クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

11話 女の人って怖ぇ

 朝、窓から入ってきた日差しが眩しくて目が覚めた。
 朝特有の気だるさが残っていてベットから出たくないとは思いながらも、二度寝する気分でもないので仕方なく起きることにした。
 体を起こして、軽く伸びをするとポキポキと関節の音と刺激を受けて頭が働き始めた。

 ベットから立ち上がり洗面場に向かう。
 いつもどうりボサボサで寝癖がはねまくりの髪をわしゃわしゃと適当に手ぐしで整える。
 蛇口を捻れば冷たい水が流れ、それを掌に溜めて顔を洗う。

 ある程度の身だしなみを整えたところで、リビングに入った。
 小さな家に住んでいるとはいえ、1人で暮らしているためにとても静かで、少し寂しさも感じるが、もう慣れたことだ。
 朝食に一昨日買っておいたパンと、即席で作ったココアを食べた。

 朝食を取りつつ、今日の予定を立てることにした。
 日課である走り込みと自主訓練は必ずするとして、他にやるべき事は…、と考えたところで、ふと時計を見た。
 時刻は、9時50分ごろを指していた。

 思いのほかぐっすりと眠っていたようで、いつもより起きる時間が遅いことにようやく気がついた。
 少し弛んできたのかもしれないな。
 昨日も寝坊して武術祭遅刻したしなぁ。
 もっと生活のリズムとか1日にすることを決めたりした方がいいのかもしれないな。
 とりあえず、朝起きる時間だけはちゃんと決めておこう。
 また寝坊して、大事なイベントとか約束事とか反故ほごにしたくはない。

 約束事?

 あれ?なんか俺忘れてないか?

 うーん…………、あっ…。

 『では明日の朝、10時頃にここでまた会いましょう。』

 ぶわぁっ!!

 身体中の汗腺という汗腺から冷や汗が滲み出てきた。
 今までの人生でこれほど命の危険を感じたことはないってくらい寒気がする。
 勢いよく時計に振り返ると、時刻はさらに進み、9時53分を指したところだ。
 あの大樹のある公園は、まず森を抜けて大通りを道沿いに歩いて、大体1時間程だ。
 この道のりをダッシュで向かったとしても、せいぜい半分に短縮できるかできないか。
 普通に向かったんじゃ間に合わない。

 俺は必要最低限の準備だけを早々にすませて家を飛び出した。
 普通に向かって間に合わないなら、普通じゃない道で行けばいい。
 つまり最短距離、森を真っ直ぐ突っ切って行けばかなり時間短縮できるはずだ。
 即座にそれを考えついた俺は今までにないくらいに全力で走った。

 もし遅れたら何されるかわからんというのがこれほどまでに怖いこととは……。
 いや、たぶん相手がアリサだからここまで怖いのだろう。
 もし遅刻して、理由が寝坊だってバレたら、俺今度こそ死ぬのではなかろうか…。
 ……あぁ、考えるだけで寒気がしてきた!
 急がなければ!



 どーもどーも、ソーマと申します。
 現在の時刻は10時半でございます。
 場所は大樹の公園から10分程歩いた所にある料理屋です。
 なぜそんな所にいるかって?

「~〜ーーーのです。だいたい、昨日の夕方にした約束を次の日には忘れているとは、どういう思考回路なのですか。約束事を守るということは人の常識の範疇でしょう。それにーーー〜~」

 そんなの俺が聞きたいよ。

 落ち着け、俺。
 なんでこんなことになったのか、思い出せ。
 確か……、、、。

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「……10分遅刻ですね。」
「ハァ……、クソッ、ハァ……。」

 結局、俺が大樹の公園に着いたのは10時10分だった。
 アリサは懐中時計をしまいながら、こちらを振り返った。
 その表情には特にこれといった感情は現れておらず、少し訝しげに感じた。

「…怒らないのか?…最悪片腕までは覚悟していたんだが。」
「別に、怒ってはいないわ。昨日は自分でも、強引に話を進めているってわかってたもの。」

 話し方が昨日と違った。
 昨日は公の場で姿を見せていたから、そのせいでかしこまった話し方になっていたのかもしれないな。
 つまり、こっちが普段の話し方ってことか。

「だから、その、ごめんなさい。それと、ありがとう。」
「あ、いや、いいんだけどさ。俺も遅刻もしたし、お互い様ってことで。」

 このしおらしい感じ、第一印象が貴族然とした姿から受けたものだったから、なんというか人間味というか、人らしい温かさのようなものを感じた。
 やっぱり身分が高くなると、表と裏が否応なしに出来てしまうものなのだろう。

「そう…。よかったわ。不安だった、来てくれるかわからなかったから。」
「こう見えて、割と誠実なんだよ。」
「『荒らし』なんてやってたのに?」
「それは言わないでくれ!!」

 想像以上に社交的だった。
 これなら、少なくとも死ぬほど鍛錬とかにはならなさそうかな。
 と、話しながら考えていると、

 グウウゥゥゥゥ…

 突然、どこからともなく響き渡る音。
 これは、、、

「?……腹の音、かな?俺じゃないぞ。」
「…すみません、私です…。」

 少し顔を赤らめながら、おずおずと手を挙げるアリサ。
 歳相応の反応にちょっとだけほっとした。
 初めてあった時から大人びた雰囲気を感じていたから、なんとなく安心した。
 だいたい歳不相応の雰囲気を持つ人は、何らかの原因があるのが相場だ。
 でも、思ったほどの重さはなさそうだ。
 折り合いがつけられてるのか、今はどうにもできずに放置か知らないが、一先ずこれから切磋琢磨していく相手として、愁いなくやっていけそうだ。

 まぁ、それはそれとして。

「…腹減ってるのか?朝ごはん食べてないのか?」
「……実は、昨日の今日で、心配で、待ち合わせよりも、だいぶ早く来てしまって、それに、焦ってて、だから、その、食べて、ないの……。」

 なんだこの生き物、俺の知るアリサはどこか吹き飛んでいってしまったようだ。
 まぁ、俺の知る、とか言ってもほとんど知らんのだが、それは置いといて。
 とりあえず、、、

「可愛すぎかよ…。」

 俺は顔を隠さずにいられなかった。
 少しもじもじして、顔をひどく紅潮させているさまは、なんとまぁ保護欲の煽られることか。
 見ているこっちが、うわあぁぁぁってなりそうなくらいに恥かしいだろうことがひしひしと伝わってくる。

 えふんえふん。
 落ち着け俺。

「と、とりあえず、そのままにするのもあれだし、鍛錬の妨げになるかもしれないから、なにか食べに行こうか?」
「……わかりました。お気遣いありがとうございます。」
「いえいえ。」

 そういうわけで、食事をしに移動することになった。

 うん。
 ここまでは、よかったんだよ。

「いやー、まさかアリサが人らしいと思わなかったな。もっとこう、一般市民は眼中にないぜ、って感じかと。」
「ほう、そんなことを思っていたのですか…。」
「そうそう、始めみた時とっつきにくそうだなって思ってたからなー。」
「………。」

 気づかなかった俺が悪いのだ。
 いつの間にか、スイッチが入ってることに。
 アリサの口調が敬語になっていることに。

 ガシッ

「それで、……どうした、肩つか、ん、で…。」

 振り返れば、悪鬼羅刹も震え上がりそうなオーラを放つアリサ?がいた。

「お説教、ですね?」

 逆らうことも、逃げることもできるわけがなかったのだった。

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 と、このような経緯から現在、説教されているわけなのだが。

 この時の俺はまだ知る由もないのだ。
 ここから更に1時間は説教が続くということを。

 教訓、女性は怒らせてはならない。

コメント

  • 斉藤 自由

    投稿頑張って下さい!

    2
  • シュトロム

    諸事情により投稿が遅れました。すみません。

    0
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