クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

1話 予選見学

 闘技場内に入ると、鼻をつまみたくなるような汗の臭いとむさ苦しい熱気を浴び、思わず顔が歪んでしまう。
 もう5度目なのだが慣れないな。まぁ、慣れたいとは欠片ほども思わないのだが。
 さて、中は大競技場と小競技場が幾つかある。
 今から行われるのは予選なので、小競技場が使われるのだ。
 決勝はトーナメント戦になっており、通年7名を選出し前回優勝者を含む8名が、その年の優勝争いが繰り広げられるわけだ。
 1つの小競技場につき1人の決勝進出者を出すので、今から行われる予選は7つの小競技場が使われる。

 さすがにすべての小競技場を見て回るには時間が足らないので、いくつかに絞ることにした。
 上着のフードを目深に被り、近くの小競技場に入る。
 入った途端、先程闘技場に入った時よりも2割増の臭いと熱気に包まれ、まるでここだけ夏になってしまったのかと勘違いしてしまいそうだ。
 ちょうど小競技場中央にあるステージで試合が終わったところらしく、歓声が巻き起こっている。
 人海を掻き分けて、見やすい位置に移動する。

「それでは、次の試合に移ります!13番ガルドさん、14番ミドアさん、ステージに上がってください!」

 審判の呼びかけに応じて、左右から2人の男が現れる。
 俺は左から出てきたガルドに注目する。
 彼は前回予選準決勝敗退者である。
 武器は戦斧せんぷを使い、鍛え上げられた筋肉でひたすら振り回す。いわゆる脳筋である。
 だが、以外にもこの戦い方はしっかりと考えられた戦法であることを俺は知っている。
 見た目は完全に筋肉ダルマではあるが、彼はなかなか頭が回るのだ。
 確かに、力任せではあるが技巧的な面も持っており、相手の攻撃をしっかりと防ぐ立ち回りやフェイントを駆使し、勝ちをもぎ取っているのだ。
 案の定、ミドアといった線の細い男は一蹴されていた。

 ここの決勝進出はガルドで決まりだろう。
 次の小競技場に移るとしよう。

 次の小競技場に入ると、これは驚いた。
 なんともう決勝進出者が決まっていたのだ。
 基本、決勝進出者の選出方法は各小競技場に当てられた審判に一任されている。
 先程の小競技場では、見たところ決勝と同じようにトーナメントで決めたらしいのだが、こっちでは違った。
 まさか、バトルロイヤル形式にするとは。
 ここの審判は面倒くさがりだったのか。あ、なんか端っこの方でさっきの審判と同じ服の人が寝てるぞ。
 まぁ、放任主義的審判は放っておいて、バトルロイヤル形式なのも驚いたが、まだ予選開始から1時間も経っていないはずだが。
 中央のステージに1人、瞑想をする痩せた男がいた。
 腰には、両手剣ロングソードが下げられていた。
 予想するに、彼は速さが自慢なのだろう。倒れている人達には目立った外傷はない。
 すべて峰打ちでもして倒したのだろう。
 見るからに達人タイプの人だ。
 さっきのガルドとは正反対というわけか。
 当たるかどうかはわからないが、2人がトーナメントで当たるのを楽しみにしつつ、小競技場をあとにする。

 次の小競技場では、また違った選出方法だった。
 
「トーナメント、バトルロイヤルときて、今度は対審判戦とは。今年もハチャメチャだな。」

 そう、なんと審判自らが選手と戦っているのである。
 しかも連戦連勝のご様子。あの審判強すぎません?
 と、思ったらよく見ればあの審判見覚えがあるな。
 思い出せないが、まぁいいだろう
 
 そんなこんなで小競技場をあとにする。
 ここの決勝進出者は予想がつかないから、見るだけ時間の無駄だろう。



 それから2つほど見て回ったが初めと同じトーナメント形式だった。
 そろそろ全ての決勝進出者が決まるだろう。
 早めに移動して、大競技場の席をとっておかねば。

 大競技場観戦席に移ると、既に8割ほど席が埋まっており、最前列は諦めることになった。
 決勝トーナメントは昼食時間をとったあとに行われるので、まだ1時間はあるだろうに。
 それだけ人気があるイベントなのだろう。

 俺も昼食を食べ、のんびりしていたら、あっという間に席が全て埋まり、通路に立って観戦する人が出てきた。
 するといきなり歓声が上がる。
 どうやら決勝トーナメントが始まるらしく、大競技場奥にある審判台に人影が現れた。
 あれは、さっきの無双審判じゃないですか。
 どうりで見覚えがあるわけだ。
 毎年、決勝トーナメントの審判兼実況をするのは彼なのだ。

「皆様!お待たせ致しました!只今より、決勝トーナメントを開始致します!審判兼実況を務めさせていただきます、ムルアスと申します!」

 無双審判こと、ムルアスの言葉に会場中が熱気と歓声に包まれる。
 とうとう決勝トーナメントが開始するのだ。

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