真の勇者は影に潜む

深谷シロ

九:戦闘魔法②

「あの魂は純粋無垢で素晴らしかったなー。」


誰もいない空間で一人喋る。その女の名前は<偽る者>という。普段は<導く者>や<与える者>と呼ばれている。


「あのまま私の掌で踊ってもらうとしよう。」


今日もその女は誰かに自分を偽り続ける。


◇◆◇◆◇


【STATUS】


Name:ラウル・アヴルドシェイン
Gender:男
Age:5
Job:学生、B級魔術師
Level:19371
EP:172,829,173,916
HP:19471/19471
MP:749179/749179
Protection:Nothing


Item:
クリューラレス魔術学院学生証明書 ×1
片手剣 ×2
中級ポーション ×10
連絡石 ×1
魔術ギルドギルドカード ×1


Skill:
<Special Skill>
超適正/Level:Max
成長促進/Level:Max


<Common Skill>
Nothing


Ability:
<魔力操術>
赤輝ノ薔薇・聖蒼ノ薔薇


<初級魔術>
火属性・水属性・風属性・土属性


<中級魔術>
火属性・水属性・風属性・土属性・光属性・闇属性・雷属性・氷属性


<上級魔術>
火属性・水属性・風属性・土属性・光属性・闇属性・雷属性・氷属性・氷炎属性・雷炎属性・聖魔属性


<戦闘魔法>
初級術・中級術・上級術


<剣術>
初級位・中級位・上級位



◇◆◇◆◇


「では、本日も<戦闘魔法>の授業を始める。」


ここで<戦闘魔法>を初めて見てからおよそ二ヶ月。誕生日を迎え5歳になった。さらに<戦闘魔法>を上級術まで使用できるようになった。


上級術になると<上級魔術>の<攻撃魔法>を<戦闘魔法>に変化させることが出来る。初級術では<初級魔術>、中級術では<中級魔術>である。


今日教わるのは<戦闘魔法>の極意。


「今まで私が教えてきた<戦闘魔法>は詠唱の追加による<攻撃魔法>の戦闘魔法化だ。だが、今日教える極意はこれらとは異なる。ここまでは良いか?」


「はい。」


「<戦闘魔法>は<攻撃魔法>の威力底上げをメインとするが、極意はこれとは異なり、<攻撃魔法>とは異質なものとなる。」


「異質……ですか?」


「ああ、そうだ。では教えるとしよう。この詠唱を覚えてくれ。【我が求めるは勝利】【敵に打ち勝つ力を我に確約せよ】だ。」


「詠唱が全く違いますね。」


今まで習っていた<戦闘魔法>の詠唱は、<攻撃魔法>の詠唱の第二唱に【敵~】と加える事で発動する。


但し、<戦闘魔法>の極意では第一唱の【我が求めるは】の後が勝利であり、さらに第二唱も特殊であった。


「<戦闘魔法>は勝利をイメージするものだ。だから第一唱にて【勝利】という文字が入る。」


「クスーランプ教授。この極意における魔法効果は何なのですか?」


私は尋ねた。これが肝心である。


「極意における効果は多種多様である。まずステータスの値を全て上昇する。上昇値はその人のレベル × 100だ。そしてスキルレベルもそれぞれ1ずつ上がる。」


私は不思議に思った。効果としては充分ではあるが、このような効果は他の魔法でも代用できる。さらに別の効果があるのではないか、と。


「……それだけですか?」


「…………やはりラウル君にはかなわないな。そうだ、極意はもう一つ効果がある。それはその戦闘における最善手を常に先読みする事が出来るという能力だ。」


「最善手?」


「つまり未来予知のようなものだ。相手がどのような攻撃をするかを把握し、それを妨げ、自分の勝利を確実にする。……それが極意だ。」


クスーランプ教授が私に話した<戦闘魔法>の極意は、戦闘における絶対優位を導くものであった。この能力はその本人のレベルに比例する為、レベルが高ければ高い程、効果が高まる。


私のレベルは一万を超えており、常人の域を超えている。だからこそ、この極意は切り札になるだろう。私は極意を覚える事にした。


「極意は詠唱を覚えればすぐに使えますか?」


「いや、使えない。」


やはりそうか。奥義や極意を簡単に覚えることが出来れば、それは奥義や極意とは言わないだろう。久しぶりに手応えがありそうだ。


「そして、ラウル君。一つ伝えたい事がある。」


「?……何でしょう。」


「この極意を覚えればこの研究室で君に教えられる事は何一つ残っていないことになる。第二過程終了ということだ。」


「……そう、ですか。分かりました。では精進します。」


私は端的に極意を必死に覚えると伝えた。私は極意を使うイメージをした。魔法の使用において如何なる技術であってもイメージが必要である事はこの世界での一般常識だ。


────イメージが出来れば使うことが出来る。


但し、<戦闘魔法>の極意によって得られる効果はイメージしにくいものばかりだった。


「クスーランプ教授。どのようなイメージをするのが分かりやすいのでしょうか?」


クスーランプ教授は考える素振りをした。そのまま数分考え込むと返事をした。


「説明するのは難しいが、私が使う時のコツでよければ教えよう。」


「はい、お願いします!」


「私はこの極意のイメージは誰かに補助されていると考えることにある、と思っている。」


「確かに極意の効果は補助系のものばかりです。」


「そうだ。だからこそ誰かに影から補助しもらっていると考えるのが1番良いと思うのだ。」


「ありがとうございます。試してみます。」


私は一度、実際に試してみることにした。私は深呼吸をする。魔法発動時には集中する事が大事だ。焦っている状態では魔法を発動できない。


二回ほど深呼吸して心を落ち着かせる。そして魔法を発動────


「【我が求めるは勝利】【敵に打ち勝つ力を我に確約せよ】……!!」


少し気持ちが高まるのを感じた。高揚感……だろうか?但し、ステータスがアップしている感じはしない。


「ふむ……恐らく失敗だな。もう少しイメージをしっかり持った方が良さそうだ。」


「分かりました。」


私は目を瞑る。そしてイメージする。自分を誰かが影から支え、補助してくれるような光景を。


何故か影から支えるのが<導く者>だったのだが、イメージしやすいからそれで良いだろう。


そして私は目を開き、詠唱する。


「……【我が求めるは勝利】【敵に打ち勝つ力を我に確約せよ】。」


詠唱の終始、イメージを弱めなかった。詠唱終了後もイメージし続けた。


「ラウル君、成功したよ。」


クスーランプ教授がそう告げた。どうやら成功のようだ。但し、発動までに時間が掛かりすぎる。慣れる必要がありそうだ。それは時間の問題だから良いだろう。


「さて、ラウル君。良くやった。これでこの研究テーマにおける授業過程は完全に終了した。研究室にはもう来る用もないだろうけど、機会があったら来なさい。いつでも歓迎している。」


研究室で研究していた先輩達も一人一人賞賛してくれた。私はきちんとお礼して、そして別れを告げた。


「皆さん、ありがとうございました」、と。

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