異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~
セコンドの交渉
「突然で悪いけど、準々決勝はワイのセコンドについてくれへんか?」
明は、借りている自室に通すと、トーヤは、勢いよく頭を下げた。
たぶん断ると、そのまま床に額をぶつけて土下座ですらしかねない勢いだった。
「なんだ? やぶから棒に……」
「御子息も知ってるやろ? ワイの対戦相手の事を」
「いや、実は対戦相手の情報を極力得ないようにしていたから、知らないんだ」
明がそう答えると、トーヤはポカーンと呆けたような顔になった。
しかし、それも一瞬だけだ。すぐに緩んだ顔を引き締めた。
「ワイの相手はレオ聖下や」
「……あの男か」
明はレオ聖下の情報を頭の隅から引き出した。
トーナメント開始前に襲ってきた男……その時は女装をしていたが……
勝手に神聖摂津流を名乗り、国栖源高の子供を名乗った男だ。
しかも、後から聞くと『教会』の最高指導者らしい。
明は『教会』に良からぬ印象を抱いている。
しかし――――
(まぁ、どうでもいい情報ばかりだな)
明は思い出した情報を再び忘却した。
なぜなら、それらの情報に有益なもの――――戦いに必要な物は1つも含まれていなかったからだ。
思い出すべきは、レオ聖下の戦闘スタイル。
明は、ぼやけていたレオ聖下の姿に肉付けをしていく。
動き、体捌きが制限される女性の着物姿で、イン&アウトと前後の動きは素早かった。
おそらくは体術――――足の動かし方が最小。モーションが少なく、肩ですら上下のブレがなかった。
そして何より――――
『HP吸収』
腕で掴まれると、生命力……あるいは体力と呼ぶものが吸い取られる。
そして、自身のダメージを癒す事もできるらしい。
「確かに厄介な相手だな」
「せやろ? だから、あのレオ聖下に勝った貴方にセコンドを頼みたいや」
「勝った? 確かにアイツと戦ったことはあるけど……」
明は首をかしげた。
それもそのはずだ。明対レオの戦いで、明は摂津流の突進技――――『幻虎突き』によって、レオをダウンさせ戦闘不能状態まで追い込んだ。
だが、レオの『神聖摂津流 達磨落とし』により、明もまた意識を刈り取られていた。
意識が残っていたレオに対して、失神していた明の敗北感は深い。
目を覚ませば、敵はいなかった。 それは意識を奪われ、敗北した事でしかないのだから……
「あの戦いで俺はレオに負けている」
はっきりと、そう告げるとトーヤは驚きを見せた。
「そんな……降魔摂津流の本家ともいえる摂津流現当主ですら負けたっていうんか?」
「あぁ、そうだ。 だから、力は貸せない。セコンドには親父か、それとも四天王にでも頼めばいいだろ」
「だめや。そういうことやない」
トーヤの強い口調。「?」と明も疑問が浮かんだ。
「そもそも、なぜ俺に頼む? 他にも適切な連中がいるだろう?」
「いや、他の連中じゃ駄目なんや。もちろん、貴方にも自分の試合があるのも分かっている。せやけど――――
貴方と――――明とやったら、あの怪物を勝てる」
「そう思ったんや」とトーヤは付け加えた。
それを聞いた明の心情は――――
(あぁ、だめだ)
――――と嘆いていた。
なぜなら、それは、とても心を揺さぶられる言葉だったからだ。
だから明はこう言う。
「仕方がないな。どっちみち、お前かレオか……いずれ戦うと思っていたんだ。いいぜ? おまえら2人を丸裸にしてやる」
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