クズスキルでも、努力次第で世界最強!?
8話 決着
俺は強くインデンスを握りしめる。
多分どのタイミングで仕掛けても、結果は変わらないだろう。
アリサも俺も、今が1番集中している。
だから結果はわからなくても変わらない。
俺がすることはもう決めてある。
それを完璧にこなせばいいだけ。
俺が1番得意なことではある、いつもの通り技術の再現をするだけのこと。
ジリジリと距離を詰める。
アリサと俺のまわりに、まるで空気の幕が張っているかのように、互いの間合いを幻視する。
近づけば近づくほど、空気が張り詰め緊張が走る。
集中力をできる限り高めているとはいえ、もしミスしてしまえばと考えると、じんわりと冷や汗が出る。
俺の攻撃がギリギリ通じるであろう範囲、飛び込んで三~四歩のところまで近づいた。
顔を伝う汗の感覚がやけに鮮明に感じる。
1度息を吐いて、しっかりアリサの方を見る。
相手もこちらを注視しているのがわかる。
俺の一挙手一投足をも逃さないつもりのようだ。
それこそが悪手であるとも気付かずに。
そのための仕込みだった。
普段のアリサだったら、しなかったであろうミス。
それを誘発させるためだけの挑発だった。
アリサが言っていた、俺のやり方は卑怯だという論は図星でちょっと申し訳なくなる。
だが、これは決闘であって試合ではない。
わかりやすく表向きのルールは同じにしたが、試合にある暗黙の了解は、決闘にはそもそも存在しない。
だから、卑怯だろうがズルかろうが勝敗がすべてなのだ。
俺が勝った時には、正直に全部話そう。
それが、武術家志望の俺のケジメということで。
アリサの視線を、呼吸を、思考を読む。
どんな戦いにおいても、自分の動きを読まれることは、次の一手を選ぶ時間に差がつき相手が有利になることと同義である。
この時点での俺はアリサより三手以上有利と言える。
だが、まだ足りない。
たった三つでは、俺とアリサの間にある身体能力的差を限りなく縮めることはできるが、超えることは出来ない。
だからこその『最後のダメ押しの一手』が役に立つ訳だが。
アリサの視線がインデンスから動いて瞬きをする瞬間。
アリサの呼吸の吸う時と吐く時が切り替わる瞬間。
アリサが俺が次なにをしてくるか考えがまとまる前というタイミング。
これら三つの条件が揃う瞬間を狙って、動き出す。
1歩目。
完全に見ることも意識することもできない初動。
もちろんこれだけで出し抜けるほど甘くない。
アリサもすぐに反応し、受け流す体制を整えようとする。
2歩目。
アリサの体制がしっかりと整い、これで正面突破は完全に不可能となった。
今から方向を変えたり、フェイントを入れても意味は無い。
3歩目。
それでも俺は止まらない。
勢いよく、次の1歩を踏み込む。
握りしめたインデンスをさらに強く握る。
生み出した速度と力をインデンスにこめる。
そして、
「おぉらぁぁぁぁぁぁああっ!!!」
全力でインデンスをぶん投げた。
最後のダメ押しの一手、相手の予測できていない攻撃をすること、である。
あと一歩踏み込めば届く距離、至近距離からの飛び道具である。
これが、試合と決闘の大きな違いかもしれない。
試合とは自分の極めた武術を互いに見せ戦うことだ。
決闘にはそれはない。元々、大まかなルールしか決めていない以上、ほとんどなんでもありだとこの状況を見ることができるのは、会場中で俺だけだろう。
みんな今まで『同じであり違うルール』の試合を見てきたのだ。
いきなり決闘を申し込んで、表面上のルールが同じなら誰だって勘違いする。
つまり、この決闘が始まる前から既に仕込みを行っていたということだ。
俺自身、こんな回りくどいことをするとは考えてもいなかった。
だが、どんな状況でも自分が勝つために前準備は怠らなかった。
そのすべてが、今ここで集約されて意味を持つ。
だが、それでもまだ一手足らなかった。
アリサはあの至近距離の攻撃を、受け流した。
王族剣技の基本中の基本、下段から上方への受け流し。
それはもはや反射的に出た、意識の範疇から外れた動きだった。
あれを、あの動きを俺は見たことがある。
アリサのを、という訳では無いし、本物の王族剣技の動きとも言えないが、俺はそれを誰よりも知っていた。
だから、俺もそれに見合う動きができたんだとあとから考えれば思う。
アリサがインデンスを上に弾き飛ばし、俺を目視しようと視線を前にする。
しかし、そこに俺の姿はない。
影すらも、そこにはない。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
雄叫びが響いた次の瞬間、猛烈な破砕音が会場を包み、それに見合うだけの衝撃が土埃を起こす。
俺はアリサが弾いたインデンスと全く同じ動き、つまりは上に飛ぶことで姿を消し、弾き飛ばされたインデンスを空中でキャッチした。
インデンスはもちろんアリサの上にある。
影はアリサと重なって見えなくなる。
まるで、完全に消えてしまったかのように。
俺は重力に身を任せ、インデンスを振り下ろした。
それが、さっきの破砕音と土煙を起こしたのだ。
次第に、土煙は晴れていく。
そこにあるのは、地面にインデンスを叩きつけたままの俺と、後ろにこけたのか尻餅をついて硬直するアリサの姿だった。
多分、アリサがこけているのは、反射的に出た動きでは投げられたインデンスの勢いを完全に受け流しきれていなかったからだろう。
俺はアリサの状態をちらっと確認して、インデンスを戻す。
そして、両手をあげこう言い放った。
「前言の通り、俺はお前倒せなかった。降参する。」
会場は静寂に包まれている。
数秒後、はっと我に返った無双審判が決着の合図を出す。
「そ、そこまで!勝者、アリサ・エイセラ!!」
ちらほらと、拍手と歓声が上がり始め、すぐに会場中が熱気に包まれる。
「あの『荒らし』に勝ったぞ!!やっぱり、アリサ様は王族剣技を収められた方なのだな!!」
「いや、でも今の状況はどう説明するんだよ。『荒らし』が降参しなかったらあのままじゃ負けるんじゃないか?」
「ばっか、おめぇなんもわかってねぇな。いいか、あれはな…」
観客たちは思い思いに声を上げる。
俺は、このままここにいると、色々不味そうなのでそうそうに立ち去ることにした。
アリサは硬直したままこちらを見ていたが、何かを話すような素振りも見せないので、少し気になったが放っておくことにした。
こうして、俺とアリサの決闘は幕を閉じた。
多分どのタイミングで仕掛けても、結果は変わらないだろう。
アリサも俺も、今が1番集中している。
だから結果はわからなくても変わらない。
俺がすることはもう決めてある。
それを完璧にこなせばいいだけ。
俺が1番得意なことではある、いつもの通り技術の再現をするだけのこと。
ジリジリと距離を詰める。
アリサと俺のまわりに、まるで空気の幕が張っているかのように、互いの間合いを幻視する。
近づけば近づくほど、空気が張り詰め緊張が走る。
集中力をできる限り高めているとはいえ、もしミスしてしまえばと考えると、じんわりと冷や汗が出る。
俺の攻撃がギリギリ通じるであろう範囲、飛び込んで三~四歩のところまで近づいた。
顔を伝う汗の感覚がやけに鮮明に感じる。
1度息を吐いて、しっかりアリサの方を見る。
相手もこちらを注視しているのがわかる。
俺の一挙手一投足をも逃さないつもりのようだ。
それこそが悪手であるとも気付かずに。
そのための仕込みだった。
普段のアリサだったら、しなかったであろうミス。
それを誘発させるためだけの挑発だった。
アリサが言っていた、俺のやり方は卑怯だという論は図星でちょっと申し訳なくなる。
だが、これは決闘であって試合ではない。
わかりやすく表向きのルールは同じにしたが、試合にある暗黙の了解は、決闘にはそもそも存在しない。
だから、卑怯だろうがズルかろうが勝敗がすべてなのだ。
俺が勝った時には、正直に全部話そう。
それが、武術家志望の俺のケジメということで。
アリサの視線を、呼吸を、思考を読む。
どんな戦いにおいても、自分の動きを読まれることは、次の一手を選ぶ時間に差がつき相手が有利になることと同義である。
この時点での俺はアリサより三手以上有利と言える。
だが、まだ足りない。
たった三つでは、俺とアリサの間にある身体能力的差を限りなく縮めることはできるが、超えることは出来ない。
だからこその『最後のダメ押しの一手』が役に立つ訳だが。
アリサの視線がインデンスから動いて瞬きをする瞬間。
アリサの呼吸の吸う時と吐く時が切り替わる瞬間。
アリサが俺が次なにをしてくるか考えがまとまる前というタイミング。
これら三つの条件が揃う瞬間を狙って、動き出す。
1歩目。
完全に見ることも意識することもできない初動。
もちろんこれだけで出し抜けるほど甘くない。
アリサもすぐに反応し、受け流す体制を整えようとする。
2歩目。
アリサの体制がしっかりと整い、これで正面突破は完全に不可能となった。
今から方向を変えたり、フェイントを入れても意味は無い。
3歩目。
それでも俺は止まらない。
勢いよく、次の1歩を踏み込む。
握りしめたインデンスをさらに強く握る。
生み出した速度と力をインデンスにこめる。
そして、
「おぉらぁぁぁぁぁぁああっ!!!」
全力でインデンスをぶん投げた。
最後のダメ押しの一手、相手の予測できていない攻撃をすること、である。
あと一歩踏み込めば届く距離、至近距離からの飛び道具である。
これが、試合と決闘の大きな違いかもしれない。
試合とは自分の極めた武術を互いに見せ戦うことだ。
決闘にはそれはない。元々、大まかなルールしか決めていない以上、ほとんどなんでもありだとこの状況を見ることができるのは、会場中で俺だけだろう。
みんな今まで『同じであり違うルール』の試合を見てきたのだ。
いきなり決闘を申し込んで、表面上のルールが同じなら誰だって勘違いする。
つまり、この決闘が始まる前から既に仕込みを行っていたということだ。
俺自身、こんな回りくどいことをするとは考えてもいなかった。
だが、どんな状況でも自分が勝つために前準備は怠らなかった。
そのすべてが、今ここで集約されて意味を持つ。
だが、それでもまだ一手足らなかった。
アリサはあの至近距離の攻撃を、受け流した。
王族剣技の基本中の基本、下段から上方への受け流し。
それはもはや反射的に出た、意識の範疇から外れた動きだった。
あれを、あの動きを俺は見たことがある。
アリサのを、という訳では無いし、本物の王族剣技の動きとも言えないが、俺はそれを誰よりも知っていた。
だから、俺もそれに見合う動きができたんだとあとから考えれば思う。
アリサがインデンスを上に弾き飛ばし、俺を目視しようと視線を前にする。
しかし、そこに俺の姿はない。
影すらも、そこにはない。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
雄叫びが響いた次の瞬間、猛烈な破砕音が会場を包み、それに見合うだけの衝撃が土埃を起こす。
俺はアリサが弾いたインデンスと全く同じ動き、つまりは上に飛ぶことで姿を消し、弾き飛ばされたインデンスを空中でキャッチした。
インデンスはもちろんアリサの上にある。
影はアリサと重なって見えなくなる。
まるで、完全に消えてしまったかのように。
俺は重力に身を任せ、インデンスを振り下ろした。
それが、さっきの破砕音と土煙を起こしたのだ。
次第に、土煙は晴れていく。
そこにあるのは、地面にインデンスを叩きつけたままの俺と、後ろにこけたのか尻餅をついて硬直するアリサの姿だった。
多分、アリサがこけているのは、反射的に出た動きでは投げられたインデンスの勢いを完全に受け流しきれていなかったからだろう。
俺はアリサの状態をちらっと確認して、インデンスを戻す。
そして、両手をあげこう言い放った。
「前言の通り、俺はお前倒せなかった。降参する。」
会場は静寂に包まれている。
数秒後、はっと我に返った無双審判が決着の合図を出す。
「そ、そこまで!勝者、アリサ・エイセラ!!」
ちらほらと、拍手と歓声が上がり始め、すぐに会場中が熱気に包まれる。
「あの『荒らし』に勝ったぞ!!やっぱり、アリサ様は王族剣技を収められた方なのだな!!」
「いや、でも今の状況はどう説明するんだよ。『荒らし』が降参しなかったらあのままじゃ負けるんじゃないか?」
「ばっか、おめぇなんもわかってねぇな。いいか、あれはな…」
観客たちは思い思いに声を上げる。
俺は、このままここにいると、色々不味そうなのでそうそうに立ち去ることにした。
アリサは硬直したままこちらを見ていたが、何かを話すような素振りも見せないので、少し気になったが放っておくことにした。
こうして、俺とアリサの決闘は幕を閉じた。
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