異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

摂津流前当主 国栖源高 ~魔王と呼ばれる男~ 

 国栖源高は派手だった。

 真っ赤な着流し。その背中には草体で書かれた「魔」が金字で刺繍されている。
 いや、姿はどうでもいい。問題は――――

 数年前、死んだはずの彼がどうして異世界にいるのか?
 それも魔王などと呼ばれているのか?

 「トーヤ、確かに愚息の様子を窺えとは言ったが、誰も戦えとは……まぁ、無理か。息子は格闘家にとって極上の料理みたいな男だからな」

 カッカッカ笑う魔王――――国栖源高に「申し訳ありませんでした」と深くトーヤは頭を下げた。
 「良い良い、肩苦しくてたまらねぇぜ」と源高は苦笑した。

 不意にトーヤが「魔王さま……あれを…」と源高の背後を指差す。
 ふらり、ゆらりと明が起き上がっていた。
 「おぉ、会いたかったぜ息子よ」と源高は明へ話しかける。

 「お前も知っての通り、モンスタートラックを相手にした新技の鍛錬中の事だった。魔界こっちに召喚されちまったのは。500年間、魔界を拳1つで渡り歩いてる魔王なんてものに祭り上げられちまってよ。おかげに摂津流も大繁盛よ。そこで人手が足りなくなってお前を召喚してみたんだが、コイツが大失敗でよ。どうやら、この世界の別次元の召喚儀式と混線しちまったらしく、お前は500年後の今に現れちまったて……」

 源高は途中で話を止めた。
 明が殴りかかってきたからだ。

 「おっと、てめぇと母さんをほっておいたのは悪いと思ってるが、こっちにも理由が……って、なんだ? まだ『化身』が止まってないのか? どんだけ腹に溜め込んでいたんだよ! これだからまじめ君は、誰に似たんだか」

 そう言いながらも明の拳を飄々と避ける。
 そして、反撃。 腹を殴り、明の動きを止めるとバックジャンプ。
 距離を取る。明も追うが、源高の方が速い。
 恐ろしい事に『化身』を使用している明よりも、源高の身体能力が高いのだ。

 「まったく、そんな殺意の波動に目覚めたリュウみたいな状態なんて、卒業したとばかり思っていたぜ」

 源高は、ニタァと笑みを浮かべた。
 その笑みを挑発と受けて、明は前に出る。先ほどよりも動きが速い。
 対して現高は拳を構え――――

 『摂津流 虚無』

 不可視の打撃を放つ。

 しかし――――

 明には効果がない。

 何のダメージも見えず、前に出る速度もそのまま……
 それもそのはずだ。
 『摂津流 虚無』という技は摂津流にとってもブラックボックス。
 使い手ある摂津流の拳士たちですら、

 『なぜ、物理法則を歪めて遠くの相手に打撃を放てるのか?』

 それを理解できていない。
 物理的な攻撃ではなく、催眠状態を利用した攻撃ではないか? そう考える者もいるが……
 それでは、先ほどトーヤがスイカ相手に放った時の説明はつかない。
 実際に物理的な破壊が起こり、崖の一部が崩れ起きたのだ。
 これについては、『虚無』を放つ前の踏み込み、震脚が破壊対象への固有振動を起こしているという説もある。
 これならば、明が空を飛ぶワイバーン相手に『虚無』が使用できないと考えた理由もわかる。
 そして、今――――暴走状態の明へ源高の放つ『虚無』に効果がない理由も――――

 しかし、ならば――――

 どうして、源高は明に『虚無』を放ち続けているのか?
 次の瞬間、その理由が明らかになった。

 『摂津流 虚無フレイム』

 源高が放った虚無に炎属性が付加され、肉眼でも火炎が明に目掛けて発射されたのが確認できた。
 反射的に明は足を止め、飛来してくる炎の塊を腕で弾き飛ばす。
 だが、炎は目くらまし。 間合いを詰めた源高が明の真横にいた。 

 「面白れぇだろ? 摂津流の技にこの世界の魔法を組み込んでみた。お前が来るまで500年も、こうして遊んでたんだぜ」

 目前から消えた獲物を再び見つけた明は、理性なき拳を振るう。
 だが、それよりも早く源高のショートアッパーが明の顎を捕らえていた。
 明は意識の手綱を手放しかける。 だが、明は倒れなかった。
 源高を掴もうと両手を伸ばす。
 タックル……と呼ぶには強引で力任せの動き。
 しかし『化身』によって、力の水増しが行われいる状態では、通常技ですら必殺技。
 常人が相手なら、そのまま抱き殺す事すら可能だろう。
 けれども、相手は国栖 源高。 摂津流前当主であり、現魔王と言われる男だ。
 源高はその場で素早く回転すると、深く腰を落とすと同時に肘を叩き込む。
 その場所は明の下腹部……『化身』の源である丹田に強烈な打撃を叩き込んだのだ。


 

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