真の勇者は影に潜む

深谷シロ

八:戦闘魔法

私は再び研究室を訪れる。


この研究室はとあるテーマに基づいて研究が行われている。その研究内容は<戦闘における魔法科学の実用性>だ。


クスーランプ教授をリーダーとしたこの研究チームは、<魔法科学>を用いた<戦闘魔法>について研究している。


この研究の目的は<戦闘魔法>において<魔法科学>がどのように貢献し、また、どのような意図で用いられているのかを知る事だ。


お浚いとして<魔法科学>を説明すると、


簡単に言うと科学という地球にも存在する分野に魔法という力が加わったものだ。魔法が加わることにより、さらに科学の視野は広まり、より深い事を可能にした。


遠距離からの会話、魔道具の開発、保存技術、農作、設計業、錬金術、鍛冶技術から何から何まで。この分野は、魔法研究において最も古いと言われる分野だ。始まりは転生者によるものだと考えられている。


と言った感じだろう。この技術を<戦闘魔法>においてどのように活用しているか、である。


私はまだ<戦闘魔法>について知らない。今日はクスーランプ教授よりそれを教えてもらう。


「では、ラウル君。授業を始めようか。」


私はふと思う。傍から見れば、中年の男が4歳の子供に授業しているのである。おかしな光景だ。だが、指摘はしないでおく。


「<戦闘魔法>という魔法が開発されたのは、今から数百年前だと言われている。この魔法が開発されたのにあたって、当時あった戦争が原因だと思われる。」


その当時あっていた戦争は、激しかった。国同士の国境は地が抉れ、人々は肉片となるまで戦った、と言われている。


互いに技術競争もあっていた。当時召喚されていた勇者などから技術などを得た片方の国は、<戦闘魔法>を開発した。


その勇者には知識があったのだ。前世は恐らく何らかの技術者だろう。もしかすれば、特定のマニアかオタクだったのかもしれないが、それはまあいい。


クスーランプ教授は続ける。


「<戦闘魔法>は<攻撃魔法>の数倍の威力を誇る。攻撃に特化した<攻撃魔法>よりも攻撃に特化しているんだ。ただ、攻撃に特化しすぎるあまり、<攻撃魔法>よりも扱いづらい。その時に必要となるのが」


「<魔力操術>ですね。」


私はこの研究室で授業を受けさせてもらうために<魔力操術>で四大属性を駆使した<紅輝ノ薔薇>と<聖蒼ノ薔薇>を作り出した。


この名称は技名のような感じだから気にしないでいい。クスーランプ教授によると、この<魔力操術>を教えてくれたエスラさんがクスーランプ教授の教え子のようだ。


天才とまで言われていたらしい。


「ああ、そうだ。その魔力の繊細な操作で<戦闘魔法>の威力は大きく変化する。」


例えば<魔力操術>を極めた者が<戦闘魔法>を使用すれば、一国を滅ぼすのも容易なのである。


逆に<魔力操術>を使えない者は<戦闘魔法>を使えない。さらに<魔力操術>の初心者でも<攻撃魔法>より弱い威力しか出せない。


それだけ<魔力操術>は<戦闘魔法>において大切な役割を果たすのだ。


「まずは<魔力操術>を扱える事が前提だが……勿論、君にその必要は無いね。だから次の段階ステップだ。」


クスーランプ教授が次に提示してきた条件は、<攻撃魔法>の習得である。


何故、その習得が必要なのかと言えば、<戦闘魔法>の詠唱が<攻撃魔法>を元にしているからである。<攻撃魔法>が扱えない者にも<戦闘魔法>は扱えない。


「……分かりました。<初級魔術>で宜しいですか?」


「ああ、でもエスラが教えたならば、<攻撃魔法>も覚えてるんじゃないか?」


「ええ、そうです。一応、教わりました。」


「そうかそうか。」


クスーランプ教授は笑った。どうやら教え子の活躍が嬉しいらしい。その気持ちは分かる気がする。私は前世が公務員……教師だった。教え子が教師になったという報告を聞いた時はとても嬉しかったものだ。


「では、見せてくれるか?」


「分かりました。でもここでいいですか?」


「ああ、それもそうだな。これを使おう。」


「……それは?」


クスーランプ教授が出してきたのは魔道具だった。<上級魔術>までならば容易に防げる結界らしい。これで教授と私を囲んだ。そして教授は人形を置いた。これに攻撃しろ、という事らしい。


「よし、これで良い。では頼めるかな?」


「はい。【我が求めるは火】【敵よ燃え盛れ】。」


人形が燃えた。<初級魔術>は二段詠唱が必要となる。


まず最初の詠唱で属性。次に使用する魔法を唱える。使用する魔法を唱える前に【敵~】と言えば<攻撃魔法>になる。私が今使ったのは【燃焼】という魔法だ。


これが<中級魔術>で三段詠唱。<上級魔術>で四段詠唱となる。さらにその高位の魔法ともなればさらに詠唱数が増える。


「うむ、流石だ。ではこれを<戦闘魔法>にする。<攻撃魔法>の詠唱に付け加える形だが、見てるんだ。」


「はい。」


私は素直に従った。クスーランプ教授は分かりやすく、【燃焼】の魔法で試してくれるらしい。


「では、いくぞ。【我が求めるは火】【敵よ燃え盛れ】【そして散れ】。」


突如、世界が白くなった。強い光が襲ったのである。数秒後、視力が復活する。


「どうだったかい?これが<戦闘魔法>だ。一段だけ詠唱が増える代わりに威力が底上げされる。<初級魔術>が<中級魔術>並の力を出せるようになるんだ。」


「凄い……です。」


「私もそう思うよ。では君も明日から試してみよう。今日は帰って自習をしなさい。君も色々試したいだろう?」


「……分かりました。」


私は帰る支度をした。<戦闘魔法>はまさしく戦闘時に使う魔法だ。威力が高い。これを使えば勇者パーティーでも活躍できるだろう。


これで<導く者>から託された任務を果たす事が出来る。私は久しぶりに歓喜に震えた。


────私はこの時、既に<導く者>にここまで影響されていたとは気付いていなかった。これが何を招くのかも。

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