真の勇者は影に潜む

深谷シロ

三:クリューラレス魔術学院

「入学試験を受験する方はこちらにお並び下さい。」


ここはクリューラレス魔術学院。私が今から入学試験を受ける場所だ。


私は<導く者>の使徒として、勇者の仲間となる為にこの学院に入学して、さらに知識と知恵を増やさなければならない。


私は魔術学院の入学試験を受けるが、魔法を使った経験はあまりない。基本的に家にはメイドであるエスラさんがいる。魔法を使うことが無いのだ。


前世の記憶がある私は料理は出来る。だが、この世界では作らせてもらえなかった。それが残念だ。


「お名前は?」


受付の男性に聞かれた。素直に答える。


「ラウル・アヴルドシェインです。」


「……では、このまま廊下を進んで突き辺りで左に曲がってください。そこに待合室があります。」


「分かりました。」


私が生まれたアヴルドシェイン家は下級貴族だ。嘗て100年前に誕生した魔王が勇者によって討伐される前、魔族と人族が戦争をしていた時。その頃に多くの魔族を倒し、勝ち星を上げた功績で貴族となった。


その子孫が私の父であり、私である。父は襲名制ではない騎士団長を自らの力で勝ち取っている。私の誇れる父だ。


私は受付の男性に言われた通りに待合室へと来た。そこには貴族が幾人もいた。また、その連れも。待合室に入ると、好奇の視線、蔑む視線、品定めする視線。多くの視線を感じた。


どうやらここは貴族専用の待合室らしい。大分、学院内が腐っているようだ。この調子だと学院長も貴族に媚を売っているのでは無いだろうか。それだけは嫌だな。


私は視線を感じながらもそちらを向くことなく待ち続けた。やがて面白くないと思ったのか、こちらを見る視線が減ってきた。最後までこちらを向いていた視線もどうにか違う方向を向いてくれた。


前世ではあまり大勢の視線に晒されることが無かったため、このように視線を浴びると緊張する。だが、貴族として生まれてきた身。慣れなくてはならない。


「……貴族の皆様。私はこの魔術学院で教授を務めるオーガリックと申します。」


しばらくして待合室へと来た老人は、お辞儀をした。どうやら有名人らしい。貴族の中でも少なくない人数が「ほぉ……。」と感心していた。何やら成し遂げた人なのだろう。


少なくとも私の家にある書籍にはこの人について書かれた本は無かった。古い時代の書籍ばかりだったのが原因だろう。


オーガリックと名乗った老人は、上半身を元の位置に戻すと受験者全員を見渡した。そして、その視線が私に当たると同時に止まった。


「ふむ……。」


何やら考え込んでいるようだ。オーガリックが気に食わなかったという事だろうか。それは運が悪かった、というしか無いだろう。


暫し向けられていた視線も感じなくなった私は安心した。終わったようだ。


オーガリックは一度、コホンコホンと咳をした。どうやら病気らしい。結核か何かだろうか。


「さて、貴族の皆様、試験を執り行いますので、こちらへお越し下さい。」


付いてこいという意味らしい。貴族達が続いていく。私もその一番後ろを歩く。私は影の存在で良い。


「ここです。皆様、中へお入りください。」


オーガリックは部屋の前に立ち、言った。そして扉を開いた。


中は魔法の練習施設のようだった。この部屋は両端が見えない。魔法で部屋自体が広がっているらしい。大規模な魔法である。だが、便利だ。


「受験する方は水晶の前にお並び下さい。」


水晶は無数に並べられていた。1人に1つらしい。私も中央から離れた位置にある水晶を取った。引き寄せられたきがしたからだ。


「その水晶に手を翳して下さい。皆様の魔法力を判定します。落とすと割れるので注意して下さい。」


すぐに自分の結果を知りたいようだ。貴族達は争うように水晶に手を置いていった。そして、空中に結果が表示される。私も置く。


◇◆◆◆◇


Name名前:ラウル・アヴルドシェイン
Gender性別Male
Age年齢:4
Job職業Nothing何も無い
LevelレベルLimit Over限界値以上
EP経験値Limit Over限界値以上
HP体力Limit Over限界値以上
MP魔力Limit Over限界値以上
Protection加護Nothing何も無い
Skillスキル
Special Skill特殊スキル
超適正/Level:Max
成長促進/Level:Max


Common Skill通常スキル
Nothing何も無い


◇◆◆◆◇


「ほぅ……素晴らしいな。」


背後にはいつの間にかオーガリックがいた。目をつけられていたらしい。


「いえ、そんな事は無いと思います。」


「いやいや、この値は異常ですよ。『Limit Over限界値以上』などそうそう出るものではありません。100年に1人の割合です。」


「そう、ですか。」


私の主である<導く者>は、私に特殊スキルを与えたらしい。<超適正>と<成長促進>だ。私が色々な事を試してどれも上手くいくのは、<超適正>のお陰らしい。


そして、レベルが『Limit Over限界値以上』と表示されたのも<成長促進>でレベルが高すぎるかららしい。


「文句無しの合格ですね。」


オーガリックはこうも言った。私の成績は優秀らしい。これは後々苦労しそうだ。


ステータス試験が終わると、オーガリックは言った。


「貴族の皆様、ありがとうございました。このデータを元に合格者、仮合格者、不合格者に振り分けます。元の部屋で暫しお待ちください。」


この学院の入学試験の形式として、3つの試験がある。それぞれにおいて特に優秀な成績を出した者は『合格』とされる。また、及第点を取れれば『仮合格』とされる。そして、及第点にも満たなかった『不合格』がある。


オーガリックが私に『文句無しの合格』と言ったのはこの制度があるからだそうだ。入学試験は、『合格』と判定されても、他の試験も一応受けるらしい。


一次試験の振り分けには1時間ほど掛かった。私は他の貴族と共に元いた待合室で座っていたのだが。


「おい、お前、平民が何故ここにいる。」


「一応、貴族ですので。」


「ちっ……。ウザイんだよ。どうせ下級貴族なんだろ、目障りだ。」


「すみません。」


「……ぁあ!遣りづらいんだよ!お前と話してると!さっさと家に帰れ!この『落ちこぼれ』が!」


「そうですか……では、その『落ちこぼれ』に言われるのも癪だとは思いますが、一次試験の結果で決めませんか。本当に『落ちこぼれ』なら結果は目前でしょう?」


「あぁ……それで良いよ。」


その貴族は自分がいた席に戻ってた。言い争っていた光景を他の貴族も見ていたらしい。


「あの没落貴族が……」「落ちこぼれ風情が……」


などと皆揃って言っているが、気にしても仕方が無い。ここで逆上しては思う壷だ。後々、恥をかかせれば良い。


1時間経って、オーガリックが再び待合室へ来た。


「貴族の皆様、一次試験の結果が出ました。結果は不合格者のみお伝えします。」


そう言うとオーガリックは不合格者を読み上げていった。その中には有名貴族、上級貴族も多かった。中にはあの貴族もいたらしい。


「……以上です。」


「すみません。一つ宜しいですか?」


「何でしょう?」


オーガリックに話し掛けたのはあの貴族である。


「私の結果に不満がある訳では無いのですが、あの者の結果には不満が残ります。結果の表示を求めます。」


そう、あの貴族とは私に喧嘩を吹っ掛けてきた貴族の事だ。その貴族が言う『あの者』とは私の事だろう。まあ、自分の結果に不満があると言わないだけマシだろう。


だが、オーガリックは『あの者』が指す人物である私を見ると、一瞬鋭い眼差しになったと思えば微笑した。


「ラウル・アヴルドシェイン様の事ですね。聖騎士団の聖騎士長の一人息子である。」


「なっ!」


他の貴族も皆、驚いたようだ。まさか僕の父が聖騎士長とは思いもよらなかった、という事か。父に似てなくて悪かったですね。


「そして、ラウル様は『合格者』です。さらに最も良い成績を残されましたよ。」


「それは水晶の誤作動では無いのか!」


「……まさか学院の設備を疑いますか。世界でも有名な魔術師を幾人も出してきたこの学院を?」


「そっ、それは……。」


そこまで言われるとは思わなかったのだろう。貴族は一言「私が悪かった。」と言い、去っていった。そして、彼が去ったのを始まりとして、不合格となった貴族が全員去っていった。


残ったのは10人だ。試験は後2つある。

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