クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

3話 優勝者と乱入者

 急遽開始された、敗者復活戦。
 その結末はあまりにも早く訪れた。
 競技場には死屍累々という言葉が当てはまるような有様で、気絶する者やうずくまって立ち上がれない者で溢れかえっていた。

 ただ1人、アリサを除いて。

「ふぅ...すみません。お時間を取らせてしまいました。それでは、決勝始めましょうか」

 息を吐き、アリサは他の決勝進出者達に声をかける。
 選手達は、少し戸惑いを見せながらも準備を始めたが、観客席は静寂に包まれていた。
 無理もないだろう。
 敗者復活戦をたった3分足らずで終わらせてしまったのだから。
 観客達は、アリサの黒い剣閃と倒れていく武術家達を
見て困惑を隠せずにいた。

 素人目にもアリサの異様な強さを感じ取れただろうが、それでもほんの一部に過ぎない。
 なぜなら、アリサはまだ王族剣技を使ってすらいないのだから。

(優勝は決まったかな)

 俺も・・準備のため、そうそうに見切りをつけて観客席から立ち去った。



 俺の準備が済んだところで観客席に戻ると、ちょうど決勝トーナメントが終わるところだった。

「・・・そこまで!決勝トーナメント最終戦、勝者アリサ・エイセラ!相手を圧倒する驚異的な速度をもって翻弄し、スキをついた一撃であっという間に試合を終わらせてしまいました!」

 先程までの沈みきった空気はどこへやら、今では始まった時よりも増した熱気が競技場中に拡がっていた。

「それでは、表彰式を始め「ちょっと待った!!」ーーーーッ!」

 無双審判の進行に俺は、待ったをかける。
 観客が一斉に注目したのがわかったが、歯牙にもかけずに、観客席の縁に立ち、今までずっと着ていた認識阻害のかかったローブを脱ぎ捨てた。

「おい、あいつって注意書きにあったやつじゃないか?!」
「ああ、間違いない。あいつが『荒らし』だ!」

 観客達が口々に言う『荒らし』とは、5年前に武術祭に参加できなかった腹いせに当時の優勝者に決闘を申し込み、そのまま勝ってしまったところから始まる。

 本来はそれで終わりのはずだったのだが、次の年も参加できず同じことをしたことで、この二つ名のようなものがついたらしい。
 まぁ、俺にはどうでもいいことだが。
 今年も今年でやるとしよう。

「俺の名前はソーマ!今年の優勝者、アリサ・エイセラに決闘を申し込む!」

 そう告げて、競技場に飛び降りた。
 5メートルほどの高さがあるが、自前の筋力でなんとか耐える。
 毎年やってる訳だが、なかなかどうして慣れないもので、まだ怖いし多少足が痺れる。

 それはどうでもいいので置いておいて、アリサの方に目を向けると、こちらを射殺さんばかりに睨んでいた。
 これにはちょっと驚いた。
 いや、なんか本気で恨みでもありそうな顔してるけど、初対面だからね?

「おい!あいつをつまみ出せ!今年はやらせんぞ!!」
「「「オオォォッ!!」」」

 我に返った無双審判が他の係員達に声をかけ、俺を止めに来た。
 まずいな、流石にあの無双審判+αはキツい。
 全員倒した後、体力が残ってるかどうか。
 そう考えていると、スっとアリサが係員達を止めるように手を出した。

「大丈夫です。...いいでしょう。貴方との決闘、受けて立ちましょう」

 意外なことに、このお嬢様乗り気である。
 そういうことなら話が早い。
 互いの合意があった場合の決闘では、他者の介入は御法度であるのがこの世界のルールだ。

「そうこなくっちゃな。ルールは武術祭のものにのっとる。それでいいか?」
「ええ。問題ありません」

 ルール確認をしあい、互いに武器を構える。
 アリサは鞘つきの黒剣を、俺は1本の組み立て式の棒を取り出す。
 ちなみに、武術祭のルールは、
1.複数の武器の使用禁止、但し双剣や投擲武器等の例外あり。
2.過剰な攻撃、致死に至る攻撃などの危険行為の禁止。     
3.敗北を宣言する、審判による判定、使用武器の破損による試合続行不可などにより勝敗が決まる。
 という3点だ。
 この決闘の審判は、やはりというべきか無双審判がするよう
 万が一にも俺が危険行為に出た時に即座に対象するためだろう。
 もちろん、そんなことするつもりはさらさらないが。

「それでは、決闘始めッ!!」

 こうして、俺とアリサの決闘は幕を開けた。



 私は、いつの間にこんなところに立っていたんだろう。
 王族剣技を勉強し始めたのも、ただの気まぐれとたまたま教本を持っていたからで、特別思い入れがあった訳でもない。
 それでも、私はここにいるのはしょうにあっていたからなのだろうか。
 でもこれで私の目的は達成できるはず。
 これでようやく...。
 そう思った時、背後から声が上がった。

「俺の名前はソーマ!今年の優勝者、アリサ・エイセラに決闘を申し込む!」

 観客席でこちらに向かって立っている少年。
 あさでできたボロボロの服装。
 平民の中でも身なりはあまり良くない。
 そんな貧相な少年は競技場に飛び降りる。
 私は目を細めて、少年を睨んだ。
 ようやくここまで来れたのに、邪魔をするなら容赦しないという意思を込めた目線を、その少年は飄々として気にもとめなかった。
 その姿が無性に腹が立つのと同時に、何故かこの余裕がどこから生まれてきているのか、疑問がふと頭に浮かんだ。。
 思考を巡らせていると審判や係員の方々が少年を取り押さえに向かっていた。
 でも私はそれを止めた。
 少年が何者なのか、この後どうなるのかなどどうどもいいが、私の邪魔をしたこの少年の実力が気になったのだ。

 私は愛剣の細剣レイピアを抜く。
 少年も自分の武器であろう棒を取り出す。
 これは決闘であって試合ではない。
 いかなる手も使ってくると予測して動きべきだと判断し油断なく構えた。

「それでは、決闘始めッ!!」

 審判の合図に緊張が走る。

 こうして、私と少年の決闘が始まった。

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