異世界モノ【削除予定】
初クエスト
「それではこれからヒカルさんはEランク冒険者として活動出来ますが、どうされますか?」
どうされるかとはクエストを受けるか受けないかということだろう。ならば答えは決まっている。受ける、だ。
「受けるんで良いの見繕ってもらえます?」
「ではこちらはどうでしょうか」
間髪入れずに取り出されたクエスト用紙。
最初から用意していたとしか思えない早さで置かれた用紙の内容を見遣る。
ゴブリンを討てと同じように書かれた内容の要約は『キャタピラージ三体の討伐』だった。
「対象ランクはEランクですがその中では低い部類です。とはいいますが相手は魔物ですので油断すると危険です」
どうされますか?
そんな思いを乗せた目で見てくるテイミー。
「じゃあそれで」
あっさりと異世界初クエストを決定する光瑠。
「そうですか。魔物の情報は聞かれますか?」
「いや、レイに聞いてるんで」
「了解しました。ではクエストの受注方法ですが、用紙の一番右下にある丸の部分に血液を付着させてください」
渡された針で親指の腹を刺し、そのまま丸の部分に当てる。拇印の要領だ。
そうするとクエスト用紙が鈍く光り、光の粒子となって霧散していく。
「はい、これで受注完了です。一応確認してみてください」
ギルドカードを取り出し確認する光瑠。クエスト内容を見るとしっかりと用紙に書かれていた内容がそのまま書かれてあった。
「あとは達成して報告、と。報告はいつでも?」
「はい、問題無いですが同時に二つのクエストを受注は出来ないので悪しからずしてお願いしますね」
あいさっさーと軽い返事を光瑠がすると、テイミーが立ち上がる。
「では――――ご安全に」
最後に見送りの言葉を受け取り、光瑠はススラの森へと向かうのだった。
気を付けろよ。そんな言葉を門衛から頂戴し、街の外へと足を踏み出す。
「この世界に来て以来か……」
整備された道。その両脇に広がる森を見遣って光瑠は呟く。
誰に対してでもなく呟かれた言葉は、幾つもの光瑠の心境を乗せて飛んでいく。
「……柄にも無いことやってんなー俺」
感慨に耽る自分を客観的に見て笑いつつ、光瑠は右手側の森へと入っていく。
踏み固められているのか、刈られているのか、極端に伸びた雑草は無く、木々の間をスムーズに突き進んでいく光瑠。
浅域、それもクレヒムの門から五キロ圏内は特に魔物の数が少ない。そのため見付かるのには時間がかかる、そう考えていた光瑠だったが、それは良い方向に裏切られる。
「……お、いた」
歩いて十五分ほどか、木々の間隔が広い場所に、標的は居た。
緑の基調に黒の斑点。横に寸銅のような体躯。尻をこちらへ向けており顔は見えないが、体の影の上から触角が二本伸びているのが見える。
話にしか聞いておらず、絵は見ていなかった光瑠だが、レイから聞いていた情報や名前から推測していた通りの見た目をしていた。
「……芋虫、ね」
小さな呟き。光瑠のその目に映るのは、まさに芋虫だった――――そのスケールが規格外ということを除いては。
キャタピラージ。おそらくキャタピラー(芋虫)とラージ(大きい)を組み合わせた名前の通り、体高は七十~八十センチ、体長は一・五メートルとデカい。
目測で光瑠は敵の大きさを測りながら、右手を背中へ回す。
そして背中へ差していたソレを抜く。
すっと抵抗なく抜かれたもの、それは短剣だった。
(抵抗感は……〝やっぱり〟無いな)
鞘から短剣が抜かれる抵抗感ではない。短剣をその手に持つということに対する抵抗感のことだ。
平和な国、日本で生まれ、日本で育った光瑠。
武道を嗜んだことも一時期ありはしたが、実際に命のやりとりをした経験は皆無。
そんな中、光瑠は殺し殺されが当たり前の世界へ強制的に送られてきた。躊躇うのは当然のはず……なのだが、躊躇い、迷い、抵抗といった感情は不思議と湧かなかった。
「……全くもって俺らしいな」
先ほど柄にも無いことをしたためか、余計にそう感じてしまう光瑠。
そして光瑠はそんな自分の薄情とも取れる感情に、納得こそすれ不思議には思わなかった。故に〝やっぱり〟と感じたのだ。
と、そこまでで思考の海に浸かるのを中断させる。
弱いと言われているとはいえ、人を殺すチカラは持つ敵が目の前に居る。加え他の冒険者であればいざ知らず、防具も身につけず――この世界に来た時の服装――学生服で、かつレベルの低い光瑠であれば一発突撃を食らってしまえば死んでしまうかもしれない。
油断せず、集中しなければ。意識を切り替える。
まずは短剣がいつでも振れる形でそっと近付く。
音や気配には鈍感と聞いているが、それでも音は出来る限りたてないように……。
そしてキャタピラージがこちらの接近になど気付かず草をムシャムシャと食べている背後を取る。
幸運、とでも言おうか。キャタピラージの弱点をつける位置まで辿り着く光瑠。
ほんの一瞬だけ右手に持つ鈍色に光る短剣に視線を送り、即座に標的へと戻した光瑠は、迷いなく、渾身の一撃を叩き込む。
どうされるかとはクエストを受けるか受けないかということだろう。ならば答えは決まっている。受ける、だ。
「受けるんで良いの見繕ってもらえます?」
「ではこちらはどうでしょうか」
間髪入れずに取り出されたクエスト用紙。
最初から用意していたとしか思えない早さで置かれた用紙の内容を見遣る。
ゴブリンを討てと同じように書かれた内容の要約は『キャタピラージ三体の討伐』だった。
「対象ランクはEランクですがその中では低い部類です。とはいいますが相手は魔物ですので油断すると危険です」
どうされますか?
そんな思いを乗せた目で見てくるテイミー。
「じゃあそれで」
あっさりと異世界初クエストを決定する光瑠。
「そうですか。魔物の情報は聞かれますか?」
「いや、レイに聞いてるんで」
「了解しました。ではクエストの受注方法ですが、用紙の一番右下にある丸の部分に血液を付着させてください」
渡された針で親指の腹を刺し、そのまま丸の部分に当てる。拇印の要領だ。
そうするとクエスト用紙が鈍く光り、光の粒子となって霧散していく。
「はい、これで受注完了です。一応確認してみてください」
ギルドカードを取り出し確認する光瑠。クエスト内容を見るとしっかりと用紙に書かれていた内容がそのまま書かれてあった。
「あとは達成して報告、と。報告はいつでも?」
「はい、問題無いですが同時に二つのクエストを受注は出来ないので悪しからずしてお願いしますね」
あいさっさーと軽い返事を光瑠がすると、テイミーが立ち上がる。
「では――――ご安全に」
最後に見送りの言葉を受け取り、光瑠はススラの森へと向かうのだった。
気を付けろよ。そんな言葉を門衛から頂戴し、街の外へと足を踏み出す。
「この世界に来て以来か……」
整備された道。その両脇に広がる森を見遣って光瑠は呟く。
誰に対してでもなく呟かれた言葉は、幾つもの光瑠の心境を乗せて飛んでいく。
「……柄にも無いことやってんなー俺」
感慨に耽る自分を客観的に見て笑いつつ、光瑠は右手側の森へと入っていく。
踏み固められているのか、刈られているのか、極端に伸びた雑草は無く、木々の間をスムーズに突き進んでいく光瑠。
浅域、それもクレヒムの門から五キロ圏内は特に魔物の数が少ない。そのため見付かるのには時間がかかる、そう考えていた光瑠だったが、それは良い方向に裏切られる。
「……お、いた」
歩いて十五分ほどか、木々の間隔が広い場所に、標的は居た。
緑の基調に黒の斑点。横に寸銅のような体躯。尻をこちらへ向けており顔は見えないが、体の影の上から触角が二本伸びているのが見える。
話にしか聞いておらず、絵は見ていなかった光瑠だが、レイから聞いていた情報や名前から推測していた通りの見た目をしていた。
「……芋虫、ね」
小さな呟き。光瑠のその目に映るのは、まさに芋虫だった――――そのスケールが規格外ということを除いては。
キャタピラージ。おそらくキャタピラー(芋虫)とラージ(大きい)を組み合わせた名前の通り、体高は七十~八十センチ、体長は一・五メートルとデカい。
目測で光瑠は敵の大きさを測りながら、右手を背中へ回す。
そして背中へ差していたソレを抜く。
すっと抵抗なく抜かれたもの、それは短剣だった。
(抵抗感は……〝やっぱり〟無いな)
鞘から短剣が抜かれる抵抗感ではない。短剣をその手に持つということに対する抵抗感のことだ。
平和な国、日本で生まれ、日本で育った光瑠。
武道を嗜んだことも一時期ありはしたが、実際に命のやりとりをした経験は皆無。
そんな中、光瑠は殺し殺されが当たり前の世界へ強制的に送られてきた。躊躇うのは当然のはず……なのだが、躊躇い、迷い、抵抗といった感情は不思議と湧かなかった。
「……全くもって俺らしいな」
先ほど柄にも無いことをしたためか、余計にそう感じてしまう光瑠。
そして光瑠はそんな自分の薄情とも取れる感情に、納得こそすれ不思議には思わなかった。故に〝やっぱり〟と感じたのだ。
と、そこまでで思考の海に浸かるのを中断させる。
弱いと言われているとはいえ、人を殺すチカラは持つ敵が目の前に居る。加え他の冒険者であればいざ知らず、防具も身につけず――この世界に来た時の服装――学生服で、かつレベルの低い光瑠であれば一発突撃を食らってしまえば死んでしまうかもしれない。
油断せず、集中しなければ。意識を切り替える。
まずは短剣がいつでも振れる形でそっと近付く。
音や気配には鈍感と聞いているが、それでも音は出来る限りたてないように……。
そしてキャタピラージがこちらの接近になど気付かず草をムシャムシャと食べている背後を取る。
幸運、とでも言おうか。キャタピラージの弱点をつける位置まで辿り着く光瑠。
ほんの一瞬だけ右手に持つ鈍色に光る短剣に視線を送り、即座に標的へと戻した光瑠は、迷いなく、渾身の一撃を叩き込む。
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