クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

12話 もはや二重人格だな

 12時にもうすぐなるというところ、アリサの説教を乗り越えた俺はアリサを引き連れ、大樹の公園に戻ってきていた。

「……………」
「……………」

 お察しの通り、移動中の会話は一切ない。
 重い、非常に重い。
 何とかこの空気を取り払いたいとは思うのだが、如何せんこういう雰囲気に不慣れなせいか、話しかけることも出来ず到着してしまった。
 ……一先ず、振り返ろう、そうしよう。

 クルッ

「………………」
「………………えっと」

 すっごいこっちみてる!!
 どうればいい!!これどうすればいいの?!
 なにか話さねば、でも何を話すんだ?
 いや俺たち今から鍛錬するんだからその話をすれば。
 でもいきなりそんな流れというか空気とういかそういうのぶった斬っていく度胸なんて俺持ち合わせてないし!!
 第一にアリサおこってるよまだ怒ってるよ!
 微動だにせずこっちみてるよ?!
 真顔でずっとこっちみてるよ?!
 やっぱり怒ってるよね、アリサ怒ってるよね?!
 あぁでもどうすれば、どうすれば?!?!

「……あの、」
「ひゃいっ!!!」

 うおあぁぁぁぁ!!!
 そうこう考えてたらアリサから話しかけさせてしまった!!
 なんか変な声出たし、やっぱりこいつ変な奴とか思われたよ!
 これからさきどう接していけと!!
 俺に、どうしろっていうんだぁぁぁぁ!!!

「一旦、落ち着きましょうか。顔に出してないつもりかもしれないけど、すごくわかりやすいよ?今もうどうしていいかわからないくらい動転してるよね?」
「うぐっ!…………。」

 そうだ、落ち着く、それだ。
 深呼吸、深呼吸。

 スー、ハー、スー、ハー

 …………よし。

「すまん、もう大丈夫だ。落ち着いた。」
「そう、ならよかった。」
「………なぁ、もう怒ってないか?」
「うん、全然、怒ってないよ。言いたいことはさっき全部言ったし、それに私も言い過ぎちゃったかなって思ってたの。」
「そうか………。」

 アリサの大人な対応に、申し訳ない気持ちが溢れてきた。
 このままじゃダメだ。
 男らしさとか威厳とか、色々大事なものを失っている気がする。
 今は自分に出来ることをしよう。

「それじゃあ、始めますか。」
「よろしくお願いします、師匠。」

 おおっと、早速謎発言が聞こえた気がするぞう。
 空耳だな、うん。
 そう、だよね?

「………今なんと?」
「?……よろしくお願いします、師匠。と。」

 えぇ……。
 この年で師匠って呼ばれるの?
 俺まだ16だよ?

「師匠って言うのナシで。むず痒い。」
「では、先生で。」
「それも却下!」
「?……じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「……普通に名前でいいのでは?」
「なるほど。」

 抜けてるなこの人、いろんなところが。
 一先ず、俺がアリサから敬称で呼ばれるのは回避できた。
 貴族の、その上王族の分家のお嬢様に敬称で呼ばれた日には、「あいつ何者?!」みたいな目に晒されるだろう。
 もう外で歩けなくなるわ。

 そんなことを考えていると、アリサはすごく申し訳なさそうに小声で尋ねてきた。

「………名前、教えてください。」
「…………、え?」

 いや、この発言には俺もびっくりですよ。
 まさに開いた口が塞がらないとは、このことですよ。
 あんなに目立つように出ていったっていうのに、まさか覚えていらっしゃらないとは。

「ち、違うの!これは、えと、なんというか……。そう!私あの時、武術家の意識に切り替えてたの!だから、集中してて、その………。」
「つまり聞いてなかったってことだな?」
「……………はい。」

 しゅん、と効果音が聞こえてきそうなほど、落ち込むアリサ。
 目を伏せ気まずそうに俯く姿が、イヌ科動物のように見えて、俯いたことで見える頭頂部に犬特有の耳を幻視してしまった。

 まぁ、つまりこういうことだ。
 なんだこの可愛い生き物は。

 ………落ち着け、俺。
 今日は感情の起伏が激しすぎる。
 冷静になるんだ。
 このままだと1日で心臓がダメになってしまう。
 普段の俺はもっとクールでドライな感じだっただろうに。
 なんでこんなことになってるんだ。
 
 まさか、俺緊張でアガってるのか?
 確かに、同年代の女性と話したことなんてほとんど、いやたぶん1回もないんじゃないか?
 知らず知らずに意識していたと考えてみれば、なるほどと納得出来る。
 でもこれからは違うのだ。
 多かれ少なかれ、アリサに指導する立場となった以上、俺がしっかりしなければ教えられる側は迷惑だ。
 武術家を目指すものとして、心身ともに鍛えなければ。

「ソーマだ。」
「え?」

 ふいにかけられた俺の言葉に驚いて、俯いた顔を上げこっちをみるアリサ。

「俺の名前だよ。聞いてなかったなら仕方ないことだ。次はちゃんと覚えててくれよな。」
「………わかった。ソーマね。」

 アリサは何度か繰り返し俺の名前をつぶやき、噛み砕くようにして、脳に焼き付けようよする。
 そして、同性も思わずため息をつきたくなるような、煌びやかな笑顔で言った。

「これからよろしくね、ソーマ。」
「こちらこそよろしく、アリサ。」

 俺たちは握手を交わした。
 かくして、特訓1日目が始まるのだった。

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