方の家はここほど大きくはないわ。まぁ王族分家なわけだし、あたりまえではあるのだけど。」

 アリサの家は外から見る限り三階建てで、高級宿屋五つ分ぐらいはありそうな大きさだ。
 それに加えて、同じ面積ほどの庭もあるため、王城の一角と同じくらいの面積を誇っていた。
 比較対象になるかはわからないが、俺の家はせいぜい安宿の四部屋分、高級宿屋の一室と少しくらいの敷地面積だ、庭はない。
 俺の家は住宅街にあるわけではないので、一般市民の所有する平均的な敷地よりは広いが、それでも中の上くらいだ。
 売れ行きが好調な商人の家なら貴族でなくとも、それに匹敵するくらいの家や土地を持っていることは少なくない。
 そういった面で考えてみても、アリサの家は破格の大きさだった。

「それじゃあ、俺はここまでだな。流石に敷地の中に入る勇気は俺にない。」
「そうね、ここまで送ってくれただけでも十分助かったわ。まぁ道中少しバタバタしたけど、
それでもありがとう。」
「どういたしまして。今日はゆっくり休め、明日これなくてもいいから体調を万全にしてからくること。 無理してくることもないように、いいな?」
「もう、過保護過ぎない?そんなに心配されなくても私はだいじょ」
「おかえりなさいませ、お嬢様。」
「!!?」

 家の扉の前で少し話していたら、突然音もなく姿を現した一人の女性。
 外見から判断するにこの家に仕えて長いメイドなのだろう、動きに無駄はなくそれでいて落ち着いた雰囲気の老婆だ。

「た、ただいま婆や。今日は少し遅くなってしまいました、申し訳ありません。」
「いえ、お嬢様が御無事であれば私は構いません。それで、…そこの男性はどなたですか?」
「あ、えと、私の武術の師匠。ほら、先日話したでしょう?」
「なるほど……。」

 こちらをまじまじと見てくる老婆。
 う、動けない。
 アリサを送って早々に帰るつもりだったのだが。

「ふむ、いいでしょう。お入りなさい。」

 ……え、今なんと?

「ちょっと婆や!勝手に何を言っているの!?」
「勝手ではありませんよ。旦那様から一度会ってみたいと仰せつかっていましたので。」
「そ、そんな。お父様が…?」

 ちょ、俺を空気にして勝手に話し進めるのやめてくれません?
 俺は帰りま、え、なに、メイドがたくさんでてきたぞ。

「さぁさ、お入りなさい。歓迎しますよ。」

 婆やの言葉を合図に、メイドたちが俺を捕まえ中へ引きずり込んでいく。
 アリサを送ってきたのは間違いだったのかもしれないと、後悔してもすでに遅かった。

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