クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

5話 決闘②

 「(うーん…。煽りすぎたかもしれない…。テンション上がってて、後先考えてなかったなぁ…。)」

 アリサとの決闘中、俺は心のなかでなんとも呑気に、しかしかなり切迫した様相になっていた。
 もし俺の心中を表すなら、「いやぁ、失敗失敗。あっはっはっ。」と高笑いする小ソーマと「いやこれどうすんのよ!?勝てる見込みなくね!?」とあわあわする小ソーマでいっぱいになっていることだろう。我ながらダサいな。うん。

 何を隠そう、この決闘中、俺は感と運だけで戦い抜いていたのだから。
 いや、5年前からずっとそうだった。
 この5年間ずっと自分より強い達人だの武芸者だのを見てきたが、初めから勝てるなんて考えてもいなかった。
 それでも、何故か5年前の俺は当時の優勝者に決闘を申し込んでいた。
 今考えても、「あの時、俺かなりカッコつけてたなー」と思わないこともない。うん。ハズカシーナー。
 …まぁ、そんなことはどうでもいいんですよ。

 この時の俺は知る由もないが、アリサが「ソーマは王族剣技を棒術で行っている」と考えていたが、全くの勘違いである。
 敗者復活戦で見せたあの高速戦闘を見た時点でソーマは、勝てる気はしていなかったし、むしろ今日予選を見学していた時も、「こいつには勝てんわー」と思うやつは沢山いた。

 それでも今アリサの攻撃を凌いでいるのは、本当に偶然に偶然が重なった結果だと言える。
 万に1つも俺が急激に強くなったとか、自分が知らないだけで実はめちゃくちゃ強いとか、全くもってない。
 そんな何処ぞの物語の主人公でもあるまいし。

 だって、俺アリサの動き見えてないし。マジで。

 正直言って、ここ4年連続優勝者に勝ってきたのは、小手先の技術と知識だけだ。
 俺は相手の戦い方も癖も知っていて、相手はそもそも俺の素性すら知らない。
 情報戦にこの時点で圧倒的な開きがあれば、後はサクッと倒してしまえばいいだけなのだし。
 まぁ、普通はそう簡単にいかないけどね。
 伊達に10年も武術家目指してあれこれ手を出したからこそできる『ひたすら手数で慣れてしまう前にゴリ押す戦法』略して『てな押し戦法』でやっと倒せるくらいだし、この戦法はすばやさ重視だから時間をかければかけるほど不利になる。

 まぁ、要するに、俺が今まで勝ってきたのはすばしっこさと相手に手を出させる前にゴリ押すことが出来たからだと言える。

 さぁ、現状確認しよう。
 まず、先手はアリサにうたれて防戦一方。
 次に、俺よりアリサの方が速い。というか見えない。
 最後に、ゴリ押そうにもまず攻勢に移れていない。いや、移れない。

 つまり、うん、まぁ、そういうことだ。

 これ負け確定じゃないですか。ヤダー。

「(逆によくここまで頑張ってこれたと思うよ!見えてないのによく攻撃防げたな俺!なんとなく周りの空気が変わった気がしたから、とりあえず『インデンス』振ったら、たまたま当たっただけだし!)」

 『インデンス』とは、俺の使う組み立て式の棒のことで、色々と仕掛けがあったりするが今回は使わないので割愛する。
 説明するのが面倒な訳ではないよ?

「(それより、どうすんだよ俺!王族剣技使わせるように誘導したけど、さっきの攻撃の激しさからしたら、防御も同等かそれ以上って考えるべきだよな。)」

 俺は現実逃避してゴチャゴチャした思考をどうにか持ち直して、アリサと対峙する。
 じっと動かず構えて待つアリサにスキはなく、攻め難いことこの上ない。
 これは厄介だな、と率直に思う。
 剣先を下段に向けた王族剣技の構え。
 王族剣技は受け主体で、中でも下段の構えは基本中の基本と言われている。
 流れる動きで上・中・下段を切り替え、臨機応変に対応できるように出来ている王族剣技は、大元が剣舞の実践系であるためその戦う様は、まるで舞っているかのようだ。
 幾年もかけて研究・改良がされた王族剣技は、極限までスキを削られている。
 流石、三大武術の1つで『絶対防御』と称されているだけはある。

 この守りを突破するには、体力切れ・防ぎきれないほどの力量、技量、素早さ、物量で向かう・不意打ち、騙し討ち・意図せぬ攻撃と幾つもの手段が考えられてきたが、そのどれもが失敗に終わっている。
 俺がもしするなら、意図せぬ攻撃の類だろう。
 基本スペックはこの決闘中に圧倒的な差を見せつけられているため、体力切れ、力量、技量、素早さでは勝てない。
 物量はそもそも1体1の決闘じゃ考察外だ。
 後は不意打ち、騙し討ちだが、そもそも正面から対峙している時点で手遅れだ。
 まぁ、不意打ち、騙し討ちも、王族剣技を使っているような達人たちには、何をやってもバレバレだろう。
 よって、俺には意図せぬ攻撃をして動揺を誘うしかないわけだが…。

「(なんか、睨んでらっしゃる?視線が決闘申し込んだ時より鋭いぞ?あれが所謂いわゆる死線ということか!)」

 超人ばりの集中でこちらの様子を伺っているアリサにスキが生まれるような攻撃ができるだろうか…。

「(こうなったらヤケクソで行くっきゃねぇな!!)」

 半ば諦めの境地に入った俺は無謀無策でアリサに突貫するのだった。

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