クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

4話 決闘①

 無双審判の合図と同時にアリサは駆け出した。
 常人には見るのも困難なほどの速度ででソーマの周りを駆ける。
 一方、ソーマは目だけをチラチラ動かすのみで身じろぎすらしない。
 自ら決闘を申し込んでおきながら動こうとしない。
 まずは様子見ということなのか、受け主体の戦い方なのか。
 アリサは訝しげに感じながらも、ソーマの出方を見ることにして攻勢に移った
 アリサは正々堂々、正面から突進する。
 もちろんこれで倒せるとは思わないが、速度も体重も乗った鋭い一撃だ。
 ちょっと実力があるくらいでは、受け止めきれない。
 実際、決勝トーナメント2回戦まではこれ一本で勝ち上がった。

 しかし、5年間『荒らし』と呼ばれ優勝者をほふってきたソーマには、通用しなかった。
 アリサの突き出す鞘つきの黒剣を、組み立て式の棒で添えるようにして下から弾き上げる。
 そしてガラ空きになった腹部に蹴りを叩き込もうとするが、アリサも弾かれることは想定済みだったようで、ソーマの蹴りを体をらしてくぐり抜けて避ける。
 アリサは勢いを極力殺さないようにすぐに体を持ち上げ再び駆ける。

 アリサは走り、ソーマは構えて待つ。
 また同じように、アリサは正面から突進した。。
 先程の繰り返しになるかと思ったが、アリサはソーマに肉薄する直前に跳躍、大上段から黒剣を振り下ろす。
 ソーマはそれを無表情で受け止める。
 アリサは黒剣を振り切ろうとするが、ソーマの防御を崩すことは出来ず、そのまま頭上を通り過ぎていく。

 流石に、アリサも一度止まるしかなく着地しすぐに構え直す。
 ソーマは以前として待ちの体制である。
 間合いを測りながらジリジリと距離を縮めていく。

 アリサの内心は嵐ように荒れていた。
 なぜならソーマは王族剣技使っていたからだ。
 元々剣術として完成された王族剣技を棒術にアレンジしているのだ。
 相手の攻撃を捌いて受け止め、スキをついて反撃する。
 無駄を切り詰め、力を分散させることに重きを置いた剣術。
 それこそが王族剣技の真髄。
 この少年はそれを自ら改変し、剣を使わずにそれをやってのけているのだ。

 アリサの頬を汗が流れる。
 気を抜けば、取られるのはこちら側だ、と改めて再認識する。
 もう様子見などしていられない。
 時間が経てば有利になるのは相手だ。
 先に動いてしまった自分が悪い。
 初めから自分も王族剣技を使い、長期戦になっていれば、勝機はあった。
 だが、もう遅い。
 最初に手を出して体力を少なからず使ってしまった今の自分では、今更王族剣技を使っても、競り負けてしまうだろう。

 そうとわかれば、することは1つ。
 相手の防御が崩れるまで、ひたすら攻撃するだけ!

 睨み合いになって、十数秒。
 先に動いたのはまたもアリサだった。
 初めの一合と同じく正面から突進する。
 ただし、先程までと違い予備動作をうまく隠し、今度は突きではなく下段からの薙ぎ払いをする。
 ソーマはこれを驚くこともなく淡々と受け止めて、鍔迫り合いの形に入った。
 言わずもがな、アリサより力があるはずのソーマが押し返すかに見えたが、黒剣の向きを少しづつずらすことで力を分散させ、必死に均衡を保っている。

 これは、王族剣技の技術の1つで『流し』と呼ばれている。
 剣の向きを変え常に相手の力を掛けづらいようにし、小さな力で相手を御するその様はまさに、うねりくねる川の流れを想起させる。

 これにはソーマも感心したが、それも一瞬のこと。
 ソーマは棒に込めた力を一気に抜き横から抜けて避ける。
 いきなり支えを失ったアリサは思わず前のめり、転けそうになるが、類まれなる体感と身体能力を持ち合わせていたのか、勢いのままに前中することで、体制を立て直し、再びソーマへ突進する。

 それからも、アリサの先攻とソーマの防御という展開を繰り返した。
 高速移動と勢いをのせた攻撃を放つアリサ、それをなんでもないかのように受け流し平然としているソーマ。
 一般の観客にはもうついていけなかった。
 化物じみてもはや畏怖すら感じるほどだった。
 係員達ですらこの決闘を止められるのか疑問が湧いた。

 もう2人は決着以外に止まらない。止められない。
 そう感じてしまうほどに。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おいおい、そんなもんかよ…。」

 私は片膝を地につけ、息を切らしながらキッ、と睨む。
 結局、この少年の守りは突破できなかった。
 王族剣技を1番熟知していると自負していた。
 それでもこの少年の王族剣技は崩せなかった。

 数合打ち合って認識した。
 この少年は、私より格上だと。
 まだ本来の戦い方はしていないけれど、それでもこの少年の強さは嫌という程わかった。
 王族剣技を自分なりに噛み砕いて、それを棒術に応用する、その発想力と実行力、さらに完成度の高さは本家に勝るとも劣らない出来である。
 そんなことが出来るのは、この世にほとんどいない。
 それこそがこの少年が持つ才能だろう。
 いかなる技術も自分のものとして落とし込むことが出来る才能。

 私が持って生まれたかった才能。

 私の目的を果たすために必要な才能。

 私がずっと渇望していた才能。

 そんな才能を持っているのに何故『荒らし』なんてものをやっているのか…。
 わからなかった、そしてゆるせなかった。
 私にはもうこの王族剣技しか残ってないのに、それすらも私は奪われるのかと…。

 内心打ちひしがれていると少年が口を開いた。

「そろそろ本気出そうぜ?王族剣技とやら、見せてくれよ。」

 なんだこいつ…。
 思わず内心悪態をついてしまった。
 この少年はわざと言っているのか?
 今まで自分がしていたものは、王族剣技ではないと言っているようなものじゃないか。

「わかりました。では…。」

 重たい膝を持ち上げ、今までとは違う構え、王族剣技の構えをとる。
 ここまで馬鹿にされたなら、もう後には引けない。

 いいだろう、こうなったらとことんやってやる。
 こんなふざけた男に負けてたまるか!!

 そしてまた私達は競技場中に金属音を鳴り響かせた。

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